面接と鰻重
フルール・ド・ラパンから解雇通達を突きつけられた桐間紗路はある目的がありアーケード街を歩いていた。
「ウ~ン、桐間さんは優秀だし正直残ってほしいんだけどねぇ」店長は苦虫を噛み潰したような顔で告げる。実際彼女に問題があって解雇された訳ではない、『もう若くない』のがその理由だった。店長も紗路が残れるよう本部に交渉してくれたのだが結局叶わなかった。
「何よ!
「お腹空いたなあ」蓄えはまだいくらかあるが次の仕事がすぐ決まるとは限らない為、食費はなるべく削っていた。
今日は面接の日、規模は小さいが中々繁盛していると評判の食堂が従業員を募集している。昨日同じ道を通った時、店の前に貼り紙があったのだ。
『従業員募集、年齢及び経験不問』早速確認すると定休日の明日面接をするので昼頃きてほしいとの返事だった。
「すみません、面接にきたんですが」入り口の戸を開けて挨拶する紗路、中年女性が気づいてテーブルにかけるよう勧める。
「ちょっと待っててね、今オーナーがくるから」そういえば看板にも『越後屋2号店』とあった、どこかに本店があるのか。そんな事を考えてると紗路と同い年くらいの男性がやってきて紗路は慌てて立ち上がる。
「本店店主でここのオーナーも引き受けてる越後屋大輔です、よろしくお願いします。どうぞおかけ下さい」
「よ、よろしくお願いいたします」ガチガチに緊張しながら座り直す、オーナーというからもっと年配だと思いきや若い男性だったのはやや衝撃的だった。
「桐間紗路さん、24才。喫茶店でのバイト経験あり、ですか」大輔は紗路が持参した履歴書を手に彼女と交互に見比べると
「採用です、明日からでも来てもらえますか?」心の中でガッツポーズを決める紗路、それを気取られないように顔を作ると
「ハ、ハイ!明日どころか今からでも!」グゥ~。途端にお腹がなる、キメ顔が台無しだ。
「よかったら僕らとお昼をご一緒しませんか?」嘲笑ではない笑顔を向ける大輔の好意を受ける事にした。
実は昨夜大輔と2号店夫婦の間にこんなやり取りがあった。
「大輔君、これホントに私達で食べちゃっていいの?高いんじゃない?」
「構いませんよ、高いどころか
「ところ変われば品変わるとはいうが、勿体ない話だな」
「はい、沢山あるから好きなだけ食べて」女将の冴子に出されたのはなんと鰻重である。普段の紗路では逆立ちしても手の届くモノじゃない、まともな収入がある人でもたまにしか食べられない高級品。それが食べ放題?今日2度目の衝撃に脳が追い付かない。
「世間には知られてないルートで手に入れたから店にはだせなくてね。あっ、勿論合法だよ」冴子はケラケラ笑っていう。
「冴子さん、笑い方が先代に似てきましたね。桐間さん、冷めない内にどうぞ」甘辛のタレの香ばしさと身にタップリ含まれた上質な脂が食欲を刺激する、特にこの数日は碌なモノを食べてなかった紗路は一口ごとに感動する。
翌日から越後屋2号店で働く紗路、若くて綺麗な娘が入ったと噂が口コミで広がり1週間後には『美人すぎる食堂店員』として取材させてほしいと雑誌社から頼まれた。
「お断りします」紗路はそう返事した、ああいう華やかなモノは昔から苦手なのだ。
「あの、一言だけでも」食い下がる取材陣を冴子が追い払う。
「ウチのオーナーはマスコミ嫌いでね、これ以上しつこいと警察呼ぶよ」取材陣はやむを得ず引き下がる。
「断ってくれて助かった、事情があってね」連絡を受けてやってきた大輔は紗路にそれだけ言うと裏口から出ていこうとして冴子に呼び止められた。
「大輔君、紗路ちゃんには
「ルカさんが
この後4話にわたり紗路が活躍します