遡るは剣戟の嵐。相対するは過去と未来。それを見つめる観客はかつての従者であり、討つべき敵方。
――――一体どの位続いたのだろうか。
時が止まったように、だが廻り巡る剣の舞はおさまる事を知らない。
その乱舞は意地と意地のぶつかり合い。愚直なまでに磨き上げた究極と追い抜かんとする平凡。
後悔と理想と...そして願いを込めた剣舞は剣たる英霊ですら魅了する。
「......決して――――間違いなんかじゃない!!」
剣技も剣製も何一つ勝るモノなどない。だが、剣に宿した平凡の理想は...、想いは遂に究極を追い抜いた。
今さらながらに弓の英霊は気づいた。
この理想は借り物だった。衛宮士郎という少年を助けた衛宮切嗣の笑顔が美しかったから憧れた紛い物。だが、それでも.....エミヤシロウが辿ったその軌跡は――――紛れもない本物だったという事を。
そんな当然な事に今まで気づかなかったというのに、皮肉にもそれを悟らせたのは他ならぬ自分自身だった。
――――そして終局。
長いようで短かった聖杯戦争が終わりを迎える。
やはり、エミヤシロウという男が最期を迎える場所はここなのだなと一人黄金の丘で自嘲する。
「アーチャー!!」
後ろから掛けられる声に反応する。その声の主は振り向かずとも誰だかわかる。主従の絆に背き、裏切ったというのに最後まで自分を信じてくれた愚か者。
振り向けばいつも強気な彼女ではなく、今にも泣き崩れそうな主の姿だった。
「参ったな...。この世に未練なんてなかったんだが......」
それは本当だ。使命も目的も失った世界に自分の戦いはない。
だけど、こんな状態で彼女を残して逝けばきっと後悔する。彼女は、凛とした姿こそが美しい。
「――――答えは得た」
ならば、最後くらいは君のサーヴァントらしく、私は君に伝えていこう。
「大丈夫だよ遠坂。俺もこれから...頑張っていくから――――」
――――与えられたのは眩しいくらいの笑顔。
旅逝く者としては過ぎた報酬だ。だが、心に刻まれたこの笑顔は永遠に消える事はないだろう。
+ + +
そうして、錬鉄の英雄の物語は幕を閉じた。
+ + +
胸に占めた満足感と、いつまで経ってもこない喪失感を疑問に思い、目を開ける。
辺りは暗く、かと言ってなにも見えない暗闇とまではいかない。地面も空もない黒一色の中で改めてこの異常事態に驚愕する。
「ここは一体どこだ?」
誰に聞く訳でもない、頭の中に浮かんだ疑問を口にする。
「ここは聖杯の中だよ、正義の味方」
一抹の期待もしていなかったとうのに、答えを返す者がいた。
返答した者を捉えるべく、後ろに振り返った。そして、暗闇の中から現れたのは――――
「――――衛宮...士郎?」
――――そこに現れたのは衛宮士郎。だが、よく見れば面影が似ているだけの別人だった。
「あぁ、アンタが戸惑うのもわかるが今俺は急ぎの用で来てんのよ」
「少し待て。貴様は一体何者だ?」
あまりにも似過ぎている。髪の色や体に刻まれた模様、そしてその話し方は衛宮士郎には程遠いというのに何故かこの男は衛宮士郎だと確信が持てる。
「それに今聖杯の中と言ったな?それはいったいどういう事だ?」
「あぁ~、矢継ぎ早に質問すんなよ。こっちも急いでるっつたろ?悪りぃけど答えは簡潔に済まさせてもらうぜ。まず一つ目の質問は話せば長くなるからな。だから俺は衛宮士郎に救われた存在とでも言おうかな」
次々と質問されるのが面倒なのか口をへの字に結ぶが、それでも男は律義に答えてくれた。
「......私は貴様のような奴は知らんが?」
衛宮士郎に救われたというのなら私が知らない道理はない。だというのに私はこの様な存在は知らない。
「あぁ、そりゃ仕方ねぇだろ。俺はイレギュラーだ。自分で言うのもなんだけどさ、数ある平行世界の中でもこの姿の俺を見ることが出来るなんて稀なんだぜ 」
「まさか、お前......平行世界の住人なのか?」
「うん、そうだけど?」
それが何か?と言わんばかりの顔をする。この男はそれがどれだけの偉業かわかっていないのか!?第二魔法の『平行世界の運営』という魔術の一つの到着点。現実世界とは違うIFの世界からやって来たあり得ない渡来者。そんなのを凛が目の当たりにしたら吠えるか卒倒するかどちらかだ..................いや、こんな事私が考えても無意味か。今から消えゆく身。再び『座』に戻ればこの記憶もなくなってしまうのだから。
「そのネガティブな考え禁止!」
「......ッ!?......何をする」
気付かぬうちに目の前まで来ていた男に何故か頭にチョップを落とされた。それを喰らった私は批判の目を向けるが男は何処吹く風だ。
「俺さぁ、アンタみたいに自分のことを他人事の様に扱うやつって嫌いなんだよね」
「別に貴様に好かれたいに思わん」
「かぁ~、衛宮士郎もそうだったけどアンタも相当な堅物だな。アンタらは一回だけでいいから自分のために幸せ掴みとろうなんて思わないわけ?」
呆れた物言いとその視線に大きなお世話だと言い返した。それに、あんな小僧とも一緒にされたくなかったが正直早くこいつとの会話も終わらせてきたくなったので、話を促す。
「......さっさと話を進めろ」
「あぁ、そうだったな。......んで、さっきも言ったけどここは聖杯の中」
......それはわかる。考えれば当然の話だ。サーヴァントが『座』に戻る時は例外無く必ず聖杯を通るのだから 。だが、それならばなぜ私はここにいる?現界を終えたサーヴァントは即座に『座』に戻るのではないのか?私がここに停滞している理由が思いつかない。
「......ん?と言うことは貴様もサーヴァントなのか?」
ここが聖杯だと言うのならば、目の前の男もサーヴァント以外にありえない。
「......あぁ。一応俺はサーヴァントだな」
なんともまぁ煮え切らない返答が返ってくるが、それはどうでもいい事だと言って男は話を切って、本題に進めた。
「――――ここに二つの扉がある」
男は親指を立てて後ろを指差す。そこにはいつの間できたのか、木製のドアが二つ並んでいた。
「一つはこのままエミヤシロウとして正義の味方としてあり続けるか、はたまた衛宮士郎として新たな正義の味方をめざすか。アンタはどちらを選ぶ?」
「まだ質問が......」
「――――却下だ」
「む......」
男は私の言葉を途中で遮り、さっさと選べと今度は男が促してくる。
「......!?おい!貴様足が!!」
ふと気づけば男の足が徐々に暗闇に呑み込まれていた。
「本来俺はこの世界のサーヴァントじゃないからな。いくらここが聖杯の中と言っても世界の修正力は働くんだ。だから、言ったろ?急ぎの用だって......」
自分と言う存在が消え去ろうとしていると言うのに男は然も当然の様にケラケラと笑っている。
「......最後に一つだけ聞いてもいいか?」
これ以上の問答は時間の無駄。だが、最後に一つだけ、ともはや上半身だけとなった男に声を掛ける。
「ん?何だ?」
――――男を通り過ぎてドアの前まで進む。男はそれでいいと目を瞑り頷いた。
「なぜ貴様はこんな事をする?」
当然の疑問だった。なんせ私を助けたところで男になんの利益もないのだから。
――――ドアノブを回す。するとガチャと言う音が鳴る。
「なんて言うかさ......」
今、どんな表情をしているかはわからない。だが、何となく男は照れ隠しに笑っているのだろうと感じた。
――――ドアを開くと眩い光が差し込んでくる。
「――――最後くらいはこの世すべての悪が正義の味方の真似事しても罰は当たらないだろ?」
それを聞いて振り返る。だが、そこにはすでに誰もいない暗闇で満ちていた。
「――――ああ、そうだな。感謝するよ、アンリ・マユ」
再び前を向いて歩き出す。
......全く、最後の最後で正義の味方がこの世すべての悪に感謝するとはとんだ笑い話だ。だが...、悪くはない。
『 体は剣で出来ている』
I am bone of my sword.
――――エミヤシロウは始まりも終わりも全て血塗られた戦いだった。
『血潮は鉄で 心は硝子』
Steel is my body,and fire is my blood.
――――だが、そんな人生でも愛した者がいた。愛してくれた者がいた。
『幾たびの戦場を越えて不敗』
I have created over a thousand blades.
――――時には偽り、時には騙し、時には裏切ったりもした。
『ただの一度の敗走もなく、
Unaware of loss.
――――決して褒められるべきではない。人を殺し続けたその道は......。
ただの一度の勝利もなし』
Nor aware of gain
――――だが、それでも信じてくれた人がいた。間違いじゃないと言ってくれた人がいた。
『担い手はここに孤り』
Withstood pain to create weapons.
――――振り返れば紅く染まったその道も大切な人たちの笑顔も確かにあった。
『剣の丘で鉄を鍛つ 』
waiting for one's arrival
――――ならば、誇りに思おう。自分の歩んできた人生を。
『ならば、我が生涯に意味は不要ず』
I have no regrets.This is only path
――――そして、新たな道に希望と理想を抱いて。
『この体は、無限の剣で出来ていた』
My whole life was “unlimited blade works”
――――さぁ、これからも頑張ってみるとしよう。