正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

15 / 27
IF 病院の一室でのある話

 

福音事件を見事に遂行し、林間学校を終えてIS学園に戻って来た。凡そ九割の生徒が無事だったのだが、たった一人無事でない者もいた。

 

「......全く、あいつは何でああも怪我をしやすいのか」

 

決して弱いわけではないし、むしろ強いと言える。だが、自身の身を顧みない性格であるが故に大怪我を負った生徒に対して一人ごちながら、駅の階段を降りる女性。彼女はまさに絶世の美女と呼ぶに申し分のなく、男性だけでなく女性も目を奪われる。だが、誰も気軽に彼女に声をかけるような愚行は犯さない。すでに彼女が辿った道には二人の男性が腹を抑えて身悶えているからだ。

 

「......暑いな」

 

駅前の病院まで徒歩で十分ほど。今の時刻は午後の六時を回っていながら、昼さながらなに日光が照っている。

 

このような遠出をさせてまで来させたのだから、退院した暁には何をしてもらおうかと画策する。実際にはIS学園から二駅で、しかもアポなしでの面会なのだが、女性にとってそんなことは何の問題でもない。問題はどのような口実を使って二人で過ごせるか、という点である。ちなみにこの考えは彼女の無意識下での考えなのでそこは間違えないようにしてほしい。

 

そして、歩くこと七分。予定よりも三分早く病院に到着した。きっと自然と足取りが速くなってしまっていたのだろう。もちろん、女性は意識していないことである。

 

「すみません。見舞いに来たんですが......」

 

病院の受付にて見舞いをしに来る訪問者の名を記入する用紙をもらう。そこで自分の名前と入室時刻を書こうとするが――――

 

「――――む?」

 

――――用紙の上の方に見慣れた名前が六つズラリと並んでいる。学校が終わってすぐに見舞いに来ていたらしい。だが、退室時刻を見るとすでに二十分前に帰っているらしい。どうやら入れ違いになったようだ。

 

「............」

 

ホッとしたような、でも何か面白くない。そんな訳のわからないもやもやが胸の中を占めるが、女性はそのもやもや感を無視して記入欄に記入し、受付嬢にて渡してから目的の部屋を目指した。

 

目的の部屋がすぐに見つかった。エレベーターで四階まで上がり、その正面から二つ左の部屋がそこだった。

 

――――四六◯号室。その部屋番号の下には目的の人物の名前が書かれていた。ドアの前に立ち二度ノックを叩くと、「どうぞ」と声が聞こえてくる。

 

以前まで毎日顔を合わせていただけに、久しぶりに聞いた声は妙な新鮮味があった。だが、そこまで女性は感慨深くないし、直接会う方がずっといいのでとっとと入室することにした。

 

ガラッとスライド式のドアを開けて入室する。部屋は個室だからか広く感じられ、備えつけられた棚の上には定番のお見舞いセットである果物や、暇潰しのための本、果てにはよく病院が許したなと思ういくつかのナイフなど様々なモノが置かれ、ベットの側には日常用品を入れているのであろうボストンバッグがあった。

 

そして、肝心の人物はというと――――

 

「......驚いた。まさか君が来るとは............」

 

――――何て言って驚いていた。天井から足を吊るされている少年を見て頬が緩む。ちなみに学園にいる時と話し方が違うが、二人の時はいつもこういう話し方をするのだ。

 

「......む、私が見舞いに来てはおかしいか?」

 

少年の反応に二人っきりのためか、幾分冷徹さが欠け落ち、拗ねるような態度を少し見せた女性にベッドの上の少年は笑みをこぼしてしまう。

 

「いや、すまない。他意はなかったのだが、気分を損ねてしまったのなら謝ろう」

 

フン、と鼻を鳴らして女性はベッドの側にあったパイプ椅子に腰掛ける。

 

「折角来てくれたんだ。この通り茶は出せないが、林檎くらいは出そう」

 

そう言って、少年は手を伸ばし林檎と側にあった比較的小さめのナイフを取る。ここで漸く、これらのナイフは果物用に訪問者が持って来たものだと理解した。だが、明らかにほとんどのナイフが軍用チックなので、これを持ってきたであろう者には一度一般常識というものを教えてやろうと女性は心の中で誓った。

 

「......貸せ」

 

だがその前に見舞いに来た者が入院患者に果物の皮を剥いてやるのも一般常識の一つなので女性は少年に有無を言わせず奪い取る。......奪い取る時点で一般常識のなんたるかを言う資格がないのはこの際気にしないでほしい。

 

「おいおい、君は皮剥きなんて出来ないだろう......」

 

少年は女性の調理スキルのないことを知っている。これがもし、少年の妹分である少女ならば心配することなく見てられるのだが、この女性はまた別。家事という家事をあまりやらないし、ドイツにいた頃も身の回りの世話はほとんど少年がやっていたのだ。

 

されど彼女もやはり女性。そんなことを言われて引き下がれるわけもない。

 

「ふん、愚問だな。あれから一年経っているんだぞ?」

 

何とも勇ましい女性の一言に少年は感心したようだ。だが、この一年、激務に追われた女性に料理する暇もあるはずもなく――――

 

「「............」」

 

――――皮剥きを始めて二十分。皿の上に並べられた八等分の無骨な林檎。果肉のとこどころにひっついている赤い皮や、逆に必要以上に皮と一緒にいる果肉たちはもはや無骨を通り越してアートにまで昇華した?

 

「......嫁入り前の女性にしては大した腕前だな」

 

「.............うるさい」

 

少年の皮肉をたっぷり込められた褒め言葉に女性はそっぽを向いて出来る限りの精一杯で答えた。

 

その女性らしからぬ様は見てて飽きないが経験上これ以上踏み込むと厄介なことになると少年は思い、大人しく引き下がり手に取った林檎をかじる。

 

「美味いな......」

 

シャリ、シャリと小刻みに響く音につられ、女性も自分で切った林檎を手に取る。

 

「誰が切っても味は同じだろう?」

 

満足そうに林檎を食べる少年と手に取った林檎を見比べ自分も一齧りする。だが、やはり変哲もない普通の林檎の味だった。それでも、少年はそれは違うと指摘する。

 

「誰かのために何かをやるということは必然的に愛情も込められる。ただ林檎を切るという作業でも然り。故に、それが美味くないはずがないだろう?」

 

少年は自分が考える自論を恥ずかしげもなく口に出す。美味いと言われて気を悪くするような人はいないが、さすがにここまでいくと呆れが強くなってしまう。

 

「まるで爺さんのような考えだな......」

 

「こう見えて精神年齢は君より上なものでね。まぁ、君も子どもが出来ればわかるさ」

 

生前と守護者になった後も合わせれば少年の精神年齢に敵う者などこの世界には誰もいないだろう。だが、女性には聞き逃せないフレーズがあった。

 

「お前は結婚したことがあるのか?」

 

少なくとも女性はそんな話は一度も聞いていない。聞いていたら今この様な接し方はきっとしないだろうし......。

 

「いや、私は結婚などしたことない。ただの例え話だ」

 

「そうか......」

 

ホッとしたような、だがそんな態度はおくびにも出さない女性の鉄仮面っぷりは相当なものだ。

 

「君は結婚願望でもあるのか?」

 

少年の質問につい腕を組んで考える。女性の年齢を考えればもうそろそろ意識していてもおかしくはないのだが......。

 

「まぁ、時期が時期だしな......」

 

ちらっと少年を見て、目が合う前に視線を他へと移す。そして、少年はと言うと、その視線に気づくことなく「ふむ......」と納得していた。

 

女性には唯一無二である弟がいて、その弟はまだ十五歳の少年。この女性は生真面目だから弟が一人前になるまで面倒を見るつもりなのだろう。と、少年は考えたが、結局、その言葉の真意は少年の知らぬところである。

 

「お前こそ、結婚とか考えているのか?」

 

「おいおい......、私もこう見えて十五歳なんだぞ?」

 

まさか自分にもその質問が来るとは思っていなかったのか、呆れたように返事を返す。

 

「だが、精神年齢は私よりも上だろう?」

 

「むぅ......」

 

揚げ足を取る形で言葉を返す女性に一瞬言葉を濁らせた。会った当初はまだまだ口術に長けていなかったのに、一体誰に似たのかだんだんと口が達者になってしまった。

 

「結婚か......」

 

少年は今まで一度もそんなことを考えたことはなかった。生前は家庭を作って身を落ち着かせるなんてことは到底できなかったからだ。だが、この世界は違う。魔術師もいない、安心して暮らせる世界。ならば、家庭を作って生涯を終えるのもまた一つの答えなのかもしれない。

 

「......そうだな。まぁ、ゆっくり考えるさ」

 

焦ることはない。まだまだ時間はたっぷりあるのだから、幸せという答えを見つけるために、もう少し頑張ってみよう。それが少年の答えである。

 

その答えにまたもやフン、と鼻を鳴らす。だが、今度はどこか嬉しそうな表情である。

 

「......それじゃあ邪魔をしたな」

 

女性は唐突に立ち上がり、そんなことを言う。見れば時計は後十分で面会時間終了の八時になろうとしている。

 

「また来てくれ。今度は私が林檎を剥いてやろう」

 

「黙れ、次回も私が剥いてやるさ」

 

いつもと同じ皮肉る少年に厳しく、だが優しい表情で答える女性はドアに向かう。少年を背にした時、知らずの内に笑顔になってしまった。

 

「じゃあまたな.....」

 

そして、最後にドアに手をかける前に挨拶して女性は出て行った。本人の知らぬ笑顔のままで。

 

「ああ、それではまた」

 

ドアを開ける前に聞こえた少年の挨拶に手を振ってそのまま女性は部屋を後にした。

 

「............」

 

病院を出た女性は一度振り返り一つの病室に目を向けた。そして、頬を少しだけ緩めて再び歩き出した。

 

――――結婚云々は置いといて、まずは料理の勉強でも始めようかな。

 

そう思いながら女性は帰路に着いた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。