正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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新しい仕事がそこそこ落ち着いてきたので執筆再開します。長い間更新できず大変申し訳ないと思っています。もしかしたら忘れ去られてるかもですが、それならそれでまた始めから読んでいただければ幸いです。


外伝 少女は幻想を祈りて夢を見る

ベッドの上に横になる少女は手に持つ写真立てを眺めながらいつかの幻想を想い出す。

 

写真には四人の家族が写っている。タイマーをセットして戻る時に転けそうになる男性。それを支えようとする少年。それを見て慌てふためく少女。その光景を一歩後ろで笑って見つめる女性の姿――――そう、この写真には家族という幻想が込められているのだ。

 

+ + +

 

ここはフランスのとある豪邸。人は一体どの様な人が暮らしているのだろう?と思ったり、さぞや住んでいる人は裕福で幸せな暮らしをしているのだろう。と誰もが羨んで推測する。

 

だが、人々の期待を裏切ってこの屋敷には一つ、他の家庭にはあって当然のモノが欠けていた。

 

――――“愛情”

 

ただそれがない。

 

少女と父親には二回の面識しかない。

 

引き取られた少女の母親にあたる女性も少女を忌み嫌っている。

 

――――なぜこうなったのか?

 

少女はごく普通とはいかなくとも、それなりに幸せな人生を過ごしていた。

 

人懐っこく、笑顔の眩しかった少女の笑顔は――――いつしか雲に隠れてしまい、偽りの太陽が照らしだされていた。

 

 

――――少女の人生はある時を境に大きく変動したのだ。

 

 

 

血は繋がっていないというのに、少女をまるで自分の娘のように接してくれた男がいた。だが、その男は年をとるごとに体を悪くして、会って数年で不帰の客となった。

 

それから、数日と経たないうちに、ともに幼年期を過ごした、人生で初めて好きになった相手が故郷を離れた。......一体、彼が何を思って出て行ったのかはわからないが、きっと彼なりの考えがあるのだろう。悲しさはあったものの、彼のためになるならば、と思って笑って背中を押した。

 

そして、これからは彼と会うその日まで、母親と二人で生きていこうと思った矢先――――母親が倒れた。少女も必死に看病を続けたが、母親は亡くなった男を追う様に息を引き取った。

 

まだ、少女は十三歳であったというのにも、世界は残酷だった。だが、世界はそれでも廻る。廻り続けた。

 

「――――シャルロット・デュノア様ですね?」

 

ある日、母親の夫にあたる者の使者が少女のもとにやって来た。そして、男は言った。「迎えにあがりました」と。

 

曰く、少女は世界的にも有名なデュノア社の娘であるとのことだ。

 

父親のことなど母親は何も言ってくれなかった少女にその事実は寝耳に水だった。確かに少女はその会社の名前くらいは聞いたことはあるし、少女の姓も同じデュノアではある。だが、デュノアという姓は他にもいるし、まさか自分がそんな大企業の娘だなんて夢にも思わなかったのだ。

 

なんでもっと早く迎えに来てくれなかったのか?とか、どうして母親の死に目にも姿を現さなかったのか?などいろいろ言いたいことはあった。

 

しかし、子どもながらに理解していた。人脈も金もない少女が一人で生きていけるほど世界は甘くないということを。だから、少女は渋々その使者について行った。

 

少女が着いた場所はまさに豪邸だった。以前、少女が住んでいた家も周りと比べると大きなものだったが、目の前に立つ屋敷はさらに大きかった。あまりの大きさに圧倒されたが、使者の男が構わず先に行ってしまったので、少女は遅れないように早歩きでついて行った。

 

屋敷の中も豪華絢爛と言った感じで煌びやかなものだった。それら全てが目新しいのか、少女はきょろきょろと目を泳がしていた。

 

すると、カツ、カツと甲高い音が屋敷内を響かせていることに気がついた。その音源は、正面玄関に対面する中央階段から降りてくる一人の女性からだった。その女性がこちらに向かって歩み寄り、気づけば使者の男が頭を垂れていた。それだけで女性が何らかの地位を持っている人だということがわかった。

 

「............」

 

冷ややかな目を向ける女性は遂に少女の前で立ち止まる。少女は女性とは初対面のはずなのだが、ここまで毛嫌いされる理由が思い浮かばない。一体何なのか?声をかけようとした瞬間衝撃を受けた。比喩でもなんでもない、実際に頬を叩かれたのだ。......自然と痛みはない。

 

ただ、いきなりの事態に驚き、頭が真っ白になった。

 

「泥棒猫の娘が!よくこの屋敷に入って来れたわね!!」

 

――――意味がわからなかった。少女は生まれて初めてパニックになった。手加減無しで叩かれた頬には紅い紅葉が出来ているが未だに痛みは感じない。

 

女性はもう言うことはないのか、来た道を戻るように階段を上っていく。

 

「シャルロット様、こちらへ」

 

男は少女の身の上を案じることなく、与えられた仕事を忠実にこなす機械のように少女を案内する。少女はそれに逆らうことなく呆然となった頭のまま......だけど、なんとなく泥棒猫の娘という意味を理解しながら男について行った。

 

「こちらです」

 

少女が案内されたのは本邸から離れた別邸の一室。そこは、本邸と比べると明らかに差があった。大きさも、華やかさも......。

 

「これが明日からのスケジュールです」

 

荷物と一緒に手渡されたのはスケジュール表。見ると、IS適性を測ったりいろいろと予定が組み込まれており、どうやら明日から少女に自由というものはなくなるらしい。だが、少女にとってその様なことは些細なことだった。とにかく今になってジンジンと叫ぶ頬の痛みをどうにかしたかった。

 

そして、男がその場を去ると、少女は荷物を持って部屋の奥へと足を進めた。痛む頬をさすりながら......。

 

奥に進むとそこには特大ベッドがあった。もう何も考えたくなくなった少女は荷物を置いてそのベッドの上で寝ることにした。だけど、その前にバックから一つ取り出してそれと一緒にベッドの上に行く。ベッドは予想の他にふわふわで寝心地がよかったが、やっぱり慣れたベッドの方が数倍よかった。

 

「............」

 

少女は無言でバックから取ったもの――――一つの家族を写した写真立てを眺め、おもむろに写真立てを開いた。そこにあったのは二枚の写真。家族の写真とは別にもう一枚収められていたのだ。

 

「シロウ......」

 

それは少女と少年がたった二人で写されたツーショット写真。

 

 

 

   ――――あの頃に戻りたい。

 

 

 

そう願う少女は愚かだと人は笑うだろうか?

 

「あは......、駄目だな私。......もう泣かないって決めたのに......」

 

知らずのうちに涙が流れ始めた。あの日、少年と会うその日まで泣かないと決めたばかりなのに。

 

――――でも、もう過去には戻れない。それはどんなに願っても叶わぬ夢だから。

 

だから、だからせめてと少女は願う。過去ではなく、未来に向けて――――

 

 

 

 

「早く......早く、会いたいよ......シロウ」

 

“いつかまた、二人で笑い合って過ごさせてください”そう心の中で祈り――――

 

 

 

――――そうして静寂な闇の中で、孤独な朝を迎えるために、少女は眠りについた。

 

いつかの幻想を夢見るように――――

 

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