正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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もう忘れてしまわれているかもしれませんが、投稿再開しようと思います。
とりあえず二十一話まで連日一話ずつ投稿するのでどうぞよろしくお願い致します。


第十五話 廻り始める輪廻

「――――ってことがあったのよ!」

 

一週間前、シロウの屋敷で食事をともにしてからシロウと鈴はそれなりの交友関係を築いている。

 

そして現在、放課後であるはずの今時分は一夏の訓練に付き合っている時間なのだが、なぜかシロウは鈴に強制連行されて食堂で鈴の愚痴を聞いていた。

 

――――事の顛末はこうだ。昨日、いつもの通りに放課後の訓練を終えて、シロウは帰宅した。シロウがいなくなった後、訓練が終わった頃を見計らって鈴が一夏に会いに行ったのだが、そこで一夏と箒が同室であるという新事実が発覚。それを聞いた鈴は自室に戻って荷物をまとめ、一夏の部屋に殴り込んだ。そこで箒と口論となり、一夏も鈴との間で交わされた約束を忘れていたので口喧嘩して今に至るのだと言う。

 

 

「......だいたいわかった。だけど何でそんな事を俺に言うんだ?」

 

鈴の知らぬところではあるが、シロウ・エペ・フルーレという男は多くの生を歩んだが恋愛相談を受けたことはほとんどない。相談された以上出来るだけ力にはなるつもりだが、正直なぜ相談相手がシロウなのかシロウ自身わかっていない。

 

「何でって一夏に近い人間があんたしかいなかったからじゃない」

 

「ああ、なるほど......」

 

このIS学園で一夏の他に男性はシロウだけ。加えて、最近毎日一緒に行動しているのでシロウは一夏の心の内を探るのに適任していると言える。ただ、鈴にシロウしか選択肢がなかったと思うとそれはそれでなんとなく虚しいと思うシロウであった。

 

「確かに約束を忘れた一夏を許せないのもわかる......」

 

「 そうでしょう。一夏h――――」

 

「――――ただし」

 

シロウの賛同を得て一瞬笑顔になったが、即座にシロウに言い止められて再びむくれた表情に逆戻りだ。

 

「凰にも全く非はないとは言い切れないぞ?」

 

「はぁ?私のどこが悪いってわけ?」

 

「あのなぁ......」

 

まるで自分には非の打ち所はないと言わんばかりの自信たっぷりな物言いにシロウは呆れるしかなかった。

 

「いきなり部屋をチェンジしろなんて言われて「はい、します」なんて言うやつがいると思ってるのか?」

 

「うん」

 

「............悪い、頭痛がしてきた」

 

あまりの傍若無人っぷりは彼のあかいあくまを越す。二人は似てるようで、全くの別ものだ。確かに凛の場合は自分を優先とした傍若無人っぷりを発揮するが、それは整然たる計画を以って行われる策略家。それに対して鈴の場合は自分の本能と直感を信じて疑わない猪突猛進型だ。

 

「(まぁ、凛の場合は自覚はあるのに直せない呪いがある故に完璧な計画を練る必要があるのだがな......)」

 

遠坂家当主は代々ここ一番というところで失敗してしまううっかりが受け継がれている。あれさえ無ければもっと楽に聖杯戦争を勝ち抜くことが出来ただろうにといまになってシロウは思うが、もはやそれは過去の話だし、シロウ自身あの終わり方に一切の悔いはない。

 

「......ちょっと、聞いてんの?」

 

「あ、悪い。聞いてなかった」

 

考え事を始めると周りの声が聞こえなくなるほど集中してしまう。シロウの癖といってもいいこれはかつてのマスターと同じで意識しても直せるものではない。

 

「だからシロウにはさ......その......、一夏に私のこと、どう思ってるのか聞いてほしいんだけど......」

 

シロウの知らぬ間に話は進み、なぜかそんなことを恥ずかしげな表情で頼まれていた。その時の鈴は両手の人差し指でつんつんとするなどと初々しい少女の仕草をするので、ついシロウはほくそ笑んでしまった。

 

「あー!何笑ってんのよ!?」

 

「ク......、悪い悪い。鳳が一夏のことを好k――――」

 

「――――バカッ!?」

 

最後まで言わせることなく鈴はテーブルから身を乗り出してシロウの口を塞ぐ。口を塞いでいるはずなのにニヤニヤと笑うシロウに鈴の顔はさらに赤く染まる。

 

「わ、私はね......、ただあいつが......世話が焼けるだけで............その......」

 

「すまない。今のは勘繰りしすぎた俺が悪かった。要するに鳳は一夏が自分をどう思っているのか俺に聞いてほしいんだろ?」

 

頭から湯気が立ち昇り、言葉に余裕もなくなってきた。これ以上弄ると面白そうではあるが反動が怖いので、シロウは一旦話を戻した。

 

「そ、そうそう。シロウがやってくれたら万事オッケーなのよ」

 

腕を組んでようやく調子を取り戻したのかうんうんと頷いている。しかし、やはりまだ顔はほのかに赤いままだ。

 

「でもそれでいいのか?」

 

シロウは手を組み、唐突に単純かつ意味深な質問を口にする。

 

「......どういう意味よ?」

 

目を据えて睨む鈴に臆することなくシロウは答えた。

 

「質問の通りだ。鳳は本当に俺が一夏にお前をどう思っているのか聞いてほしいのか?」

 

「............?」

 

「正直、鳳にこんな回りくどいことは似合わないと思う」

 

「――――っ!?」

 

両手を組んだまま右手を顎に添えて考え始める。確かに遠回しになってしまっては鈴の性格には似つかわしくない。だが、如何に鈴が男勝りだと言っても恋愛に関しては年相応の少女のもの。臆病になるのも仕方がないことだと言えよう。

 

「............」

 

「――――今一度問うぞ?鳳・鈴音は本当にそうすることを望んでいるのか?」

 

追い詰めるような質問に更に頭を悩ます鈴。もし、これでYesと言えばシロウは鈴の希望通り一夏に尋ねるだろう。

 

――――バンッ!!と両手でテーブルを叩いて立ち上がる。周りの女生徒も突然のことに立ち上がった鈴を注目するが、今の鈴にそんな些細なことを気にすることは出来ない。

 

「............私、一夏のところに行って来る」

 

それだけ言って鈴は歩き始める。難渋し、決断した鈴の表情はいつも以上に凛々しいものだった。それを見たシロウはふん、と嬉しそうに鼻を鳴らした。

 

そして、鈴がシロウを通り過ぎたあたりでその背中に、言葉を投げかけた。

 

「――――鈴」

 

初めて呼ばれた名に応じようとして、だが結局足を止めるだけで鈴は振り向くことはしない。

 

「――――物語というのは突として始まるものではない。何事もまずは一歩からだ」

 

その言葉を鈴はどう受け取ったのか。その真意をシロウが理解することは出来ないが、なんとなくわかったこともある。

 

――――きっと鈴は自分の気持ちに素直に従うのだろう。

 

言うべきことは全て言った。後は全て鈴次第だ。

 

「............わかった。ありがと」

 

小鳥の囀りのように小さな感謝の言葉にシロウは満足そうに笑みを零した。

 

+ + +

 

第三アリーナのAピットのドアがバシュッとSF映画のドアのような音を立てて開いた。そこから現れたのは訓練でくたくたになった一夏だけ。どうやら箒とセシリアは先に自室に戻ったらしい。

 

「待ってたわよ一夏!」

 

堂々とした態度で腕を組み、一夏を待ち受けていたのは先ほどまでシロウと話をしていた鈴だった。

 

「どうしたんだ鈴?こんな時間に?」

 

いつもと違う雰囲気と何かを決断したかのような凛々しい表情にドキリとしたが、平然とした風を装い言葉を返した。

 

「言っとくけど、俺は謝らないぞ?悪いけど、何に怒っているのかわからないからな」

 

一夏の言い分を聞いて表には出さないが、心中で不機嫌になるが依然凛とした姿勢は崩さない。

 

「......それはもういいの。私は私らしく前に進むことに決めたから」

 

「?」

 

鈴の言葉に首を傾けずにはいられない。なんせ勝手に脳内完結されたことを口に出されたところで一夏に理解しろなど所詮不可能な話である。

 

「ところでさ、一夏はクラス対抗戦日程表はもう見た?」

 

「いや、まだ見てない。もう決まっているのか?」

 

一夏は最近の猛特訓のおかげで余所に目を向ける余裕はない上に、生徒玄関前廊下の電子掲示板に映され始めたのは今朝の話。故に一夏が知らないのも無理はない。だが、鈴にとってその程度説明するか省かれるかの違いしかないので全く問題はない。

 

「――――一回戦、私とだよ」

 

何の脈絡もなく、ただ決定事項をありのまま伝えた。それを聞いた一夏は呆然としたが、自分に向けられた鈴の真っ直ぐな瞳を見てすぐにその意向に気がついた。長い付き合いが鈴の真意を気づかせたのである。

 

――宣戦布告――

 

紛れもない開戦の宣告。そんな言葉を告げられて滾らなければ男ではない。疲労困憊した身体も関係ない。ただ、男としてのプライドを持って一夏はその宣告に応えるべく言い返した。

 

「ああ、言っとくが手加減はしない。全力でいくからな!」

 

その言葉に満足したのか、鈴は満面の笑みを見せるが、最後に一言。どうしても言わなければならないことがある。頑張れ、と自分の中の自分が応援するのを感じ、意を決して口を開いた。

 

「――――賭けをしましょう!」

 

「賭け?」

 

鈴の突然の提案はあまりにも予想外だったのか、今度こそ呆けてしまう。僅かに頬を赤らめる鈴に一夏の疑問符大量生産に拍車が掛かってしまう。

 

「わ、私が勝ったら......その、つ、付き合ってもらうわよ!」

 

鈴にとって一世一代の大イベント。告白などしたことがない鈴はこれ以上にないほど真っ赤になってしまう。だが――――

 

「いいぞ、別に」

 

――――あまりにも素っ気ない返事に気が抜け、それと同時に赤みもなくなっていく。

 

「え!い、いいの?」

 

予想とは遥かに違った展開にそわそわし始めた。今の鈴に最初の凛々しさなど皆無に等しい。

 

「買い物くらいいつでも付き合うぞ?」

 

的外れな物言いに肩透かしを食らってしまった鈴は言い返そうとしたところで思い留まり、シロウの言葉を想起した。

 

『――――物語というのは突として始まるものではない。何事もまずは一歩からだ』

 

買い物に付き合うというのも、考え方を変えればデートになる。思い起こせば、一夏と二人きりで出掛けたことなどほとんどない鈴にとってこれはこれで滅多にないチャンスなはず。これが二人の物語をスタートさせる第一歩となる可能性は十分にあるのだから、落胆する必要はない。

 

「......オッケー。それでいいわ。じゃあ私が勝ったら絶対買い物に付き合ってよね」

 

「ああ、いいぜ。その代わり俺が勝ったらこの前言ってた約束の内容教えてもらうぞ」

 

「そ、それは......」

 

「なんだ、やめたいならやめていいんだぞ?」

 

内容が内容なだけに突然振られた鈴は狼狽え、それをNoと取った一夏は取り止めようかと提案する。しかし、それは鈴にとって火に油だったようで咎めるような視線で睨みつけた。

 

「だ、誰がやめるって言ったのよ!?そっちこそ首を洗って待ってなさいよね!!」

 

「お、おう......」

 

猛々しく怒鳴り散らす鈴に足を一歩後ずさる一夏は然許り情けなく見える。だから、鈴が一夏に握り締めた拳を差し出された時、意図を読めない一夏は茫然自失する他なかった。

 

「言っとくけど、私負けるつもりなんてさらさらないんだからね」

 

不敵な笑みは鈴の自信の表れを指し示す。その意図に遅れながらに気がついた一夏は自分の右手も握り締め、鈴の拳に合わせる。

 

「俺もお前には絶対負けないさ」

 

コツンと小さく音が鳴る。

 

それは戦いのゴングを鳴らす儀式であり、正々堂々と戦うという契りでもあるのだ。

 

 

 

――――そうして、ようやくクラス対抗戦が開催された。

 

+ + +

 

会場はシロウとセシリアが戦った時よりもさらに上。全席満員どころか、立ち見の生徒がいるほどだ。これはひとえに織斑千冬の弟である一夏と噂の転入生の鈴のデビュー戦だからだろう。

 

ピットの中にはすでに『白式』を装着した一夏とシロウ、箒とセシリアがいた。箒とセシリアは一夏に最後のアドバイスをしているがシロウは心ここにあらずと言うようにどこか遠くを見据えていた。

 

「どうかしたんですの、シロウさん?」

 

それを怪訝そうに見たセシリアはシロウに尋ねてみた。

 

「......いや、何でもない。さて、一夏。華々しくデビュー戦を飾ってこいよ」

 

急な話題転換ではあったが、怪しむ者などここには誰もいない。一夏はその声援を受け、頼もしい言葉で返答する。

 

「任せろ!」

 

そして、白き鎧を纏った一夏は大空へ羽ばたく鳥のように飛び出て行った。

 

「私たちも行きましょうか?」

 

「そうだな」

 

箒たちは出て行く一夏を見送った後、千冬と真耶のいるモニタールームに向かった。

 

+ + +

 

モニタールームに入って、リアルタイムモニターを見ればまだ始まっていない。何やら会話をしているようで、だが、ようやく終わったのか、それぞれの武装『雪片弍型』と『双天牙月』を取り出す。

 

そして、両者は申し合わせたようにお互い相手に向かって突進する。

 

だが、一撃離脱と言わんばかりに鈴は一度攻撃を防がれるや否や、すぐに距離をとった。

 

その光景を見て千冬はホッと胸を撫で下ろした。今の一夏には圧倒的に実践が足らないので心配していたが、どうやらシロウたちの特訓で幾分かは戦えるようになっているようだ。

 

「......ん?」

 

モニターから目を離し、辺りを見回す。だが、一夏をここまで戦えるレベルに育てた功績者がこの場にいない。

 

「フルーレはどうした?」

 

「「え?」」

 

そして、千冬の問いにセシリアと箒はさっきまで隣にいたはずのシロウの姿がないことにようやく気づいた。

 

+ + +

 

千冬たちがシロウの消息に気づく五分前。シロウはいつもの学生服ではなくかつてのエミヤシロウと同じ黒のボディーアーマーに紅い聖骸布を身に纏い、導かれるように、否、誘われるようにして学生寮の裏に駆けていた。

 

今、ほとんどの学生がクラス対抗戦を観に行ってるため、この様な場所に人の目はない。だというのに、ここにはあるモノが充満している。それは世界で唯一シロウが感知出来るモノ――――魔力である。

 

撒餌のように放てられた魔力は見事に当たりをかけた。だというのに、釣った当の本人は不服そうに林の中から姿を現した。

 

「――――!?」

 

その姿を見たシロウは目を見開いた。なぜなら信じることが出来なかったからだ。彼はシロウとは違って純粋な世界に囚われた異物。ならば、この場にいるのはお門違いにもほどがある。

 

「......何故、何故君がここにいる?」

 

「悪りぃがとっとと死んでくれや」

 

シロウの問いに答えることなく、その世界の異物は悠々閑々に己の象徴を構えて死刑宣告する。

 

そして、放たれる紅き槍。必殺を約束された槍は一寸の狂いもなくシロウの心臓に吸い込まれた。

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