再び巡り会う望まれぬ邂逅。紅と蒼の宿命は時を越え、世界を越えて尚続く。その運命を断ち切るにはどちらかの敗北でしかあり得ない。これは世界が整えた又候なる舞台。雌雄を決し、勝者は互いの屍を踏み越えなければ新たな史歴は紡げんことを知る。
+ + +
木々の隙間から陽光に照らされるのは二つの痩身。だが、二人とも無駄のない屈強な肉体をしている。
――――両者が名乗りを上げた時、 ランサーがシロウの心臓目掛けて飛び出した。
一歩踏み込めば風が巻き上がり、一度突けば鎌鼬が奔り出す。
英雄同士の戦いというものは自然さえも凌駕する。人間に真似出来ない神秘。その戦いを前にすれば現代の科学の結晶であるISのバトルすら児戯に等しい。
「行くぞッ!!」
最速の英霊が吠える。その刺突は先程までのスピードとは比較にならないというのに全て急所を狙った正確無比な攻撃。本来、突きの連射とは腕の筋肉の伸縮であり、連続してそれは出来ない。肉体は機械と違って疲労し、威力もスピードも必ず減衰する。それが肉体の限界というもの。だが――――
「そらそらそらそらー!!」
――――ランサーの攻撃は一切衰えはしない。それどころか一撃を増す毎に威力・スピードは上がっている。
槍使いにとって必殺とは何か?と問えばおそらくほとんどの者が“突き”であると答えるだろう。斬る、払うなどよりも最短・最速で急所を狙える一瞬の攻撃であり、軌道も読み辛く防ぐことが困難であるからだ。
――――だというのに、シロウは常人には視認出来ない音速をも超える突きの連続を容易くあしらった。今の攻撃はほぼ全力だっただけに流石のランサーも驚愕の念を隠せなかった。
「......貴様、何をした?」
全盛期であったならばまだしも、今のシロウでは手数の多さ・速さはランサーに決して及ばない。鍛錬を欠かさなかったので、心眼は衰えていないが、ランサーの攻撃を完全に防げるほど卓越したものでもない。
ならばなぜ、シロウは防御を完璧にこなせたのか?理由は一つ。ただ、その攻撃を知っていたからだ。ランサーの攻撃があまりにも正確無比だったが故に全てを防ぐことが出来たのだ。
「それを言う必要性が私にあるのか?」
シロウは過去二度ランサーと剣を交えている。そして、初戦たるグラウンドでの一戦。その時のワンシーンをシロウは鮮明に覚えていた。故に、威力・スピードに違いこそあれど様子見の攻撃パターンは以前と変わらないだろうと予測したら、見事に的中してしまった。
「ハッ――――嫌味な野郎だぜ!!」
しかし、驚愕したのはシロウも同じくだった。ランサーのスピードは想像していた通りだったが、問題はシロウ自身にあった。
「(まさかここまで差があるとはな......)」
両腕がわずかに震える。圧倒的な膂力の差の前に身体が悲鳴を上げているのだ。シロウとて鍛錬を疎かにしたつもりはなかったし、魔術師相手ならば対等に戦えただろう。だが、再び英霊と合間見えることになろうとは予想だにしていなかった。
「だがしかし貴様の剣には攻め気がないな.....。どうした、億したか?」
「たわけが......、その様な見え透いた挑発に誰がのるか」
両者ともに動く気配はなく、睨み合いは続く中で殺気だけが充満していく。木の上で怯えていた鳥が、もう我慢出来ないと飛び出し、それに吊られて辺り一帯の鳥や虫たちは逃げるように飛び出した。
――――鳥たちの羽撃きがきっかけとなり、二人は動き出した。今度はランサーだけでなくシロウも前に出た。
本日二度目となる剣劇は舞いのように美しい。一度目の手の内を探るための攻防ではなく、死力を尽くした鬩ぎ合い。奇跡としか言いようがない未来と過去の英霊同士の戦いは観る者全てを魅了するというのに、観客はゼロだという矛盾。だが二人はそんなこと一切気にしない。お互い隙を見せた瞬間に殺されるのを理解しているから思考を他に割くような愚行は犯さない。
「.............っ!」
本来シロウは剣を扱う者ではない。それでもランサーに負けず劣らずで双剣を振るうシロウは壮絶に値する。だが――――
「――――そこっ!」
――――均衡は破られた。シロウの胴体目掛けた横払いは力一杯振るわれる。防御に使った干将と莫耶も折れてしまい、シロウは為す術もなく木に叩きつけられた。
「ぐぁ――――!?」
一瞬呼吸困難に陥ったが、それに構わず身体が自然と回避行動を取った。地面を転がるというあまり褒められた躱し方ではないが、代わりに串刺しになった木を見れば十分見事だと言える。
「ちったぁ、やるじゃねーか......」
「............彼の光の御子から称賛を受けるとは。私もまだまだ捨てたものではないな......」
「それだけ口を叩けりゃ十分だろ。続き行くぜッ!!」
空手になったシロウにランサーは容赦なく襲いかかる。その距離は実に五メートル。だが、その程度の距離、英霊にとって無いに等しい。未だシロウの態勢が整っていないのだから、直後にはランサーの槍に貫かれるだろう。少なくともこの時のランサーはそう予測していた。
「............同調、開始(トレース・オン)」
小さく囁いたシロウは口角を上げている。それを見た瞬間戦場で鍛え上げたランサーの直感は警鐘を鳴らし、瞬きする暇もなくシロウの姿が重厚なISアーマーへと変化する。
ランサーはこの世界に喚ばれた時点で世界からISの知識は得ていた。だが、抑止の守護者として戦っていたシロウがISを扱えるとは夢にも思わず、愕然としたその一瞬は大きな隙となった。
「『エネルギー放出(エミッション)』!!」
何の予備動作も兆候もなくシロウの右脚がお返しと言わんばかりにランサーの横っ腹に蹴り上げられる。
「なッ!?」
300キロを超えるISが空中を翔けることが出来るほどのエネルギーを放出したその一蹴りは防御したランサーを砂塵とともに吹き飛ばす。
「チ.......ッ」
砂煙が収まるとその場にはシロウの姿はなかった。それに対しランサーが舌打ち一つ鳴らす。まさかの奥の手に引っかかってしまった自分自身を窘め、吐き出た血を拭う。
「............」
辺りを警戒する様に見回しながら中央に進む。追い討ちをかける絶好のチャンスであったのにシロウは気配を消して姿を隠したのだ。ランサーにとってそれは意外ではあったが想定の範囲内であった。二度剣を交わし、わかったのは真正面から斬り合えば間違いなくランサーに負けは無い。意表を突かれはしたがそれも一度だけ。二度も同じ轍を踏むつもりはない。
「............チッ」
次に鳴らされた舌打ちはシロウに向けて。シロウの戦い方は上手く、負けない戦いとしては最適。だがやはり、ランサーとしては正々堂々と正面切っての戦いに飢えている。だから、隠者のような真似事をするシロウに失望し、上昇していたボルテージも一気に下降した。
「おいおい、いきなり姿を隠しやがって......。臆病風に吹かれたか?これじゃ興醒めもいいところだよっ――――と!」
射出された一筋の黒閃。それをランサーは眉一つ動かすことなく叩き落とした。軌道を変え、地面に突き刺さったのは黒く塗られた一本の矢。
「............手癖の悪りぃやつだな」
忌々しく悪態をつくがその先にシロウの姿はない。代わりに床弩が設置されていた。直後、風を切る音が真後ろから聞こえ、反応したランサーはそれも先と同じように打ち落とす。発射された地点を見ればそこにも床弩が設置されている。
「矢よけの加護があるこの俺に弓を射ることが無駄だとわからんのかっ!?」
ランサーの怒号が辺り一面に冴え渡る。ランサーに与えられた加護は投擲武装であるならば肉眼で捉え、対処できる。ただし――――
「――――!?」
何の口上もなく再び矢が射出された。だが、先ほどの矢とは数が違う。その数実に二十。それだけの数の矢が四方八方から飛来するのだ。
「この俺を...舐めるんじゃねェェェッ!」
しかし、ランサーは怯むことなく自身の武器を我武者羅に、だが精密に振り回して全ての矢を防いだ。
――――本来、矢よけの加護は広範囲の全体攻撃は該当しないのだが、それでも掠り傷一つ負わずに全ての矢を打ち落としたランサーの技量は流石と言えよう。
だが、ランサーは一息つく暇もなく瞠目した。圧縮された空間の魔力を喰い散らす赤光を纏った異形な漆黒の矢、否、剣が差し迫る。並々ならぬ魔力量は自身を宝具だと叫喚しているようだ。他の矢とは比べ物にならない速度に回避は不可と判断したランサーは心眼を最大限にまで発揮し、迎え撃った。
「はああァァァッ!」」
穂先と矢の先端が衝突し、時間が停まったかの様に拮抗する。以前、シロウが箒相手に同じ様な真似をしたが、今回はそれとは全くレベルが違う。面の広さとその音速をも超えるスピードに合わしたそれはまさに神がもたらした偉業に近い。
――――そして、ランサーは穂先をコンマ0,1センチ横にずらした。それだけで赤光を纏った漆黒の矢は弾かれるようにランサーの後方に飛び去って行く。
「ようやく見つけたぜ――――なッ!?」
もうこの戦いで何度絶句したがわからないが、おそらくこれが一番度肝を抜かれただろう。漆黒の矢が放たれたその先にはさっきと同じ紅い外套に身を包んだシロウが新たな矢を構えてる姿。それ自体にはさして重要ではない。問題はその矢にある。
「カラドボルグだと!?」
形状が変わりはしたものの、その禍々しさは見間違うものではない。間違いない。ランサーの天敵、フェルグスの愛剣に他ならない。
「――――『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』」
そうして引き絞られた魔剣は矢となりて、駆け抜ける。卒爾な事態にも関わらず、すでにランサーの顔からは喫驚はなくなり、狂喜に満ちた破顔へと変貌していた。確かに気に掛からないのかと言われればそれは嘘となるがそれは所詮些細な琑末だ。肝心なのは相手の猛撃をどう蹴散らすかにある。生前でも味わったことのない趣向の変わった“live or die(生きるか死ぬか)”。自分の求めるギリギリの戦いに今ランサーは激甚に高揚していた。
――――だが、それを邪魔するかのように後方から接近するモノがあった。先程、ランサーが弾き飛ばした漆黒の矢である。ランサーの知らぬことではあるが、その名を『赤原猟犬(フルンディング)』と言い、弾かれようとも射手が狙い続ける限り目標を襲い続ける魔剣である。
「なにっ!?――――ック!」
二本の魔剣がランサーに迫る。普段なら英雄を相手にこの様な奇策を実行出来る戦術のセンスに見事と感嘆するがそんな暇はない。いくら矢よけの加護と言えど万能ではなく、上位の宝具相手でかつ挟み撃ちの形を取られたらその効果を発揮できない。ランサーにとって視認出来ない攻撃が命を脅かすわけではない。理解できても防げない攻撃こそが脅威なのだ。それ故に――――ランサーの選択肢には回避しかあり得なかった。
「クソヤローが!!」
罵詈讒謗とシロウを罵りたかったが、今ランサーは限りない生命の危機に瀕している。一応これもランサーのご所望である生死を賭けたギリギリの戦いと言えなくもないが、正直回避という選択肢しかないようなものを戦いとは言わない。少なくともランサーはそんなことで死ぬ事を望んでいない。故に、脚に力の限りをため込んで一気にその場から脱した。......直後、二つの宝具が衝突して爆発を起こした。しかし爆発と言っても宝具二つにしてはかなり小規模だった。おそらく、気を失っている少女を気に掛けて被害を最小限に抑えたのだろう。辺りは爆発によって砂埃が舞い上がり煙幕の役割を果たす。
煙幕から出たばかりのランサーの頭上に突如、影が被る。見上げればそこには紅の外套ではなくISアーマー姿のシロウが左脚を大きく振りかぶっていた。“拙い!!”と直感でランサーは後ろに下がる。他のISとは異なり、あの天才篠ノ之束ですらわからない何かがあるのか、シロウのTYPE-ZERO Saberは神性のないはずの科学の塊でありながら、その蹴りの威力はランサーにダメージを負わせるだけの威力を有しているのは先程の攻防ではっきりしている。
肉薄するシロウの蹴りをランサーはスウェーバックで鼻面に当たるか当たらないかギリギリのラインで避け切った。
――――これはシロウにとって大きな不安要素が二つあった。この煙幕のどこからランサーが現れるのかも明確にはわからなかったし、すでに離脱していた可能性もあった。次に近接戦を行えば勝利はない。この攻撃は絶好のチャンスに相応するリスクも伴っていた。が、見事にシロウは賭けに勝った――――
避けられた左脚から再びエネルギーを放出する。今のシロウに地面などあってないようなもの。だから、着地する前に追撃を振るう。それは先ほどまでの精密な攻撃ではなく、身体を力任せに左に回転させる。それを意味することが何なのかランサーにはわからなかったが、自然と後方に跳んでいたのは野生の勘がそう告げたからだ。
ーーーー突然ランサーの左腕に切り目が入った。骨にまで到達するその傷は、近接戦闘するにあたって致命傷である。
「ふむ......、胴体を狙ったのだがね」
「ハ、不可視の剣を持っているとはな......。いや、武器を持っていないと浅慮してしまった俺の油断か」
左腕を斬り落とされかけたというのに軽口を叩くランサーのボルテージは最高潮。しかし、すぐさま血止めの魔術を行使するあたりは冷静さを保っている。
「悪いが今の爆発で人が気づいてもおかしくないのでね......」
だが、シロウは対照的なまでに冷徹にそう告げ、ISを解いた。ランサーもその意図に気づき、おそらく次で決着が着くことを悟った。
「......一つ聞かせろ」
今までずっと妙に感じていた。膂力、スピード、手数、体力、全てにおいてランサーはシロウを上回っていた。にも関わらず、倒しきれないどころか、罠にまで掛かってしまった。まるで、ランサーの思考を読んでいるかのように......。
「なにかね?」
「俺とテメェは一度殺り合ったことはあるか?」
「........................ある、と言ったら?」
長い沈黙の後、シロウは肯定した。損得を考えればそのことをランサーに伝えるのは決して上手くはない。だが、この一戦はシロウにとっても何か思うところがあるのだろう。
「そうか.....。ならば今から俺が何をやろうとしているのかもわかるな?」
周囲の熱を根こそぎ奪うかのように空気中の水分が消失し、充満した魔力が槍の穂先に集中されていく。それが意味するのは――――宝具の真名解放にであるのは明確だ。
「――――クー・フーリン。貴方が最強の槍で私の心臓を貫こうというのなら私は最強の盾を以って立ち向かおう」
故に、シロウは怖じけることなく、先代の英雄に敬意を表して真正面から自身の誇りを懸けて戦うことを宣告した。
「ぬかせ、若造が!!」
不敵に微笑む。ランサーは間違いなくこの巡り合いに狂喜している。堅忍不抜の心意気。雄々し過ぎるその勇姿。それはいつかランサーが命を賭けて戦いたいと望んだ理想の姿なのだから。
「我が秘槍、防げるものなら防いでみせろ!!」
助走をつけたランサーが高く跳び上がる。翼のない身でありながらその跳躍力は異常ではあるが、それ以上に常軌を逸脱したモノが放てられた。
「――――『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』!!」
魔槍『ゲイボルク』。槍というジャンルに分類されながら、投擲が本来の使い方。もちろん、穿つことでもその効果を発揮させることは出来る。“すでに心臓に命中している”という結果を作ってから放てられ、敵の心臓に必中する因果逆転の宝具のため回避はほとんど不可能。そして、本来の使用法である投擲の時には心臓命中よりも破壊力を重視した対軍宝具。敵に放てば無数の鏃を撒き散らし、その一投で一部隊を軽々と吹き飛ばす。その威力はまさに炸裂弾の如く。
「――――『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」
対するはシロウが唯一得意とする防御用の兵装。何人たりとも防げなかったというギリシャの大英雄ヘクトールの投槍を防ぎ、以後、投擲兵器に対する絶対の防御力を誇る概念武装として広まり、存在を昇華した宝具。七枚の花弁の如き守りはその一枚一枚が古代の城壁に匹敵する究極の防壁。
――――二つの宝具はぶつかり合う。その余波は辺りの木々を破壊するほどまでに凄まじい。ランサーは残存する全ての魔力をその一投に託した。その進撃は留まることを知らず、一枚、また一枚と花弁を散らせてゆく。
「ぬああああああ!!」
そして、五枚、六枚と舞い散ってゆき、とうとう最後の一枚に到達したが、ゲイ・ボルクも出だしに比べると格段に減速している。しかし――――
「ぐぅッ!?」
――――ここに来てまだ未熟な身体の欠点が浮き彫りにされてしまう。まだ『アイアス』は健在ではあるが、シロウの身体がその余波と衝撃に耐えきれないでいた。前に差し出した左手はすでに千切れたかのように血が噴き出し、踏ん張っている両足も地面を引きずり、勝手に後ずさっている。苦渋な表情を浮かべるシロウはいつ吹き飛ばされてもおかしくはないだろう。そして――――
――――パァァッン!!と響きのいい音を立てながら最後の一枚が割れてしまった。吹き飛ばされないように思慮し過ぎたが故に、『アイアス』への気が途切れてしまったのだ。
「ぐああああ!?」
最後の一枚を貫いた『ゲイボルク』はそのままシロウの身体を貫通し、転ぶように後方に飛ばされる。これで勝負は決まった。『ゲイボルク』に心臓を貫かれて生きる者などこの世に存在しないのだからランサーは勝利を確信した。しかし――――
「なっ!?」
――――転びながらも立ち上がり、死力を尽くしてシロウは最後の投影をする。その手には先ほどシロウを貫いたのと同じ紅き槍が握られている。そして、勢いをつけてランサーに向かって走り出した。
「『突き穿つ(ゲイ――――」
......そうか。と、ランサーは一人で納得した。全てにおいてランサーはシロウに勝っていたが、たった一つ。負けていたものがあった。
“必ず生き抜く想い”。
生前、その想いを胸に戦い抜いたというのに、英霊となった今では戦いを求めるただの戦闘狂にまで落ちぶれた。だから、死力を尽くし戦いに満足してしまったその時点で、想いの強き者に敗れるのは決定事項だったのかもしれない。
「――――死翔の槍 ボルク)!!』
最後に真名解放して放たれた宝具は奇しくも担い手の心臓を貫いた。それを見届けたシロウは貫通した左肩を押さえながら、力なくその場に倒れた。
「......おいおい、お姫様をほったらかしてそんな所で寝てていいのか?」
心臓を貫かれたと言うのに、ランサーは然も気にした風はなくシロウに歩み寄る。
「無茶を......、言ってくれるな......」
息も絶え絶えに応えるシロウ。傍から見ればどちらが勝者かわからない。そうして、死に体であるはずのランサーはあるだけの魔力を振り絞って治癒のルーンをシロウにかけて、そのまま担いで未だ気を失っている少女のもとまで連れて行く。
「すまんな」
「ああ、いいって。俺は負けたんだからな」
自分の敗北は認めているのに、さして悔いはないように見える。実際、ランサーに後悔はないのだろうし、その気持ちもシロウは十分に理解できる。
「......おっと、時間か」
魔力の尽きたランサーの足がゆっくりと光の粒子となって消えていく。語り合うことなど何もない。そもそも、殺し合いの敵同士。今際の言葉など用意しているわけはなく、ただランサーの消失を待つのみ。それが二人の相応しい別れ方。
「おい、エミヤシロウ」
だというのに、ランサーは最期に口を開いた。同時に、初めてシロウの名を呼んだ。
「じゃあ、またな」
まるで友達が一日の終わりを告げるかのように、ランサーは平然と別れの挨拶をする。その光景からは今まで殺し合いをしていた仲とは思えないほどに。
「ああ、それではまた」
シロウもその挨拶に木にもたれながら、事も無げに返事を返した。それにランサーは満足そうに笑みを浮かべて、静かに最後の残光とともに消失していった。
+ + +
「............」
少女が目が覚ませばそこは白い天井があった。気だるい体を起して、周りを見渡せばそこは白いカーテンで仕切られている。
「あ、起きた?」
いきなりカーテンが開き、そこから白衣を着た女性が現れた。
「............保健室?」
「ご名答。でも驚いたわ。帰って来たら寝てるんだもの。具合でも悪いの?」
「............」
「......ま、いいわ。気分が良くなったら寮に帰りなさい」
女性の質問に少女は答えないまま沈黙が続く。女性は興味を無くした子どものように、ため息をついて出て行った。その態度は少々失礼ではあったが、少女は気にしない。そんなことを気にするよりも少女は冷静になっていく頭で再びあの光景を思い返す。紅い服を着た少年と蒼い服を着た男性の姿はまるでアニメの世界のような服装ではあったが、実際にやっていたことは剣と槍でお互いを斬り合っていた。それは訓練なんかじゃない......おそらく、殺し合いの最中だったんじゃないかと思う。
「............」
そう考えると震えが止まらない。睨まれただけで腰が抜け、体が動かなくなった。アレは本当に何だったのだろうか?いや、そもそもの話アレは現実なのだろうか?夢であると考えるのが一番妥当な線だ。
「............」
今までのは夢。そう勝手に頭の中で決めつける。その方が精神的にも楽なのだから。..................だが、一つ腑に落ちないことがある。確かに蒼い服の男性は全く知らない人ではあったが、もう片方はまるっきり知らないわけではない。むしろ、この学園にいて、知らない人がいるのかと思えるほどの有名人だ。そんな有名人がなぜあの場にいたのか?しかし、どれだけ少女が考えてもやはり答えが出ることはなかった。