正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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第十八話 彼らは出会う

空港に一台の黒い車が停車する。フランス製の高級ブランド車の後部座席から颯爽と現れたのは黄色を基調とした礼装で身を纏う一人の少年。その顔立ちは男性とも女性とも見て取れる。

 

「行ってらっしゃいませ」

 

運転手が一礼し、少年もそれに答える。周囲もその光景を見てどこかの御曹司なのだろうと推測するがそれは半分当たりで半分外れ。確かに大企業の子であるが父親と少年には血の繋がりこそあれど、結局最後までその関係に愛情が芽生えることはなかった。

 

たった二回だけの面会。強制されたIS訓練。性別を偽造する情報操作のための監禁。

 

そんな子を子とも思わない非道な行為を晒しておいてお互いが解り合えるはずもないし、すでに両者ともに理解しようという意思は欠けている。だがそれでも少年は今まで唇を噛んで我慢してきた。少年が幾度となく逃げ出そうと諦め、その度に我慢し耐え抜いたのは――――

 

「ようやく......、ようやく会えるね、シロウ」

 

胸ポケットにしまっていた写真を取り出して虚空に向かって呟く。その二年振りに見せた笑顔は最高に輝いていた。

 

 

 

――――きっと、この再会の時を迎えるためだろう。

 

+ + +

 

ドイツ国内のとある軍施設の一室。そこには数人の少女たちが集まっていた。容姿・年齢様々ではあったがそこにいる者たちはすべからく眼帯をしている。それは皆が皆IS用補佐ナノマシン移植者であるため全員が肉眼の保護として装着し、また、それは部隊隊員の誇りでもある。

 

「隊長!必ず二人を連れ帰って来てくださいね」

 

部隊の中で最も若い少女が今から日本に向けて出発する銀髪の少女のもとで頼み込む。

 

「任せろ!二人は私が連れて帰ってくる。特にシロウのやつめ......。あいつはこの私に断りも入れずいなくなったからな......。首に縄をつけてでも連れ戻す!!」

 

胸を叩いてこれからのことに意気込む少女に多くの隊員が期待を膨らました目で見つめて「はい!」と答える。しかし、その後ろでひそひそと乙女の会話に勤しむ数名の少女たちの姿もある。

 

「(これって愛の力ですよね?)」

 

「(ああ、だがその愛に本人は自覚がないというのは問題だ。シロウはシロウで恋愛には鈍いしな......)」

 

「(大丈夫です。きっと二人は結ばれますよ)」

 

「(うむ。日本の高校は不思議なことに今までいがみ合っていた男女が急速に接近して最終的には交際にまで発展するほど奇怪な場所だからな。きっと隊長とシロウも結ばれるだろう)」

 

「(さすが副隊長!日本に詳しい!)」

 

「(当然だ。私は伊達や酔狂で日本の少女漫画を愛読しているわけではない!)」

 

「(か、かっこいい......!)」

 

「(そんなかっこいい副隊長が好きです!)」

 

「(でも、そんなかっこいい副隊長よりも好きな隊長には幸せになってほしいです!)」

 

「(私も気持ちは同じだ。隊長の恋愛が成就するように全力でバックアップしていくぞ!!)」

 

「「「(おお~!!)」」」

 

――――なんてやりとりをして、こちらはこちらでまた違う意味で意気込んでいた。

 

+ + +

 

ランサーとの戦いを終えて、久しぶりに学園に登校した。というのも、ランサーに治癒のルーンをかけてもらったとは言え、肩に怪我をしたままでは騒ぎになるだろうと思って家の中で療養していたのだ。

 

そして、久しぶりに学校に来たというのに――――

 

「あれ?あんた生きてたの?」

 

――――なんて薄情にも程がある言葉を浴びせられた。久しぶりに会った友達に対しての第一声がそれは少しひどくないだろうか?

 

いや、最初に出会った友達が鈴だったのが今日の運の悪さを物語っているのかもしれない。

 

「――――それでさー、クラス対抗の時大変だったわけよ......」

 

「そうなんだ」

 

二組のはずの鈴がいつまでもついて来て、結局一組にまでやって来た。なぜかかなり上機嫌なのだが、それに触れると面倒なことが起きる気がするので適当に相槌を打つだけにした。

 

「おはようー」

 

――――ガラッと教室のドアを開けて挨拶をする。

 

すると、いの一番に目の前に飛び込んで来たのは目をきょとんとさせた一夏の顔だった。

 

「シロウ、お前生きてたのか!?」

 

なんだなんだ一夏まで......。言っとくけどかなり失礼だぞお前ら。

 

「わたくしは信じておりましたわ」

 

うんうんと涙を潤ませながらいつの間にか俺の手をとってセシリアはそんなことを言っていた。

 

......一体何を信じていたんだろうか?

 

「シロウ、お前の死亡説が流れてたが本当か?」

 

現状説明ありがとう。でもな、箒。その質問を当の本人にするのはどうかと思うぞ。

 

「フルフル死んじゃったかと思ったよ~」

 

一組の癒し系アイドル、のほほんさん(一夏命名)が明るく笑顔で話しかけてくる。あれ?俺、のほほんさんとまともに話したの初めてなのに初っ端が「死んじゃったかと思ったよ~」ってどうよ?

 

「フルーレ君、大丈夫だったの?」

 

「私のフルーレ君はやっぱり無敵だったんだわ!」

 

何かと騒ぎ立てる一組の面々だったが今日は特に酷い。なんでか知らないがみんなのテンションがハイだ。俺一人意味がわからず狼狽えているのをほっといてみんなは嬉しそうに万歳と両手を上げて叫んでいる。

 

「ばんざーい!!」

 

クラスのみんなが言っているためかなり耳にくる。

 

「ばんざーい!!」

 

いつの間にか他クラスの生徒も混じっている。お前らホームルームはどうした!?

 

「ばんざーい」

 

みんなが俺目掛けて迫ってくる。所謂おしくらまんじゅう状態だ。......おい、一夏。耳元でわめくな!

 

「ばんざー「うるせぇー!!」

 

 

 

......

 

............

 

..................

 

.........................それがシロウ・エペ・フルーレの朝の第一声だった。

 

............まぁ、あれだ。夢オチというやつだ。

 

「変な夢......」

 

上半身を起こして一人ごちる。チュンチュンと鳴く雀の声は俺のことを嘲笑っているかのように聞こえた。

 

+ + +

 

今日も今日とてシロウは鍛錬に勤しんでいる。『TYPE-ZERO Saber』の武器が一本の長剣だけだったために鍛錬の時は一般的な木刀を使用していたが、今では中華剣のように短い二つの木刀に戻した。だが、変わったのはそれだけではない。シロウ自身気づいているはずだ。

 

――――世界は俺を許容していなかった。

 

ランサーの言葉が真実であるならば、知らずのうちにシロウを匿っていた第三者がいたはずだ。だが、ランサーと出会ったという事はエミヤシロウという変わり種の隠蔽が出来なくなった、…もしくは、必要なくなったか。どれだけ考えても空想の域。第三者とは何者なのか結局わからないままでいる。

 

「いや、それよりも…」

 

動かしていた体を一旦止める。考えなければならないのは今後の未来。おそらく次もシロウを狙う刺客は増えるだろう。それも曲がりなりにも英霊を撃退したほどの実力なのだから生半可な守護者などではなくまさしく豪傑たる英雄が再び現れるのは容易に予想できる。

 

ーーーー彼女も敵として俺の前に現れるのだろうか?

 

そんなことがあればシロウは彼女と戦えるのだろうか?そんなifの未来はあり得ないし、例えあったとしても答えは決まっていた。シロウは再び双剣を振り払う。迷いを断ち、絆さえも絶つ覚悟を持って。

 

時間の流れを忘れてただただ双剣を降り続ける。決意に満ちた眼差しとは裏腹に、いつもの鋭さを得ないままに。

 

 

 

 

 

 

「――――おはよう!!」

 

「............はぁ」

 

そんな静寂に満ちた道場内の空気をぶち壊した頭痛の種を前にしてシロウはまた頭を抑えた。千冬からシャルロットのことを聞いて、一度直接会って事の真相を聞いてから学校を辞めようと考え高校生活はまだ続けていた。そして、ランサーとの戦いが終わって三日ほど経ったある日のこと、不意にシロウの生活にも変化が訪れた。

 

「また君は来たのか......。仮にも生徒会長だろう。そんなにほいほいと学園を離れていいのか?」

 

「いいのいいの。これは生徒会長の特権だから」

 

ごく自然に道場に入ってきてくつろぐ少女、更織楯無は然も何でもないように答えた。広げられた扇子には『你早』と書かれている。なぜ中国語なのかは置いといて最近の生活の変化、それは楯無が不定期にシロウの家を訪れることだ。一体何の目的があって来ているのかまだシロウは知らない。

 

「今日は学校に行くの?」

 

「ああ、そのつもりだ。ちなみにあんたは朝食はもう食べたのか?まだならついでに作るが......」

 

「本当?それは嬉しいけどさ......。時間はいいの?」

 

「時間?」

 

楯無に言われて始めて時計を見る。ちなみに今日初めてシロウは時計を見る。

 

「.................は?」

 

ゴシゴシと目をこすり見た時間を疑い、とりあえずまた二度見してみた。直後――――

 

「なにーーッ!?」

 

――――信じられない!と言わんばかりに咆哮を上げる。時計はもう八時を回ろうとしているのだ。......遅刻はもはや決定事項だ。急いで自部屋に戻るシロウの慌てようは道場の扉も閉めずドタドタと走る様から伺える。楯無はそれを気にすることなく事前に居間で淹れた茶を飲んでいる。勝手知ったる他人の家とはまさにこのことだ。

 

「何でもっと早くに来てくれなかったのさ!?」

 

「それは流石に八つ当たりじゃない?」

 

「グッ......!」

 

ぐうの音も出ないがそれは詮なきこと。以前楯無が来たころにシロウはたまに来ると言われていたから楯無が今日来るということは予想出来た。だが、自分が時間を忘れてここまで考えに没頭するとは夢にも思わなかったのだ。

 

「もう出るから楯無さんも用意してくれ!」

 

「は~い」

 

二分とかからず戻って来たシロウに言われて楯無は立ち上がり、二人一緒に屋敷を出た。

 

強化をかけて全力で走れば駅まで五分もかからない。......かからないのだが、今日は少しばかり事情が違う。

 

「シロウくん速~い」

 

呑気に感想を述べる楯無とは違ってシロウはランサーから受けた傷を忘れるくらいに必死に走る。全速力で走れば楯無は置いていかれるためシロウが背負って走っているのだ。ひと一人背負って走るシロウのスピードはオリンピック選手も真っ青なくらい。だが、正直なところホームルームには間に合わない。

 

「時間ピンチだよ?」

 

「わかってる!!」

 

それでも一分一秒を縮めるよう全力で駆けるのはシロウの根が真面目だからだろう。そして、楯無を背負って駆け抜ける光景をどこかの教会のシスターが見ていたことをシロウは気づかないでいた。

 

+ + +

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがいいの!」

 

「 私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

 

「あー、あれねー。モノはいいけど高いじゃん」

 

ISスーツとは言え、年頃の少女たちはお洒落を気にするのだ。女の子同士の会話が教室を占める中、時計を見てはドアを見るなどと一夏は落ち着かない様子で席に座っている。やはり男一人では辛いのだろう。

 

「おはようございます!」

 

一夏がドアを見た瞬間、ドアが開かれ元気よく挨拶をしながら真耶が入ってきた。

 

「諸君、おはよう」

 

「お、おはようございます」

 

続けて真耶の次に入るのはこのクラスの担任、織斑千冬。同じ教師でも真耶とはまるっきりタイプが違う。彼女が入るだけで和気あいあいとしていた空気が一転し一切のおしゃべりを許さないまるで軍隊のような雰囲気になる。だが、千冬は気にした素振りも見せない。

 

「あいつはまた休みか......」

 

生徒の前で不機嫌を顔に出しはしないがその声にはわずかに怒気が含まれている。そして他の生徒も一瞥し、出席簿にチェックを付けた。

 

「一人足らんが先にするぞ。今日からは本格的な実戦訓練を開始する」

 

ようやく基礎授業から抜け出せることを考えれば歓喜のあまりに雑談の一つや二つ出ても不思議ではない。だが、話している教師が教師なだけに誰一人感嘆を漏らさないのはさすがである。

 

「訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それでもないものは、まあ下着でも構わんだろう」

 

それは精神衛生的に駄目だろうと一夏は心の中で突っ込む。それに一夏自身が忘れてでもしたらそれは喜ばしくはない。視られて喜ぶような特殊な性癖は一夏にはないのだから。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はい」

 

後は任せたと言わんばかりに千冬は教壇から離れ真耶が代わりに立つ。

 

「ええとですね。今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

「え......」

 

突然の重大発表にクラスはざわざわとざわつき始める。それは当然か。鈴の時とは違って今回の転入の情報は皆無に等しかった。だからこの転入はまさに寝耳に水だろう。

 

「失礼します」

 

「............」

 

入って来たのは二人。その二人のうちの一人を見てざわつきはピークに達する。だがそれは仕方のないことだ。金色の髪に菫色の瞳。それ自体には何ら驚きはない。IS学園は世界各国から優れたIS操縦者の育成を請け負っているのだから外国人がいてもおかしくない。だがクラスのみんなは何となく同じ違和感を感じていた。

 

「まさか......男!?」

 

一夏がクラスを代表して尋ねた。尋ねられた当の本人は小さく微笑み、否定はしなかった。その仕草で一夏たちはこの転入生が男なのだと確信した。そして、唖然と固まるクラスを他所に真耶が二人に自己紹介を促した。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

一通り自己紹介を終えたシャルルは一度クラス全体を見回した。もう一人の転校生もシャルルまでとは言わないがキョロキョロとしていた。まるで何かを探しているように。

 

「どうかしたのか?」

 

たまらず一夏が二人に尋ねた。相変わらず沈黙を保ったままの銀髪の転校生とは違いシャルルがすぐに質問を返した。

 

「シロウ・エペ・フルーレはこのクラスだと聞いていたんですがいないんですか?」

 

「フルーレなら欠席してる」

 

この質問を予想していたのか千冬が瞬時に横から返答した。

 

「何故ですか教官?」

 

その言葉に反応したのはシャルルではなくまだ自己紹介の終えていない銀髪の少女だった。ようやく口を開いたかと思えば、それは自己紹介などではなく単なる疑問。しかも、一夏たちクラスメイトには目もくれず。それは些か失礼な態度ではあるが本人はそれが当然の如く気にも留めていない。

 

「本人曰く風邪だそうだ。......あと教官と呼ぶな」

 

「「風邪!?」」

 

転校生の声が重なる。二人にとってそれはあまりにも予想外だったのだろう、 二人は目をパチクリさせていた。だがしかしそれは当然と言えば当然だ。時期は違えど二人は以前のシロウを知っている。二人はシロウが病気どころか風邪の一つもひいたことのない病気知らずの体なのだと思っていたからこの事実には正直に驚いている。

 

「えと......、二人はシロウの知り合いなのか?」

 

再び一夏が尋ねる。どうやらクラスの中で質問係が確立されたようだ。

 

「はい。僕とシロウは幼馴染ですから」

 

「へぇ、そう言えばシロウも出身地はフランスだって言ってたな」

 

見た目も名前も日本人みたいなだけに一夏たちはシロウがフランス人だということをつい忘れていた。

 

「............」

 

一夏の質問にシャルルは素直に答えた。しかし、やはりと言うべきかそれとは正反対にまだ自己紹介すら終えてない転校生は冷たい視線で睨み返すだけで口を開くことはなかった。

 

「......えと、質問は後にするとしてラウラさん自己紹介お願いしていいですか?」

 

その空気を察してか真耶が再度ラウラと呼ばれた銀髪の転校生に自己紹介を促した。

 

「............」

 

しかし、先ほど開かれた口も今では閉じられたまま。教師であるはずの真耶の言うことにもまるで聞こうとしない。その態度に困り果てた真耶はどうしようと悩んだ末に千冬に目でSOS信号を送った。SOS信号を受け取った千冬は心底だるそうに一度ため息をつけてラウラに声をかけた。

 

「......挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

「だから教官は止めろ。私はもう教官ではないしお前もここでは一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

千冬の命令に順従に従う姿はまさしく軍人の敬礼。そして、その敬礼を終えてラウラは千冬から一夏たちに向き直り背筋を伸ばしたまま口を開けた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ......」

 

――――以上。ラウラの自己紹介はたったその一文のみだった。まさかの素っ気なさに隣にいたシャルルや真耶もきょとんとしてしまっている。そんな時――――

 

「ええい、さっさと生徒会室に戻ってくれ!というかあんたも生徒なんだからホームルームとかいいのか!?」

 

「いいからいいから。何をそんなに慌ててるの?」

 

「慌てるのは当然だろう!!」

 

――――なんてやり取りが聞こえて来た。それと同時に向かって来る足取りもどうやらこのクラスを目指しているようだ。

 

そして、この声にいち早く反応した者が教室のドアにかけて行く。

 

「すみません、遅ればっs!?」

 

ドアを開け開口一番に謝ろうとしたシロウに目掛けて半ばタックル気味に抱きつき、そのまま倒れ込んだ。ちなみに、ついさっきまでシロウの背中にいた楯無は回避済み。

 

「いたた......ってシャル!?」

 

「シロウ!ずっと会いたかったよ!!」

 

抱きついたのはシャルル・デュノア。細い両腕がシロウの腰を通り過ぎ背中に廻されている。久々に感じたその温もりはシャルルにとって何事にも変えられない程の安堵をもたらした。歓喜のあまりか涙を流しているがシャルルはシロウの胸に顔をうずめたままでいる。しかし、シロウはシャルルが泣いていることに何となく気づいた。別に長い付き合いと言うわけでもない。だが、だからといって浅い付き合いでもない。シロウはシャルルをこの世界で守りたい大切なものだと思っているのだから。また、シャルルはシャルルでシロウの秘め事を知らないとは言え無意識にその本質の一部を理解し、その上でシロウという存在を受け入れている。

 

「シャル......」

 

シロウはゆっくりと、優しくシャルルの頭を撫でた。

 

この温もりはシロウにとっても久しいものだ。もしかすればシロウの方こそこの温もりに飢えていたのかもしれない。この突拍子のない感動の再会にシロウは柄にもなく心を震わせた。............だからだろう。シロウの頭にはある事実が消えていた。

 

「わぁ、シロウ君ってBLだったの?」

 

呑気な声。その声にようやくシロウは我に帰った。

 

辺りを見回すと扇子で口元を隠している楯無をはじめクラス中の生徒たちが見ている。

 

「な、ななななにをしているんですの!?それも男同士で!!」

 

わなわなと震えながら目の前の現実を受け止めれないセシリアは混乱する頭で問い詰める。

 

「ち、違うぞ!セシリア!きっと勘違いしているぞ!!」

 

勘違いと言われても目の前の光景は倒れてはいるがまさしく久しぶりに再会を果たした恋人同士のそれ。間違いなく単なる同性の幼馴染の域を超えているようにしか見えない。

 

再び問い詰めようとセシリアが近寄ろうとした瞬間、セシリアの後方から二つの煌めくナイフが通り過ぎる。

 

「うぉッ!?」

 

その閃光は的確にシロウの頭と心臓を狙っていたが、当たる寸前に飛び起きて避け切った。

 

「ラ、ラウラ......。何でお前がここに?」

 

こちらも久しぶりの再会ではあるのだがシャルルの時のような涙麗しいものではない。シロウとシャルルの関係を久しぶりに会う恋人だとしたらこちらは元恋人。

 

「何でだと?私(たち)を捨ててこの様な東洋の極地にいると思えば女と遊び、さらには男と抱き合うなどとは見下げ果てたぞ!!」

 

ちなみに男(シロウ)が一方的に女(ラウラ)を捨てた昼ドラの一場面のようだ。

 

この予想もしなかった展開にクラスの一部は呆然とし、またある一部では楽しんでいる。だが二つに共通して言えることはシロウの株は右肩下がり一直線だということ。唯一この事情を知っている千冬は大きくため息をついているだけだった。

 

「誤解を招くような言い方は止めてくれ!!」

 

これ以上騒ぎ立てたくないシロウはどうにか鎮まるように心の中で祈るが、神様はそれを無常にも却下した。

 

「......それどういうことかな、シロウ?」

 

「い、いふぁいぞ、シャル」

 

さっきまでの感動の再会もいつの間にか嘘のように終わりを告げ、シャルルはシロウが今まで見たことのないある意味一番素敵な笑顔でシロウの頬をつねりながら尋ねた。

 

「わたくしもそれは気になりますわ」

 

「ふぁ、ふぁんでさ!?」

 

反対側の頬をセシリアがつねる。こちらもいい笑顔ではあるが、こめかみにはばっちり十字マークが浮かび上がっている。その意味するところは皆が思い浮かべる通りだろう。

 

「私を無視して遊ぶなぁッ!!」

 

セシリアとシャルルが問い詰めていると、ラウラが再び二本のナイフを投げつける。だが――――キンッキンッとシロウに当たる寸前で叩き落された。

 

「貴様らぁ......」

 

憤怒の表情で睨むラウラに二人は怯むどころか、睨みを利かせて同時に声を上げた。

 

「「シロウに何するんだ!?(シロウさんに何するんですの!?)」」

 

先ほどまで廊下の床に刺さっていたナイフを手に二人はラウラへの敵意を露わにする。特に別れる前とは比較にならないくらい変わったシャルルの物々しい態度にシロウは「この二年ですっかり変わっちゃったな~」と軽く現実を受け止め切れていない。シロウが現実逃避してる間も三人の間で火花が飛び散っている。シロウが現実を直視出来ていない以上この三人を止める者は一人しかいない。

 

「そこまでにしておけ。オルコットはともかくラウラとデュノアは転入早々反省文を書きたいのか?」

 

ただ淡々と言葉を述べる千冬。だが、その言葉には言われた者にしかわからない威圧感が含まれており、三者同様に。特に千冬から厳しい指導を受けたことのあるラウラはいつの間にかナイフを仕舞って千冬に敬礼していた。

 

「お前も早く戻ってこい」

 

――――コツンと千冬にしては比較的優しくシロウを出席簿で叩いた。

 

「はッ!?千冬?」

 

「織斑先生だ、バカたれ!」

 

ガツンッと今度は固められた拳を落とされる。普段ならば避けたりするのだが今日ばかりは思考が追いつかなかったのか、まともに受けてしまった。

 

その一部始終を傍観していた楯無はシロウが教室に入るまでずっと扇子で口元を隠したまま笑っていた。

 

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