あのピクニックの一件からもう一ヶ月が経つ。あれから、二つ変化がある。一つは喜ばしいことに爺さんの体調がよくなってきている。二人の関係も最初に比べて気さくに話せるようになった。とは言っても爺さんの方は未だに緊張しているようだが…...。
「シロウー!!」
畑仕事をしていたら、不意に名前を呼ぶ声が聞こえる。振り向くとそこには笑顔で手を振りながらこちらに駆けて来るシャルロット――今ではシャルと呼んでいる――の姿があった。
「おはよう。どうしたんだ、そんなに急いで」
「パン焼いてみたから食べてもらおうと思って持ってきたんだ」
はい、と袋に入ったパンを見せてくれる。本当に出来立てを持って来てくれたのか、エプロンをしたままだ。
二つ目の変化はシャルロット・デュノアのこと。どうやら、ピクニックの件からすっかり懐かれてしまったらしい。最初はおどおどしていたのに今では積極的に話して来る。暇があれば毎日一緒にいるくらいだ。村の人からも兄妹みたいだね、とよく言われる。もちろん俺が兄でシャルが妹だ。
「そっか。じゃあ休憩にするからちょっと待っててくれ」
俺は急いで道具を片づけに行き、すぐ隣にある手洗い場で手を洗う。戻ると、シャルは大きな木の下で笑顔で迎えてくれた。シャルには犬耳と犬の尻尾が似合うと思うのは俺だけだろうか?
「どうしたの、シロウ?」
不思議そうな顔で首を傾げるシャルになんでもないと言って、物置から持ってきたレジャーシートを開いて二人で腰をかける。
「ど、どうかな?」
シャルが持ってきたのはバタールという日本人がよく知るフランスパンよりも小さめのパン。このパンはクラフトが命なのだが......
「......ふむ、マズいな」
なかなかの腕前だった。ここ最近、シャルの料理の腕が上がってきている。これはマズい。本当にマズいぞ。シャルの料理の師匠としてこのままではいかんな。精進せねばいつか追いつかr......
「......ってなぜ泣いてる!?」
今まで幸せ一杯といった風な笑顔だったのが何時の間にか反転して号泣していた。
「ど、どどどどうしたんだ一体?」
いきなりの事態に俺は尋常じゃないくらいテンパった。どれくらいテンパったかと言うとセイバーに今日のご飯はハンバーガーだけだと言うくらい......意味がわからない。だが、それくらいテンパっているということだ。なんせシャルが泣いてるんだぞ?今までこんな事は一度もなかった。現状はとてつもない異常事態に陥ったと言っても過言ではない。
「だって......、不味いって............」
肩を震わせしゃくりを上げながら涙目で訴えてくる。正直、かなり精神的にダメージ来るぞ、これは。
「ち、違うぞ!シャル。予想以上に美味かったから料理を教える身としてこれではマズいなっていう意味なんだ!」
「......本当?美味しかった?」
涙目+上目遣い=男の弱点?
そんな公式が一瞬で頭の中で出来上がった。だけど、その公式も正しいと思う。シャルは子どもとは言え間違いなく美女。所謂美少女だ。そんな女の子に男の弱点?たるモノを突かれてみろ。
「う、うん......」
それくらいしか言えなかった俺はチキンか?だけどこれは普通の反応なはずだ。多くの召喚を経験した身だがこんな敵(美少女の涙目の上目遣い)には遭遇したことはない......はずだ。生前のことなど忘れている。
「よかった!私嬉しいよ!!」
「お、おい!?」
そんなことを言って、シャルは俺の腰に腕を回して抱きついてきた。その突然のタックル染みた抱きつきに支えきれず後ろに倒れてしまった。
今はシャルが倒れた俺の上に乗りかかっている感じだ。
「......シロウ、大丈夫?」
安否を確認する前にそこをどいてくれ。あと、上目遣いも止めてくれ。そして、なんだこの胸のドキドキは?嘘だろ?嘘と言ってくれ、俺!俺は決してロから始まる人じゃないんだぞ?
『イリヤの水着姿が一番ドキドキした』
脳に変な電波が流れ込んできたがそんなの知らん!それはきっと俺じゃない!!
ぶんぶんと頭を振ると、何時の間にかシャルの顔がすぐ目の前にあった。
そして――――
――――chu!
なんて音がした気がした。唇には少しあたたかい温もりが少しだけ残っている。シャルは俺の上から飛び移り顔を真っ赤にしている。それらを認識して――――エミヤシロウは完全にショートした。