正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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第五話 飾られた真実 

沈黙の中で鐘は鳴る。見れば時計の針は十二時を指し、新たな一日を迎えようとしているのだ。

 

部屋の中には三つの人影。一つはこの世界に希望と絶望を創り上げた天才。もう一つは類い稀なる才能を持って世界の頂点に君臨した最強。最後は過去の軌跡を誇り、未来に希望と理想を抱いた紅き英雄。本来なら交わることのない邂逅。だが、こうして交わったのならばこれは偶然ではない。必然的で運命的な出会い。

 

――――世界は新たな道を創り、異なる歩幅で歩もうとする。シロウ・エペ・フルーレというイレギュラーを組み込んだ正史とは全く違った未来への始まりの鐘が今鳴り響く。

 

+  +  +

 

「さて、話に入る前に一つ知っておいてほしいことがある」

 

この沈黙を破ったのは当然と言えば当然。年長者であり、最年少でもあるシロウだった。

 

「何だ?」

 

その前述に千冬が問いで答える。

 

「私はこの世界とはまた別、平行世界の住人だ」

 

「は?」

 

千冬は素っ頓狂な声をあげてしまう。だが、それもそうだろう。戦時に拾われる前は知らないがその時点ではシロウは自分の力で立つことはおろか、自覚も持たない赤子だということははっきりしている。だというのに本人は別の世界からやって来たと言えば、妄想癖だと思われても仕方がない。

 

「む......、その顔は信じていないな?」

 

「い、いや......。そんなことはないぞ」

 

何か悪いことをした訳でもないと言うのに、千冬はシロウのジト目につい狼狽えてしまう。

 

「まぁいい。普通に考えれば私の言っていることは妄言だととられても仕方がない。むしろ、すぐに信じる方がどうかしている」

 

千冬を見ていた視線がスライドしてその隣にいる束に向けられる。

 

「だって真実か虚言かは別にしてそれが話の前提になるなら私たちは信じるしかないでしょ?」

 

......束の意見は至極全うで尤もだ。そもそも、二人にとって既にあり得ない事象が起きているのだ。ならば、また別の想定外が起きても不思議ではない。それに科学者である束に平行世界の住人とは驚くことではない。もちろん、平行世界の住人がこの世界にいるということ自体は驚愕に値するが、この世には自分が住む世界とは別の世界、平行世界という『もし~だったら』という世界があるという可能性は昔から示唆されている。ただ、それを証明しうる科学技術がないだけだったのだ。

 

「ふふ......」

 

だが、生きた証明がここにいる。出来れば捕獲して隅々まで解剖したいというのが束の本心なのかもしれない。

 

不気味な笑みの真意を感じ取ったのか、千冬は二十センチ、シロウに至っては一メートルほど束から離れた。

 

「......じゃあ、シロウのもと居た世界はどういう世界だったんだ?」

 

 束から離れた千冬は仕切り直しと言わんばかりに一度咳払いして質問する。今になってこの場に千冬がいてよかったとシロウは思う。おそらくシロウと束の二人だけでは一向に話が進まないだろうし......。

 

「基本的には同じ地球だと思ってくれて構わんよ。ただ、私の世界にはISなどという物はなかったがね」

 

「ん?という事はシロウの世界には束がいないのか?」

 

千冬は自らの疑問を口にする。ISがないということはISの産みの親である束もいないと思ったのだろう。

 

「いいや、そうとは言い切れない。篠ノ之束はいたが違う道を辿っているだけなのかもしれんしな」

 

シロウの言う通り、“子どもがいない=親がいない”ということには決してなり得ない。人の可能性とは無限大に広がっているとはよく言った物でシロウの生きた時代の篠ノ之束は科学者ではなくOLや調理師、もしかしたらメイド喫茶の店長をやっていたかもしれない。いや、そもそも既に過去の人物かもしれないし、未来の人物かもしれない。考えれば考えるほど可能性は広がり、深みに嵌ってしまうが結局のところそれを確かめる術はない。

 

「そんなことどうでもいいからさ。早く君の力を教えてよ」

 

「「............」」

 

物事には順序があるというのに、関心がないという理由で蹴飛ばしてさっさと自分の関心事に話を進めようとする束に二人は呆れながらため息をついた。そして、シロウは心の中でこんな唯我独尊を貫く束に付き合う千冬に同情してしまう。

 

「それで力って何?」

 

爛々として輝くその瞳は無垢な少女と同じように見える。身体は大人で性格は子ども。だというのに頭脳は聡明を超えた天才というある意味何処ぞの子ども探偵より破天荒な存在。それを前にしてシロウはさっきの饒舌戦はなんだったんだろうと再度深くため息をつく。

 

「......私の世界にはISという物はないが、魔術というものがあり、それを扱う者を総じて魔術師と呼ぶ」

 

そして、シロウは唐突に、何の脈絡もなく魔術について口を切り出した。その原因を知っている千冬はあえて突っ込まず、その原因たる束も気にせず耳を傾けた。

 

「魔術とは魔力。......まぁ、この場合ガソリンのような燃料だと思ってくれればいい。その燃料を以って行い、人為的に神秘・奇跡を再現する行為の総称だ。『雪片』を斬った剣も魔術によって再現された神秘の一つだ」

 

「そんなモノがシロウの世界では普通にあるのか?」

 

千冬は驚きを隠そうともしない。それもその筈であろう。『雪片』を容易く斬る剣などこの世界にはないというのに 、シロウの持っていた剣はそれを為したのだ。もしそんな剣が世界にゴロゴロとあるならばそれはなんとも恐ろしい世界だと千冬は思う。

  

「いいや、あの剣は特別な剣で世界で唯一無二の剣だ」

 

半分真実で半分が嘘の断言。確かに太陽剣・グラムは唯一無二の剣ではあるが決してたった一本だけという訳ではない。シロウの魔力がある限り無限に創り出すことが出来るのだから。

 

「なぜそう言い切れる?」

 

千冬の質問に考える素振りも見せずに世界で唯一の剣と答えたことを不審に思う。あれ程完成度がたかく、常軌を逸脱した剣ならばその見本となる剣や影打ちがあってもおかしくはないと考えたからだ。

 

だが、シロウはその質問すらも予測していたのかまたもや考える素振りを見せずに答えた。

 

「魔術師とは自分の魔術を他に見せることは滅多にない秘密主義者だ。だから、あの剣も私の先祖から代々引き継がれてきた剣で今ではその存在も作り方も私しか知らん」

 

またしても嘘を吐く。もちろん全部が全部偽りの情報という訳ではないが、それでも嘘の割合が大きすぎる。本来ならこのような情報は協力者との仲を拗れさす要因となる。だが、それをあえてシロウはシロウだけの武器を利用して嘘をつく。

 

「魔術師とは一族一門で代を重ねて魔術を磨くのか?」

 

「あぁ。と言ってもいくつかの家系とは交流もあるが、それでも世界にどれだけの魔術師がいるかは不明だ」

 

「シロウはどういった魔術を扱えるんだ?」

 

「家系が代々魔術付加した武器を作ってきたのでね。私はそれらを体内に内蔵し、いつでも取り出すことが出来る」

 

「この様にね」と言って手にはいつの間にか西洋風のナイフが握られていた。それに千冬はほぅ、と感嘆の声をあげる。

 

 

 

シロウだけの武器――――それは魔術を知る者がシロウだけという状況。つまり、魔術の情報を操作して重要な情報を与えずに済む。そもそも、信頼も得ておらず、反旗を翻すかもしれない相手に正確な情報を与える義務はないのだから。

 

千冬は少なからず魔術に興味を示している。これならば彼女がシロウの言う魔術の情報に疑いを持つことはないだろうとシロウは判断する。だが、問題は――――

 

「............」

 

――――先ほどとは打って代わって薄気味悪い沈黙を保っている束だった。

 

「......何か質問でもあるのかね?」

 

足を組んだまま不気味に不動を貫く束に堪らず自ら質問を投げかける。

 

「ふふ、君も人が悪いな」

 

ニコニコと輝く笑顔を崩さず、だけどその眼差しは獲物を狙う獅子のように鋭い。その反応に千冬は首を傾げ、シロウは眉を曇らせた。

 

「君の言う情報は百パーセント真実なんだから私たちに質問は無意味。今、私たちの間に必要なのはお互いの最低限の情報と最大限の信頼。そうは思わないかな、シロウ・エペ・フルーレ?」

 

皮肉を込めた返事の意図を察したシロウは束を睨み返す。

 

――――火花を散らす。視線と視線が交錯するだけでそのような錯覚まで見せるとは。千冬は二重の意味で驚いた。一つは火花でもう一つは束が自分と一夏と箒以外の名前を呼んだからだ。束は無関心の者の名前を覚えようともしないし、呼ぼうともしない。しかし、今確実にシロウの名前を呼んだのだ。それは千冬にとって本当に驚くべきことだったのだ。

 

「私は君のような頭の回転が早すぎる者は嫌いだな」

 

「そう?私は君のような正直者は好きだよぅ」

 

千冬が驚いている間に二人の間はデッドヒート。これはこれで一種の魔術じゃないのかと思うほど火花が激しくなっている。千冬は火傷しないように二人から離れ、再び傍観者となってこの先の行方を見守ることにした。

 

「そもそも君はどうやって最大限の信頼とやらを得ようとしているのだね?」

 

「そりゃもちろん“正確な”情報を君に提供してだよ」

 

必要以上に“正確な”を強調する束。

 

「その言い方では私が誤った情報を君たちに伝えているみたいじゃないか」

 

「平行世界からやって来たって信じてるんだ。君の情報も嘘偽りのないモノだって信じるよ」

 

ここで漸く千冬はなるほど、と理解した。確かに束はシロウが平行世界から来たと言うことは信じている。だが、肝心の後半を信じていない。

 

「(いや、信じているが信じていない。おそらく、シロウの言う情報の大半が嘘で固められたもの。だが、この世界においてその情報は真実に成り得てしまうのだから信じるより他にはないのだろう)」

 

千冬の考えは概ね正しい。なぜなら、魔術を知識を持つ者は今のところこの世界にはシロウしかいない。そして、この世界の住人がシロウのもと居た世界に行くことは出来ない。つまり、シロウの都合のいい様に魔術を語られていて、尚且つ是も非もない。シロウが是と言えば全て是となってしまう。確認する術を持たないからシロウの語る魔術は偽りであり真実でもあるのだ。

 

なぜ束がシロウの嘘に気づいたのか?シロウの説明におかしな点はなく、千冬の質問にも問題なく答えていた。

 

ならばなぜ見抜いたのか?

 

理由は単純にして明解。束は最初からシロウを信じていなかった。要するにお互いがお互いに一切の信頼を持ち得なかったのだ。故に束はシロウの嘘を見抜いたのだろう。

 

――――本質を見抜くその眼、その才能。シロウは認めざるを得なかった。

 

どれだけ性格が歪もうと、この人間は類い稀なる天才。協力者としては申し分ない人材だということを。しかしそれはまた束にとっても同じこと。未知の力を持ったシロウをみすみす見逃すつもりはない。ここは少しでも信頼関係を築くべきだと思案する。

 

「......ふむ、確かに今の情報に若干偽りがあったのは謝罪しよう。礼と言ってはなんだが、我が一族の秘宝を見せよう」

 

先に切り出したのはシロウだった。 説明に嘘があることを認めた上で更に偽りを貫き通す。どうやら本気で投影については話さないらしい。そして、「投影、開始(トレース・オン)」と二人には聞こえないくらい小さな声で囁いた。

 

「「――――!」」

 

二人同時に息を呑む。出現の仕方こそISによく似ていたので驚きはない。ただ、二人が目が奪われたのはその黄金の剣の神々しさ。一度見たはずの千冬もその美しさに見惚れてしまうほどだ。

 

「......素晴らしい」

 

あまりの美しさに千冬は心を奪われたらしい。

 

「ここまでだ」

 

「あっ!?」

 

シロウがそんなことを言うと黄金の剣もぱっとシロウの手から消えてしまった。

 

「......これ以上出しとくと強奪されそうな気がするからな」

 

それを口惜しそうに睨む千冬は今の自分にはっと気が付いた。先ほどまで三メートルほど離れていたのに今シロウとの距離は僅か五十センチほどまで縮まっていた。それには流石に羞恥で頬を赤らめ「す、すまん」と言い残して再び離れた。

 

「凄いね、シーたんは.......」

 

心から感心したのかパチパチと楽しげに拍手をする束。だが逆にシロウは顔を顰めてしまう。

 

「......なんだね、そのシーたんとは?」

 

「シーたんは君のあだ名。気にいった?」

 

「即刻拒否する。呼び名はシロウかフルーレにしてくれ」

 

「でもシーたんも見せてくれたんだから私も何かしないとだめだよねぇ?」

 

うーん、と束はその豊満な胸の上で腕を組んで考える。

 

「おい!話を聞け!!」

 

「どうしよう。何かして欲しいことある、シーたん?」

 

「だから――――」

 

一向に話を聞かない束に諦めたのかシロウは深いため息をついた。ちなみにその後ろではツボに嵌ったのか千冬がずっと笑っていた。

 

「......まぁ、いい。君が私に何かしてくれるというのならこれを是非見てほしい」

 

そうしてシロウはポケットの中に手を入れてあるモノを取り出した。

 

+  +  +

 

「本当に来るのか?」

 

あの邂逅から三日が経った日の朝。既に束はドイツを出てまた逃亡生活に戻り、ここにはシロウと千冬の二人しか残っていない。ちなみに一夏も既に日本に帰国している。

 

「迷惑だったか?」

 

「いや、迷惑と言う程じゃないがお前にもやることはあるのだろ?」

 

「それはもちろんあるさ。魔術の有無の確認は急がないといけないものだからな。だが、この体じゃ世界を旅するのは難しいですからね」

 

どれだけ老成していようと外見は子ども。フランスからドイツという短い距離ならばまだしも、それ以上となると怪しまれてしまう。それも踏まえてフランスを出たのだが、ここに後ろ盾がいるのだから無理して旅を続ける必要もない。

 

「それにドイツの情報収集力はそれなりに高いと束も言っていたのでね……。せいぜい利用させてもらうさ」

 

だが、情報を集めることに関しては諦めていない。魔術の有無はさすがに確認は出来ないだろうが、世界の未解決事件なんかを調べれたら、魔術の足取りを掴めるかもしれない。だが、そういった情報はやはり公にはされていないのでシロウは千冬に協力してもらうつもりなのだ。

 

「まぁ、お前の戦闘力にも興味はあるし、あの剣ももう一度見たいからな。好きにするといい。軍には私から言っておく」

 

「ああ、ありがとう」

 

「礼はいい。私も一応とは言えシロウの協力者なのだからな」

 

「それでも礼はしときたいのだよ。素直に受け取ってくれ」

 

「......変なやつだなお前は」

 

「よく言われるよ」

 

「まぁいい。では行くとするか」

 

「ああ」

 

そうして二人はそれぞれの荷物を手にとってドイツ軍にへと足を進めた。

 

 

 

 

 

――――これは衛宮士郎でもエミヤシロウでもない少年、シロウ・エペ・フルーレの物語。世界は新たな道を示し、シロウは新たな軌跡を辿る。

 

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