ボタッと石の床に落ちる、肉の串焼き
「あっ、また落として、駄目だよ。ちゃんと持ってないと」
笑顔で軽く注意をする馬休
しかし一刀はそれどころではない。
「あっあの、もう一回、言って頂けますか」
「もう、ちゃんと聞いてよね。だから――」
貴方に警備隊を組織してもらいたいの
ドサリ、と大きな葉っぱに包まれている串焼きをまるごと地面に落とした。
そして一刀は、ぐらりと体を傾け、バタリと倒れた。
馬休の医者を呼ぶ悲鳴が涼州城に木霊した
この時代、兎にも角にも自分を大きく見せて、仕官への道を探るのもの。
いや、仕官だけではない。軍事的にもそうである。
戦場で討ち取った数の水増し。それも桁を増やしてとなれば中々に凄まじい。
人も組織も国も大きく見せる事が当たり前である。
「分不相応な地位に人を付ける、これは亡国の始まりであります。いいですか馬休さん。私は小間使いが関の山の男でございます。そんな男に、警備隊を組織しろなどと――」
目の前でその当たり前を粉砕する男に、馬休は笑いを堪えるのに必死であった。
小間使いの領分を遥かに超えての、命を掛けて直訴に及んだ胆力。
身の危険を顧みず、丸腰で犯人を追いかけた勇。
木の棒で鉄の剣を真っ二つに切り裂く武。
何一つとっても素晴らしい働きだ。
その後の彼の行動にも驚きだ。
これらの働きを一切誇らず、街の人におだてられても、
「馬家の威光があってのことでございます」
と、にこやかにしか語らず、己を高く売るのではなく、馬家の名声を上げる事のみに腐心している。
なんと素晴らしい事だろうか。
「ましてや、警備隊の隊長になど、出自不明の流れの小間使いをそんな要職に付けるなど馬家の面目に関わります」
今も馬家の為に力説し、必死に私を説得しようとしている。
出自不明の流れ者として冷たく当ってきた私に。
馬家の為として軽んじ、簡単な仕事しか与えず、辛辣に当たってきた私に。
ここまでしてくれるなんて。
ああ、彼は、いいえ、この殿方はなんて素晴らしい方なのだろう。
こんな殿方が私の夫に、そうご主人様になったら、これほど幸せな事はないだろう。
でも、彼は流れ者。馬家の夫として迎え入れるには問題がある。
私も馬家の女。恋愛結婚が出来るなどど思ってはいない。
だからこそ、
ご主人様とは呼べないし、真名も許せないけど――
「ですから、私は小間使いが、責任など一切ない軽い仕事が器の人間です。お給金も十分、休暇も休憩もたっぷり、十分に今の立場に満足してい――」
「いいんですよ。そこまで自分を卑下しなくても。分かってますから」
「分かって!? うんうんそうですよね馬休さん、私は小間使いが」
「貴方が馬家の為にどれだけ頑張っているのか。そんな貴方だからこそ、警備隊を組織し運営てもらいたい。そして、歩兵戦や室内戦、市街戦に不慣れな私では、隊長として足り得ないだからこそ、貴方の武勇と知恵で隊長を勤めて貰いたい。そして――」
私が副隊長です。よろしくお願いしますね♪隊長
恋愛など出来るはずはない、真名も預けることはできない
だから、これが精一杯。私の擬似的な真名
私が副隊長で貴方が隊長――
馬休は真っ赤になりながらも笑顔で伝える。
一刀は真っ青になりながら笑顔で倒れる。
涼州の城に再度、馬休の悲鳴が響き渡った。
5話 隊長就任
了
馬休さんは秘めるタイプの女性だと思います。
馬超 → 戦国乙女ならぬ脳筋乙女
馬岱 → 小悪魔を自称する大悪魔
馬鉄 → 小悪魔を自称する中悪魔で淑女(意味深)
馬休 → 秘めるタイプだが、秘めすぎて貯まると、【天城越え】が始まる
華雄 → 正ヒロイン