「お化粧のノリがわるいわ・・・・・・疲れているのかしら」
「貂蝉、疲れておるのじゃよ。お主は様々な、数えるのも億劫になるほどの外史とダーリン達を見守ってきたのだ。その疲れが出たのであろうよ」
何もない白い空間で、疲れた顔をしている貂蝉と卑弥呼。
合わせ鏡のように、無数にある外史。その管理は激務である。
「ただいま・・・」
「あらダーリンお疲れ、今回の外史はどうだったのじゃ」
「刺されて終わった」
「・・・刺されたって、もしかしてダーリン、純愛個別ルートを選んだの! あれは危ないからやめろって何度も」
「璃々に」
「えっ!?」
「璃々に刺されて終わった」
三人の沈黙があたりを支配する。
さて、一刀が刺されて終わったという。純愛個別ルートについて語ろう。純愛個別ルートとは、読んで字のごとく、ヒロインを一人に絞っての純愛ルートである。
北郷一刀は、どこの陣営に属していようと、複数の女性と関係を持ち、なおかつ円満な人間関係を築ける、凄まじい男である。
さて、そんな一刀であるが、生まれも育ちも現代の日本であり、根本的な考えに、彼女は一人、妻も一人である。複数の女性との付き合いは不誠実ではないかとの考えもある。
だが、各陣営の思惑。特に呉は顕著であったが複数の女性との関係を求められた。
最初のうちは何も、有名武将が女性化したうえの1800年前のパラレルワールドにタイムスリップした手前、協力もした。
それに、そんな建前など、10台の【ほとばしる衝動】の前には、風前の灯火である。
あんな美人なお姉さん達が、オールオッケーなんです。
だが、何度も何度もやるうちに、この時代に慣れていき、魏呉蜀はもとより、他の勢力にも手をだした。
「多人数も良いけど、一人を愛そう」
そういうことになった。
「ご主人様、なぜご主人様は、こうも他の女性に気を向けるのですか?」
「あっ愛紗、気を向けるって、そのなんのことだ?」
「言わなければなりませんかご主人様? 昨日、お昼に鈴々と食事に行きましたよね。
午後は朱里と一緒に矢を盗みに魏まで行かれましたよね。夜は星と飲みに行きましたよね」
「いや、それは鈴々とは朝の稽古でお腹が減って、それに朱里との買い物は今度の戦いで矢が足りないっていうから買いに行っただけの話だし
、星とのは、なんでも新しい味付けのメンマがあるらしいって話を聞いた星に連れていかれただけの話で」
「では、なぜ、私を呼ばなかったのですが?なぜ、二人っきりで出掛けられたのですか。
ご主人様、ご主人様は私と結ばれているのではないのですか。
一心同体、比翼連枝、ご主人様のあるところが私のあるところ。私のあるところがご主人様のあるところ。
そこは私達二人の桃園。なのにご主人様は、他の者も招き入れる!!」
激昂する愛紗。
もともと嫉妬深く独占欲も強いと思っていたが、ここまで酷くはなかった。
一刀は困惑する。
だが、その困惑は長くは続かなかった。
一刀の体に走る衝撃。
急激に重くなるまぶた。
最後に映る光景は、ドロドロに溶けた熱く甘い飴のように、粘りつくような笑顔とコールタールのように重く暗い瞳の愛紗。
「ご主人様、二人だけの桃園に参りましょう」
「あの時は驚いたよな、地下牢に監禁されるなんて」
ところ変わって純愛個別ルート二回目、前回は愛紗に監禁されて、なんだかんだで二人だけの幸せな生活を謳歌したが、
やはり、これじゃない感が凄まじく、こうして二回目と相成った。
「よし、凪にしよう」
彼女に決めた理由は、くじであった。
「一件落着ですね隊長」
凪と正式に付き合っても、警備隊の隊長、副隊長の間柄は変わらなかった。
ただ、今までと違い、警備隊の仕事においては、四六時中、凪とコンビを組む。
沙和、真桜と組む事はない。
その理由を聞くと、
「隊長の武力は幹部格では一番下です。だから武力では一番の私と組むのが最適なんです」
最もらしい答えではあるが、そのときの凪の顔はねっとりとしていた。
「それにしても隊長、あの犯罪者には呆れさせられますね。15股の末に全員を騙して結婚資金を盗んで逃げるだなんて、信じられません」
「そっそうだな」
憤慨する凪。
言葉に詰まる一刀。何故ならば魏ルートの記憶があるからだ。
あれも見方を変えれば魏の覇王以下武将軍師15名とヤり逃げをしたとも言える。
数まで一緒となれば、他人事とは思えず、犯人に同情する色がある。
「・・・・・・隊長? もしやと思いますが犯人に同情されているのですか?」
笑っていない笑顔を浮かべる凪。
「そっそんなことないぞ!」
「隊長、知っていますか」
犬はご主人様のことが大好きなことを
犬は自分のご主人様の事なら、小さな変化も見逃さないことを
犬はご主人様のことを心の底から信じていることを
だからこそ
犬はとても、とても、とても、嫉妬深いということを
犬はとても、とても、とても、独占欲が強いことを
ご主人様の周りに他の犬が来たら牙を向くことを
「なっ凪、何を言って」
「犬の話ですよ隊長。犬の。犬は人類の最古の友と言うじゃないですか」
「そっそうだな犬の話だよな」
「ええ、犬の話です。そして、隊長、」
犬はご主人様に見捨てられたり裏切られたらしたら、地の果てまで追いかけます。
どれだけ離れていようと、どれだけ時間がかかろうと、犬は持てる全てを駆使したご主人様を追いかけます。
追いかけて、追い詰めて、追い込んで、ふふ、その後はどうすると思います
隊長
凪の瞳の色は尋常ではない。
放つ雰囲気も尋常ではない。
凪の問いかけに答えられない。
唇が渇き、舌がもつれて上手く回らない。
「あ、えっと、その」
一刀の口からは、意味のない言葉が出る。
そんな一刀を、見つめる凪。
見つめて、見つめて、見つめて、
「隊長、お喋りし過ぎましたね。さっこの結婚詐欺師を詰所に護送しましょう」
にっこりと笑い、詰所に歩いて行った
「隊長さん、あんた、とんでもない女を引っかけたな」
結婚詐欺師が肩をすくめてそう言った。
この外史において北郷一刀は大局に逆らったりもしたが、気合と根性で身の破滅を回避し、消えずに凪と共にその生涯を終えた。
愛紗に続き凪までも、この事態にさしもの一刀もおかしいと気づく。
そして、三度目の個別ルートに挑戦をする。
華琳大好き脳筋、春蘭。彼女の個別ルートは彼女の、副官になるところが味噌である。
魏武の大剣の異名は伊達ではないが、彼女は文字どおり魏武の大剣である。戦場では鬼神の如き力を発するも、それ以外はお粗末な所だらけである。
秋蘭がサポートに回って事なきを得ることもあるが、秋蘭自身も魏の武将である。
忙しくて、サポート出来ない時もある
そこに目をつけた一刀は、春蘭の部下になることにより影に日向に、彼女をサポートし続けた。
一刀は春蘭の話を聞くときは決して馬鹿にせず、そして、答えるときも、彼女に分かりやすいように簡潔に答えるようにした。
春蘭の中で、一刀の事が便利な副官から、とても便利で気持ちの良い副官に格上げをされた。
もう春蘭の中で一刀は自分にとって無くてはならない存在になっていった。
戦場では鬼神もかくやの働きをするが、女性らしい所もある。
そしてどの外史においても彼女は片目を無くす。
そして、凄く落ち込む。
それを知っていた一刀は、彼女が片目を失う合戦において、体を張って彼女を守る
バタフライ効果とでも言うのだろうか。
彼女に飛んできた矢を、体を張って守るも、別の所から飛んできた矢に一刀自身が片目を射ぬかれる。
慌てふためく春蘭に、ここが我慢のし所だと、一刀は歯を食い縛り、
「よっ良かった」
「なっ何が良かっただ馬鹿者、目が目が」
「うん、だから良かった。春蘭の片目が無くならなくて、本当に良かった。副官、いいや、男として惚れた女を守れて良かった」
「北郷・・・・・・お前は馬鹿者だ」
春蘭は顔を真っ赤にしながら一刀を抱きしめ続けた。
実にいい雰囲気であるもここは戦場だ。
いつまでも抱き合っている暇はない。
どちらかともなく名残惜しそうに離れる。
さて、射ぬかれた片目である。
春蘭の故事に習えば、食べるしかないが、さすがに自分の目玉を食べたいとは思えない。
さりとて、その辺に、ポイッと捨てるものでもない。
始末に困る一刀。
「北郷、それを寄越せ」
「良いけど、どうするの」
「五体のこれ全て父母のものであり、毀損させるは孝の欠落に等しいという」
春蘭のセリフは、故事でも有名な目玉食いのセリフであるが、今回の目玉を無くしたのは一刀である。
まさか、食べろ。と言うことなのだろうか。
食べたくはない。しかし話の流れからして食べないと不味い。
腹を決める一刀。
しかし一刀の覚悟は、意味がなかった。
「つまり、私にとっての義父であり義母のものである」
敵将を討ちとった時の名乗り以上の大音声でそう叫びあげ
一刀の手から矢ごと奪い取り、串団子のようにペロリと口の中に入れる春蘭。
そのなんともワイルドな告白に一刀はポカンとし、
敵軍も固まり、
妹は「姉者」と、頭を抱え、
我らが覇王様は頭痛を堪えるように、引きつった顔をしている。
そんな上司や妹、敵軍などどこ吹く風
子供が大好きな飴をいつまでも大切に口の中でなめ続ける春蘭。
そして名残惜しそうにこくり、と飲み込んだ。
「うむ。これで晴れて私と北郷の夫婦となった。これからは公私共によろしく頼むぞ」
そういって北郷を抱きしめる春蘭
キスが出来そうな近い距離。春蘭はそのまま、一刀の無い目の周りをペロリと血を舐めとる。
「北郷、目玉といい、実に美味だぞ」
妖しく微笑み、それでは名残惜しいが、と言い、大剣を風車のように振り回しながら敵陣に斬り込んで行った。
「副官さん、あの夏侯惇様の情の深さ、浮気をしたらグサリと来るな。気を付けなよ。副官さんは色男だからね」
そういってこちらを茶化しながら、手近な敵兵を斬る春蘭隊の兵士。
そんなこと分かっている。春蘭のあの目、深く重い愛を宿した鋼色の瞳。
愛紗と凪と同じ瞳の色。
浮気などすれば間違いなくグサリと来るだろう。
一刀はそう確信した。
そしてもうひとつ、
あの兵士、凪のときに結婚詐欺師として捕まえた男だよな。
お前、魏の兵士だったのか
李典、真名が真桜。
大国、魏の兵器開発のトップであるが、彼女の半生は、周囲の無理解にさらされ続けた。
手工業全盛の時代に機械仕掛けのカラクリにドリルである。未来に行き過ぎている。
周囲の理解が得られない、そんな環境でもカラクリを作り続けて来たのは、幼い頃からの友の存在である。
凪と沙和、彼女達の存在が大きかった。
作ったカラクリを誉めてくれる。
有益な物なら周囲の人に、根気良く説明してくれる
ただし、作ったカラクリを彼女達は理解は出来なかった。
真桜が発明した有益な物で、自動竹かご編み機がある。
便利である。取っ手を回せば竹かごが編める。
使い方は知ってはいるが、だがなぜ取っ手を回せば編めるのかが理解出来ていなかった。
そんな、心のピースの欠けた日々を送るなか、真桜は北郷一刀に出会った。
そしてその日の事は、彼女が付けている日記件開発手帳に記されている。
うちの発明を【理解】してくれる人が現れた、と
よほど嬉しかったのだろう、そこだけ筆圧が強く書かれ、墨も盛大に使われていた。
真桜は傍目で分かるほど浮かれていた。
「口を開けばカラクリの事しか言わなかった真桜ちゃんが、今では隊長とカラクリの二つなの」
と、沙和が、からかい半分でこぼしていた。
真桜は、言い過ぎや沙和、と軽くたしなめたが、実際はそうなのだろうと思っていた。
華琳さまには自分の腕を高く買って貰った。
発明するカラクリを喜んでくれる友達。
そして、全てを理解してくれている、私の隊長。
真桜はこの世の春を謳歌していた。
だからこそなのだろう、その日の真桜の日記は
「いやや」
の文字で溢れかえっていた。
夜遅くまで、新兵器の開発をしていた真桜は、小腹が減ったので、食堂に行く。
そこで、流々と一緒に笑いながら料理を作る一刀がいた。
真桜は、その光景を見たとき、凄まじい衝撃と自分がどれだけ薄氷の上にいるのかと思い知った。
真桜にとって、北郷とは、自分の人生において初めての理解者である。
真桜にとって、代わりなどいるはずのない、唯一無二の人物である。
だが、北郷にとっての真桜はどうなのだ?
カラクリについて理解はしているが、他の事にも理解がないとは言っていない。
むしろ、社交的な性格と相まって、様々な事を理解している。
今だって流々に料理のアドバイスをしている。
「うちにはカラクリしかない。でも、隊長は・・・・・・いやや、そんなん認められん」
真桜は呟き、食堂から姿を姿を消した。
そして、その夜、北郷と真桜は一線を越えて恋人関係となった。
北郷は思う。流々と一緒に夜食を作ったあの日、工房に戻ったらなぜか真桜に迫られそのまま一線を越えた。
いきなり過ぎる気もするが、この外史では真桜とのラブラブ生活を目論んでいたので、渡りに船でもあった。
なにより、カラクリを愛している彼女である。
愛紗や凪や春蘭みたくはならないだろう、と、たかをくくっていた。
そう考えていた自分を殴り倒したい気分で一杯であった。
「隊長、これ着けてな。外したらアカンよ。外したらうち、怒るから。うちの愛の証や」
ペンダントを渡す真桜。
彼女からのプレゼント。
一刀は喜びをペンダントを着ける。
最初におかしいと気付いたのはいつからだろう。
街で真桜と良く合うようになったのは
誰かと話していると真桜がどこからともなく現れるようになったのは
閨の中で、今日は誰それと二人っきりで会っていたやろ。浮気をしてないのは分かるけど、そんな怪しくも見える行動はあかんで、と釘を刺されたとき。
一刀は、もしや、と思った。
疲れているので一人で寝たい、と真桜に断り、自分の部屋で横になる。
ペンダントをテーブルの上に置き、ハンカチで包み込む。
30分ほど、寝台の上で横になり、
「駄目だ、真桜を裏切れない」
「俺には真桜が、ああ、」
と、声に艶を出して、わざとそんなことを言う。
変化は劇的であった。
だだだだと、廊下を駆け抜ける音
バタンと扉を開けられ、部屋のなかに乱入してくる真桜。
「うちの隊長に粉を掛ける泥棒猫は誰や!!!」
怒鳴り声に、螺旋槍の回転音。
完全武装とは恐れ入った。
「ってあれ?」
「駄目だよカラクリは真桜が一番なんだ」
「・・・・・・寝言かいな」
先ほどまでの怒りはどこへやら
螺旋槍の回転が止み、真桜が安堵のため息をつく。
「しっかし、隊長、夢の中までうちに操を立ててくれるのは嬉しいなぁ。それにペンダントも大事に包んでくれてる。嬉しいけど、これじゃあ、音と映像が拾えんわ」
呟かれる真桜の独り言。
疑いは確信に変わる。
このペンダントは、盗聴と盗撮の両機能が着いている。
だから、真桜はこちらの状況を把握していたのか。
隊長、うちはカラクリだけが能の女や。
そんな、うちを心底理解してくれたのは隊長だけや。
だから、隊長に、うちは心も体も全てを捧げたんや。
うちには、隊長しかおらん。
でも隊長は天の知識もある、しかも色男や。うち以外の女も理解してまう。
だから、隊長、ごめんな。こんな重い女で。
隊長が視界におらんと不安で不安で仕方ないんや。
だから、発明したんや。あなのペンダントを。
ふふ、隊長、隊長の事を考えるだけで、色々な発明が浮かんで来るんや。
隊長の為だけの発明や。
他の誰でもない、隊長とうちを繋ぐ赤い鎖や。
だから、隊長、うちを捨てないでな。
捨てられたら、なにを発明するかうちでも、分からんから――
そう、独白し、一刀の唇に口づけをして去っていく真桜。
一刀は、真桜の足音が聞こえなくなるまで、寝たふりを続けた。
音が聞こえなくなり、目を明ける。
窓の外には満点の星空と月明かり。
そして、
「待て、話せば分かる、誤解だ誤解」
「うるさい!!! 良くも二股なんてしてくれたわね!!! 絶対に許さない!!!」
「・・・・・・もぐ」
虎豹騎の女兵士二人に追いかけられる、詐欺師。
ああはなるまいと、一刀は心に誓う。
しかし、怒り狂う虎豹騎二人をいなすとは中々の腕前、というか、なぜ一般兵士をやっているんだよ。
そうツッコミながら、まぶたを閉じた。
真桜編
了
キャラ紹介
詐欺師
オレオレ詐欺から結婚詐欺まで幅広くこなすナイスガイな詐欺師
ただし毎度恋心をこじらせた女性から足がつき計画が破綻する
それでも笑顔生きて、職に困らないあたりなかなかの男である。