「また逃げられた!!」
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて、ヒッヒッフーだよヒッヒッフー」
商店から物が盗まれ、通報を受けて現場に駆けつけるも
犯人は逃げきった後である。
槍の石突きを大地に突き立て怒り心頭の馬休と、空気を呼んで茶化す馬鉄
「串焼きは美味しいなぁ」
露天の店先で、そんな二人に気づかれないように、串焼きを食べながら非番を満喫する我らが北郷一刀
魏であれば折檻不可避の事案である
多民族が行き交う涼州の治安はお世辞にも良いとはいえない
言葉が違う、文化が違う、宗教が違う、食事が違う
そして、交通の要所であり様々に人間が集まる
そこに来ての魏の侵略、馬騰の死、馬超、馬岱の蜀への移籍
ただでさえ、悪い涼州の治安は更に悪くなっていた
「騎馬で急行しても現場は商店街、あの人混みじゃ、騎行できないよ」
「でも、だからと言って、騎馬で行かなきゃ間に合わないよ」
先ほどの取り逃がしは今に始まった事ではない。
二人は城に戻って額を付きあわせて、街の地図を見ながら、あーだこーだと議論をしていた
「お疲れまです馬休さん、馬鉄さん、これ良かったらどうぞお土産です」
そう言って笹の葉に包まれた、串焼きを差し出す一刀
「あっご主人様、ありがとー。うん美味しい」
「・・・・・・いらない。蒼も串焼きなんか食べてないで、考えよう。これは馬家の面目に関わる事だよ」
笑顔で串焼きを頬張る馬鉄と、露骨に嫌な顔をして串焼きを拒否する馬休
犯人を捕まえられない苛々、心を許してはいけない男からの差し入れ。
馬休の額にシワが寄る。
「まぁ、そう言わずにお一つどう・・・・・・あっ」
べちゃり、と地図の上に落ちる串焼き。
タレや油が地図の上に広がる
「もう!! なにしてくれるのよ!! 地図が汚れちゃったじゃない!!」
「申し訳ありません。すぐに汚れを取ります」
「まぁまぁ、鶸ちゃん落ち着いて、それに話も堂々巡りだったし、今日はもう休憩しようよ」
「蒼~~~~~っもういい!! 今日はこの話はやめ。貴方、地図を綺麗にしときなさいよ」
怒る馬休に、なだめる馬鉄。一刀は謝りつつ、地図を持って下がっていった。
「ここがこうで、ここがこうだから・・・・・・ここと、ここと、ここだな」
深夜、小間使い用の粗末な離れの中で、一刀が月明かりを頼りに地図をふきつつ、
要所、要所を睨むように見つめながら、独り言をこぼしている
「お疲れさまーって言うのはおかしいかな? ご主人様の失敗だものね」
「これは馬休さん、こんばんわ。すいません。汚れですが、取るまでもうしばらく時間が掛かり・・・・・・」
「で、地図をわざと汚したご主人様はなにを考えているのかな? 」
「えっ、馬休さんなにをおっしゃって」
「ご主人様、演技は良いよ。鶸ちゃんはご主人様の演技を見抜けなかったけど、私には丸わかりだよ」
馬鉄の笑顔で一刀に詰め寄るも、その瞳は一切笑ってはいなかった。
馬家の三女にして涼州の顔役の一人。
涼州と馬家の為なら、なんでもやるであろう冷徹な瞳。
馬鉄は一刀の事を気に入っている
だがそれは、拾った可愛い犬猫に近い思いである。
故に、ご主人様と呼びつつも、馬鉄は、一刀に真名を許してはいない。
硬いがゆえに、豪族名士の受けがよく、正論や合法的に相手をねじ伏せる馬休
ふざけているがゆえに、闇社会ともうまく折り合いがつけられ、非合法な事で相手を潰す馬鉄
なるほど、馬騰が死に、馬超、馬岱がいなく、涼州の治安は悪化はした。
悪化はしたが崩壊はしていない。涼州の民は問題なく暮らしている
いいコンビだな。硬軟織り交ぜてというやつか
内心、関心しつつ、一刀は、目の前の剣呑な馬鉄を見つめる。
一刀も魏で伊達に修羅場を潜ってはいない。
華琳を筆頭に、春蘭、霞などの稀代の武人とも手合わせをしてきた。
故に、今の馬鉄を見ても怯むこと無く対応が出来た
「馬鉄さんに助けられて、小間使いとして引き立てられた恩を返そうかと思いましてね」
おべんちゃら等通用するものか。冷たい瞳がそう語りかけ、一刀を刺し貫く
返答次第では口ではなく、刃が飛んで来る可能性もある
だが、そんな事など意にも返さずに、たんたんと地図の数カ所をを指でさす。
「この箇所に人員を配置します。あの窃盗事件は連続で起きています。外部から来た人間が場当たり的にやったとは思えません。涼州生まれの犯行だとにらんでいます」
「人員配置って簡単に言うけどそんなお金はないよ」
「ええ分かっています」
「だから、子供を使います。この場所で遊んで入ればお菓子をあげるよと言って。
彼らが犯人を目撃をすればよし、目撃をしなければ別の区画へ動かします。
そうして区画を潰して、潰して、犯人の根城を突き止めます」
「実に良い案ですね。鶸ちゃんの前で言ったら、怒り過ぎて、どうなるか分かりませんよ」
「子供を使って・・・・・・なんて馬家の面目に関わりますからね。もちろんこれは私個人で動きます」
長い沈黙
月明かりに照らされた粗末な部屋で、馬鉄と一刀は睨み合う。
「子供に被害は出る?」
「今まで人を傷つけずに窃盗ばかりを繰り返してき犯罪者。それに犯罪者とはいえ人間だ。子供を傷つけるなんてなかなか出来ることじゃない。付け加えれば、窃盗から強盗に格上げされるなんて、誰だってゴメンさ」
窃盗だけなら棒叩きで済ますが、子供を傷つけたとなれば斬首も免れない
「分かったわ、ご主人様。貴方の作戦を採用するね。ついては小間使いの役を解くわ。好きにして」
「理解の早い雇用主を持てて幸せですよ」
「成功報酬は・・・・・・そうね。ご主人様をもっと愛してあげる」
馬家や涼州の為ならば即座に切り捨てられる、ご主人様
もっと愛してくれるとは言ったが、真名を許してはくれそうにない
月明かりに照らされながら微笑む馬休
その背中から悪魔の羽と尻尾が見えたような気がした
「悪魔だなぁ」
「やん、小悪魔って言ってよ。それに馬家には本当の悪魔もいるよ」
「馬休さんより悪魔とは・・・・・・」
~蜀~
「ハクション!!! うーーー誰か噂してるのかな」
馬岱がくしゃみをしたとかなんとか
少しずつ投下を再開します。