「兄ちゃん、これ美味いね、いつもありがとう」
甘草を煮詰めて甘くした水。簡易的なジュースだ
一刀の記憶からすれば、粗末極まりない出来であるが、この時代の、人達からすれば
甘いと言うだけで、ご馳走だ。
この甘草を煮詰めれば甘味が出ることを涼州の人は知らなかった
故に、一刀は、街を出て、そこら中の草原に自生するこの甘草を刈り取り、このジュースを作成した
掛かるのは薪代だけであり、恐ろしく原価は低い
「これは一儲け出来るかも」
ニヤリと悪い笑みを浮かべる一刀
魏において、数え役満しすたーずをプロデュースした男でもある。
一山当てようという気概はある。
もっとも魏では、売上は全て国庫に収められ、取り分はゼロであった。
自分で稼げば自分のポケットに入れても問題はない。
しかも今は小間使いの身、時間は凄く空いている。
稼いだら、どうしようか。あの店でご飯を食べよう、大人な店で大人な事をしよう。
広がる夢。一刀はしばらく、だらしのない顔で天を見つめ、
「いかんいかん、それよりも犯人逮捕だ。勤め先の空気が悪いのはやっぱり嫌だからな」
そう零して、一刀は写し終えた街の地図にマークをつけていく
二週間程、子供達を遊ばせ、彼らの情報を元に犯人の逃走経路を予測していった
この手の燻り出しの作業は、魏での警備隊で嫌というほど慣れている。
一刀はおおよそ犯人の居場所を探り当てていた。
魏では、ここまで分かれば、犯人のアジトを凪達と強襲するところだが、
今の身分は馬家の小間使い。その小間使いとて今は休職中の身。
なによりも、一刀の頭を悩ませるのが、彼女達の戦闘力である。
犯人のアジトを強襲する。しかし、実働部隊の実力が分からない。
いや馬休も馬鉄も、あの馬一族の人間だ。
実力は疑いようがない。
だが、アジトの強襲、市街戦となれば、使用武器の問題も出てくる
まさか民が大勢いる市街地や、狭い室内で槍を振り回す訳にはいかない
魏であれば、凪の拳や沙和の剣といった室内向きの戦力も充実している。
警備隊も槍といった長物よりも剣等の取り回しのし易い物を配備していた。
馬家で彼女達や配下を見てきたが、騎兵中心だ。
武装も騎乗をしてから攻撃するものという考えであるため、槍等の長物。
しかも馬上槍なので、ことさらに長さに重点が置かれている。
もちろん馬休、馬鉄の武器も槍だ。
彼女達の戦闘方法は、マイナスの要素にしかなりえない。
そこが一刀の懸念であるが、さりとて馬鹿正直に馬鉄に聞けるものではない。
武将は大なり小なりプライドを持ち、自身の武を誇っている。
窃盗犯如きに遅れはとらない、と思うものである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一刀は悩む。
どれくらい悩んでいたのか、自分でも分からない。
しかし時は流れ、あたりは暗くなる。
一刀は明かりと暖を求めて、薪を掴み取り。
「・・・・・・これしかないか」
薪を掴みながら、呟いた
呟いて覚悟を決めて、馬鉄の元に写した地図を持って行った。
「ここが犯人のアジトなのね」
「そうだね。民からの通報があってね」
まだ日の出前の薄紫色の空が広がる時間帯
馬休と馬鉄は武装した上で、騎乗している
その周りの部下達も皆騎乗し、手には鈍く光る槍を持っている
馬家のお膝元である涼州で散々に窃盗を繰り返し、自分たちの面目を潰してくれた相手だ
ただではおかない、と皆やる気に溢れている
「で、あんたはなんでここにいるのよ」
ジロリ、馬上から一刀を睨みつける馬休
「いえ、その情報提供者が私が贔屓にしている薪屋の主人でしてね。
それを私が聞いて馬鉄さんに報告致しました。
薪屋を信じぬ訳ではありませんが、もしガセでしたら、この場で私を罰していただければと思い、覚悟を決めてやってまいりました」
まっすぐと馬休を見つめ返し、そう言い切る一刀
その潔さとまっすぐな瞳に、馬休は思わずドキリとし、周りを囲む騎兵達も、大したものだ、と男らしくウンウン頷いている
ただ一人、馬鉄のみがそんな一刀をチェシャ猫のような瞳で見ていた
「そっ、そうなの、分かったわ。ならば覚悟を決めて待ってなさいね」
もちろん空振りやガセだったとしても、馬休に彼を罰するつもりはない
だが、こうでも言わなければ、馬休は一刀の雰囲気に飲まれてしまいそうだった
ダメよ、私がしっかりしなきゃ
そう自分を心のなかで叱咤し、一刀に言い捨てて、アジトへと突入をしていった。
次回も近いうちにUPします