『ドール…起きなさい、起きなさいってば』
「…ん…」
聞きなれた声が頭の中で響き、ドールは目を覚ました。
(ケイオス…さっきサボったでしょ)
ケイオス。
ケイオス・コンウェニエンティア・オルドヌング。
ドールの中の同居人である。
別に多重人格者であるというわけではない。どちらかというと、憑依に近い。
…ドールの母、カメリアが最初に勝ち取った聖杯の中身、である。
紆余曲折を経て聖杯の中身になり、カメリアの願い――持病を治すこと――を叶えたのちいろいろあってドールに宿ることになったとかなんとか聞いてはいるのだが、ドールはよく知らない。
カメリアの持病はドールにも遺伝しており、ケイオスはそれを抑えている。
『サボったわけじゃないわ。ちょっとうつらうつらしただけ』
(寝てる時でも能力は発動できるんじゃなかったの?)
『まあ、何というか…設定し忘れた?みたいな』
(ケイオスにしちゃ珍しいね。ところで、ここは?)
ドールは、ログハウスのようなところのベッドに寝かされていた。
『ああ、ここは…』
ケイオスが返答するより先に、部屋に女性が入ってきた。…幽香だった。
「あら、もう目が覚めたのね」
「あ…さっきの…」
「新聞に持病持ちと書いてあったわね。ごめんなさいね。大丈夫?」
「あ、はい。私の持病、あってないようなものなので…」
「あら、そうなの?…ところで、話は変わるけれど。この子について、何か知ってる?」
幽香はそう言って、近くに置いてあったクッションに寝ていたポケモンを抱き上げた。
「?リーフィア。何で幻想入りなんか………あ」
「どうしたの?」
「きゃう~~?(どうかした?)」
「君…ミツルさんの個体値厳選祭りで逃がされた子が進化した子…?」
「きゃう(うん)」
「???話がよくわからないんだけど」
「あ……」
~少女説明中~
「つまり個体値ってのはパラメータのことで、その子は個体値低いからミツル君って子に捨てられて幻想入りしたと…」
「捨て…うん、まあ、そうなる…のか。…この子は、個体値低いわけじゃあないみたいですけど…」
『5vで、しかも♀じゃない。激レア』
「ふうん…そうなの。ああそうそう、頼みがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「あなた、天狗に会いに行くんでしょ?」
「ええ。そうですが」
「私も同行していいかしら?」
「?何かあったんですか?」
「これを見なさい!!!」
幽香はそう言って、『文々。新聞』の2面目を開いて突き出した。ちなみに、1面目にはドールの事がでかでかと載っている。
「『風見幽香、謎の生物を発見!また1つの命の灯が消える…』…?」
「全く、こんな根も葉もない記事書いて!!!いったい何書いてんのよあの馬鹿天狗!!!」
「本当、ヒトをなんだと思ってんでしょうね」
「というわけで同行させてもらうわ」
「あ、はい。よろしくお願いします、風見さん」
「…幽香でいいわ」
「じゃあ、幽香さん」
「…さっさと行くわよ。文は今、霧の湖にいるわ。変わった動物を見つけたんですって」
「?はい」
(なんかこの子はやりにくいわ…)
~少女移動中~
「ここが霧の湖よ」
「ほんとに霧が濃いですね…
「う~ん、今日はいつもに増して霧が濃いわね…。これじゃよく見えないわ…」
「…ん?あれ、でしょうかね?」
「どれよ?」
「ほら、あそこで氷像になってる…」
ドールが指さした先には、確かに凍り付いて氷像のようになった、どうやらもとは烏天狗だったらしい物体があった。
「…よく見えないけど、文みたいね」
「いったい何g」
「そこのおまえーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「?」
いったい何があったんでしょうか、とドールが言おうとした瞬間、霧の向こうから少女の声がした。
そして、しばらく待っていると、その声の主が走ってきた。
ソーダ色の髪を同じ色のリボンでまとめていて、背中からは翼のような形になった氷が突き出ていた。
「…妖精?」
「そこら辺の妖精と一緒にしてもらっちゃ困るよ!!!あたいは氷の妖精チルノ!!!げんそうきょーでさいきょーの妖精だ!!!」
「はあ…。チルノ、あんたまだそんなこと言ってるわけ?確かにあんたの力は妖精の中では最強かもしれないけど、幻想郷じゃ下の方じゃない」
「そんなことないっ!」
「…で、何の用?えっと、チルノ…だっけ」
「おまえ、強いらしいな!!!あたいとしょーぶしろ!!!」
「………文をぼっこぼこにするのに全力投球したいんだけどなあ。ま、ジャブ程度でいっか」
「何ぶつくさ言ってるんだ!!!さては、怖いんだな!!!」
「うん、怖い怖い。何が怖いって相手の実力を見抜けない君の馬鹿さ加減が怖い」
「なにっ!?」
「…メラミ」
「へ?」
ドールがチルノの方に手を伸ばし、呪文をつぶやいた途端、ドールの手から大きな火球が飛び出し、チルノを襲った。
「!!!???ああああああああああああああああああ!!!!!!!」
チルノは叫びながら、湖に転がり込んだ。
「あなた、えげつないことするわね…」
「氷には炎。基本です。…ジャブ程度だったんですが、思ったより効きましたね。メラにした方がよかったかな…」
こうかはばつぐんだ。
「うう…。き、今日はここまでにしといてやるー!!!えっと…アイドリングストップ!!!」
「…『I'll be back』じゃないかな?」
「あ!それ!」
そう言いながら、チルノは去っていった。
「…邪魔ものもいなくなったし、文を解凍しましょうか」
「そ、そうね」
~少女解凍中~
「ふう~、助かりました~」
「あんた何やってんのよ」
「いや~、チルノさんがあの生物を凍らせるのを見物していたら、巻き込まれてしまいまして…」
文が指さした先には………
…ゲンガーの氷像、否、氷漬けゲンガーがあった。
「……お前…逃げたのか………」
「?あなたのポケモンなの?」
「いえ、私の家に住み憑いてるゲンガーです」
(毎朝寝起きドッキリは勘弁してほしい…)
「…っと、こんな話してる暇じゃなかったわね。文。殴らせろなさい」
「あやややや!?なぜですか!?」
「あんな記事書いたからに決まってるでしょう!!!」
というが早いか、幽香は文に黄金の右ストレートをくらわせた。
ドゴォ、という破壊音が響く。
「さて、私も1発」
そう言うと、ドールは亜空間倉庫の鍵を開け、中から1本の杖を取り出すと、唱えた。
「ブラックスティンガー!!!」
黒い波動が、文に向かって発射された。
「ぎゃああああああああ!!!」
ピチューン!
「ふう、すっきりしたわね」
「ええ」
「ところであなた、どうやって帰るつもり?」
「…迷子の心配をしているなら、安心してください。よそへ行くならいざ知らず、家に帰るなら勘と帰巣本能で何とかなります」
そう言いながら、ドールは杖をしまい、ゲンガーを解凍するなど、帰り支度を始めた。
「…だったらいいけど」
ドールの発言がフラグであると、この時は2人とも考えていなかった。
ドールが帰宅したのは、午後6時半であった。
ブラックスティンガーは聖剣伝説LOMの魔法です。