入学式を終え、教室を向かう道中。
なんというか……。
「……思ったより、女子が多いな」
俺が入学した高校、私立駒王学園は最近まで女子高だった事もあり、いまだ男子に対して女子の比率が多い。
ちらほら見かける男子生徒は皆一様に居心地悪そうにしている。
なんて言うのだろうか、アウェーというか場違い感というか。女子高に迷い込んだようなこの状態は、どうにも具合が悪い。
「まぁ、時間が経てば慣れるだろ。お、ここか」
1年B組。
俺が割り振られたクラスである。
中に入り、座席を確認して席に着く。席は名前順のようで、「遊佐」が名字である俺は窓際の一番後ろの席だった。
なかなか幸先が良い。
席から周りを見渡すと、クラスの雰囲気はどこか浮ついていた。
入学したばかりだし、当然だろう。これから始まる学園生活への期待や不安。なんだかこそばゆい雰囲気に満ちている。
「……これで、良かったのかもな」
小さく呟く。
俺は高校に進学するかどうかを、かなりギリギリまで迷っていた。結局、周りの人たちの後押しもあり進学を決めたのだが、心の中ではどこか迷いが残っていた。
だが、それも今さらだ。
せっかく機会に恵まれて、高校生活を送れるのだ。時間が経てばどうせ働くことになるのだから、この三年間くらい楽しもう。
そんなことを考えていると、廊下の方がざわめく。
何事かと思い、そちらに目を向けると、
「すごい」
教室の中で、誰かが呟いた。
おおむね、同感だった。
艶のある金髪に碧みがかった瞳。陶器のような肌に人形のように整った顔立ち。スラリと伸びた背丈に長い脚。
教室中の人間が息を呑むのが聞こえる。
はっきり言おう。
見たことのないような、すごいイケメンが教室に入って来た。
彼は教室の雰囲気に苦笑すると、そのまま歩を進めると座席を確認して席に着いた。俺とは離れた席だ。
しかし、それにしてもすげぇなイケメンって。居る所には居るものだ。
イケメン過ぎて、逆に引くわ。
それからすぐに担任がやってきて、その日は解散となった。
放課後。
俺は体操着に着替え、学園の校庭に居た。
部活動の入部受け入れが始まったのだ。
余談であるが駒王学園では一週間の仮入部期間がもうけられている。
『位置について』
指示に従い、スタートの体勢に付く。
『よーい』
軽く息を吸い、
――――――ッパン!
紙火薬を叩き、スターターピストルが鋭い破裂音を鳴らす。
ほぼ同時に、スターティングブロックを勢いよく蹴り、初めの一歩を踏み出す。
背中を押されかのような加速感。
初速を殺さずに、俺は一歩ごとに加速していく。
何も考えることはない。
ただ、地面を踏みしめ、空気を裂いて、俺は走る。
そうして100メートルを走りきり、ゴール。
「うわ、速っ!」
タイムを計っていた先輩が驚いていた。
ちなみに女子だ。
「ねぇ!遊佐くん、だっけ?仮入部と言わず入部しちゃいなよ!」
「……まぁ、最初からそのつもりですんで」
適当に答え、スタートの位置に戻る。
我ながら愛想がないが、そういう性格だ。今更なおらない。
俺はいま、陸上部の練習に参加していた。
中学でも部活は陸上部に入っていたし、高校でもそのつもりだ。
正直言うと、放課後はアルバイトで埋めてしまいたかったが、スポーツ特待生として入学したからには仕方がない。
ちなみに特待生になると、授業料は免除である。
でなければ私立なんて通ってなんかいられない。
ここ、駒王学園は留学生を多く受け入れる校風の他に、スポーツなどの部活動にも力を入れているのだ。
実績を持つ生徒は高待遇で迎えてくれる。俺は何度か全国大会に出場したこともあるので誘いがかかった、というわけだ。
校庭は土ではなくゴムトラックだし、中々剛毅な学園である。
それにしても、
「いまどき、なんでブルマなんだ?」
女子の体操着はなぜかブルマが採用されていた。
陸上部はほとんどが女子生徒で構成されている。
すげぇ、目の毒である。
俺は邪な気持ちを払うように、二本目のダッシュへと集中した。
陸上部に入学してから一カ月。
体力測定が行われていた。
面倒臭いことに、1500メートルの測定までありやがる。
放課後の練習に差しさわるし、適当に流して走ろうと思っていたが、測定をするのは陸上部の顧問だった。てめぇ手を抜くなよと目を光らせている。
信用なさ過ぎてマジで泣ける。
この一カ月で俺の習性は完全にバレていた。
おかしいな、別に普段の練習をサボってるわけでもないのに……。
仕方なく、本気で走ることにする。
あまりわる目立ちしたくないのだが……。
長距離は専門ではないが、やはりヘタな運動部よりは確実に早い自信はある。
俺はため息をひとつこぼしてスタート位置についた。
クラスの男連中と俺を含めて七人で走るようだ。ちなみに一クラスに七人男が居るのは多い方だったりする。
そうして、測定は始まった。
案の定100メートルも走れば、集団を大きく離していた。
しかし一人だけ、俺の後ろについてくる奴がいたのだ。
軽く目を向け確認すると、そいつは学園の王子様として名をはせている、例のイケメンだった。
髪の毛からキラキラと謎の粒子が発生させながら、余裕の表情でついてきている。
へぇ、面白い。
俺は速度を上げる。
1000メートルを過ぎても、後ろからの息遣いは離れなかった。
俺はかなり消耗している。
我ながらかなりのオーバーペースだ。
しかし絶対にペースを崩すつもりはない。
運動部なんて皆多かれ少なかれ負けず嫌いだ。
もちろん俺だってそう。
このまま駆け抜けてやる。
中々気配を振りきれないストレスにじっと耐えつつ、ラスト200メートルで俺は勝負を仕掛けた。
「ッシ!」
荒く乱れた呼吸の中で鋭く息を吐きだし、スパートをかける。
気配は――――――離れない。
ッ、この野郎……!
そのまま、多少スパートから速度は落としたもののゴールを迎えた。
結果だけ言えば、俺は一位でタイムも自己新記録を大きく更新した。
スパイクも履かずによくやったものだ。
タイムを測定していた顧問も驚いた顔をしている。そしてニヤリと笑った。
ヤバイ。大会で長距離競技にも出場させられそうだ。うちの部活、男子がほとんどいないから出場枠が大量に余っているのだ。
まぁ、良いレースだった。
我ながら改心の出来だ。
唯一、文句があるとすれば、
「やぁ、早いね。やっぱり陸上部にはかなわないよ」
二位となったイケメンが爽やかに笑って話しかけてくる。
息は、切れてすらいない。
「ほざけ、どの口が」
「え?」
気付けば胸倉を掴んで、そいつ引き寄せていた。
周りがざわつくが、そんなのはしらねぇしどうでもいい、すっこんでろ。
「てめぇ、何も思って手を抜いた?ただ面倒だったからか?だとしたらなんで後続の集団にいなかった」
俺は先ほどのレースで、何度か速度の緩急をつけて揺さぶりをかけていた。
本来なら1500メートルという距離でする駆け引きではないのだが、俺はある考えからそれを行った。
結果は予想通りだった。
奴はただ一度も俺の前に出ようとしなかった。
その意思を見せなった。
コノヤローは俺の速度に合わせてチンタラ走ってくださったのだ。
「あれか?俺は喧嘩を売られたのか?」
別に抜こうと思えばいつでも抜けるけど、まぁ勝たせてあげるよと、そういうことか?
「……すまない」
「あ?」
「君の矜持を傷つけたなら謝罪するよ。よかったらもう一度勝負してくれないか?次は必ず本気を出すと約束する」
ヤローはいつもの胸糞の悪いニヤついた笑顔を引っ込めて、俺をまっすぐに見つめる。
なんだよ、まとも表情つくれるじゃねぇかテメー。
「……ッチ。気が向いたらな。」
俺は奴の胸倉から手を離して、凍りついている周囲を見る。
わる目立ちどころの話しではなかった。
最悪である。
「あ、待って」
教師にとっ捕まる前に逃げようとすると、イケメンが声をかけてきた。
空気読めテメー。
「僕は木場祐斗。同じクラスだし、これからよろしく頼むよ」
「…………遊佐薫だ。話しかけんな」
俺の悪態にも爽やかな笑顔を返してくる木場。
くそ、もう余裕を取り戻してやがる。
俺はさっさと教室に戻った。
思えばこれが、これからアホみたいに長い付き合いとなる「木場祐斗」との最初の会話だった。
この作品のタイトルは完全にダジャレです。ええ、石を投げられる覚悟はできていますとも。