頂いた感想って気軽に返信して良いのだろうか……。
……あ、本編どーぞ。
俺の朝は新聞配達から始まる。
早朝というより深夜に近い時間帯から配達を始め、夜闇が薄く明け始めてきた頃に仕事を終える。
他の同僚と違い、バイクの免許など持っていないので配達は基本自分の足を使う。
いちおう自転車も貸し出してもらえるのだが、トレーニングも兼ねて俺は走ることにしている。割と緩い社風なのだ。
寄り合い所に戻ると、配達を終えたオッサン達がくつろいでいた。
「お~う、お疲れ。相変わらず早ぇな」
「うす」
「しかし、良くやるよなぁ。いまどき走って新聞配達とか」
「うすう~す」
「……お前な」
バイト先の俺はこんな感じだ。
安定の無愛想と挑発的な糞生意気。
しかし、ここの連中は人が良いようで俺のそんな態度にも怒ることなく、色々と世話を焼いてくれる。
正直、ありがたい。
「あぁそうだ。薫よぉ、高校はどうだよ。友達できたか?」
「うっせぇし。……まぁ一人はできた」
「うんうん、中々難しいよな。お前は他人に誤解を与えやすいタイプだから、ってええ!?できたのか友達!?」
俺の一言でざわつく寄り合い所。
どんだけ失礼なんだお前ら。全員表出ろや。
「いやお前みたいなひねくれ者に、友達ができるとは。そいつは心が広いんだろうな」
「ぶっとばすぞ、てめぇ」
「ッハハハ。で、どんな奴なんだ?」
「…………なんか、むかつくほど爽やかなイケメン。かな?」
駒王学園はその校風と偏差値の高さから、比較的品の良い高校だ。いわゆる不良と呼ばれる人種も少ない。
だから入学早々、学園の王子様の胸倉を掴んでブチ切れた俺は、お嬢様方には刺激が強かったらしい。
あることないこと噂され、気が付けば俺は悪名高い大悪党として校内でその名を轟かせていた。
良く言うと伝統を重んじ、悪く言えば閉鎖的なのだ。
そうして、今日も今日とて、女子たちにヒソヒソと陰口を叩かれる。
俺も俺で、出来の悪い猫をかぶるのはやめて、すでに開き直っていた。
だから、無遠慮な目線には無遠慮なメンチを返す。
あん?何見てんだコラ。
全力で目をそらされる。
「遊佐くん、どうして君はそうやって積極的に誤解を広めるかな」
登校してきた木場はカバンを机に置いて、俺の席に近づいてきた。
窓から差し込む光に金糸のような髪が煌めく。そして相変わらず謎のキラキラした光の粒子が散っている。
ねぇ、それどうやってんの?
「俺はこれで良いんだよ」
別段関わって楽しい人間でもないのだ。
「……もったいないなぁ」
俺は木場の言葉に鼻をならした。
あれ以来、何だかんだ言って、俺がこの高校で一番話すのは木場だった。
勝手な理由で勝手にブチ切れられたというのに、木場はなぜか俺によく話しかけてくる。
どうゆう訳か、気にいられたらしい。
最初こそかなり邪険に追い払っていたが、あまりに普通に話しかけてくるものだから、いつのまにか行動を共にするようになっていた。
やはりバイト先のオッサンが言っていた通り、木場の心はかなり広いようだ。
俺だったら、確実に三回は生死をかけた殺し合いをしかけている。だというのに木場は相変わらず楽しそうに笑って話しかけてくる。
良い奴だ。すげぇ良い奴。
その人気は顔だけが理由じゃないというわけだ。
「そうだ木場。お前、剣道部には入らなかったんだって?」
木場は一度、剣道部に仮入部していた。
剣道なんて中学の頃に授業で少しやっただけの俺でも、木場の竹刀さばきの凄まじさは一目でわかった。
相当鍛えたのだろう。
基礎体力からしてかなりのものだ。
現に新人歓迎の試合では剣道部の部長すら軽くあしらっていた。
「部長さん、嘆いてたぜ。期待の新人を取り逃がしたってさ」
「……そっか、悪いことしちゃったな。僕はもともと剣道部には入らないつもりだったんだよ」
「んだよそれ。冷やかしか?」
「いや、腕がなまらないように時々練習には参加したくてね、その挨拶さ。それに僕が修めるのは剣道じゃなくて剣術だから」
「ふ~ん。で、結局なにか部活には入ったのか?」
「うん。オカルト研究部に」
「…………ハァ?」
え、待って待って。もしかして俺にかまってるのって、変な邪教への勧誘が目的だったりする?
「知り合いが部長をしててね。その縁で誘われたんだ」
「はぁん。うさんくせぇな」
木場は俺の反応に苦笑で返した。
そんなどうでも良いような雑談を積み重ねていると、予鈴が鳴った。
木場は席に戻り、担任がやってくる。
さぁ、今日も勉学に励みますか。
放課後。
部活を終えて、古いアパートの一室に帰る頃には、すでに日が落ちかけていた。
痛んだ畳を夕日が照らしている。
なんでか、とても落ち着かない。
引っ越してきたばかりだが、俺はこの部屋が嫌いだった。
苛立ちばかりがつのっていくのを感じた。
「…………あぁ、そうか。この部屋、お袋と住んでた部屋に似てるんだ」
殺風景な、生活感のかけた風景。
西日を受けて、ただ一人で時間を過ごす。
静寂の音が耳に痛く、無性に過去を思い出させた。
「くそ!」
俺は衝動的に壁を殴っていた。
『うっせぇぞ!』
隣室の住人が壁を叩き返してくる。
上等だテメー。
「やんのかよオラー!!」
より強く、壁を殴る。
『ご、ごめんなさい!!』
その声を聞いて、すぐにクールダウンする。
やってしまった。何をしているんだ俺は。
八つ当たりなどみっともない。今度菓子折りでも持っていこう。
一人反省をしていると、電話がかかってくる。
「はい、もしもし」
『あ、薫ちゃん?皆本です、元気してる』
「あ、どうもご無沙汰っす」
相手は施設の園長先生だった。
穏やかに笑う俺達のお婆ちゃん。俺が反感を抱かない、数少ない「保護者」という立場の人間だ。
『そっちでの生活は慣れた?お隣に喧嘩売ったりしてない?』
エスパーかアンタわ。
『高校ではお友達はできた?』
「あぁ、まぁ一人だけ」
『そうね、まだ大丈夫よ。一年で駄目でも二年目だってあるし自分のペースで、って、えぇ!?できたのお友達!?』
「…………」
なんなの?打ち合わせでもして俺を苛めているの?
ああ、もう何も言うまいさ。ええそうですよ、友達もまともに作れないボッチですよ。それが何かっ!!
先生は電話の向こうで嬉しそうに笑った。
『そう。良かった。あなたは少しかたくなだから。お友達、大切にするのよ』
「…………はい」
『それじゃ、子供たちに変わるわね』
「うえ、良いですよめんどくさい」
『またそんなこと言って、『ねぇ~変わってぇ!!』あぁ、はいはい、すぐ変わるわよもう』
ガキどもがごねる声が聞こえ、電話の相手が変わる。
『薫にーちゃん、やっとトモダチできたんかぁ!!』
「ぶっとばすぞクソガキがっ!!」
気が付くと、感じていた空虚さはどこかへいっていた。
なんだ。
ようするに俺は、寂しかっただけなのだ。
なんともダセェ話しである。
次の日の学校。
「おう、飯食うぞ木場」
昼休み、そう木場に話しかけると何やら驚かれた。
「んだよ?」
「いや、珍しいね。遊佐くんから誘ってくれるなんて。何かあったのかい?」
「…………別に、なんとなくだよ。ほら行くぞ」
木場が温かい目を俺に向ける。
居心地が悪く、さっさと教室から出た。
目指すは安くて美味い我が校の学食である。
「こらー!待ちなさいエロ兵藤ー!!」
そんな声が聞こえたかと思うと、廊下の角から一人の男子生徒が勢いよく、飛び出してきた。
「危ないっ」
後ろで木場が叫んだ。
このままでは俺とぶつかる。
俺は反射的に、突っ込んできた男子生徒に前蹴りを喰らわしていた。
「ぐぅえあ!!」
鈍い悲鳴を上げて男子生徒はすっ飛んで行く。
廊下の空気が凍った。
え?なにこれ俺が悪いの?
男子生徒を追いかけていたらしい女子生徒たちが、判決を待つ罪人みたいな顔で俺を見つめていた。
「……はぁ。廊下は走るな。以上だ、行って良いぞ」
「「「はい!ご指導ありがとうございました!!」」」
女子たちは去っていった。
「なんなんだいったい?」
「さぁ?それより怪我はないかい遊佐くん」
「あぁ。どちらかというと、ぶつかってきた奴の方がやばいと思う」
目を向けると男子生徒は寝転がったまま、女子生徒のスカートをローアングルから覗いていた。
うん。なんか、大丈夫そうだね。
ちなみにこれが、俺と「兵藤一誠」の初めての接触だった。俺はすっかり忘れていたが、兵藤は憶えていたようで、会うたびにしばらく怯えられる事となる。
まぁ、そんな感じで俺の高校生活は過ぎていった。
朝は新聞配達、学校では木場とだべり、放課後は陸上部で汗を流す。休みの日には工事現場に顔を出し、たまに木場と出かけたりする。
わりと忙しい毎日が続いていて、難しいことを考える暇はなくなった。
それでも、貯金に余裕が出てくると、心にも余裕がでてきた。
現金な話しである(貯金だけに)。
こんな生活も悪くない。
そうだ、まるで無条件に青春を謳歌する、どこにでもいる高校生のようではないか。
そんなふうに、自分の日常を受け入れ始めた頃、
唐突に、俺の人生は終わりを告げた。
剥き出しのコンクリートに叩きつけられた俺は、朦朧とした意識でそれを眺める。
少し離れた場所には、俺の身体から千切れ落ちた、足が転がっていた。
あぁ、どうしようか。
これではもう、走れない。
特待生の待遇も打ち切られるから、高校は中退することになりそうだ。
木場になんて説明しようか。
そんな、どうでも良いことばかりが頭によぎった。
「キ、キヒッ!ヒヘェアヒヒヒャ!!!!」
下卑た笑い声が聞こえ、強い力に身体を持ちあげられる。
そうして俺は、心臓を貫かれて――――――死亡した。
実は2話はのっぴきならない状況下で執筆しました。
三万までなら払うから、レポート免除にならねぇかな……。