作者は別にリアスが嫌いなわけではなありません。
愛情表現が歪んでいるだけです。
それにしても時間軸を前後させすぎました。
分かりにくいかもしれませんが、本編をどうぞ。
あ、あと出グロです。
それは怪奇糞女に殺害されたが、思わぬ方法で蘇生して迎えた……最初の朝。
リアス・グレモリーに喧嘩を売ることになる数時間前の話しである。
いつも通り新聞配達を終えた俺は、日が昇り始めた途端に猛烈にダルくなった身体を引きずり、ボロアパートへと戻った。
これが木場の言っていた「光への拒絶反応」らしい。何とも難儀な話しだ。学生にはちょいとキツイ体質である。
しかし、それも……、
「降って湧いた力の代償と思えば、まぁ納得できる。かな?」
視線の先。家の中へと続く扉の取っ手は、握り潰されたようにひしゃげていた。
昨晩、ある程度の説明を受けて家に帰った時に、やらかしたのである。
俺がやったのだ。
特に意識することもなく、俺は金属製の取っ手を握り潰していた。
「しばらくは、気をつけないと」
今までの感覚で身体を使っていたら、あまりに物騒だ。
その辺りの手加減は学ばなければいけない。
それと、自分で確認できることは、自分で予習をしておく。
と、いうわけで、俺は台所に立っていた。
別に料理の為ではない。
とはいえ、包丁は使うのだが。
俺はいつの間にか、新しく生えていた右手で包丁を握る。
左の手の平をまな板にのせ、包丁を近づける。
そのまま手の平に刃をあてて――――――
「よっ、と」
――――――引いた。
案の定、
……切れない。
手の平には擦ったような赤い線だけが残っていた。
やはり肉体の強度も飛躍的に上がっているようだった。
ぐりぐりと手の平の上で包丁を動かす。
いろいろ力の入れ方を工夫してみるが、結局薄皮が剥けただけで血が滲むまではいかなかった。
かといって、皮膚が硬くなっているとか、変に弾力があるとか、そういった様子でもない。普通の皮膚感と変わらない。
単純に、皮膚を裂くことだけができないのだ。
感覚だけ言えば、刃を潰した包丁で手の平をなぞっているに過ぎなかった。
当然、痛みもない。
「ふむ」
いい加減、刃物に対する恐怖心も薄れてきたな。
そろそろ良いだろう。
俺は包丁を逆手に持ちかえ、高くに振り上げて、手の平に向けて力いっぱい降り下ろした。
ッダン!
包丁は俺の手の平を貫通し、下に敷いたまな板にまで刺さった。降り下ろす力も強くなっているのだから当然である。
「痛覚は、まぁ普通だな。……あぁ、くそ。痛ぇよボケが!なんか腹立ってきた」
俺は包丁を手の平から引き抜いた。
ずるりと抜けた。
ずるりと。
痛ぇ。
どう考えてもやり過ぎた。
血に濡れて猟奇的な感じになった包丁を流しに置き、俺は患部に水を当てる。
溢れた血は片っ端から水に流していく。
刺し傷の断面が水の中で、はっきりと露出した。
生々しいピンクの患部。
俺はそれを観察する。
掛かった時間は10分ほどだった。
手の平を貫通するほどの刺し傷が、ものの10分で塞がってしまった。
カサブタをつくることもなく、徐々に傷は再生されていき断面が塞がっていく。
俺は何となく、昔見たプラナリアの再生映像を思い出した。
我が身体ながら、なんとも気色の悪い光景だった。
あぁ、そうだ俺は、
「……もう、人間じゃねぇんだ」
悪魔へと転生し迎えた、今日という日。
俺は自分が本当に人間でなくなったことを自覚し、何故か溢れてくる涙をただ静かに受け入れた。
人間だった頃の俺を、必死に生き抜いた遊佐薫の人生を悼んで、涙を流す。
今日から俺は、
悪魔として生きていく。
やることは変らない。
足は止めない。全力で、駆け抜けてやる。
だから、
今この瞬間だけは。
俺は、無様に泣くことを自分に許した。
時は経ち、
学校の授業は再開し始めていた。
俺はというとオカルト研究部に、再び呼び出されていた。
それまでは、「顔を出したらブチ殺しますわよ?」と姫島先輩に脅されていたので、大人しく木場と訓練に励んでいたわけだが。
どうやらグレモリー先輩は、俺に話したいことがあるようだ。
随分時間をかけたようだが、先輩は俺をどうするつもりだろうか?
なかなか楽しみである。
「薫、今度暴れたら絶対に僕が止めるからね?」
木場が俺にチクリと小言を言う。この野郎はあの肘打ちのことを、まぁだ根に持っていやがる。
「しつけーよ。それも向こうの出方次第だっつの」
そうさ、俺はいつだって出たとこ勝負だ。
必要があれば策を巡らすが、グレモリー先輩との問題にそれが必要だとは思えねぇ。
俺は木場を連れだって、部室に向かった。
部室はすでに元の通り、糞趣味の悪い調和を取り戻していた。
「思ったよりも修理には手間取りましたのよ?」
さきにお茶を淹れて待っていた姫島先輩も、やはりチクリと皮肉を漏らした。
俺はうんざりした。
「悪魔ってのは、どいつもこいつも終わったことを、グジグジ言うものなのか?」
「あらあら、うふふ。私は皮肉を言う相手は選びますわ。それに、大切な親友を精神的に凌辱されて、禍根を残さないほど薄情ではありませんの」
「はぁん。ッハハ、言うね。やんのかよ?」
「それもこれも、今日リアスが下す判断によりますわ」
俺と姫島先輩は睨み合いながら、ウフフアハハと笑い合う。
なんとも醜い光景だった。
ふいに、後頭部に激痛が走る。振り返ると木場が拳を振り切っていた。
「言った傍から君と言う奴は……。朱乃さんもあまり煽らないでください。薫は沸点の低さに定評があるんですから」
ほう、言ってくれるじゃねぇか木場。
ムカりときたが、良く考えなくても事実だったから何も言えない。
俺は鼻をならした。
「で、グレモリー先輩は?人を呼び出して待たせるとはさすが大物だな」
「女性の支度には時間がかかるものですから。じきに来ますわ。ほら座ったらどうです?」
「いやいい。つーかあんたら出て行けよ。これはグレモリー先輩と俺の問題だ」
「自らの主のことですから、これ以上ないほど関係ありますわ」
「その通りだよ、薫」
主、ねぇ。
俺にはどうやってもわからねぇ感覚だな。
そして、少しの時間が過ぎてリアス・グレモリーが部室へ現れた。
「本当に随分と待たせてしまったわね、薫」
リアス・グレモリー。紅い髪の先輩。
彼女は俺を見て、そう言った。
まっすぐとした、強い瞳だ。やる気充分って所だ。
なんだ、まだまだ折れてねぇじゃねーか。
悪くない。
上等だ。
何度だってやってやる。
俺はいつでも跳びかかれるように拳を作り、体勢を整える。
木場と姫島先輩が身構える。
部室の空気が一気に張りつめた。
「あぁ、まったくだ。もう忘れられたかと思ったぜ俺は」
言葉に敵意を乗せる。
俺の意思を伝える。
俺は変っていない。
あんたには屈服しないと、そう伝える。
「あれから私は良く考えたわ。あなたに言われたこと、あなたをどうしたいのか」
「あん?」
しかし、グレモリー先輩は一切かまえなかった。
敵意が素通りし、言葉が噛み合わない。
先輩は背筋を伸ばし、ただ静かに俺を見つめていた。
俺は、どんなにボロボロにされて感じなかった寒気を、先輩から感じた。
「私にとって眷族は、愛すべき家族のようなもの。だから私はあなたと家族になりたい。
私は、蘇生を望まないあなたを悪魔に転生させる時に誓ったの。薫の、遊佐薫という存在の全てに、責任をとるって。
なのにあの日、恥ずかしいことに私は、あなたの意思に呑まれ、引きずられてしまった。
あなたに攻撃を放つたびに、泣き出しそうだった。あの時の感触と、あなたの中に燃える私への敵意が、私にはどうしょうもなく痛くて、悲しかった。あの痛みを私は、けして忘れないわ。そして、もう同じことは繰り返さない。」
いま俺の前に居たのは、剥き出しのリアス・グレモリーだった。
余裕ぶった、へんに大人ぶったイケすかない女じゃない。
俺は、無意識に後ずさった。
「私は間違った。方法を間違った。あなたの敵意に敵意で返してしまった」
「それは当り前の反応だ。相手に呑まれない為には、そうするしかない」
「あなたにとって私は敵でも、私にとって薫は敵なんかじゃない。私はそれを忘れてしまった」
駄目だ、噛み合わない。
ひどく頭痛がする。思えばこの人は初めてあった時から苦手だったんだ。どうしょうもないほど、反感を覚えた。
あぁ、そうだ。
この人は、俺の母親に似ているのだ。
あの、最悪な女に――――――。
「だから薫。家族になりましょう。
私はそうしてあなたを眷族に向かい入れる。
気に入らないなら、何度でも向かって来なさい。今度は必ず、あなたが怪我をしてしまわないように、傷ついてしまわないように、優しく柔らかく受け止める。どれだけ傷を負っても構わない。
もうけしてあなたに引きずられない、けしてあなたと敵対なんてしない」
グレモリー先輩は腕を広げて、俺に近づいてくる。
「私は、あなたを抱きしめる」
緩慢な動作だ。
簡単に逃れることはできる。
だけど、俺は。
動くことができなかった。
柔らかく、温かい感触。
リアス・グレモリーの存在が俺を抱きしめた。
「……俺は、俺は“保護”されることが嫌いだ、虫酸が奔る。“保護者”が嫌いだ、奴らは傲慢だ。自分が相手の生殺与奪を握っているとすぐに勘違いする」
「違うわ。私はあなたを一方的に保護するんじゃない。一緒に、共に歩いていくの。
私はあなた一人に認めてもらえないような、情けない王だわ。それでも努力する。今は無理でもいつかあなたが誇れる王になってみせる。
だから薫、私を見守っていて。
私と共に歩んで、私が間違った道に奔ったら、殴りつけてでも止めてちょうだい。……ねぇ、どうかしら?」
穏やかで、慈愛に満ちた声。
痛い、痛い、頭が痛い。
「俺は、それでも……!」
「あとね、良いことを教えてあげる。悪魔同士の実戦型の模擬試合『レーティング・ゲーム』で結果を残せば、あなたは上級悪魔になる。そうすれば、あなたは自由になれるわ。自分ひとりで身を立てて、あなたはあなた自身の王になれる」
…………!?
なん、だと?
頭に掛かっていた靄が一気に晴れる。
俺は、抱きしめてくるグレモリー先輩を引き剥がし、肩を掴む。
「テメェオラー!そういう重要なことは先に説明しろやボケェ!!」
「あら、元気になったみたいね。急にしおらしくなったから驚いていたわ」
先輩は意地悪く笑う。
その言葉に、顔が燃え上がるように熱くなる。
くそぅ。昔のことを思い出すと碌なことがない。
まぁいい。
そんな事情があるなら話しは早い。
俺は決めたぞ。
「上級悪魔に、俺はなるっ!!」
その為に、取り合えずあんたの傍にいてやる。
精々利用してやるから覚悟しろよリアス・グレモリー。
グレモリー先輩はほがらかに笑った。
「ええ。強くなりなさい、薫」
姫島先輩が微笑ましそうに、俺を見る。
「あらあら、うふふ。賑やかになりそう」
木場が苦笑する。
「まぁ、僕も手伝うよ、薫」
いろいろと手間取ったが、
こうして俺はリアス・グレモリーの眷族(仮)になったのだ。
いかがでしたか?
これはこだわりですが、薫は肉体的にも精神的にも完璧には程遠いです。
強い部分はとことん強いですが、弱い所も意外とあります。
そういうところをきちんと描写できればな、と思っている次第です。