ハイスクールD×D  神器なき戦い   作:坂下ジョゼフ

6 / 10
 後篇です。
 作者は別にリアスが嫌いなわけではなありません。
 愛情表現が歪んでいるだけです。

 それにしても時間軸を前後させすぎました。
 分かりにくいかもしれませんが、本編をどうぞ。
 あ、あと出グロです。


第5話「喧嘩は用法用量をまもって正しく殺りましょう 後篇」

 

 それは怪奇糞女に殺害されたが、思わぬ方法で蘇生して迎えた……最初の朝。

 

 リアス・グレモリーに喧嘩を売ることになる数時間前の話しである。

 

 

 

 いつも通り新聞配達を終えた俺は、日が昇り始めた途端に猛烈にダルくなった身体を引きずり、ボロアパートへと戻った。

 これが木場の言っていた「光への拒絶反応」らしい。何とも難儀な話しだ。学生にはちょいとキツイ体質である。

 

 しかし、それも……、

 

「降って湧いた力の代償と思えば、まぁ納得できる。かな?」

 

 視線の先。家の中へと続く扉の取っ手は、握り潰されたようにひしゃげていた。

 昨晩、ある程度の説明を受けて家に帰った時に、やらかしたのである。

 俺がやったのだ。

 特に意識することもなく、俺は金属製の取っ手を握り潰していた。

 

「しばらくは、気をつけないと」

 

 今までの感覚で身体を使っていたら、あまりに物騒だ。

 その辺りの手加減は学ばなければいけない。

 

 それと、自分で確認できることは、自分で予習をしておく。

 

 と、いうわけで、俺は台所に立っていた。

 別に料理の為ではない。

 とはいえ、包丁は使うのだが。

 俺はいつの間にか、新しく生えていた右手で包丁を握る。

 左の手の平をまな板にのせ、包丁を近づける。

 

 そのまま手の平に刃をあてて――――――

 

 「よっ、と」

 

――――――引いた。

 

 案の定、

 ……切れない。

 手の平には擦ったような赤い線だけが残っていた。

 

 やはり肉体の強度も飛躍的に上がっているようだった。

 ぐりぐりと手の平の上で包丁を動かす。

 いろいろ力の入れ方を工夫してみるが、結局薄皮が剥けただけで血が滲むまではいかなかった。

 かといって、皮膚が硬くなっているとか、変に弾力があるとか、そういった様子でもない。普通の皮膚感と変わらない。

 単純に、皮膚を裂くことだけができないのだ。

 感覚だけ言えば、刃を潰した包丁で手の平をなぞっているに過ぎなかった。

当然、痛みもない。

 

「ふむ」

 

 いい加減、刃物に対する恐怖心も薄れてきたな。

 そろそろ良いだろう。

 

 俺は包丁を逆手に持ちかえ、高くに振り上げて、手の平に向けて力いっぱい降り下ろした。

 

 ッダン!

 

 包丁は俺の手の平を貫通し、下に敷いたまな板にまで刺さった。降り下ろす力も強くなっているのだから当然である。

 

「痛覚は、まぁ普通だな。……あぁ、くそ。痛ぇよボケが!なんか腹立ってきた」

 

 俺は包丁を手の平から引き抜いた。

 ずるりと抜けた。

 ずるりと。

 痛ぇ。

 どう考えてもやり過ぎた。

 

 血に濡れて猟奇的な感じになった包丁を流しに置き、俺は患部に水を当てる。

 溢れた血は片っ端から水に流していく。

 刺し傷の断面が水の中で、はっきりと露出した。

 生々しいピンクの患部。

 俺はそれを観察する。

 

 掛かった時間は10分ほどだった。

 

 手の平を貫通するほどの刺し傷が、ものの10分で塞がってしまった。

 カサブタをつくることもなく、徐々に傷は再生されていき断面が塞がっていく。

 俺は何となく、昔見たプラナリアの再生映像を思い出した。

 

 我が身体ながら、なんとも気色の悪い光景だった。

 

 あぁ、そうだ俺は、

 

「……もう、人間じゃねぇんだ」

 

 

 

 悪魔へと転生し迎えた、今日という日。

 俺は自分が本当に人間でなくなったことを自覚し、何故か溢れてくる涙をただ静かに受け入れた。

 人間だった頃の俺を、必死に生き抜いた遊佐薫の人生を悼んで、涙を流す。

 

 今日から俺は、

 悪魔として生きていく。

 

 やることは変らない。

 足は止めない。全力で、駆け抜けてやる。

 

 だから、

 今この瞬間だけは。

 俺は、無様に泣くことを自分に許した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は経ち、

 学校の授業は再開し始めていた。

 

 俺はというとオカルト研究部に、再び呼び出されていた。

 それまでは、「顔を出したらブチ殺しますわよ?」と姫島先輩に脅されていたので、大人しく木場と訓練に励んでいたわけだが。

 

 どうやらグレモリー先輩は、俺に話したいことがあるようだ。

 随分時間をかけたようだが、先輩は俺をどうするつもりだろうか?

 なかなか楽しみである。

 

「薫、今度暴れたら絶対に僕が止めるからね?」

 

 木場が俺にチクリと小言を言う。この野郎はあの肘打ちのことを、まぁだ根に持っていやがる。

 

「しつけーよ。それも向こうの出方次第だっつの」

 

 そうさ、俺はいつだって出たとこ勝負だ。

 必要があれば策を巡らすが、グレモリー先輩との問題にそれが必要だとは思えねぇ。

 

 俺は木場を連れだって、部室に向かった。

 

 

 

 部室はすでに元の通り、糞趣味の悪い調和を取り戻していた。

 

「思ったよりも修理には手間取りましたのよ?」

 

 さきにお茶を淹れて待っていた姫島先輩も、やはりチクリと皮肉を漏らした。

 俺はうんざりした。

 

「悪魔ってのは、どいつもこいつも終わったことを、グジグジ言うものなのか?」

 

「あらあら、うふふ。私は皮肉を言う相手は選びますわ。それに、大切な親友を精神的に凌辱されて、禍根を残さないほど薄情ではありませんの」

 

「はぁん。ッハハ、言うね。やんのかよ?」

 

「それもこれも、今日リアスが下す判断によりますわ」

 

 俺と姫島先輩は睨み合いながら、ウフフアハハと笑い合う。

 なんとも醜い光景だった。

 ふいに、後頭部に激痛が走る。振り返ると木場が拳を振り切っていた。

 

「言った傍から君と言う奴は……。朱乃さんもあまり煽らないでください。薫は沸点の低さに定評があるんですから」

 

 ほう、言ってくれるじゃねぇか木場。

 ムカりときたが、良く考えなくても事実だったから何も言えない。

 俺は鼻をならした。

 

「で、グレモリー先輩は?人を呼び出して待たせるとはさすが大物だな」

 

「女性の支度には時間がかかるものですから。じきに来ますわ。ほら座ったらどうです?」

 

「いやいい。つーかあんたら出て行けよ。これはグレモリー先輩と俺の問題だ」

 

「自らの主のことですから、これ以上ないほど関係ありますわ」

 

「その通りだよ、薫」

 

 主、ねぇ。

 俺にはどうやってもわからねぇ感覚だな。

 

 そして、少しの時間が過ぎてリアス・グレモリーが部室へ現れた。

 

 

 

「本当に随分と待たせてしまったわね、薫」

 

 リアス・グレモリー。紅い髪の先輩。

 彼女は俺を見て、そう言った。

 まっすぐとした、強い瞳だ。やる気充分って所だ。

 なんだ、まだまだ折れてねぇじゃねーか。

 悪くない。

 上等だ。

 何度だってやってやる。

 

 俺はいつでも跳びかかれるように拳を作り、体勢を整える。

 木場と姫島先輩が身構える。

 部室の空気が一気に張りつめた。

 

「あぁ、まったくだ。もう忘れられたかと思ったぜ俺は」

 

 言葉に敵意を乗せる。

 俺の意思を伝える。

 俺は変っていない。

 あんたには屈服しないと、そう伝える。

 

「あれから私は良く考えたわ。あなたに言われたこと、あなたをどうしたいのか」

 

「あん?」

 

 しかし、グレモリー先輩は一切かまえなかった。

 敵意が素通りし、言葉が噛み合わない。

 

 先輩は背筋を伸ばし、ただ静かに俺を見つめていた。

 俺は、どんなにボロボロにされて感じなかった寒気を、先輩から感じた。

 

「私にとって眷族は、愛すべき家族のようなもの。だから私はあなたと家族になりたい。

私は、蘇生を望まないあなたを悪魔に転生させる時に誓ったの。薫の、遊佐薫という存在の全てに、責任をとるって。

なのにあの日、恥ずかしいことに私は、あなたの意思に呑まれ、引きずられてしまった。

あなたに攻撃を放つたびに、泣き出しそうだった。あの時の感触と、あなたの中に燃える私への敵意が、私にはどうしょうもなく痛くて、悲しかった。あの痛みを私は、けして忘れないわ。そして、もう同じことは繰り返さない。」

 

 いま俺の前に居たのは、剥き出しのリアス・グレモリーだった。

 余裕ぶった、へんに大人ぶったイケすかない女じゃない。

 

 俺は、無意識に後ずさった。

 

「私は間違った。方法を間違った。あなたの敵意に敵意で返してしまった」

 

「それは当り前の反応だ。相手に呑まれない為には、そうするしかない」

 

「あなたにとって私は敵でも、私にとって薫は敵なんかじゃない。私はそれを忘れてしまった」

 

 駄目だ、噛み合わない。

 ひどく頭痛がする。思えばこの人は初めてあった時から苦手だったんだ。どうしょうもないほど、反感を覚えた。

 あぁ、そうだ。

 この人は、俺の母親に似ているのだ。

 あの、最悪な女に――――――。

 

「だから薫。家族になりましょう。

私はそうしてあなたを眷族に向かい入れる。

気に入らないなら、何度でも向かって来なさい。今度は必ず、あなたが怪我をしてしまわないように、傷ついてしまわないように、優しく柔らかく受け止める。どれだけ傷を負っても構わない。

もうけしてあなたに引きずられない、けしてあなたと敵対なんてしない」

 

 グレモリー先輩は腕を広げて、俺に近づいてくる。

 

「私は、あなたを抱きしめる」

 

 緩慢な動作だ。

 簡単に逃れることはできる。

 だけど、俺は。

 動くことができなかった。

 

 柔らかく、温かい感触。

 リアス・グレモリーの存在が俺を抱きしめた。

 

「……俺は、俺は“保護”されることが嫌いだ、虫酸が奔る。“保護者”が嫌いだ、奴らは傲慢だ。自分が相手の生殺与奪を握っているとすぐに勘違いする」

 

「違うわ。私はあなたを一方的に保護するんじゃない。一緒に、共に歩いていくの。

私はあなた一人に認めてもらえないような、情けない王だわ。それでも努力する。今は無理でもいつかあなたが誇れる王になってみせる。

だから薫、私を見守っていて。

私と共に歩んで、私が間違った道に奔ったら、殴りつけてでも止めてちょうだい。……ねぇ、どうかしら?」

 

 穏やかで、慈愛に満ちた声。

 痛い、痛い、頭が痛い。

 

「俺は、それでも……!」

 

「あとね、良いことを教えてあげる。悪魔同士の実戦型の模擬試合『レーティング・ゲーム』で結果を残せば、あなたは上級悪魔になる。そうすれば、あなたは自由になれるわ。自分ひとりで身を立てて、あなたはあなた自身の王になれる」

 

 …………!?

 

 なん、だと?

 頭に掛かっていた靄が一気に晴れる。

 俺は、抱きしめてくるグレモリー先輩を引き剥がし、肩を掴む。

 

「テメェオラー!そういう重要なことは先に説明しろやボケェ!!」

 

「あら、元気になったみたいね。急にしおらしくなったから驚いていたわ」

 

 先輩は意地悪く笑う。

 その言葉に、顔が燃え上がるように熱くなる。

 くそぅ。昔のことを思い出すと碌なことがない。

 まぁいい。

 そんな事情があるなら話しは早い。

 

 俺は決めたぞ。

 

「上級悪魔に、俺はなるっ!!」

 

 その為に、取り合えずあんたの傍にいてやる。

 精々利用してやるから覚悟しろよリアス・グレモリー。

 

 グレモリー先輩はほがらかに笑った。

 

「ええ。強くなりなさい、薫」

 

 姫島先輩が微笑ましそうに、俺を見る。

 

「あらあら、うふふ。賑やかになりそう」

 

 木場が苦笑する。

 

「まぁ、僕も手伝うよ、薫」

 

 

 

 いろいろと手間取ったが、

 こうして俺はリアス・グレモリーの眷族(仮)になったのだ。

 

 




 いかがでしたか?
 これはこだわりですが、薫は肉体的にも精神的にも完璧には程遠いです。
 強い部分はとことん強いですが、弱い所も意外とあります。
 そういうところをきちんと描写できればな、と思っている次第です。


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