遠坂凛、彼女はプライドが非常に高い
それは遠坂家という魔術師の名家に生まれたこともあるが生来の気質に合わせて彼女の生い立ちによるところも大きいだろう
早くに家族を失い、頼るべきものの無いまま過ごした幼少期は彼女が他人より早く大人になることを強いた。
そうして成長した彼女は、自分こそが遠坂家の六代目当主の魔術師であるという強い信念を持つ
そんな彼女にとって聖杯戦争とは遠坂家の悲願であり、亡くした父への弔いであり、そしてなにより己の魔術師としての力を示すものであったのだ。
彼女はこの聖杯戦争に並々ならぬ思いを抱いて挑んだのだ。
……そしてその少女の願いは一人のサーヴァントに打ち砕かれることになる。
しかも敵ではなく、味方の
「衛宮君、私達手を組まない?」
彼女の一言より、現実に引き戻された士郎少年は困惑した。
いきなり現れたアーチャーとそのマスターである銀色の少女、ボロボロに傷ついたセイバー、先ほど殺されたはずである凛のサーヴァントとは別の甲冑を着たサーヴァント、そしてその彼の死、ここにきての同盟の提案
受ける受けないはともかく、あまりの多くのことが起きて処理できていない彼は
「とりあえず、落ち着いて家で話さないか」
その一言で精いっぱいだった。
バーサーカーは驚いた。
「今すぐ、衛宮君の家に来て」
「マスター、生きてたのか」
凛からの念話でその声を聞き、バーサーカーはマスターの無事を確認したからだ。
あの巌のような男、ヘラクレスと名乗る英霊から生きられるとは流石マスターだ。どのような手で生き残ったのかぜひ聞かねば、彼はそう考えていた。
「彼らに私の姿を見せていいのか?」
「見せていいわ、詳しい話は後でするからいいから来て。来たら黙って突っ立ってなさい、アホなことは絶対に言わないでね」
だが、なにやら不機嫌そうな声でセイバーのマスターである少年の家に来いといったきり、魔力の繋がりを断たれてしまったため、バーサーカーはそれ以上は追及できなかった。
士郎少年の家に着くバーサーカー、凛の家とは違う見慣れない家の作りにあたりを見まわしながら凛がいるであろう場所に向かう。
バーサーカーは本来であれば裸になり、すぐにでも駆けつけたかったが、彼女は裸が嫌いなことを思い出し装備は凛からもらった服を身に着けた。
「遅れてすまない、マスター」
すでにそこには凛に加え士郎とセイバーがいた。
セイバーから測られるような視線、士郎からの驚愕の目線、そしてなぜか仲間である凛からも不機嫌そうな目を向けられ、バーサーカーでも居心地の悪さを感じた。
「詳しいことは省くけど、これが私のサーヴァント、バーサーカーよ、強力な奴ではないけど使いようはある。サーヴァントが強くてもマスターが足を引っ張る半人前な衛宮くんとサーヴァントにちょっと問題がある私、足してちょうどいいと思わない?」
いきなり来て罵倒されるという状況に悲しみを持ちつつも自分より恐ろしいマスターに逆らう度胸はバーサーカーにはない、命令通り、謎の男というような立ち振る舞いで腕を組み背中の柱に体重を預けた。
「むっ俺はそこまで半人前じゃないぞ」
「私が知る限り、一日で三回も死にそうになった人間なんて初めて見たけど?」
「ぐっ……」
バーサーカーはそれなら一日で三回死んでる私は半人前以下だな、なんて軽口をはさみそうになるが凛が何よりも素早く察知して一にらみで封じた。
バーサーカーはもしや自分の思考が漏れてるのではと、マスターに対する畏怖を深めた。
「いい? 条件を確認するわね、私があなたにマスターの知識を教える。何だったら魔術の手ほどきをしてあげてもいい、だからあなたはセイバーの力を貸しなさい。期間はアーチャーを倒すまで、それまでは互いに手出しは無用、私とバーサーカーは貴方たちを攻撃しないし、セイバーと衛宮君も私たちに攻撃しない、これでどうかしら」
「……」
「衛宮君、返事を聞かせてほしいんだけど」
「……分かった手を組もう」
ここに同盟は結ばれた。
バーサーカーの頭に意思が流れ込む
―――誓約を交わしますか(古い誓約は破棄されます)―――
バーサーカーが凛の意向に逆らうことはなく、迷いなく肯定の意思を持った。
「誓約を交わす」
バーサーカーは膝をつき、右手を士郎たちに伸ばす
ここにきて何も喋らなかった男が急に動いたことにセイバーと士郎が警戒をするがバーサーカーの動きは止まらない
まるで敬虔な信徒のように伸ばした手を開く
彼にとって誓約とは、比喩でなく付け替えできる指輪のようなものでしかないので信仰心などさほどないのだが
そして手のひらに生じた光を握りしめる。
――誓約を交わしました――
光が収束したバーサーカーの手のひらに何かが生じるのと、いつの間にか各々の指に見たことも無い指輪があると気付くのは同時だった。
――『鞘剣の誓約指輪』――
その指輪の名をバーサーカーは本能で直感し、周りの者はバーサーカーの言動から『セイヤク』が成立したことを悟る。
何よりここにいる全員がバーサーカーの行動により、何らかの魔術的な繋がりがたった今発生したことがそのことを裏付けていた。
高い対魔力を持つセイバーに強制的に魔術的な繋がりを開かせたバーサーカー
セイバーは当然最大限の警戒を払う
「『
セイバーはいつの間にか士郎を己の背中に隠し、冷たい目を凛とバーサーカーに向ける。
「あぁ。『
ここで明言しておこう、凛たちの世界にとっての『
一方でバーサーカーの世界の『
もちろんそれでも本当の信仰をささげる狂信者もいるが、善人面で白霊となり他人を救った後に刺激が欲しいと闇霊として他者を食い潰す不死人も数多くいる。
同じことを繰り返す不死たちにはそのような戯れも、崩れゆく自己をとどめるためと思えばしかたがないのか……
話がそれたが音を同じにするこの言葉、彼ら不死人と凛たちには大きな違いがある。
軽々しくするようなものでないそれをバーサーカーが一方的に契約したとすると、周りから見ればそれは呪いに類する攻撃である。
実際にはそんな強制力など欠片もないとしてもだ。
結果として両者に深い溝が生まれる。
「あの口約束だけで私たちの間に制約を成立させたと、私の対魔力をすり抜けて」
「……? なにをいまさら、互いの同意の上だったのでは」
このやり取りに凛は心胆を凍らせ、士郎は訳も分からぬままにバーサーカーを見た。
「ただの口約束で制約を成立させるとは、悪魔に類する者か、なるほど、凛のサーヴァントにしてはあまりにも弱すぎる。何か切り札は持っているのだと踏んでいましたがとんでもない食わせ者だ」
「どういうことだセイバー」
「今先ほどかわした口約束、シロウにマスターの知識や魔術の手ほどきを与える、そして私たちは力を貸す。その言葉を制約として成立させたのです」
知識の提供と戦力の提供、それは互いに拒否権があれば対等な関係であるがそれが互いに絶対の契約となったとしたらどうだろうか
凛側から求められたならセイバーはどんな目的であっても力を貸さなければいけない
例えばそれがセイバーの望まぬ物であったとしてもだ。
そこまで考えてセイバーは凛が契約をするときの言葉の真意に気付く。
『互いに手出しは無用、私とバーサーカーは貴方たちを攻撃しないし、セイバーと士郎も私たちに攻撃しないこれでどうかしら』
過去に第四次聖杯戦争でセイバーのマスターであった衛宮切嗣も似た様な手をランサーのマスターに仕掛けていた。
お互いは攻撃しない
そう
もし凛がセイバーに、例えばであるがセイバーに士郎を殺せと命令したらどうなるであろうかとセイバーは思い至る。
「卑怯な! この制約、初めからこちらを強制させるための罠だったというわけですね」
「俺たちをはめたのか、遠坂……」
警戒を超えて敵意を隠そうともしないセイバーと悲しそうに顔をゆがめる士郎少年を見ながら凛は考える。
なぜ私の隣にいるこの男は私の邪魔をするのだろうかと
ようやく話がまとまりかけていたというのにこの男が現れた瞬間にこれだ。
こいつは実は私の敵なのではないのだろうかと真剣に考えてしまう
「バーサーカー、制約を破棄しなさい、すぐにしないなら令呪を使うわ」
セイバーが考えつくような制約の活用は凛もすぐさま考えついた。実際活用すればこの聖杯戦争を勝ち抜く算段も出てくる。
だが、凛は同盟を組むと宣言したのだ。
約束を破ること、それは彼女の誇りにかけて許されない物であったのだ。
「……いいのか? せっかくの同盟なんだが」
「三回は言わないわ、あなたが立てた制約を破棄しなさい」
「分かった」
バーサーカーは己の指にはめた指輪を見つめる。すると指輪は虚空に溶けるように消えて別の指輪と入れ替わった。
だが凛達の中に出来た。魔術的な繋がりは消えない。
「どういうことかしらバーサーカー、私たちの制約がまだ無くなってないわ」
「……? 指輪を取ればいいではないか」
そう言って凛の指輪を抜き取ると凛の中に流れていた正体不明の繋がりはあっけなく消失した。
「別に貴殿らも誓約が気に入らないのならその指輪を取ればいい、しかし、強制とは言い過ぎだ。誓約にそのような力などありはしない」
その言葉に士郎とセイバーは指にはめられた指輪を外す。何の抵抗もなく取れたそれは制約というには軽すぎた。
「………………ねぇバーサーカー、あなたの言う制約とやらについて話しなさい」
「誓約は他世界と繋がる時に結ばれる縁とでもいえばいいのか……、一つだけしか習得できず、新しい誓約を習得したければ古い誓約は破棄しなくてはならない。だが破棄しても何度でも誓約できるから気軽に選べばいいぞ」
「ありがとう、もう喋らなくていいわ」
凛は死んだような目をしながら改めてバーサーカーを紹介する。
「こいつはバーサーカー、今まで殺されたサーヴァントはみんなこいつ一人、異世界からきた不死身の騎士さまで真名は忘れたし宝具は使えないとかほざく愉快な奴なの」
バーサーカーは褒められていると勘違いしているのか少し嬉しそうにしながら凛のもう喋るなという命令を律儀に守っている。
「このように嫌味がきかない並外れた神経を持つ男よ」
同盟と言えどもバーサーカーの情報は漏らしたくはない凛であったが今回の経験から考えを改めた。
マスターである自分ですら理解しきれないこいつを外様である同盟者が信じることは不可能であると
実際セイバーは、全くこちらの言葉を信じておらず、士郎は先ほど凛から受けたサーヴァントという存在の説明からかけ離れたバーサーカーにただただ困惑していた。
しかし、ただ一言
「……こっちの勘違いだったんだ同盟は受けるよ」
完全なる同情の目であるそれは凛の精神を著しく傷つけた。
同盟が成立したと知ってバーサーカーはこっそり指輪をつけようとする。
「バーサーカー、その指輪を私の前でもう二度と出さないで」
「……分かった」
士郎はその不毛なやり取りを見て考える。
アーチャーと戦っているときも思ったが、もしやこの騎士のサーヴァントはバーサーカーの名に恥じない気狂いでは?
が、この男も偉業を成し遂げた英霊であると一瞬でその考えを否定する。
「……あとすまないんだがバーサーカー、一つお願いがあるんだけど」
黙っていたバーサーカーではあるが問いかけに答えないと非礼だろうとなるべく短く会話を終わらせようと努めた。
「なんだ」
なるべく威厳を込めてしゃべる。
士郎にとってバーサーカーとは凄惨な死にざまとセイバーに剣を向けた恐ろしい形相、色々な意味で正体不明の存在であった。
士郎は思わずしなくてもいい緊張しながらバーサーカーに話しかける。
「すまない、外国の人だから分からないのかも知れないけど日本の家じゃ靴で家の中を歩かないんだ」
「……そうか」
言われてみれば自分以外だれも靴を履いていないことに気付いたバーサーカーは下手に反発することも無く、そのままの姿勢で一瞬の内に靴を脱いだ。
場に満ちる静寂、士郎は難しそうな顔をしながら、意を決して言葉をひり出す。
「……なんでズボンまで脱いだんだバーサーカー」
「あぁすまん、つい癖で」
下半身のパンツを露出したバーサーカーは下半身の装備を装着しなおし、今度は手動で靴だけを脱ぐと士郎に靴をどこに置けばいいか聞いた。
士郎は癖で下半身の着物を全て脱ぐとは何なのだろうかと思いつつも裸足で踏みしめる畳を不思議がる様子のバーサーカーを見てそんなに怖い奴ではないのかもしれないと苦笑いを浮かべた。
「ね、愉快なやつでしょ」
そうして凛が青筋が立った笑顔を浮かべるのをみて、バーサーカーは自分がまた何か失敗したということを悟るのだった。
同盟のやり取りが終わると凛とバーサーカーは遠坂邸から衛宮邸に滞在するために荷物を取りにマスターと外に向かう
しかし、衛宮邸を出ようと歩きながら、まとめるべき荷物を考える凛にバーサーカーが急に声をかけてくる。
「待て、マスター」
「なによ」
恥をかかされてばかりの凛はあえて粗雑な対応をとる。
「あれを見てくれ、篝火だ」
凛がバーサーカーの示す場所を見ると衛宮邸の庭にポツンと剣が刺さり、その周りに白い小枝のような骨が乱雑に積まれている。
バーサーカーはそれに近づくと手をかざした。
骨から遺灰が舞い上がり瞬時に燃え上がる。それと同時にバーサーカーはゆっくりと篝火の前に腰かけた。
炎の幕のような揺らめきにバーサーカーの存在が吹けば消える残り火のように曖昧になった。
その一連の動作があまりにも流れるような動きのため一種の儀式めいた神聖さすら感じさせ、凛に声をかけさせることをためらわせた。
しばらくしてバーサーカーが立ち上がり凛に体を向ける。
「まさか篝火が現れるとはな」
「これってうちにある奴よね、アンタが復活する場所の、なんでここにあるのかしら?」
「別に篝火は一つしかない訳じゃない、むしろ不死人の集まるところには必ず篝火があった」
「別次元のアンタみたいなやつらがここにウヨウヨいるってこと」
凛は大量にいるバーサーカーを想像して眩暈を起こしかける。
「あぁそうだ。同盟を組んでここが一つの拠点となったからなのか分からんが助かった。私は篝火の間なら瞬時に移動できる。これは戦略的にも大きいぞ」
この篝火というものが遠坂邸のリビングの中心という生活のど真ん中に現れてから凛はもちろん篝火について調査した。
分かったことがもはやバーサーカーは篝火のオマケなのではと疑うほど篝火は濃密な魔力のような力の塊で壊すことは不可能だということ、だからと言ってそれを凛が活用することは研究でもして長い時間をかけなければいけないだろうということ、部屋の中を横切るときに邪魔ということだけである。
「そう篝火の間を行き来できるのね、じゃあ、今からメモ渡すから家から荷物持ってきなさい」
「分かった」
バーサーカーをあえて、体のいい雑用に使うがまったく堪えていないので凛の不満はさらにたまるだけだった。
時間にして三十分後、バーサーカーは荷物をもって衛宮邸に舞い戻る。
凛はバーサーカーに多量の荷物を担がせたまま自分の後を追わせ、士郎がいる離れに向かった。
「何しに来たんだ遠坂?」
「何って荷物を取ってきたのよ、今日からこの家に住むんだから当然でしょ」
荷物を取ってきたのはバーサーカーであるがバーサーカー自身が気にしていないのでこの発言に問題はない
一方、いきなり学園一のアイドルと同じところに住むという現実に追いつけない士郎少年はしどろもどろになりながらもこれに反発した。
「あっ、ついでにセイバーの部屋は用意したの? まぁ一緒に寝るっていうならいいけど」
「するかバカッ!? セイバーは女の子じゃないか!!」
「それは困りますシロウ、あなたは無防備すぎる、同じ部屋じゃなければ守れない」
「士郎、何度も言うけどサーヴァントはサーヴァント、人間扱いをする必要はないわ」
「いやそれは……というかちょっと待て、いつの間に遠坂は俺のことを呼び捨てにしているんだ?」
三者三様、嵐のように過ぎる会話にバーサーカーは入ることができないために傍観する。
なるほど、サーヴァントは同室でマスターを守るものなのか
不調法と思って女性の寝室には入らなかったバーサーカーはこれからは寝室に入って彼女を守ろうと考えを改めた。
そうして目が覚めた凛にバーサーカーが殴り殺されるのは明日のできごとである。
こうして凛は士郎から在留資格を勝ち取り、部屋の一室を自分色に染め上げた。
ちなみに物の移動は全てバーサーカーが行った。
的確な指示を送ればバーサーカーは迷いも躊躇もなく凛の指示をこなした。
「……命令されて動く分には便利なんだけどね」
この素直さだけは認めてやらないことも無い凛である。
今現在、バーサーカーは電源のつかないエアコンと格闘している。
凛が苦手とする機械類の配線などはなぜか機械文明などは持たないはずのバーサーカーが説明書の図を見ながら喜々として取り組んだ。
「それ楽しい? こっちの世界の知識を与えられていないアンタじゃ字も読めないんでしょ」
「楽しいな、未知とは危険でもあるが変化を失った私たち不死人にとっては得難いものだ」
「なによ、やっぱり不老不死の敵は退屈だったりするわけ?」
「間違ってはいない、同じことの繰り返しに気が狂って亡者になった奴など数えきれないからな、よく言われているのが不死人の死とは目的の喪失、生きることを辞めた時に死ねない不死者は亡者となるらしい」
「へぇ、趣味があれば長生きできるってこと」
「不死人の暇つぶしは色々あるぞ、収集癖は不死人なら皆そうだ、武器は折れた直剣から聖剣、装備は襤褸の外套から王のマント、道具は糞の塊から古の秘薬まで集めるんだがこれはまだ一般的な趣味だな、あえて全裸で敵に挑んだり、逆に重すぎる装備を着てみたり、殺した奴の装備を着てそいつになり切って遊ぶ奴もいたな」
「あなたの世界どうかしてるわ」
凛は正気などとっくに失っているだろう世界を想像して顔をゆがめた。
「実際どうかしているのだろう」
バーサーカーはなんともなさそうに呟く
「私が知る限り世界とは悲劇だった。己の人間性をささげ自分を燃やしつくした、それで燃え残った絶望さえも焚べた先には何もなかった、私達に玉座なんて初めから用意されてなどなかったのかもしれない」
突然脈絡もなく、意味の分からない単語を吐き出すバーサーカーは心ここにあらずといった様子で、ぼんやりとここではないどこか遠くを見つめていた。
凛はバーサーカーに疲れ切った老人のような雰囲気を感じ取る。
「バーサーカー、話が散らかりすぎよ、意味わかんないわ」
指摘されて初めて気付いた様子のバーサーカーは考え込むように答えた。
「……うむ、どうだったのかな、私も意味を忘れた……、おっ、エアコンとやらが動いたぞ、なるほど、エアコンを動かす動力を伝えるこの線の先に着いた突起、これをその穴に繋げれば動き出すみたいだな」
凛は呆れたように魔術の品を整頓する作業に戻ることにした。
こうして衛宮邸での一日は過ぎた。アーチャーの襲撃から数時間も経っていない、誰もが疲れ切っていた。
特に生身であるマスターたちの疲労はピークに達しすぐに休息を必要としている。
そんな中で凛は夢を見た。
それは強大な敵と戦う騎士の夢であった。
とにかく敵は強かった。
巨大で小柄、素早くて鈍重、一騎当千で群体、人かと思えば神であり怪物のような獣でもあった。
矛盾する様ではあるがとにかく強い敵であったのだ。
対して騎士は弱かった。
ありとあらゆる方法で命を奪われた。
どう考えても勝てない、敵は強大でこちらは矮小
だというのに騎士は諦めない、ただ敵と戦い続ける。
自分の持つすべてを使い、装備で、道具で、罠で、策略で徐々に敵を追い詰める。
彼は自分の持つすべてを出し切って戦っていた。
次第に凛は騎士に期待した。
小さきものが大きな敵を打倒す。英雄譚にも似た何かを
敵の行動を分析しつくして動く騎士はとうとう敵を追い詰めた。
思わず拳を握りこむ凛はその勝負の行方を見る。
そして騎士は瞬殺された。
今までは敵が本気を出していないだけだった。
本気を出した敵に何もできずに惨めに殺された。
当たり前と言えば当たり前、そもそも彼は敵と認知もされずいたぶられていただけ
それを少しこらえたからといっても勝てないことは分かり切っていた。
何度見たか分からない篝火の前で男は甦る。
折れた。
凛はそう思った。
全てをかけた敗北なら、それは仕方のないことではないかとすら凛は考える。
男は篝火に腰を掛け、そして……
また敵に挑んだ。
凛には分からなかった。
この男が何を考えているのか、どうして挑むのか、いっそ只の狂人だと思えばいいのだろうか
だがそう決めつけるには彼の目にはあまりにも強い意思が浮かんでいる。
彼が何を考えているのか凛には分からなかった。
凛は目覚める。
「おはようマスター」
萎びた顔をした男がそこにはいた。
何を考えているか本当に分からないそいつに凛は全力で右手を突き出した。
竜牙兵などいなかった。
次回予告が終了、場転の整合性・プロットは投げ捨てるもの