Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

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あらすじ

凛「学校に結界を張ったマスターがいるから探すわ、たまたまこの学校の生徒で聖杯戦争を作った御三家でもあり、サーヴァントの召喚システムおよび令呪を担当した間桐って家があるけどたぶん違うし……、一体誰がマスターなのかしら……」

バーサーカー「いやどう考えても間桐が怪しいのでは?」


7話

 

 バーサーカーとしては間桐家を探ること、これは決定事項だった。

 

 

 

 

 

 この聖杯戦争を作った御三家の一つであり、長年続いている魔術師の家系でもある。しかも聖杯戦争ではサーヴァントの召喚システムおよび令呪を担当していた。

 

 だがしかし、聖杯を手に入れることが悲願と言っていい筈の間桐の家は、何故かその戦いに出ないと言っている。次の聖杯戦争が何時とも知れないというのにだ。

 

 

 あまりにもキナ臭い。

 

 

 何か隠されているのでは?(疑惑)

 

 何か隠されているに違いない(確信)

 

 秘匿されたモノを気の済むまで暴いてやる(結論)

 

 

 バーサーカーが間桐を疑い、結論に至るまでの速度は、反射神経のそれと同等だった。

 

 

 パラノイア染みた思考ではあるが、不死人であるバーサーカーの習性を抜きにしても、間桐は怪しすぎるのは事実。

 

 これだけの理由があれば、マスターである凛の理解も得られるだろう、とバーサーカーは思っていた。

 

 

 

 

 

 (()()()()()調()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 だが、予想は裏切られた。

 

 

 

 マスターの命令ならば拒否する理由もない。しかし、今日は絶対に間桐を探すものと意気込んでいたバーサーカーは梯子を外された形となり、次の探索場所を相談するために一度、帰還の骨片で衛宮邸に戻った。

 

 

 バーサーカーは、命令なら仕方がないと思いながらも、その理由がわからなかったので凛にその疑問をぶつける。

 

 

「何故間桐の家を調べないんだ、マスター」

 

「バーサーカーは間桐の家をまだ疑っていたのね」

 

「まだ? 逆に聞くが、凛は間桐にマスターがいないと考えているのか?」

 

「……可能性は低いわ」

 

 

 いつもの打てば響く彼女は、珍しく答えに詰まって目を逸らす。

 

 

「この聖杯戦争を作った、魔術師の家系なのにか?」

 

「……遠坂と間桐は同盟を組んでいる。いきなり攻め込むなんてできないわ」

 

「殺し合いをするわけではない。少し家探しをさせて欲しいだけだ」

 

「あんた分かってる? それ事実上の敵対行為よ。疑わしいだけで完全な黒ではない、お互いを不干渉でいるこの関係を崩すリスクを考えたら、実行はできないわ」

 

 

 バーサーカーはその同盟とやらがどのようなものかは知らなかったが、ただ成り行きを座して待つといった凛の考え方に違和感を感じる。

 

 今までの凛の選択は素早く、それが結果的に功を奏してきたので、バーサーカーも感心していた。

 

 バーサーカーは今までの凛の行動を振り返る。

 

 何故、セイバーを殺す唯一のチャンスを棒に振ったのか。

 

 不死人である自分は、捨て駒的に斥候を行い、情報を集めることはできるが戦闘では心許ない。その足りない力をセイバーとの同盟で補うためだ。

 

 何故、わざわざ敵である士郎に聖杯戦争の手助けをして仲を深めるのか。

 

 セイバーのマスターである士郎は争いを好まず、聖杯戦争の知識がないため、凛にとって情で縛って御しやすいことも同盟者としては理想的だからだ。

 

 凛の即断がこの状況を手繰り寄せたと評価しているバーサーカーだからこそ、間桐に対することだけに凛が煮え切らない態度を持つことを不思議に思っていた。

 

 この聖杯戦争を戦う上で敵が誰かを判断することの重要性を考えれば、敵であるか分からない厄介な不確定要素を潰さない凛の考えが分からなかった。

 

 

「つまり、マスターも怪しいとは薄々思っているわけだろう。同盟者なら適当な理由をつけて調べに行けばいい」

 

「……ずいぶん拘るじゃない」

 

「むしろ、拘っているのはマスターの方ではないか?」

 

「どういうことよ」

 

 

 凛は不機嫌そうに声を固くして、バーサーカーを睨む。

 

 バーサーカーは、今までの凛の言動から生まれた違和感の正体を聞くことにした。

 

 

「なぜ、間桐の家を避ける?」

 

「避けてないわ、同盟で相互不可侵を結んでいるからそう見える。それだけよ……」

 

 

 凛は目を逸らさず見返すが、それが虚勢だとバーサーカーは瞬時に見破る。

 

 

「そうか。なら何故そのことを教えてくれなかったのだ? マスターは報連相といったが、この話は本来なら真っ先に私と共有すべき情報ではないのか」

 

「……伝え忘れたのよ。あそこの家は魔力が枯渇した家だから魔術師は生まれない、魔術師がいないからマスターになれない、マスターがいないなら敵にならないから、警戒もしてなかったし忘れてた。これで満足かしら」

 

 

 凛の不機嫌そうな態度は、これ以上話をする気はないという裏の気持ちを雄弁に語っている。

 

 しかし、一般人なら通じるであろうそれはバーサーカーには通じない、ただ無感情に疑問を指摘し続ける。

 

 

「敵が弱いから伝え忘れた。それなら尚更家探しが楽に済みそうだがな……。マスターは何故間桐を調べることを避ける。それほど益のある同盟なのか、それとも間桐の家には触れてはいけない何かがあるのか?」

 

「……間桐家の当主は大昔から生きている妖怪なの。間桐の家の実質的な支配者、そいつと敵対するのは不味いのよ」

 

 

 そのような化け物なら、確かに何十年後かになるかも分からない聖杯戦争を、大局的に考えて参加しないということも有り得ないことではない、とバーサーカーは考える。だが、さらに疑問が出てきた。

 

 

「ふむ、それも初めて聞いたな。どう考えても警戒すべき人物でとても印象的だが、これも伝え忘れか?」

 

 

 バーサーカーは確認のつもりで言ったのだが、これは傍から見れば凛に対する煽りや嫌味以外の何物でもない

 

 

「マスターは、間桐の家は魔力が枯れたからマスターがいないと説明した。しかし、そんな人物がいるならそいつがマスターであっても不思議ではないのでは?」

 

「…………そうね」

 

 

 ただ自分の気になることだけを聞き続けているバーサーカーに、凛は苛立ってくる。

 

 

「いくら同盟といえど、潜在的な敵を探らない理由はないと思うのだが、マスターの方に何か理由があるのか?」

 

 

 その一言を言われた時、凛の脳内に衛宮邸で笑顔を見せた少女の顔がよぎった。

 

 それを引き金に、凛は爆発する。

 

 

「ッ!! いい加減にしてバーサーカー! 間桐家とは直接ぶつかるまでは関わらない、これはマスターの決定よ」

 

「マスターの決定には当然従う。だが、マスターは報連相をしろと私に命じた。互いに情報を共有することを命じられた。だからそれを守っているだけなのだが、マスターにとって間桐のことを話すのは不都合なのか?」

 

 

 凛が与えた命令と違うと言われれば、その通りだ。

 

 それは自分で言ったことを自分で破っていることに凛は気付き、言葉を詰まらせる。

 

 

「私は全ての情報を伝え、マスター自身からの情報共有は必要な時のみしか行わないなら、それはそれで構わない。マスターが望むならそうしよう」

 

 

 その不平等すらまったく気にしないバーサーカー、この言葉すら彼にとってはただの確認に過ぎないのだろう。

 

 凛は、この男が今後口答えをするなと言えば、本当に何も言わない奴だと理解してしまっていた。

 

 

 だからこそ、折れる。

 

 

「分かった……それを言い出したのは私だったわね」

 

 

 凛は、遠坂と間桐にある密約をバーサーカーには話していない。そもそも聖杯戦争には直接は関係ないので言う必要もない、凛はそう考えていた。

 

 しかし、その秘密が聖杯戦争における自分の判断を歪めていたことに、業腹であるがバーサーカーに気付かされた時、凛は観念した。

 

 

「約束は守るわよ」

 

 

 投げやりに答えた凛は自分が間桐家を避ける理由、かつての妹の話を語り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、あの少女はマスターの妹だったのか……」

 

「えぇそう、似てないでしょ。というか見た目も中身も正反対よ」

 

「そうか、私は君たちが姉妹らしいと思うが」

 

「……そうかしら」

 

「私が見た兄弟は見た目なら身の丈が三倍ほど違うし、中身でいうなら一人は騎士で、もう一方は魔術師だったぞ」

 

「は?」

 

「ある姉妹は下半身が巨大な蜘蛛だったり、下半身が膿んだ卵だったり、下半身が師匠だったり……」

 

「下半身が師匠って何よ」

 

「師匠? 師匠とは誰だ……、 どのような方だったか、……うーむ忘れた」

 

 

 時々このように呆けてしまうバーサーカーを、凛は白い目で見る。

 

 

「あんた馬鹿にしてるの?」

 

「そんなつもりはない」

 

「あんたのビックリ世界の兄弟姉妹に比べれば、私たちは目も耳も足も同じ二つだからそっくり、とでも言うつもり?」

 

 

 バーサーカーは『いや違う』、と。そう言って言葉を続けた。

 

 

「私の知る同胞とは皆、誰もが似ていない。だというのに余人には分からん繋がりがあった。凛たちも同じく似ていない、だが、他人には良く分からない心のやり取りがあるように思えた。だから、姉妹と聞いてもそれほど不思議には思わなかった」

 

「なによそれ」

 

「全く違う生き物が、何故か通じ合う。それを家族と呼ぶのではないか、と思っただけだ」

 

「……そう、そういう考え方もあるのかもね」

 

 

 バーサーカーとの会話を通して考えを言葉にすることで、心が楽になったと感じている自分に凛が気付くと思わず自嘲しながら口を開く。

 

 

「案外、私も誰かに話したかったのかもね」

 

 

 

 一連の悲しき姉妹の話を聞いたバーサーカーは、神妙に口を開く。

 

 

 

「……先ほどから不思議なのだが、マスターが間桐を避ける理由は分かった。だがその妹がリンを避ける理由はなんだ?」

 

 

 凛は絶句した。

 

 

 常人なら見過ごしていただろう凛の押し殺した感情を分解したこいつは、今まで語った妹との別れに対する後ろめたさや悲しみを、一切理解していなかったのだ。

 

 

「なんでそこまで分析できてソレが分かんないのよ!!!!」

 

「いやそれはマス……」

 

「フンッ!!」

 

 それは自分の主であるマスターの事だから……。

 

 そう話す前に、バーサーカーは衛宮邸の壁に叩きつけられ、赤いシミを残して霧散した。

 

 

 

 

        YOU DIED

 

 

 

 

 彼が高度な分析力を発揮するのは、引くも進むも過酷なマップ達と異類異形の者達に関連する事象だけであり、自身もその中に入っていると凛が気付き、憤慨するのはまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、自分がどこで間違えたのか分からず甦ったバーサーカーは、恐る恐る凛の前に顔を出す。

 

 

「アンタに話すくらいなら壁のシミに話しかけた方が断然良かったわね」

 

「そこに私がシミになった壁があるわけだが……」

 

「黙りなさい」

 

 

 バーサーカーとしては間桐家は調べておきたいところではあるが、マスターが否というならそれに従うしかない。

 

 次の探索はどこにしようか、とバーサーカーが思案していると、凛が口を開く。

 

 

「じゃあ、今日は間桐のところに行きなさい、バーサーカー」

 

「……いいのか?」

 

 

 凛の言葉にバーサーカーは驚く。

 

 

「アンタが言ったんでしょ。いくら同盟といえど潜在的な敵を探らない理由はない。その通りよ、私は衛宮邸でアンタの視界と聴覚を共有して見てるから」

 

「会うに当たって、遠坂の名を出していいのか」

 

「初めは同盟の挨拶ってことでいいわ。……そうね、監視役の神父がマスターかもしれない、って警告ついでに行きなさい。そこで攻撃を喰らうようなら間桐は敵よ」

 

「妹はいいのか」

 

「あの子には悪いけど、聖杯戦争が終わるまで衛宮君の家からは距離を取ってもらった方が互いのためね。あなたが間桐の家に行ってる間に話しておくわ」

 

「わかった」

 

 

 

 こうして騎士は一人、間桐の館へと挑みに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーサーカーが暫く歩けば、間桐の屋敷は見えてきた。

 

 

 見た目には立派な屋敷で、手入れも行き届いている。客観的に見て、美しい洋館と言えるだろう。

 

 だがバーサーカーは、そこに今まで探索してきた、暗く湿った洞窟などの陰鬱さを連想していた。

 

 ちらりと横目で、門に固まったメッセージを見る。

 

 

『この先、虫に注意しろ』『虫の予感…… だから 炎万歳!』『ここじゃない!』『この先、敵に注意しろ 卑怯者』『弱点は本体 つまり かわいい奴』

 

 

「陰鬱な場所だ」

 

(同感、おそらく表の屋敷は擬態よ。本丸の工房はおそらく隠されているわね。どこかに隠し通路でもあるんじゃないかしら)

 

(よし、なら探索をするときは屋敷からだな。ふふっ、隅から隅まで探索と行こうじゃないか)

 

(急にテンション上げてきたわね……。というか、アンタに間桐が黒かどうかを引き出すなんて腹芸、できるのかしら)

 

(任せてくれ、私だってやればできる)

 

(心配だわ……)

 

 

 

 

 

 

 不安な様子を隠せない凛の弱弱しい声とは対照的に、バーサーカーは間桐家の門の前で力強く門戸を叩いた。

 

 そのいかめかしい門は、その重々しい見た目に相違ない重厚な音を響かせながら、ひとりでに開いた。

 

 

(誘われているわね)

 

 

 バーサーカーは返事をせずにそのまま屋敷入り口前の広場に進み、不意に立ち止まる。

 

 

 

「こんな夜分遅くに何用かの」

 

 

 闇が浮き上がるように形を取り、人型をなす。

 

 それは小さな老人となり、目の前に現れた。

 

 

 薄暗い物陰から不意に現れた存在を見て、バ-サーカーは経験から理解する。

 

 

 こいつは、敵だ。

 

 

 バーサーカーは怪物や敵の類に対してなら、その思考を十二分に発揮できる。むしろそのことにしか特化していない。彼は目の前の老爺の形をした怪物に対して、英雄における心眼や直感に近い確信を得ていた。

 

 

(ソウルを求め、貪る亡者だな)

 

 

 この男は、命に嫉妬する亡者の類だと理解した。

 

 

 しかし、バーサーカーはそのような感情をおくびにも出さず、敬意を持った声音で極めて友好的に話しかける。

 

 

「私は遠坂凛のサーヴァント、バーサーカー。同じこの地で根を張る魔術師としてご忠告をさせていただきたく参上した」 

 

「これはご丁寧に、儂は間桐臓硯。同じ根を張る魔術師とは嬉しいことを言ってくれる。所詮間桐は枯れた家、そんなこの家に忠告とは何事かの」

 

 

 相手も同じように、遠いところから来てくれた旧友をねぎらうように返答する。

 

 だが、バーサーカーはその目の奥に潜む虫のようにがらんどうな目玉を見つめる。

 

 臓硯の目から、ナメクジのようにねばりついた己を測ろうとする意図を、バーサーカーは敏感に感じた。

 

 この敵対者に対する観察眼を、爪の垢ほどでも他者に対する意思疎通に割けば彼と凛との確執はなくなるというのに、残念ながらこの男にそのような機能はない。

 

 

(凛、聞いてくれ)

 

(なによ)

 

(この男、私を探っているようだ)

 

(この状況で何を当たり前なことを言ってるのよ)

 

 

 臓硯に対するその道の研究者が多量の情報を元に出した結論を、口にして伝える段階で小学生の感想文のような質に落とすのがこの男である。

 

 

(私なりの分析だ)

 

 

 心なしか、面の下にしたり顔を想像させるバーサーカーに対し、凛は苛立ちを越して呆れ返る。

 

 

 そもそも考えて欲しい。

 

 

 貴方はこれから殺し合う予定の人へ挨拶に行く、そこで向こうが笑顔で挨拶を返してきた。

 

 ここで『これで私たちは友達だな』、と。このような考えをする人間がいたら是非教えていただきたいものだと。

 

 常人ならばそもそも、目の奥の本心がどうのこうの考える前に、相手がこちらを探ってくるなど前提条件で理解しているものであり、バーサーカーの思考は1ケタの足し算を演算機にかけるような無意味さである。

 

 それに気づかないバーサーカーは、そのまま話を続ける。

 

 

「今回の聖杯戦争、その監督役に不審なところがある」

 

「神父殿の事じゃな?」

 

「あぁ、監督役自らがサーヴァントを率いて参加している可能性が高い」

 

「なんと、それが本当なら憂慮すべき事態だのう」

 

(こいつはもともと知っていたな)

 

 

 わざとらしく驚いたように声を上げる老爺を見て、バーサーカーの内心は冷えていた。

 

 

「まったくだ。ルールを布く者がルールを破るなど、もはやまともな戦いではないな」

 

「監督役など所詮は教会を納得させるための形式に過ぎぬよ。聖杯戦争とは元々そういうものじゃ。今までに一度としてまともであったことなどありはせん」

 

 

 バーサーカーはここで会話に乗った。

 

 

「そこだ。本来なら異なっていたらしいな。元は聖杯戦争は御三家のもので、我らサーヴァントなどただの燃料(まき)に過ぎない。殺し合いをする必要などなかったと聞いた」

 

「それを聞いて怒るか、英霊よ」

 

「フフ、いや、全くもって合理的だ。古の英雄を燃料(まき)にして願い(火継ぎ)を叶える。なるほど理を突き詰めれば()()()()()()()()()ものだと感心したよ」

 

 

 一人、良く分からぬ笑いのツボに嵌まるバーサーカーを見て、初めて臓硯の顔の表情が変わる。

 

 

「……それをサーヴァントであるお主がいうとはの。貴様本当にバーサーカーか?」

 

「主の望みを叶えるためならば、命など惜しむ必要もない」

 

「騎士道は死に狂い、とでも言いそうじゃな」

 

「その例えは良く分からんが、聖杯を手にすることこそが御三家の悲願、ならばどう転ぶにしても手を取り合う余地はあるのではないか」

 

「手を組めと言うのかの。この老骨に何ができるというわけもあるまいに、ぬしらはもう衛宮の倅がいるじゃろう?」

 

(こちらの同盟はすでにバレているか……)

 

 

 動揺を隠し、バーサーカーは意識してそれを聞き流す。

 

 

サーヴァント(手駒)がいるだろう。今回の聖杯戦争のアーチャー、あれを倒すにはどうしても頭数が必要だ」

 

 

 臓硯は、言い切るように語気を強めるバーサーカーを一瞥する間に頭を巡らす。

 

 

 こちらの手札にライダーがいると本当に気づいているか、あるいはハッタリか。

 

 ここでこの目の前の薄汚れた騎士の同盟に乗るか乗らないかを口に出せば、言外にこちらがサーヴァントを保有していることを認めてしまう。それは面白くない。

 

 

 舌戦による一瞬の場の膠着が生まれた時、その場に上擦ったような声が響く。

 

 

「へぇ! つまりは遠坂から同盟の誘いってことかい」

 

 

 臓硯が渋い顔をして何かを言いかける前に、現れた人物にバーサーカーは先んじて声をかけた。

 

 

「そういうことだ。貴殿がマスターか」

 

「あぁ、そうだ。僕が間桐のマスターだ」

 

 

 自信に満ち溢れた態度で宣言する少年。

 

 間桐慎二は、バーサーカーが欲しがっていた情報を見事に見せてくれた。

 

 

「慎二、お前は家に戻っておれ」

 

 臓硯の表情からは既に、感情のおこりは読み取れない。バーサーカーは更なる情報を引き出すために畳みかける。

 

 

「いや、慎二殿がマスターなら、まずは彼に通さなければいけないだろう。私はバーサーカー、遠坂凛のサーヴァントだ」

 

 

 バーサーカーは、敬意を込めた礼を取りながら挨拶をする。

 

 

「あぁ、僕が間桐の魔術師。おい、出て来い、それでこいつがライ……」

 

 

 慎二の傍らに人影が浮かび上がる。彼はその礼に答えようとするが、流石に臓硯の横やりが入った。

 

 

「慎二、みだりに手の内を相手に見せるな」

 

 

 

 目の前に現れた、長髪長躯の女。

 

 

 その姿は黒に統一され、見えているのかも知れぬ両目を隠す眼帯を着けていた。

 

 

(怪物か)

 

 

 バーサーカーは、相手が正道に立つ者ではなく、化生の類であると直感した。

 

 すらりとした肢体、隠者のような身のこなし、隠れている筈の顔から感じる、ねめつける様な目線。

 

 バーサーカーは、目の前の女を蛇のようだと分析する。

 

 

 

 

(リン。あの蛇女、どうやらとんでもない化け物らしいぞ)

 

(あなたから見たら、他のサーヴァントは皆そうでしょうね。変なことを考えず、情報収集だけに専心しなさい)

 

 

 例のごとくバーサーカーの深い分析は、彼の稚拙な表現によって凛には伝わらない。

 

 

「見事なサーヴァントだ。もしやあの緻密な結界は彼女が?」

 

「あぁ、アレ? まぁ、ちょっとした保険でかけておいた…」

 

「慎二、三度は言わん。家に戻れ」

 

「でも、おじいさま」

 

「…………」

 

「……はい、おじいさま」

 

 

 臓硯が睨むと、慎二は一瞬悔し気に顔を歪めるが、こちらに顔を向ける時にはにやりと笑っていた。

 

 

「遠坂に伝えておけ! 同盟の話はまた今度、君の家で話し合おうじゃないか!!」

 

 

 最後にそう伝えると、軽やかな足取りで慎二は館の中へと消えていこうとする。

 

 

「待て、今私たちは衛宮士郎の家に逗留している。来るならそちらのほうに来てくれ」

 

「は!? なんで遠坂が衛宮の家に!?」

 

(……臓硯の知っていることは少年に伝わっていないのか。しまった、不用意だったな……)

 

 

 誤魔化そうにも、何かを話そうとする間もなく、館の扉が勝手に締まる。

 

 

「見苦しいところを見せてしまったわい。今日はここでお開きとしていただきたいが、よろしいかな」

 

「えぇ、わかりました。こちらから伝えたいことは伝えましたので」

 

 

 

 

 バーサーカーは情報的に大きな収穫を伴って、帰還することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの道すがら、凛は念話越しに溜め息を吐く。

 

 

(……呆れた。あいつ、マスターの自覚あるの? こっちの欲しい情報がほとんど手に入っちゃったわ)

 

(リン、油断するな。前も言ったが……)

 

(敵を甘く見るなでしょ。でもアレは酷すぎるわ、ただの間抜けよ)

 

(あれが演技だったら私たちが間抜けになる。それに真偽はどうであれ、ああいう自信があって熱くなりやすい男は決して自分を曲げない。往々にして、受けた恨みは決して忘れない気質もある。気をつけろよ)

 

(つまり、しつこい男ってことでしょ。安心して、私はそういうのばっさり切り捨てられる女だから)

 

(そうか)

 

 

 そういうところが心配だと思ったバーサーカーだったが、彼の経験から生み出した対凛の戦法によれば、彼女の性格を指摘することは下策なので曖昧な返事をするに留める。

 

 

(それでどうする。口から出まかせとはいえ、向こうは同盟に乗り気だったぞ)

 

(そうね。士郎にも許可は取ってないし、正直に言うと士郎以上の足手まといになる予感しかしないわ)

 

(士郎は反対しなさそうではあるがな)

 

(……どうしたものかしら。確かにアーチャーを倒すには、囮だろうと居てもらったほうがいいんでしょうけど。アイツ、士郎と違って信用できないのよね)

 

(そうか? 向こうはマスターのことにかなり興味を持っているようだが)

 

(ないない、どうしてそんなこと思うのよ?)

 

(最後の別れ際、すぐにでもまた会いに来そうな勢いじゃなかったか)

 

(まさか、私のことが好きじゃあるまいし。人の機微なんてアンタみたいな朴念仁にわからないでしょうけど)

 

(む……、まぁ確かに……)

 

 

 逆に言えば、バーサーカーでも分かる位には慎二の好意は分かり易いものであったが、当の本人が違うというなら違うのだろう、と言い訳できぬほど心の機微に疎い彼は納得した。

 

 

(しかし、同盟云々よりも、問題はあの老爺だ)

 

(臓硯のこと?)

 

(あれは滅しておいた方がいい。あの時、あの場で殺しておいてもよかったぐらいだ)

 

 

 普段のぼんやりとした会話と違い、確信を持って話すバーサーカーの冷たい声に、凛は怯む。

 

 

(殺すって……、場合によっては敵対することもあるでしょうけど、相手は御三家よ。それに、慎二と同盟を結ぶならそれはできないでしょう)

 

(同盟は結局結ぶのか?)

 

(士郎にも話を通さなきゃだし、あぁもう……、受けるにしても断るにしても、桜にもどう説明すればいいのよ)

 

 

 

 あぁだこうだと意見を交わしながら、衛宮家の玄関につく。

 

 

 

 しかし、そこには既に人影があった。

 

 

 

「やぁ、バーサーカー。僕もちょうどここに来たところなんだ。さっきはそっちが急に来たんだ、案内してくれよ」

 

 

 

 何か感情を押し殺したように、震えた声を出す間桐慎二がそこにいた。

 

 

(……やはりマスターとなにか因縁があるんじゃないか?)

 

(あっ……、そういえば私アイツに告白されたことあったんだった……)

 

 バーサーカーは、少し恨みがましく凛に言う。

 

 

 

(朴念仁でもそれは忘れないんじゃないか……?)

 

(うっ……)

 

(あれほど自信に満ち溢れていたんだ。リンには心の機微を是非教えてもらいたかったのだが……)

 

(うっ、うるさい、アンタも恨みを忘れないしつこい男ね!?)

 

 

「さぁ、同盟について早く話し合おうじゃないか」

 

 

 さてはて、どうしたものか。

 

 目の前の少年を見下ろしながら、バーサーカーはおそらく自分の思考の遠く及ばぬ、惚れた腫れただの遠い事象に対して、思索を広げた。

 

 

 

 




次回、唐突な修羅場に突入する衛宮家

すれ違う人間模様を家政婦(エミヤ)(家主)は見た。
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