Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

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前話のあらすじ
バーサーカーの口から出まかせにより、自身が凛に同盟の誘いを受けていると勘違いした間桐慎二は意気揚々と遠坂が逗留している衛宮邸に乗り込むが……


8話

 バーサーカーは居並ぶ面々を眺めながら考えを巡らせる。

 

 

 この衛宮邸の前に立つ者はバーサーカーを抜けば、それぞれの陣営のマスター、凛、士郎、慎二の3人である。

 

 喜び勇んできた慎二を家の中に招かずに塞ぐように立つ凛と、それを見て苛立たし気な慎二。

 

 凛の側に駆け寄り、たった今現れたのが士郎であった。

 

 

「正直言うとね。アンタに言った勧誘、私にはその気がないの」

 

「なんだって……?」

 

 

 その言葉に慎二は顔を赤黒く染めた。

 

 

「聞こえなかった? あれはただ、間桐家を探るための方便――」

 

「待て遠坂、待ってくれ、まずは説明してくれ!」

 

 

 爆発しそうな慎二の顔を見たのか、あるいは自分の与り知らぬところで動いている話に慌てたのか、士郎は一度凛の言葉を差し止めて、場の状況を理解しようとしていた。

 

 

「……今日、間桐の家をバーサーカーに探らせたわ。そうしたら見事に慎二がマスターだったことをゲロったのよ。その時バーサーカーが適当な出まかせを言ったおかげでこいつがノコノコとこっちの敵陣に来たわけ」

 

「ふざけるなよ遠坂……!」

 

 

 凛の言いように慎二は両脇の拳を腿の脇で握りしめると、彼女を睨み返す。

 

 

「ま、待て遠坂、慎二はこちらに協力できると思ってこっちに来たんだろう? なら――」

 

「甘いわね士郎。学校で話したあの結界はコイツの仕業よ、そんな奴を私は信じられないわ」

 

 

 学校に張られた結界、中の人間の命を収奪する邪悪な檻、その存在を告げられた時には士郎も憤慨していた。

 

 

「……本当か慎二?」

 

 

 それを目の前の友人が行ったと聞き、彼はほんの少し驚いた後すぐに真剣な眼差しで慎二を見る。

 

 だが、当の本人はそんなことは眼中にないのか、凛だけを見つめながら薄笑いを浮かべていた。

 

 

「勘違いするなよ衛宮、僕だって巻き込まれたマスターさ。しかも同じ学校に血の気の盛んな御三家だっているんだ。脅しのための仕込みをするのは当然だろ?」

 

「なら今すぐその結界を解除しろ慎二、話はそれからだ」

 

「おいおい、話を聞いてたのかよ衛宮? 遠坂は僕を信じない、つまりは敵対して僕を害するって言ってるんだぞ? それでどうして僕が結界を解除すると思ったんだい。僕は話し合いに来たんだ、君が遠坂と同盟ならまず、こちらを睨んでくる彼女をどうにかしろよ」

 

 

 慎二の言葉は身勝手なものであるが、わずか一欠けらの理が無いわけでもない。士郎は凛の顔に目を向ける。

 

 

「慎二、謝罪じゃないけど言っておくわ、一応最初の一人目ぐらいは私でも少し引きずるかもね、――バーサーカー」

 

 

 何の気負いもない顔、これは必要であるからやらなければいけないという割り切り、その表情を見た瞬間に士郎は彼女がこれから何をするつもりかを理解した。

 

 

「待て! 遠坂――」

 

 

 その言葉を言い切る前に、自身の名を呼ばれたバーサーカーは既に幽鬼のように慎二の後方で長剣を振りかぶっていた。 

 

 

「ヒッ……!!」

 

 

 短い悲鳴を漏らす慎二は硬質な金属同士がぶつかり合う音に身をすくませる。

 

 

「……交渉は決裂しました。慎二、ここは逃げるしかないでしょう」

 

 

 バーサーカーの一閃は突如現れた女の二丁の短刀、その柄が鎖でつながれた奇妙な獲物に阻まれた。

 

 全身が黒に染められた長髪長躯の女、その目すら黒い眼帯で塞がれている。

 

 

「逃がすと思うのか?」

 

 

 バーサーカーは鍔迫り合いをしながら眼帯越しに女の目をのぞき込む。その奥にある何かをかぎ分けるように。

 

 

「気味の悪い男ですね……」

 

 

 両手で力を籠めるバーサーカーの長剣を片手で弾いた女は、脇にいた慎二を抱えながら飛び下がる。

 

 

「セイバー、私が足止めしながら前に出る。機を逃すな、必要なら私ごと斬れ」

 

 

 それに追いすがるバーサーカーは片膝をついて拳を握りしめると、彼を中心に光が広がる。

 

 

「な、なんだよこれ、足が縺れて……、ライダー! おい、何とかしろよ!!」

 

「妙な技を……」

 

 

 直ぐに追い打ちをかけるバーサーカーの剣戟を片手間に受け流しながらも、足を止めてしまったライダーは舌打ちをする。

 

 

 祈祷『緩やかな平和の歩み』。

 

 

 今、広がる光の内にいる者達の足捌きが緩慢なものとなっていた。

 

 

 これは、ある辺境の奇跡の一つ、効果範囲内に居る者のすべての歩みを遅くする。

 

 歩みを遅くするだけで、行動は制限されないため、大抵は逃げるために使われるであろう奇跡である。

 

 あるいは平和とは、つまりまったくそれでよいのかもしれない。

 

 

 ……だが不死人達にとって、その祈祷の主な使用方法は真逆。

 

 

 相手の歩みを止め、己から離れる敵を留める呪いの類、数で勝るこちらで囲むために行う悪辣な術、本来の不戦の願いを踏みにじる卑なる業。

 

 

 あるいは闘争とは、つまりまったくそのようなものであるのだ。

 

 

「了解したバーサーカー」

 

 

 いつの間にか現れていた本物の騎士に相応しいセイバーは、円の外側から虎視眈々とライダーの首を落とす一瞬を見極めている。

 

 

「……面倒ですね」

 

 

 その圧に気をとられたライダーの隙を狙い、鎧と盾で固めたバーサーカーの剣がマスターである慎二へと振るわれようとする。

 

 それを咄嗟に防ごうとするライダーを見て、バーサーカーはその軌跡を無理やり捻じ曲げ、彼女の首筋へと向けた。

 

 見え透いたフェイント、その一撃を捌くのは今のライダーでさえ容易い。だが剣の重みに反してあまりにも重厚な殺意が乗っているのをライダーは感じた。

 

 

蛇の怪物(ライダー)、その在り方を歪められた貴様には同情するが、ここで死ね」

 

「黙りなさい気狂い(バーサーカー)、貴方の様な化け物にそう言われる筋合いはない」

 

 

 切り合う両者を見る周囲、その中で士郎は突然突入した争いの中で動けずにいた。

 

 

「みんな待ってくれ! まだ慎二とは争うと決まったわけじゃ……!」

 

「いいえシロウ、これは聖杯戦争です。敵の拠点にマスターとサーヴァントが単騎で乗り込んでくるなどという好機、これを逃す手はありません」

 

「そういうこと。騙す形になったのは悪いけど、敵のサーヴァントはここで倒し切る。そこで運よく慎二が生きてたら……、話し合いはそこからよ」

 

 

 

 士郎の言葉は響く剣戟の音によって流されてゆく。

 

 膂力の劣るバーサーカーはライダーの脇にいるマスターを狙い続け、ライダーに防戦を強いながら時に厭らしく彼女への一撃を狙う。

 

 いっそマスターをどこぞへ投げ飛ばそうとも思ったライダーであるが、バーサーカーのマスターがこちらへ無感情な目で指さす姿を見るに、その手を使えば慎二の命運はそこで尽きることになるだろうと分かっていた。

 

 ライダーの目の前にいる襤褸騎士の皮を被った男は、まるで本物の騎士であるかのように後ろに控えるセイバーへ、その勝機を捧げるためにライダーを揺さぶり続けている。

 

 

 ありていに言えば完全なる詰み。

 

 

 目の前の男に負けるようなことなどはないが、このままではライダーはセイバーにより、一刀のもと、その胴と頭を分かたれることになる。

 

 

「仕方がないですね」

 

「ワグッ……」

 

 

 ライダーは慎二の顔面を乱雑に掴み、その眼帯を引き上げた。

 

 

 その目は余りにも血に濡れた赤。目とは洞であり、その奥は吸い込まれるほどの伽藍洞。

 

 その目に見られた者の息すらも止めさせ、体を石くれへと変貌させる石化の呪い。

 

 

 その発動前に反応し、咄嗟に目を背けながら宝石を足元に叩きつける凛。唯一動けたセイバーは士郎の体を隠すように身を滑らせる。

 

 

 そして当然、その真正面にいたバーサーカーは、その目線を全身に受けていた。

 

 

 硬直する体、息すらおぼつかぬまま、体の端からベキベキと音を立てて登る呪いの気配。

 

 

「バジリスク共の呪死に似ている……、なるほど、やはり貴様はそういう類の怪物か――」

 

 

 己の死を顧みず、最期のその時までライダーの目を不気味に見据え続けるバーサーカー。

 

 

 目に石化の呪いを持つ英霊など、知るものが知れば一発でその真名を看破できてしまうほど、かの悪名は後世まで伝わっていた。

 

 だが、バーサーカーはその怪物の名を知らずとも理解していた。

 

 ライダーが感じた己の心の裡を覗かれるような不快で粘つく視線。

 

 完全に石化したその目がこちらをまだ覗いているような感覚に陥り、ライダーは腕を前に振るい、握り込んだ短刀の柄で男の上半身を砕いた。

 

 

「うわぁッ!!」

 

 

 慎二を抱え、唯一呪いに抗えない士郎を見つめながら、ライダーは大きく後退した。

 

 

「き、急に動くな馬鹿!! ……あれ、遠坂のサーヴァント……、は、はは! おい!! 遠坂のサーヴァントを倒してるじゃないか!?」

 

「……さぁ、どうでしょうね」

 

「どうだい遠坂! お前のサーヴァントより僕の方が強かったみたいだ!! ハハッ、今なら謝れば許してやってもいいんだぜ!!」

 

 

 慎二は悦に浸った表情で叫ぶが、ライダーは魔眼に抵抗できない士郎を見つめ続けながら、じりじりとこの場から脱する機会を伺っていた。

 

 

「凛、シロウを頼みます。敵の手の内はバーサーカーが明かしてくれました。あとは私だけでやれる」

 

「相手の真名はおそらく “メドゥーサ” よ。気を付けてセイバー、相手は神代の怪物、そんな奴の隠し玉(宝具)ともなればその神秘は計り知れないわ」

 

 

 メドゥーサは、ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹、その三女であり末妹。

 

 ギリシャ圏において有数の怪物であり、その名を後世に轟かせる反英雄。

 

 

 その真名を明かされたライダーは既に戻した眼帯、その奥の目を細める。

 

 

「そうですね、私の宝具を用いれば、この場にいる全員を屠ることなど容易い」

 

「そうだ! お前たちを倒すくらいなんて僕にかかれば訳ない――」

 

「ですので、ここは手打ちということにはならないでしょうか?」

 

「は? な、何を勝手なこと……! これは命令だライダー! 倒せるなら今ここでやれ!!」

 

 

 慎二は懐から取り出した本を広げるとライダーに命令をする。

 

 だが、ライダーは苦し気に息を吐くと、口の端から血が垂れる程に歯を噛み締め、無表情に慎二を見た。

 

 

「……慎二、無駄な体力を浪費させないでください。家主の方、たしか士郎とおっしゃいましたか? 貴方もこの家が更地になることは望まないでしょう?」

 

「だから僕を無視するんじゃ――」

 

 

 士郎は、今この衛宮邸に誰がいるのかを思い出した。

 

 慎二がこの家に訪れた時、この戦いに何の関係もない桜は凛の魔術で突然眠らされたが、この戦いの被害が広がれば、彼女に危険が差し迫ることに気づいた士郎は歯噛みする。

 

 

「先ほどのアレは退けられても、セイバーは違います。流石最優と呼ばれるサーヴァント、私の魔眼では動きを鈍らせるのが精々です。地力も相手が勝っています。……もちろん全てを賭して戦えとば負ける気はありませんが、その場合この一帯で誰一人生き残りません、貴方も含めです慎二」

 

「……うっ」

 

 

 その一言に慎二は怒りを収めると、士郎を見下すように見つめる。

 

 

「まぁいいさ、元から僕は話し合いのつもりで来たのに襲ってきたのは向こうだ。交渉と行こうじゃないか、衛宮」

 

 

 士郎は慎二と視線を交差させる。

 

 

「……分かった。だが俺の言い分は変わらない。まずは学校の結界を解け、慎二」

 

「またその話かい。まっ、アレは単なる保険さ。別に解いてやってもいいんだけどね」

 

「なら――」

 

「あのさぁ……、話し合いにきた客を外に立たせっぱなしってのはどうなんだい?」

 

 

 居丈高に話す慎二に、士郎は表情を変えずに屋敷の方に顔を向けた。

 

 

 

「……付いてこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮邸の居間に向かい合って座るマスター達とその後ろに控えるサーヴァント、霊体化しているライダーは見えないが、セイバーは士郎の後ろに控えて立っていた。

 

 

「えっ、兄さん、なんでここに……」

 

「なんで桜にそんなこと聞かれなきゃいけないんだ。僕がどこにいようと僕の勝手だろ」

 

 

 まさに今起きたばかりと言った様子の桜の驚きの声に、慎二は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

 

「桜、悪いんだけど早めに間桐の家に帰ってくれないかしら。私達今から大切な話をするの」

 

「えっ……」

 

「いや遠坂、言い方……。悪い桜、ちょっと人に聞かせられないような、かなりプライベートな話なんだ。帰りは送るから別の部屋で待っててくれないか?」

 

 

 様子を見ていた慎二はそのやり取りを面白そうに眺めていた。

 

 

「なんだ、別にいてもらって良いんじゃないか衛宮?」

 

「……冗談はやめろ」

 

「はっ、そんなにマジになるなよ。僕だって同じ気持ちさ、……おい桜、お前には関係ないことだ。さっさと席を外せ」

 

「…………はい、兄さん」

 

 

 桜は顔を俯かせると、そのまま静かにその場を後にする。

 

 

「で? 衛宮は僕に提案をするわけだけど、それって僕に得がある話なんだよな?」

 

「慎二、これはそういう話じゃない、話し合う前提としてお前がそんなことをする奴じゃないと俺に信じさせてくれ」

 

「相変わらず話の通じない奴だな。いいかい、僕が言ってるのは――」

 

「慎二、お前は無関係な人を危険に晒すような人間、つまり敵なのか?」

 

 

 士郎の一言で、慎二は言葉を続けるのを止めた。

 

 

「……衛宮さぁ、だからお前は薄気味悪いんだよ。はいはい、わかったよ。消せばいいんだろ。ライダー、結界を解け」

 

「あぁ、こういう手を使うのは止めてくれ」

 

「ライダーの結界は一度張ったところは二度は張れないらしい。信じるかどうかはそっちの勝手だけど、これで学校は安全ってわけさ」

 

 

 士郎はホッと一息つくが、慎二は話は終わっていないといった風にちゃぶ台に肘をつく。

 

 

「僕は自分の安全の為にあの結界を張った。で、衛宮は無理やりそれを解除させたわけだけど、その補填はもちろんあるんだよな?」

 

「……何が望みだ?」

 

「なに、衛宮が僕と手を組めばいい」

 

「それ、本気で言ってる?」

 

「あぁ、衛宮は単純な奴だけど、馬鹿ってほどじゃない。度胸もそこそこ、まぁどうでも良いけど最低限信用できる奴だからね、それにしても……」

 

 

 会話に割って入る凛を見て、慎二は鼻で笑う。

 

 

「そもそも遠坂、サーヴァントを失った君にはもう関係ない話だろ?」

 

「えぇ、そうね。でも衛宮君、()()()今後を考えるならこの提案、受けるべきじゃないわ」

 

「そんなに聖杯が欲しいのかい? 気を付けろよ衛宮、遠坂だっていつお前の背中を刺してくるのか分からないんだぜ? まぁ、遠坂がよかったらこっちのアドバイザーくらいはさせても――」

 

「それはないわ、これは衛宮君が私と慎二のどっちを選ぶかって話だから」

 

「……むっ」

 

 

 突然というわけではなかったが、話の当事者である士郎に選択肢が与えられる。

 

 あるいは衛宮士郎という人間は、この選択というボールを握らされることが多い人間なのかもしれない。

 

 

 遠坂と組むか

 

 慎二と組むか

 

 

 この二択を考え、士郎にとって当然の選択肢は遠坂との同盟を続けることだ。

 

 慎二は知らないが、バーサーカーは死んでなどいない。既に交わした凛との約束を反故にして慎二の側につくことは躊躇われる。

 

 ならば、慎二の提案を無下に断るべきかと聞かれれば、それが正しいと言えるほどの確信を士郎は持てなかった。

 

 多くの隠し立てをしながら一方的に断ることもそうだが、もともと騙し討ちのような形になってしまったのはこちら(バーサーカー)が原因でもある。

 

 士郎としては今までの行動で疑うべき面は多くとも、凛が慎二の提案を認めれば同盟自体は断りはしなかっただろう。

 

 

「凛、慎二との同盟はそんなに嫌か? 慎二の方は気にしてないみたいだが」

 

「獅子身中の虫を飼って生き残れるほど、この先の戦いは甘くないわ」

 

「そうかい? 僕には案外、衛宮を利用したいのは君に見えるけどね」

 

「それは当然でしょ。相互に利益があって組むのが同盟、貴方にはそれがないもの」

 

「まてまて、二人とも俺を置いて言い争うな」

 

「はぁ!? そもそも衛宮君がさっさと決めないからでしょ」

 

「衛宮の癖に色男を気取ってさ、いいから早く答えろよ」

 

 

 ヒートアップした両者を落ち着かせようとした士郎は手痛い指摘を受けながらも、自身の考えを話す。

 

 

「実際、同盟ってのは悪くないと思うんだ。例えばアーチャーのサーヴァント、正直に言えば俺と遠坂だけで倒せるか?」

 

「それは……」

 

「一時の目的を達成するまでの共同戦線、それなら納得できないか」

 

 

 士郎の言葉に凛は不満の表情をありありと映しながらも、その提案の損得を彼女は考え始める。

 

 

「ふーん、アーチャーのサーヴァントねぇ……まっ、一対一で勝てなくても二人がかりなら分は悪くないんじゃない?」

 

「……そんな次元の話じゃないわよ」

 

 

 独り言ちる凛の言葉をどう解釈したのか、慎二はニヤつきながら話す。

 

 

「まぁ、悪気はなくとも遠坂のサーヴァントは僕が倒しちゃったからね」

 

 

 そんな軽口に、士郎は至極真面目な表情で慎二を見た。

 

 

「慎二、この同盟は遠坂が認めてくれることが前提だが、それに加えて俺がお前と組むとして、絶対に約束して欲しいことが一つある」

 

「へぇ、それはなんだい?」

 

「さっきお前が俺の家を吹き飛ばしかねない宝具を発動しようとしたことを覚えているな?」

 

「そりゃね、だけど悪く思うなよ? 先に手を出してきたのはそっちだ。正当防衛さ、僕を責めようなんてお門違い――」

 

 

 

 

「お前はこの家に誰がいたか知ってたはずだ。この戦いに桜を……、他人を絶対に巻き込むな」

 

「…………はっ」

 

 

 

 

 有無を言わせぬ圧力。

 

 虚偽も裏切りも許さない、それを行えば衛宮士郎は全身全霊をもってその行いを処断するという絶対の意思を伝える。

 

 

 慎二も士郎とは長い付き合いである。

 

 彼の異常性に気づいている者の一人だ。

 

 恐らくその誓いを破ればこの男は誰であろうと()と断じると慎二は知っていた。

 

 

「巻き込むな、ねぇ……」

 

「答えろ、慎二」

 

「いいよ、僕だって馬鹿じゃない。向こうから首を突っ込まない限り巻き込みはしない。これでいいかい」

 

「よかった。遠坂は……」

 

 

 そうして士郎が肝心の凛へ確認を取ろうとすると、不意にこの室内の中で魔力が集まり出す。

 

 

「ライダー、誰が出て来いって言った?」

 

 

 いきなり姿を現したライダーは、静かに士郎を見つめていた。

 

 セイバーの手が、剣の柄に掛かる。

 

 

「害するつもりはありませんよ」

 

 

 だがライダーはセイバーの殺気を無視し、あまつさえ背中を見せながら士郎の元に歩み寄る。

 

 

「な、なにさ」

 

 

 平均的な高校生の身長よりわずかに低い士郎。それを優に越す上背を持つライダーは、のぞき込むようにその頭からつま先を舐めるように眺め出したので、士郎は思わず後ずさる。

 

 近くで見れば、ライダーのその肢体は人間離れしていた。

 

 体のラインが分かるその装いはその芸術品のような艶やかな体の美しさが、その顔からは目隠しの上からでも彼女の輝く美貌の光が漏れ出していた。

 

 士郎はメドゥーサの逸話として、海神であるポセイドンが愛してしまうほどの美貌を持っていたという話を思い出してしまう。

 

 

「貴方、面白いことを言ってましたね。この聖杯戦争で他人を巻き込まないなんて綺麗事」

 

「……悪いが曲げる気はない。その一線を越えたら、アンタとも俺は戦う」

 

 

 だが、その一言で彼の体に黒鉄の芯が入ったかのように、彼女を見返した。

 

 

「その言葉、あなた自身も違えることは許しません」

 

「あぁ、当然だ」

 

 

 厳かな誓いを求める女神のようなライダーに、士郎は間髪を置かずに答えた後、彼自身が向こうに求めているというのに、逆に彼女がこちらを測っていたという奇妙さに気づく。

 

 しかし、その疑問を問いかける前に彼女はするりと目の前から離れ、つまらなそうな表情をする慎二の後ろに控えてしまう。

 

 

「それで、私を無視してどんどん話は進んでいるんですけど」

 

 

 そして士郎は、横から聞こえる棘を含んだ声を聞いて我に返った。

 

 

「鼻の下伸ばしちゃって」

 

「いや、伸びてないだろ」

 

「セイバーは見てたわよね」

 

「男性としては自然なことかと」

 

「セイバー……!?」

 

「衛宮さぁ、相手はサーヴァントなんだぞ?」

 

 

 そのまま大きな声で異を唱えたい士郎であったが、話を元に戻す為に私心を押し殺した。

 

 

「それで遠坂は――」

 

「変わらず慎二のことは信用できないわね」

 

 

 今までの話し合いをすべて無に帰す言葉を言い切ってしまい、強烈な徒労感を覚える士郎であるが、しかし彼女は言葉を続けた。

 

 

「でも、コイツ、ほっとくと何しでかすか分かんないのよね。それにアーチャー陣営への包囲網という考えは悪くないわ……。でも同盟の条件は詰めた方がいいわね、セルフギアススクロールとまでは言わない……、というか慎二は魔術刻印がないから出来ないか。……とにかく魔術的な宣誓は互いにしてもらわないとね」

 

 

 その言葉に苦虫を噛みつぶした慎二は多分な嫌味を彼女に向ける。

 

 

「脱落したマスターが偉そうに、戦うのは僕と衛宮だぞ、君はそのオブザーバーみたいなもんじゃないか」

 

「あら、私のバーサーカーはまだいるわよ」

 

「なに? 遠坂のサーヴァントは消えた筈じゃ……」

 

 

 慎二の困惑した顔に、凛は多少の溜飲を下げ、少ししてめまいを覚えたかのように眉間を揉む。

 

 

「驚く前に言っておくとね、士郎には隠してもらってたんだけど、私のバーサーカーは不死身なの。……その分戦力は劣るけどね、いや、そこはどうでも良いんだけどソイツ――」

 

「そんな馬鹿な話が……、本当かよ衛宮? 遠坂の嘘じゃないだろうね」

 

 

 凛の話の途中で、そんな話は信じられないといった慎二は士郎の方を見るが、彼は歯切れ悪く話し出す。

 

 

「その、なんだ。少し個性的……、いや奇抜というか……、独特というか……」

 

「かまわないわ士郎。正確に気違いと表現すればいいわ。まぁ見た方が早いかしらね……、出てきていいわよバーサーカー」

 

 

 脅したつもりではないが、非常に気まずそうにする士郎と自分のサーヴァントとは思えない評価を下す凛の言葉に、慎二は今に来るであろうバーサーカーを警戒する。

 

 

「話は纏まったようだな」

 

 

 しかし別にバーサーカーは宙から浮かび上がるわけでもなく、ペタペタと足音を響かせた後、凛の後ろから、襖を開けて普通に入ってきた。

 

 

「ギャッ……! ウッ……、な、なんだその悍ましい顔は」

 

 

 慎二は凛の後ろに現れた男の顔を見て悲鳴を上げかけたが、何とかそれを飲み込んだ。

 

 

「これは“亡者の皮” という私の持つ装備の一つだ。安心しろ、本物に見まがうほど精巧だが作り物だ。死臭もしないだろう? 」

 

 

 その顔は顔面が腐りとけ、目も溶け落ち、歯も乱杭歯と言った亡者の顔貌。

 

 例え作り物と言われようが、それを見ただけで吐き気を感じるほどの造り込み、本物を感じさせる狂気じみた執念を感じさせる。

 

 

「な、なんでそんな気色悪い被り物を付けてるんだよ、お前」

 

「万が一のため、私が持つ中で最も呪死耐性の高い装備を付けて待っていた。だが、休戦となるなら今のところはコレは不要か」

 

「き、気色悪い顔をこっちに向けるな!!」

 

「これを被っていると色々と見えるものも広がるから、便利ではあるんだがな」

 

「バーサーカー、それを被って私の視界に映ったら許さないから。今すぐ外しなさい」

 

 

 バーサーカーの被り物とは違えども、死んだような表情を浮かべる凛は、有無を言わせぬ圧力でバーサーカーへ言い放つ。

 

 その言葉で渋々と言った様子でバーサーカーは亡者の皮を手ずから取り外した。

 

 

「……全く、おまえ、頭おかしいんじゃ……、ギャアァァァァッ!!!!」

 

 

 そして怪談よろしく、その面の下に現れる本物の亡者の顔貌に、慎二は堪え切れずに叫び声をあげた。

 

 

「しまった。暗い偽りの指輪を呪い咬みの指輪に変えているのを忘れていた」

 

 

 その叫び声に、凛の眉間の皺はさらに深くなった。

 

 

 もしやこんな奴が自分のサーヴァントと紹介したくないから、同盟を拒んでいたのではないかと、自分ですら納得しそうな理由を思いつき、彼女は重いため息を吐いた。




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