Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

9 / 10
9話(前編)

「負けたサーヴァントが聖杯に回収されないでもう一度現界するなんてあり得るわけないだろ、そんな無法が許されるなら聖杯戦争のシステムが壊れてしまうじゃないか! ……何かの宝具か? それとも本体は別の場所で高見の見物でもしてるんだろう?」

 

 

 捲し立てるように詰め寄る慎二に、そんなことを言われても己に分かる筈がないだろうとバーサーカーは肩をすくませた。

 

 

「私からすれば私以外のサーヴァント達の方が強すぎて無法と感じるが……」

 

 

 凛すらも大いに感じていた、バーサーカー最大の謎。

 

 バーサーカーがサーヴァントとして呼ばれた以上、絶対に遵守されなければならないルール、当然凛も聖杯戦争と並行して調査してはいた。

 

 バーサーカーを召喚した時に現れた篝火。あれが怪しいのではと凛は初めに考えていたが、複数現れることを考えればこれもどこか違う。

 

 彼女が詳しく篝火を調べたところ、バーサーカーの出現により、魔力に近い何らかの力を持つ篝火にその増減は見られていない。

 

 本体というよりはバーサーカーの存在をこの世界に縫い留める一種の楔、と言った方が正確ではないかと彼女は感じていた。

 

 現状バーサーカーについて分かることは少なく、恐らくバーサーカーは死んだ後に聖杯ではなく、あの篝火に引き寄せられて体を再構成されているのではないか、と凛は考察していた。

 

 だが、その情報を敢えて慎二に伝えることはしなかった。

 

 

「……まぁ、そのおかげかもしれないけど。サーヴァントとしての性能は目も当てられないけどね」

 

 

 バーサーカーは不機嫌さを隠さない凛の目線に晒され、針の筵であった。

 

 

「遠坂、慎二にバーサーカーのことを話したってことは、遠坂はこの同盟、受けてくれたと考えていいのか?」

 

「保留よ保留、信用できないって考えは変わらない。停戦には応じてもその先は別よ、実際戦えるかも怪しいわ」

 

「ハッ、少なくとも遠坂の弱すぎて役立たないサーヴァントよりはマシさ」

 

「……とりあえず今は争う理由はないってことでいいんだな二人とも」

 

 

 纏まりかけた話がご破算になる前に、士郎は強引に話を進めた。

 

 

「今日はもう遅い、桜を家に送らなきゃいけないし。……詳しくは明日話さないか? 俺達が何を知っていて、何ができるかもバラバラなんだ。何も一日で決める必要はないだろう」

 

 

顔を見合わせる凛と慎二。いい加減に不機嫌な顔を続けるのにも疲れたのか、凛は顔を背けてしまう。

 

 

「慎二、今日の所は桜と一緒に帰ってくれ、いいな?」

 

 

 慎二は士郎に返事をせずに顔をしかめるだけだが、士郎はさらに念押しにと言葉を続ける。

 

 

「……今は物騒な時期だ。桜を送ってくれ」

 

「……知らないよ、あんなトロ臭い奴。そもそも狙われるのはマスターの僕だ。一緒に帰った方が危ないんじゃないか」

 

 

 慎二の言いように士郎は声を上げそうになるが、一拍おいて慎二の言葉の全てが間違いであるわけではないと考え直し、口を閉じてしまう。

 

 

「行くぞライダー」

 

「…………」

 

「早く来い、マスターの命令だぞ!」

 

 

 そのまま一人で歩き出してしまう慎二。サーヴァントであるライダーは少しだけ部屋にとどまった後に、空に掻き消えた。

 

 

 

 嵐が過ぎ去ったような心地になった士郎であるが、慎二は肝心の桜を一人残して帰ってしまった。

 

 ならばどうするかと考えた時、士郎は当然のように腰を上げる。

 

 

 

「なら俺が桜を送って……」

 

「シロウ、それでは私も同行します」

 

 

 その様子を見て、凛は呆れたように半目で士郎を見た。

 

 

「こんなこと毎度するわけ?」

 

「いや、今日は偶々で、仕方がないだろ」

 

「慎二の言ったこと、まるで的外れってわけじゃないわ。マスターが固まってる場所にあの子を置くのは逆に危険……はぁ、慎二が来なかったら今頃あの子を説得してたって言うのに」

 

「……説得?」

 

 

 凛はそう言いながらため息をつくと、部屋を出るために襖に指をかけた。

 

 

「どこに行くんだ遠坂?」

 

「あの子の所。しばらくは士郎の家に寄らないで、間桐の家で大人しくしてるように言い含めておくの」

 

 

 確かに、今後のことを考えればこの聖杯戦争が終わるまでの間、危険の真っ只中にいるマスターの傍に彼女を居させるわけにはいかない。

 

 士郎も凛の意見に賛成ではあるが、彼の頭の中にはつい先日の言い争いの光景がよぎってしまう。

 

 

「なら俺からも――」

 

「アンタがいるとこじれるの、大人しく座ってなさい」

 

 

 口調は何気ない風を装う凛だが、有無を言わさないという目線の圧力で士郎を座らせた。

 

 

 そして部屋を出る彼女は、さりげなく自分へ目配せをしていることにバーサーカーは気づく。

 

 

「なら私も見張りに戻るぞ」

 

 

 このような視線だけは目敏く気づいたバーサーカーは、続けて部屋を出た後に、凛の背中を追いかけた。

 

 

「なんだ、やはり今から間桐の家を攻めるのか?」

 

「違うわよ。珍しく意図が通じたと思ったら相変わらず斜め上なことを考えてるわね」

 

 

 凛はため息をつくのもいい加減疲れた、といったように呆れながら、背中に控えるバーサーカーへ肩越しに話しかける。

 

 

「このまま、桜には士郎には会わずに帰ってもらうわ。アンタには一応その帰りをこっそり送ってもらうからそのつもりで」

 

「分かった」

 

 

 マスターが命じるなら、バーサーカーがそれに異は唱えることはしない。

 

 バーサーカーは、凛が和室の前で一呼吸ついてから入る様子を見ながら身を隠す準備を進めていく。

 

 

「あ……」

 

 

 部屋の中にいた少女はただ何をするでもなく座り込み、凛を見てその名を呼ぼうとしたまま不自然に口を噤んだ。

 

 

「桜、状況なんて分からないと思うし、私から説明も出来ない。でも何かが起きてることは分かってるんでしょ?」

 

 

 冷たいと思える程の淡々とした口調、その言葉に俯いていた少女の頭はさらに垂れる。

 

 

「……はい」

 

「率直に言うとね、しばらくは外に出ないで家に籠ってもらいたいの。これは貴方の安全の為、士郎も同じ考えよ」

 

 

 彼女は黙り込んだままでその表情は伺えない、その沈黙をどのように凛が捉えたかは分からないが、彼女は言葉を付け足した。

 

 

「……アイツのことが不安? 私がついてる。心配はないわ」

 

 

 バーサーカーは確約できないことを口に出すなど彼女らしくもないと思いながら、自身に魔術をかけ、指輪を嵌め直してその存在を薄くさせていく。

 

 

「そ、う……、ですね、()()()()()()()()()安全ですよね、……だって遠坂先輩ですもの」

 

 

 凛はその言葉を聞いて、胸を撫で下ろす。

 

 

 ――だがバーサーカーはその言葉を聞いて、手が腰に伸びかけた。

 

 

 感情を押し殺した内に巣くう小人の妬心か、いや、そうではない

 

 羨望というには、あまりにも暗い感情の滓。

 

 

 

 

「そう、分かってくれてありがとう。……いい子ね、悪いけど直ぐに間桐の家に戻ってもらうと助かるわ」

 

 

 凛の傍から聞いても安堵が伝わる柔らかい声色のおかげで、バーサーカーは獲物を手に握る前に止まることが出来た。

 

 

「分かりました。先輩をお願いします」

 

 

 顔をあげた時、彼女の顔からは一匙の邪気すら見えない、ただもう一度、凛に深々と頭を下げると、そのまま静かに玄関へと向かった。

 

 

(バーサーカー、桜を頼むわよ。あの子を危険な目にだけは合わせないで)

 

(分かった)

 

 

 バーサーカーは、剣に触れようとした腕を隠すようにそう答え、玄関から出た少女の背を追いかけた。

 

 

 

 

 こうして凛の命令の元、彼女の安全を守るため後ろについていくバーサーカーであるが、彼女は聖杯戦争に何ら関係のない一般人。

 

 そうそう何が起きるはずもなく、先ほど間桐の屋敷に向かった道をそのままについていくだけである。

 

 

 

 バーサーカーは、今にも消えてしまいそうなその背中を眺めながら、間桐桜という人間を観察する。

 

 

(儚げ……、と言えば聞こえはいいがそれよりも薄く暗い、影のように傾き、揺らめいているというのだろうか……)

 

 

 バーサーカーから見ても目の前の少女は何ら敵として恐れるべき点は一切ない。凛から言わせれば、そもそも脅威を測っている時点でバーサーカーを叱責するであろう。

 

 

 だが、バーサーカーはこの少女に畏れにも似た感情を抱いていた。

 

 

 そんな風に己のその感情が何に起因しているかを分析していたバーサーカーの思考は彼女が何かを見つけ、足を止めたことで中断される。

 

 

「兄さん……」

 

 

 道の路傍の壁に背を預けている慎二は、無表情な顔で佇んでいた。

 

 

「でしゃばるなよ桜」

 

 

 その一言に込められた意味を測りかねたバーサーカーであるが、当の少女はそれを聞いて身を竦ませた。

 

 

「いいか、これは僕の聖杯戦争なんだ。なのに視界の端でちょろちょろと……、関係ないお前は何がしたいのさ?」

 

「……それは、兄さんが……、兄さんが先輩たちと戦うから……! 先輩を悪い様にはしないって言ってたのに……!」

 

「あのさぁ……、僕は罠に嵌められて殺されかけたんだぞ? じゃあなんだい、あの時、僕がアイツらの為に死ねっていうのかい?」

 

「そ、そうじゃなくて……!」

 

 

 言葉を詰まらせながら弱弱しく話す少女の姿を見て、慎二はその無表情な顔のまま体を怒りで震わせた。

 

 

「お前、僕がライダーに命令した時、変に抗っただろ?」

 

 

 内側の怒りの感情をグラつかせながら、慎二は桜の前に一歩踏み出す。

 

 

「慎二、それは違います。あの時宝具を開放できる魔力はありませんでした。桜の行動は結果的に貴方の命も救っ――」

 

 

 その両者の間に自身の体を壁のように差し出したライダーをみて、慎二は無言で懐から何かを取り出す。

 

 

「やめて兄さん!!」

 

「誰がマスターだと思ってる。命令だ“退けよライダー”」

 

 

 ライダーは少女の間に立つように慎二と対峙していたが、慎二が取り出した本を握りしめながらその言葉を放った瞬間、その身を罰するように魔力が質量を持ってライダーをいたぶった。

 

 

「グッ……、ハァ……!」

 

 

 苦し気に呻くライダーは紫電に体を貫かれながらも、その場から動かないでいた。

 

 

「ライダー!!」

 

 

 少女の悲痛な叫びを聞きながらも、バーサーカーはそれを静観する。

 

 物事の善悪という話はあるだろう。傍から見れば怒り猛った男が少女に詰め寄るという光景、良識ある者ならその間に割って入る程の危うい空気を孕んだ状況。

 

 

(なにか匂うな……)

 

 

 だが不死人は傍観した。

 

 敵の分析と解体。

 

 己に僅かばかりへばりついた良識よりも、バーサーカーはその歪んだロジックを優先するようにできている。

 

 ……あるいは、それしか残っていないともいえるのかもしれない

 

 

「お願い兄さん……! こんなものならいくらでも兄さんに渡すから……!」

 

 

 今度は逆にライダーを庇うように前に出た桜は胸の前で包む手を苦し気に見ながら、祈るように慎二に懇願する。

 

 

「こんなもの……?」

 

 

 しかし、慎二はその言葉を聞き、体の動きをピタリと止め、感情の抜けた表情を浮かべる。

 

 それを見て、少女は自身の失言を悟った。

 

 

 それは感情が破裂する一瞬の凪。次の瞬間、慎二は怒声を少女に向けた。

 

 

「こんなものだと!!」

 

 

 乾いた音が頬を裂く。

 

 

「キャッ……!」

 

「思い上がるなよ桜! お前ッ……、お前なんて!!」

 

 

 バーサーカーは、その全てを寸分の狂いもなく観察するように視線を這わせる。

 

 恐らくこれはライダー陣営の秘匿を暴くために、必要な“なにか”であるとバーサーカーは嗅ぎ分けていた。

 

 

「捨てたモノを僕が拾ったみたいに言いやがって! 見下してるのか!?」

 

「ち、ちがうの……、私はただ兄さんが……」

 

「その目で僕を見るなッ!!」

 

 

 たったの一撃では気は収まらないとさらに腕を振り上げる慎二。少女はその腕の動きを見て固く目を瞑り、しかしその一撃を受け入れようとしていた。

 

 

「自分が本当のマ――」

 

「待て。それ以上の行動をこの世界の主(マスター)は許さない」

 

 

 だが、その不死人の習性を超えて、バーサーカーは慎二を制止する。

 

 

「惜しかった。……が、リンの命令だ。これ以上、その拳を振るうなら全力で止める」

 

 

 バーサーカーは、彼独自の歪んだ法則性で行動した。

 

 すでに壊れた倫理に使命という欺瞞が吹き込まれれば、バーサーカーはそれを完遂する。

 

 不死人は“そういう”風にできているのだ。

 

 

「この声はッ……、どこに隠れて!?」

 

 

 辺りを見回す慎二は直ぐに音の出所を聞き分けると、姿を隠しているだろうバーサーカーの方を睨みつける。

 

 

「なんでお前がここにいるわけ……?」

 

「貴公が一人で帰った。だから私がリンに彼女の護衛を任された」

 

 

 姿を見せずに聞こえる声に対し驚いた顔をする少女。バーサーカーは己の体を隠しながら彼女を見た。

 

 

「どうやら、彼女はライダーを知っているようだな」

 

 

 バーサーカーの平坦な声に、慎二は顔を歪める。

 

 

「……知ってるだけさ。こいつは関係ないよ」

 

「そうか」

 

 

 少女はいきなり聞こえた声に驚いていても、この場に存在するバーサーカーには驚いていないように男には見えた。

 

 さらなる分析を続けようとしているバーサーカーの視線を切るように、その長身で彼女を隠すライダー。

 

 しかし、その様子すらまさぐる様にバーサーカーは二人を眺めた。

 

 

「ライダーとは随分と距離が近く見える」

 

「……お前みたいな奴を妹に近づけるわけにはいかないからね、兄として妹の守りを優先してるのさ。護衛のつもりならもう良いよ、僕が代わりにするからね」

 

 

 慎二は先ほどの自分がした行動を棚に上げて、悪びれもせずにそう言い切る。

 

 

「これはリンの望みであって、貴公を優先する必要性がこちらには無い」

 

「アイツが言ってたんだ。僕たちはまだ仲間じゃないんだろ? なんで敵に身内を預けなきゃいけないわけ? 失せろよバーサーカー、“今日はもう争わない”これ以上はそっちが契約違反だぜ」

 

 

 先ほど見せたタガが外れたような激高から一転し、自分に都合がよい理論を冷静に組み立てて口を回す慎二。

 

 

「そうか、では今夜の所は彼女を危険な目には合わせない、そう考えていいんだな?」

 

「あぁ、もちろん」

 

「確約してくれ、リンの命令なんだ。”今夜、彼女に害を与えない為にあらゆる努力を払え”」

 

「しつこいなぁ……! 分かったって言ってるだろ!」

 

 

 苛立たし気にそう話す慎二を見て、バーサーカーはあっさりと了承する。

 

 

「助かる」

 

 

 バーサーカーは短くそう答えると姿を現した。

 

 

「ヒッ……」

 

 

 バーサーカーの左手にはボルトがつがえられたクロスボウが握られており、いつでも引き金に指をかければ撃てる状態。

 

 その矢じりの先はどのような魔術であるか、火花を散らしながら帯電している。

 

 バーサーカーはそのような臨戦態勢をたった今、解いた所であった。

 

 

「ら、ライダー僕を守れ!」

 

「兄として妹の守りを優先するのではなかったのか?」

 

「あ、争わないって言っただろ!」

 

「だから今、撃つのをやめた」

 

「僕たちは同盟を――」

 

「私達はまだ仲間でないのだろう?」

 

 

 この男は、先ほど手を振り上げた手を下ろしていれば、本当に自身を撃ち抜く心づもりであったことに慎二は気づく。

 

 

「ふ、ふん! 野蛮なヤツだ! アイツのサーヴァントらしい……、行くぞ……!!」

 

 

 そう吐き捨てて、慎二は足早にその場から離れる。

 

 迷うように視線を彷徨わせながら離れていく兄を追いかける少女と、バーサーカーを最後まで睨め付けて、空に消えたライダー。

 

 

 

 バーサーカーは己の仕事が終わったことを確認すると、小さな骨片を握りしめ、その場から掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

「ライダー……、さっきの人が姉さんのサーヴァントなの?」

 

 

 しばらくして、苛立ちながら歩く慎二の後ろで桜は小さく問いかける。

 

 

「えぇ、あの男がそうです」

 

「そうなんだ……」

 

 

 桜は先ほど現れたバーサーカーの姿を思い出す。

 

 彼女の目から見たバーサーカーは、確かに不気味であった。

 

 ……だが、サーヴァントと呼ばれる者達が持つ、そこに伴う圧力とでもいうべき存在感が、他の者達と比べて薄いことを魔術に疎い彼女ですら感じ取っていた。

 

 

 そんな思考を見透かされていたのか、ライダーは前にいる慎二には聞こえないよう、声を潜ませて桜に耳打ちする。

 

 

「桜、あの男に決して近づいてはいけません。私は同盟を組んで毎度アレと顔と合わせるなんて御免被ります」

 

「そんなに強い人なんだ。うん……、姉さんの召喚したサーヴァントだもんね」

 

「…………いえ、アレはそういう存在(もの)じゃない。きっと正道に立つサーヴァントはまだ分かってないんでしょうね」

 

「えっ?」

 

 

 桜の言葉にライダーは少し黙り込むと、嫌悪感を滲ませながら呟いた。

 

 

 

「あれは怪物にとっての怪物()です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んで詫びなさいバーサーカアァーッ!!」

 

「ハグァッ!?」

 

 

 YOU DIED

 

 

 帰還して事の経緯を説明しようとした時、バーサーカーは自身の死(マスター)を見た。

 

 

「あの男……、妹に手を上げるなんて、絶対に許さないわ……! 百遍ズタズタにしても気が収まらない……!!」

 

「そのことなんだがマスター」

 

「…………なに?」

 

「いや、その、どうやらライダーと慎二、奴らはそこまで仲が良くないようで……」

 

「そう、そんなこともあるかもしれないわ……、私達みたいにね……!」

 

 

 今まさに主従としての関係が底を貫き、自由落下し続けているバーサーカー陣営。バーサーカーの拙い言葉により真意は伝わらず、凛の怒りに油を注ぐのみであった。

 

 

「私は桜を守れと言ったわよね? そしたら、ご機嫌な顔をしながら現れたあなたは私になんて言ったかしら?」

 

「いやそれは……」

 

「“慎二が彼女を殴って見ものだったぞ、最後まで成り行きを見たかったが仕方がなく止めた”……だったかしら……!!」

 

「しかし不意の一度目だけだ! それ以上彼女に傷は負わせないよう全力を尽くした!! 信じてくれマスター!!」

 

「そもそも殴る前に止めなさい! このすっとこどっこい!!」

 

 

 これはどう考えてもバーサーカーが悪かった。

 

 

 そして再開した折檻を、バーサーカーは必死に凌ぐ。

 

 

「このっ! 避けるな!!」

 

 

 その騒ぎを聞いて士郎が何事かと駆けつけて彼女を止めるまで、この死亡遊戯は続いた。

 

 凛が怒髪天を衝いていた理由が分からず、恐れながら困惑していた士郎であったが、その理由を知ると、彼も凛と同じように怒りを含んだ表情を浮かべる。

 

 

「バーサーカーはそれでも桜を守った。それ以上は止めてあげてくれ」

 

 

 バーサーカーは士郎に情けなく感謝の目線を送りながら、その場を後にする。

 

 

「俺が、明日に慎二と話す」

 

 

 最期に同盟の提案を後押ししたのは士郎である。

 

 だが、どうしても言わねばいけないことはあると目に意思を宿らせながら、士郎と凛は夜がさらに深まるまで話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後、凛、士郎、慎二の三人は放課後の屋上にいた。

 

 

 そこに立つ士郎は既にその肩を怒らせていた。

 

 いまだにこの学校に粘つく空気。それはまだ結界を慎二が解いていないことの証左であったからだ。

 

 

「どういうつもりだ、慎二。昨日結界を解いたんじゃなかったのか?」

 

「起爆ボタンから手を離しただけだよ、爆弾を取り外すのはまた別の話さ。そもそもマスター二人に囲まれて生活する僕の気持ちにもなって欲しいね。もちろん結界は解くよ、そのために起点にある屋上に来たんだからね」

 

 

 嘘か真か、悪びれもせずに屋上に現れた慎二はまともな言い訳もせずに笑みを浮かべる。

 

 その言葉に眉をひそめながらも士郎は続けて慎二を問いただした。

 

 

「慎二、バーサーカーから聞いた。桜に手を上げたってのは本当か?」

 

 

 これから聖杯戦争のことで話し合うと思っていた慎二は、その話を聞いて気分を害したように顔をしかめる。

 

 

「これから敵か味方になるかの話をするんじゃないのかい? どうしてそんなどうでも良いことを……」

 

「質問に答えろ慎二」

 

 

 追及の言葉を止めない士郎に対し、忌々し気に慎二は答えた。

 

 

「脅しただけだよ、もちろん本気で殴る気はなかったさ」

 

「慎二、バーサーカーはお前達のやり取りを見ていた。嘘は通じない、そもそもどんな理由があって、兄貴が妹を叩く理由があるっていうんだ?」

 

 

 士郎の言葉を聞いて、まるで事前に決めていたかのように慎二はスラスラと言葉を吐く。

 

 

「まぁね、これは言いたくなかったけど見られちゃ仕方がない、……実は桜は僕が聖杯戦争に巻き込まれていることは知っていたんだ」

 

「なに?」

 

 

 その言葉を聞いて士郎の腰が浮く。

 

 

「あぁ、もちろん知ってるだけだ。それ以上関わらせるつもりは欠片もない、当たり前だろ?」

 

「そう、……か」

 

「まぁでも昨日、僕らが集まった時にトロいアイツでも衛宮と遠坂が聖杯戦争の関係者だって流石に勘づいたんだろうね。おっと、これは君たちの所為なんだから僕を責めるなよ?」

 

 

 言葉を飾ることを好まない士郎と、言葉で巧みに取り繕う慎二。

 

 両者の相性はあるが、話の主導権は慎二にあった。

 

 

「そしたらアイツが“先輩たちと争うのはやめてください”って言う訳さ、ひどいもんだろ? 襲ってきたのはそっち側で、敵になるかもしれない相手に僕がどうしろって言うんだいって話だよ。流石の僕も腹が立っちゃったんだ。言葉は悪いけど関係ないお前がでしゃばるなって思ったね、あれはその弾みさ」

 

 

 士郎は何かを言おうとするも、黙って彼の言い分の聞き手に回るしかできない。

 

 

「で? どうするんだい? 僕としては妹を悲しませたくないけど、戦うなら僕だってそのつもりはある」

 

 

 慎二はまだ学校から帰ろうとする生徒たちの一団を、屋上から背中越しに見下ろした。

 

 

「慎二……、おまえ……!」

 

 

 その様子を今の今まで黙って聞いていた凛はため息をつく。

 

 

「慎二、貴方のそういうみみっちい所が信用できないから手を組みたくないの」

 

 

 フェンスに預けていた背中を引きはがしながらツカツカと両者の間に割って入る凛。

 

 

「まぁ、それでも甘々な衛宮君は他人に手を出さないなら同盟してもいいって言ってるんだけどね。あっ、私はもちろん反対よ」

 

 

 そうして凛は堂々と腕を組んで言い放ち、それを慎二は面白そうに見返した。

 

 

「そうしたら一先ず、お互い相手に手は出さない条件で情報交換をしてそこから協力できないか考えてみようって噴飯ものの提案をしてきたわけ。まずはこの街を害するサーヴァントを排除してから今後のことを……、ってなんで反対してる私が説明してるんだか……」

 

「へぇ、情報交換か、ようやくまともに話せる相手が出てきた。まぁ話ぐらい聞くさ」

 

「何を自然に聞く側に回ってるのよ。アンタ程度のマスターじゃ大した情報は集められてないんでしょ? そっちが先よ」

 

 

 慎二はその言葉に一瞬不快気な表情を浮かべるが、すぐに気を取り直したように口を開く。

 

 

「まぁ、士郎が気にしそうなこの街を害するサーヴァントなら、新都のガス漏れ事件についてだ」

 

 

 反応を示す士郎、だが凛はその言葉に対して眉も動かさずに言い返す。

 

 

「そんなの情報って情報でもないわね」

 

「まぁね、見るヤツが見れば一発でサーヴァントの仕業だと気づく。でもね、この事件、ニュースで表に出ているのはほんの一部さ」

 

「ふぅん」

 

「おっと、これは遠坂も知らなかったかい?」

 

 

 得意げな慎二に遠坂は何も返さず、無言で続きを促した。

 

 その反応に眉をあげた慎二はニヤリと笑った。

 

 

「どうやらこれをやってる犯人、相当なりふり構わず魔力を集めてる。僕の知る限り事件は裏じゃその5倍は起きてる」

 

「魔術の秘匿は最低限やっているんでしょうけど、迂闊ね」

 

「まぁね、ある程度人が集まる場所、仕掛ける時間帯、一気に魔力を奪って痕跡を消そうとしてもあれだけ派手にやれば法則性はわかる。近々仕掛けてくるだろう場所を絞り込むのは楽なもんだったよ」

 

「つまりアンタは、次にそいつが仕掛けてくる場所を知ってるってわけ?」

 

「衛宮が言ってたんだろ? まずは情報交換をしてそこから協力できないかって話。いいじゃないか、まずはこの街を害するサーヴァントを排除すればいい。同盟のお試しってヤツさ」

 

「……口だけは本当に達者ね」

 

「組む相手を間違えたね、君の後ろにいる奴に比べれば誰だってそうだろ? なぁ衛宮」

 

「……俺はまず慎二が結界を解いて誠意を見せれば協働することに異論はない」

 

 

 凛は目の前の慎二をまだ警戒していたが、既に罠の可能性も考えずに話を聞く態度になっていた士郎を後ろ手にみて、ここ最近癖になりかけているため息をついた。

 

 

「とりあえず話は決まったかな、少なくとももう仲間なんだ。不意打ちは止めてくれよ遠坂?」

 

 

 掻き消えていく肌にまとわりつく粘ついた気配が霧散していく。

 

 学校の結界が解かれた。

 

 

 

 歪であるが、ここにセイバー、バーサーカー、ライダーの三陣営による同盟が正式に成ったのだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。