Fate/Secondary creation 作:KAITA
酷い夢を見た。自分が人を殺し、その状況を楽しんでいる夢。
自分は、神に仕えているのでは無かったのかと。何故そんな夢を見てしまうのかと。悩み、苦しみ、十字架に常に自らの罪を告白し、懺悔し続ける。
それでも、夢は終わらなかった。いや、逆にその苛烈さを増していき、普段の日常生活にも悪影響が出始めていた。
ある時、従兄弟にその悩みを打ち明けたことがある。果たして、彼はそれをするべきでは無かったのか。それはわからない。
言えるのは、そこで人生のルートが変わったということは明らかだということだ。
その従兄弟は低い、心に影を落とす声でこう言った。
(それは悪いことではない。神に仕えている心も決して嘘ではない。その信仰対象が違っただけだ)
信仰対象……だと?ならば、自分が信じている神は、信ずるべき神とは……。
(破壊と絶望。それがお前の信ずるものだ)
驚く程に、心が納得した。頭では、何だそんなもの。と一笑にすべきとの声が響く。
それでも、心がその思想に囚われた。
希望よりも絶望を。
喜びよりも苦しみを。
歓喜よりも悲鳴を。
人の泣き叫ぶ声がリアルに聞きたくて彼は。
人を殺した。
その時の心の動きを自分は決して忘れることは無い。
この俺、
『聖堂教会』、それは『魔術協会』と対を為す組織だ。
『魔術協会』が魔術師擁する組織ならば、『聖堂教会』は簡単に言えば、神父が居るところ。強力な戦闘力を身に付けた神父たちが。
『聖堂教会』と『魔術協会』は相容れぬ存在だ。『聖堂教会』は異端を滅ぼす。『魔術協会』は異端を隠す。正に正反対の組織図だ。これまで幾度と無く殺し合ってきた。
だが、それでも現在は不可侵協定を結んでおり、表向きには双方関わっていない。
さて、そんな組織内部でも異端とされている部分はあるが、それが個人にも見られる場合がある。
言峰の名を持つ者は数奇な人生に囚われる。これまでの『戦争』を知っていれば、自ずとわかるものだ。
従兄弟の父は、普通の人物だったのだろう。従兄弟の胤を持っていた、ということを除いて。まあ、『戦争』の参加者によって殺されてしまったのだから、普通とは言えないのかもしれないが。
問題は従兄弟だ。正式に言うと、その従兄弟には義兄が居たと聞いている。詳しくはわからないが、あまり仲も良くなく、その人物も相当な人生を送っていたらしい。
その従兄弟には、善という属性が無かった。彼は綺麗な物を見て、感動することが出来なかった。人の悪の部分を見ることで、彼は優越の表情を浮かべたという。
昔は、彼に親近感なんか覚えなかった。ただ単に血の繋がっている相手。
そもそも『聖堂教会』になんてものに所属していれば、余程のこと、相手がいない限り関心を持つ相手なんていない。
それなのに、関わってしまった。やはり翔剛も言峰の名を持つ者の運命から逃れられなかったのだ。
そんな時だ。
『聖杯戦争』からのお呼びが掛かったのは。
「これは……?」
ある朝、ある意味習慣となっていた朝の運動。まあ、簡単に言うと魔術師を殺す作業だ。
これは別段、翔剛個人の性格は関係がない。
『聖堂教会』と『魔術協会』は今でも殺し合いが行われている。表向きには無いだけだ。記録に残さないことを条件に、殺し合いの連鎖は止まっていない。
魔術師を殺したのは実に二週間ぶりのことだった。記憶の上では、これ以上に間の空いた作業もない。
閑話休題
翔剛が疑問に思ったのは右手の甲にできた傷だ。いや、ただの傷ならば毎日負っているのだが、どうも傷から微量だが魔力を感じる。
「師父殿に聞いてみるかな」
翔剛は自分を『聖堂教会』に引き入れた人物に、この疑問を聞きに行くことにした。
「あ〜、それはアレかな。ここから出て行ってもらうとか、そんな感じの話になるのかな?」
「いやいや、話が急すぎますよ師父」
教会の十字架の前で、ぶつぶつ言いながら携帯を弄っていた師匠とも悪友とも言える人物に、右手の傷を聞いてみたらこの反応が返ってきた。
この師父。名はサルミ・ナカヤマといって、日本の血を四分の一ひいていると聞いている。
翔剛に対し、武術を教えてくれはしたものの教養の面では放任主義だったため、その部分だけは他の大人を頼っていた。そしてそこで学んだ経験でサルミを見ると大分だらしない人間だということがわかった。
サルミは『教会』の中に居ながら異端と呼ばれる『代行者』の一人だ。
『代行者』とは、『聖堂教会』という組織の教義に存在しない『異端』を力ずくで排除する者たちのことだ。
『エクソシスト(悪魔祓い)』とそんなレベルではなく『エクスキューター(悪魔殺し)』であり、前提の目的は「悪魔を滅ぼす」ことであり「悪魔を払い、犠牲者の命を救うこと」ではない。
斯く言う翔剛も『代行者』に若くしてなった天才であり、その天才を見つけその才能を植え付けたのがサルミである。
しかし、この場面では聞く相手を間違えただろうかと、翔剛が真剣に悩んでいると
「だってそれ、『令呪』だろ?」
「は?れいじゅ?」
聞き慣れない言葉が耳に入って、翔剛が聞き直すと
「いや、知っとけよ。特に君は」
呆れたような興味なさげなような声を出される。
翔剛は自分の右手の傷を眺めながら、サルミの言葉を頭の中で反復する。
れいじゅ。レイジュ。令呪?
「え、れいじゅって、『令呪』?あの『戦争』の?」
「ああ、そうだ。『聖杯戦争』の『令呪』だよ」
『聖杯戦争』。七人の魔術師と七人の英霊によるバトルロワイヤル。
魔術師は『マスター』。英霊は『サーヴァント』として、万物の願望器『聖杯』を奪い合う戦争のことだ。
魔術師は英霊と契約することにより、戦争の資格を得る。その戦争の資格として手の甲に刻まれるのが『令呪』と呼ばれる、サーヴァントに対する三回きりの絶対命令権のことだ。
そしてサーヴァントには七つのクラスがある。
セイバー……剣士
アーチャー……弓兵
ランサー……槍兵
キャスター……魔術師
ライダー……騎兵
アサシン……暗殺者
バーサーカー……狂戦士
この七つが基本のクラスとなっている。
基本、というのは過去の『聖杯戦争』。そして『別の世界』の『聖杯戦争』では『エクストラクラス』と呼ばれる例外的なクラスが現界した記録が残っているからだ。
さて、この『令呪』。説明した通りサーヴァントを使役するマスターに与えられる三回きりの絶対命令権だ。三回使い切ってしまうと、マスターではなくなってしまい、自らのサーヴァントに殺されてしまう可能性もある。
『聖杯戦争』とは魔術師による願望成就のための儀式。そこにどう『聖堂教会』が関わってくるのかというと。
『聖堂教会』としては、神に仕える身として『聖杯』の名が付いている物には関与せざるを得ない。
既に『聖堂教会』としての概念の『聖杯』とは違う物であると確認はなされているが、それでも審判という形で関わり、魔術を一般人から秘匿する役割を持ち、また『聖杯戦争』の審判という形で取り仕切るのだ。
その審判に『第三次聖杯戦争』から『第五次聖杯戦争』までを『言峰』の者が担当しているのだった。
「いや、にしてもですよ?俺も審判とかやらされるのかな〜、と思ってはいましたよ?でもまさか、参加者になるとは思いませんよ」
翔剛が自らの疑問をサルミにぶつけると、サルミは更に呆れた様な顔になり
「あのな、お前の従兄弟は『第四次聖杯戦争』で参加者となり、その後『第五次聖杯戦争』では、審判を務めながらマスターとして参加するという反則も犯しているんだ。今更お前が参加者になったからって、疑問には思わんよ」
翔剛にとってはどれもが初耳のことだった。別に、不良だったからどうこうではなく、単純に知る機会の無い話なのだ。
『聖杯戦争』などという、魔術師たちの悲願についてなど、神父である自分には何も関係はない。それが、翔剛の考えだったのだから。
「そうなると、俺は『教会』から追い出されるんですか?」
「それについては上の方に聞いてみるさ。若しかしたら、出ていかなくてもいいかも知れんし」
「俺は、出て行きたくないですからね。出て行ってしまったら、魔術師共を殺す機会がなくなってしまう。そうなってしまうと、俺は廃人になりかねません」
翔剛の発言は、神に仕える者として、破門されてもおかしくないセリフであり、豚箱行き、いやその場で殺されても仕方ない物なのだが
「廃人だ?何を言ってやがる。『代行者』に廃人になってる暇なんかねえよ馬鹿。『聖杯戦争』が終わっても『代行者』に終わりはねえ。そこを勘違いするな」