黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.011 勇者観察記録 (sideキューベ)

 

 

 ついに今日、勇者が召喚される。

 

 

 かねてより勇者召喚を計画していた我が国ですが、東の教国が勇者を召喚したことにより日が早められました。加えて近年、人に仇なす魔王の力が活性化したことも要因の一つでしょう。

 表向きは対魔王用の戦力とされていますが、我が国、ルクシアン王国には、魔王の手はかかっていません。

 つまるところ、外部の国への貸し出し用といったところでしょうね。

 

 そんな、哀れにも思える勇者が今日召喚されます。

 

 私の仕事は、召喚された勇者の資質を見抜くこと。使える人材なら利用する。使えない人材なら……まぁ、城で養ってもらえるよう打診してみましょうか。

 

 勇者……いや、勇者様の有用性を見出だすためにも、今日から勇者様の動向を観察することにします。

 

 

 ──どうか、この手を汚すことがないことを祈る。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 『勇者観察 一日目』

 

 召喚された勇者様は四人。

 

 赤髪の少女、マリ・ユウキ様。

 青髪の少女、チホ・ナベシマ様。

 白髪の少年、シオリ・ユガミ様。

 

 そして……黒髪黒目の少年、トウヤ・ナンバ様。

 

 トウヤ様の姿が見えた時に『勇者召喚の間』にいた魔術師達が慌てましたが、ノフィリア様のお言葉で事なきを得ました。

 

 その後、陛下と第一王子にお目通りしたのですが──

 

「おお、そうであったな。すまない。……ちっ、卑しい黒め」

 

 ──と、陛下がぬかしやがっ……仰られたのだ。

 

 幸いにもトウヤ様には聞こえなかったようだが、陛下も危ない真似をなさる。もしトウヤ様が激昂して掴みかかってきたら誰が対処すると思っているのか。

 

 そして、その後も勇者様方に現状を正しく説明しようとすると咳払いで遮られる始末。

 陛下はこの四人の勇者様を一体どうするつもりなのか。

 

 召喚されてから数時間でこれだ、頭の痛いことである。

 

 陛下と第一王子への面通しが終わったので、続いて城内の案内に移る。チホ様は既に就寝していたので貴賓室に運び込まれた。

 

 ここでも勇者様方は様々な反応を見せる。

 

 マリ様は眼をキラキラと輝かせて辺りを見渡す。

 目に入る全てが新鮮といった様子だ。時折「おー!」や「これが……!」と言っているが、どう見ても田舎から出てきた村娘にしか見えません。

 

 売って変わってシオリ様はまだ周囲を気にしておいでだ。

 いきなり召喚された故に混乱から抜けきっていないのだろう。しかし、無邪気にはしゃぐマリ様の姿を見て少しは落ち着いたようだ。

 

 最後にトウヤ様。この方が一番奇妙だ。

 マリ様のように驚くでもなく、シオリ様のようにおどおどとすることもない。ただ淡々と周囲を確認している。気にかかることがあると、近くにいた召し使いに質問している。

 後々、質問されていた召し使い達に確認したところ、特に魔法が関係することを聞かれたらしい。彼のいた世界には魔法が無かったのだろうか。

 

 

 

 勇者様方は案外仲良くやっていけそうだ。

 

 召喚された日の夜。勇者様方の部屋を見張らせていた者から報告が入った。

 勇者様方は一部屋に集まって、楽しげに会話をしているとのこと。

 

 しかし、気になる報告が二点。

 

 マリ様とトウヤ様が主体で話されていた『異世界召喚もの』という話題。

 又聞きになるが、どうやら彼らの世界には、異世界に召喚された者達の伝記が残されているらしい。

 それではまるで、彼らの世界では度々異世界に召喚される者がいるかのようではないか。

 

 気が付いていないだけで、私達の世界にもそういった体験をした者がいるのだろうか。はたまた、彼らの世界の人間は他の世界に呼ばれやすいのか。

 この事は後でクローブ家の皆様に話してみよう。私一人では結論が出なそうだ。

 

 

 そして二店目、こちらの方が緊急だ。

 トウヤ様に監視を気付かれた。

 

 四人で楽しげに話している途中、「少し席を外す」と言って部屋の外に出たトウヤ様が、監視していた者の目を見て(・・・・)声をかけたと……。

 

 だが、声をかけたと言っても、トウヤ様は何もすることなく、こちらが見方だと判断すると、「お仕事ご苦労様」と言って部屋に戻ったそうだ。

 

 当たり前のことだが、監視していた者の名誉のためにも言っておこう。

 勇者様方の監視を担当したのは、決して素人の者ではない。この国に支えるれっきとした諜報員だ。

 その仕事は多岐に渡り、今回のように監視、陰からの護衛、情報収集は勿論のこと、暗殺までこなす凄腕。

 

 そんな彼らが気付かれる。

 しかも勇者様に。

 更に悪いことに、黒髪黒目の勇者に、だ。

 

 これで彼、トウヤ・ナンバの警戒度を引き上げる他ない。

 これからは気付かれていることを前提に行動しなくてはならないだろう。

 

 

 

 ──黒髪黒目の勇者に目を見て話しかけられた彼女は語る。

 

「あれは……化け物です。始め、奴は私にこう言いました」

 

『なぁ、あんたら、敵か? 味方か? 味方なら良いんだけどよ……』

 

「そういって奴は笑いました。頬が裂けたような、見ているだけでおぞけが走るような、そんな笑顔で」

 

『敵なら……。まぁ、考えるだけ無駄だな。どうやら敵じゃないみたいだし。お仕事ご苦労様。邪魔して悪かったね』

 

「あれでは……敵であった方が嬉しいと言っているようなものです。奴は私達にこう言いたいのでしょう」

 

『お前が俺らを見ているように、俺もお前らを見ているからな』

 

「キューベ様、どうか奴にはご注意を。奴は……危険です」

 

 

 この報告をあげた者を、恐れすぎだと笑うわけにはいかないだろう。

 何やら彼には、隠されたものがありそうだ。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 『勇者観察 二日目』

 

 昨日の件をナルバス様に報告したところ、勇者様方に対して試験を行うことになった。

 その試験で計るものは、『勇者としての心』である。

 

 計画としてはこうだ。

 まず、城下町の案内中に揉め事に遭遇させる。

 その揉め事に対して、どのような反応を見せるかで、勇者様方の正義感を試すというものである。

 そう都合よく揉め事があるとは思えないので、ナルバス様の部下を使っての仕込みだ。

 

 さてはて、どうなることやら。

 

 

 勇者様方の本質を見るため、四人ではなく、一人一人分けて城下町を廻ることを提案した。

 その際に、従者側で誰がどの勇者様に付くかで密かに揉めたが、私がトウヤ様に付くと言ったら静まった。…………全く持って頭の痛い。

 

 城下町が騒ぎにならないようトウヤ様に【認識阻害】の魔法をかけておく。

 もっとも、既に城下町では勇者が召喚された話題で持ちきりなので、私の隣を歩いているのが勇者だと気付かれているだろうが。

 

 本来であれば、城下町を見て廻ることで国の現状を知ってほしかったが、彼には敵が多い。武器を揃えておいたほうが良いだろうと思い、武具屋に足を向ける。

 

 武器の試し切りの際に、トウヤ様に少し挑発をされました。

 なるほど、たしかに。彼女の報告通りでした。彼の笑顔は人に嫌悪感を抱かせる何かがありますね。

 

 

 

 

 ……え? 資質を確かめるための試験?

 

 そうですね、茶番だと言い切られました。

 結局、魔王に関しての情報を渡しただけで終わってしまいました。

 まぁ、その情報を他の勇者様に伝えてくれるでしょうから、今日の目的は達したと言えるでしょう。

 

 

 そして夜の報告の際、ナルバス様直々に『加護』を調べるよう言われました。

 トウヤ様以外は、今日の試験で大方予想がつきますが、肝心のトウヤ様が不明ですからね。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 『勇者観察 三日目』

 

 ぶ……オベロ殿が高笑いしながら帰ってきた時点で嫌な予感はしてましたが、まさかトウヤ様に加護がないとは。

 

 他の勇者様は無事に加護を確認。しかも中々珍しい加護を受け取っているようです。

 十二年前、かの悪魔王を討伐した勇者も授かっていたとされる《聖剣の加護》。

 保有者に絶大な魔力と叡智を授けると言われる《魔導の加護。》

 地形すら変える力を持つ《大地の加護》。

 

 そして、既に勇者様方には加護の発現が見受けられます。どうやら他の勇者様は役に立たないとされることはなさそうです。

 

 肝心のトウヤ様ですが、ナルバス様とノフィリア様の説得により、一ヶ月の滞在を許されました。

 その間にこの世界の知識を教え込まなくてはいけませんね。

 

 

 

 

 その日の夜。貴賓室を抜け出し、月を見上げるトウヤ様の姿がありました。

 テラスの手摺に寄りかかり視線を空へ向ける姿は、えもいわれぬ寂しさが漂っています。

 

 監視している者からそんな報告を受け、もしや先行きを案じての身投げかと思いましたが、彼に近付くのは思い止まりました。

 

 ──彼は、月明かりを身に浴びながら歌っていたのです。

 

 この国のものではありません。そして、他国のものでも。

 この歌は恐らく、トウヤ様の故郷のものでしょう。

 

 その歌は何を思って歌われているのか、誰を想って歌われているのか……。

 今更ながらに、異世界から勇者を召喚するという行為が如何に愚かしいものなのかを知りました。

 私達は、彼を了承なしに知らぬ世界へと連れてきたのです。そして魔王という脅威へと立ち向かうよう焚き付け、力がないと知ると捨てようとしています。

 

 激昂し、怒り狂ったとしても、誰も彼を責めないでしょう。

 しかしながら彼は怒ることはしませんでした。むしろ他の勇者様方の方が怒っていました。当然です。勇者様方がこの国を見捨てても、誰一人文句は言えません。

 

 実際、そうなる一歩手前でした。

 トウヤ様が他の勇者様三人を宥めなければ、我が国は巨大な力を持った勇者を失っていたことでしょう。

 

 突如日常から切り離され、知らぬ土地に飛ばされ、そこで安住することも許されず、加えて周囲は敵だらけ。

 絶望するには十分です。しかし、彼は笑顔でした。

 

 前に見せた悪魔のような笑顔ではなく、

 

 ──まるで目を離したら消えてしまいそうな、儚げな笑顔。

 

 こちらが彼の本来の顔なのでしょうか。

 

 

 

 

「レオン様に連絡を。彼をタルクスまで護衛して頂けるよう依頼を出す」

 

「はっ、直ちに」

 

 天井から返答があると、その声の主の気配が消える。どうやらレオン様が滞在している屋敷に向かってくれたようです。

 

「忙しくなりそうだな」

 

「ナルバス様……」

 

 背後から掛けられた声に振り向くと、そこには第一王子であるナルバス様が立っていました。

 ナルバス様も私と同じく報告を受けてトウヤ様の様子を見に来たのでしょう。

 

「レオンに奴の護衛を頼んだと聞いた。行き先は何処にするつもりだ?」

 

「タルクスを、と考えております」

 

「ふむ、タルクスか……」

 

 ナルバス様は提案を聞いて直ぐに批判するような方ではないが、今回に置いてはそうなる可能性を考えていました。

 ルクシアン王国は大陸図で言うところの南の果てに位置する国です。その形は縦に長く、南側は沿岸部になります。左右は帝国と教国が固めてますが、その両国とは交遊関係にあるため、比較的安全な国と言えでしょう。

 しかし、この大陸の南の先、海を越えたところには悪魔の住む大陸があります。かつてこの国を焼いた悪魔王も、そこから来ました。

 

夜半(よわ)に対して良く思っていない連中も多いだろうな」

 

「……はい」

 

 そうなのです、悪魔王は海を越えて攻めてきました。つまり、沿岸部である南に行けば行くほど夜半差別は強くなる傾向にあるのです。最も、そこに領地を持っていた貴族は、戦争が始まった当初に王都近くに移り住んだため、差別意識で言えば王都近郊の方が強いのですが。

 

「だからこそのレオンか。あいつらに奴の面倒を見させると」

 

「その側面も御座います」

 

 レオン様達は強い。

 その理由は才能溢れる者が集まっているのは勿論ですが、生い立ち故に修羅場をくぐってきた数が多いのだ。

 ルクシアン王国四名家の一つに数えられるハクト家の長男。ルクシアン王国魔法学校首席。元帝国軍人百人隊長。エルフの国の王女と、その護衛。ドワーフの国の英雄。全滅したと言われる幻獣種の獣人。小人族の凄腕暗殺者。

 彼らが集まっているのだ。揉め事が起こらないはずがありません。実際、彼らが行ったことを文章にすれば、それだけで英雄譚に成り得るでしょう。

 

「では、他にどんな目的がある?」

 

「彼らの側にいれば、必ず揉め事が起こります。レオン様のお言葉を借りるなら、『英雄に相応しい試練』と言ったところですか」

 

「なるほどな。それに奴、トウヤを加入させることで成長を促すと。……だが、何故そんなことを? 奴は勇者ではないのだぞ?」

 

「果たして、本当にそうでしょうか」

 

「なに?」

 

 今もなお月の光を浴びながら、幻想的な歌を歌い上げるトウヤ様を横目で伺う。

 

 彼は本当に勇者ではないのだろうか。

 勇者召喚に応じて呼び出され、勇者様と同じ故郷を持ち、一般人ではあり得ない技能を持っている。

 もし仮に、加護がなかったとしても、彼が勇者ではないことの証明にはならない。

 

「加護がなくとも勇者足りうるか……か。キューベは奴が勇者であると、そう考えているのか」

 

「はい。私個人と致しましては、少なくとも一般人とは言えぬかと」

 

「確かにな、俺の部下の中にも何人か、そう言っていた者がいた。『あれは素人ではない』とな。……分かった。俺の方からもレオンに頼んでみるとしよう」

 

「お心遣い感謝します」

 

「ああ、それと。勇者に剣術を教える者を探していたな」

 

「はい。現在は騎士団を引退した者に声を掛けておりますが……」

 

「では、俺からも推薦したい。騎士団副団長、コーラル・ハクトだ。知っているな?」

 

「は、はい」

 

 知らない訳がない。

 ハクトの長女であり、ナルバス様率いる騎士団に置いて女性の身でありながら副団長を勤める女傑。戦場では『戦姫』と恐れられるお方だ。

 優秀なお方だが、些か教育者としては問題がありそうなお方でもある。

 

「彼女の性格については俺も分かっている。しかしな、引退した騎士となると年配の者になるだろう。なるべくなら勇者達には同年代の者と関わって欲しいのだ」

 

「夜半への差別意識を避けるため、でしょうか」

 

「その通りだ。年配の騎士の中には戦争を経験した者も多い。その中には差別意識を持っているものもいるだろうな。そいつらが勇者は教育係りになれば、何を吹き込むか分かったものではないからな」

 

「畏まりました。では、魔法の講師の方も現在雇った者ではなく、セラド様にお声かけします」

 

 セラド様にも少し、ほんの少し問題があるのだが、そこら辺は許容範囲内だろう。

 

「そうしてくれ。では、俺はそろそろ部屋に戻る。奴にも遅くならないうちに部屋に戻るよう言っておけ」

 

「はっ、畏まりました」

 

 ナルバス様は言うことが済むと颯爽とお部屋に戻っていきました。

 病状故に無愛想に見られがちな方だが、こうして勇者様達のことを案じている優しいお方だ。そのことは場内の者であれば皆知ってることだ。

 

「……さて、私も私の仕事をしましょうか」

 

 さしあたって、トウヤ様に声をかけることから始めます。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 

 

 

 

 その数日後。

 オベロの手によってトウヤに刺客が差し向けられたが、キューベが現場に急行するころには全て終わっていた。

 

 トウヤが殺した刺客の男の死体を厳重に始末しながらキューベは思った。

 

 彼は勇者ではない(・・・・・・)かもしれない、と。

 

 その正体は、誰にも知られることなく夜はふけていく。

 

 

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