黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.012 異世界調理と魔法の袋

 

 

 護衛をしてくれる冒険者パーティーとの軽い自己紹介を済ませ、旅の目的を語らいながら歩いた後、昼飯を取るべく休憩していた。休憩場所は芝生の上に軽い敷物をしただけ。

 見渡しの良い場所に五人で座り込んで昼飯を取るというのは、どことなく無用心な気もする。魔物の襲撃に遭ったりしないのだろうか。思わず周りを警戒してしまう。

 

「不安かい?」

 

「ええ、まぁ。こんな見通しの良いところで(くつろ)いでいたら、ゴブリンとかが攻めてきそうで」

 

 周囲を警戒していた俺に声をかけてきたのは、このパーティーのリーダーを勤めているレオンだ。

 爽やかな大学生といった風貌の赤髪の青年で、今は下ろしているが、武器は身の丈程もある両刃の大剣を使っている。

 

「心配しなくても大丈夫さ。ゴブリン程度なら俺達の相手にならないよ」

 

「それは心強いですね。その時は、守られてるだけってのも嫌なので俺も参戦しますよ」

 

 確かにゴブリン程度なら相手にならないよな。昼前に彼らの戦闘を三回見たが、手を出す暇がなかった。それほどに完成されたパーティーだ。

 

「おいおい、護衛の依頼を受けたのは俺達なんだから、坊主は守られていてくれよ」

 

「良いんじゃない? 本人がやる気なんだから、戦わせてあげれば」

 

 下がって守られていろ。と言ったのはパーティーの盾役(タンク)を勤める短い茶髪の中年、クランク。本人いわく、まだまだお兄さんの範囲内らしいが三十路だ。休憩中でも警戒を怠らないためか、鎧は着込んだまま。

 

 戦わせれば良い。と言ったのは如何にも魔法使いらしい格好をした大学生くらいの女性、カーティア。火と水の魔法が得意とのことで、今は料理を作っている。

 容器に水魔法で水を溜めて火魔法で温めている光景を見た時は、異世界調理の片鱗を見た気分だ。水を汲むのもガスも必要ないなんて、お手軽だな。いや、魔力が必要になるのか。

 

「何か食べられない物はある? 別けて掬うから早く言いなさいよ」

 

「いや、特に無いと思います。……そもそも何が入ってるのか分かりませんしね」

 

 カーティアさんの作っている見た目はカレーのような料理は、何が入ってるのか分からない。容器に具材を入れるところを見てはいたが、何れも知らない食材だった。

 

「……? あぁ、そう言えば異世界から来たって言ってたものね。後で何を使っているのか教えてあげるわ」

 

「お願いします」

 

 レオンさん達には俺が異世界から来たことを言ってある。キューベが護衛を頼んだ時に伝えたみたいだ。

 キューベによれば、俺が異世界人だってことは、あまり口外しない方が良いらしい。何でも、別の世界特有の知識を持っていることで利用されてしまうから、だとか。

 そんな事情があるにも関わらず、俺の素性を伝えたということは、それほどレオンさん達は信頼できるってことだろう。

 

「カティーさんの料理はとっても美味しいんですよ。きっとトウヤさんも気に入っちゃいます」

 

「エリィ、世界が違うってことは味覚も違うのよ。あまり期待させないの。……でも、まぁ、ありがとね」

 

 カーティアさんは、パーティーの皆からカティーと呼ばれている。愛称ってやつだな。パーティーの仲が良いのが窺える。

 少し頬を染めているカーティアさんがエリィと呼んだ少女も、本来はエリアという名前だ。

 

 そしてそのエリアさんなのだが、彼女はエルフだった。

 横に長い耳に、陶器のように白くきめ細やかな肌。日の光を受けて輝く金髪と、深い知性を思わせる翡翠色の瞳。

 俺の思い描くエルフそのものだ。

 彼女はこのパーティーで回復役、僧侶的な役割をしている。蔦を編み込んだ杖を使ってレオンさんの傷を治しているところを見た。

 

 少し気になったのだが、カーティアさんが作っているカレーらしき何かには肉が入っている。エルフであるエリアさんは別けてもらう様子もないが、肉を食べても大丈夫なのだろうか。

 

「俺、エルフって野菜しか食べないんだと思ってましたが違うんですね」

 

「えーと。森に住んでいた時は食べませんでしたけど、カティーさん達と出会ってからは好き嫌いしてませんよ。多分、他のエルフもそうだと思います。美味しい料理を食べたら、好き嫌いなんて無くなりますから」

 

「肉を食べないってのは、好き嫌いの範疇(はんちゅう)なんですね。てっきり森の仲間だから、って理由かと思ってました」

 

 いつか呼んだ本で、エルフが森の動物達を家族と言っていたことを思い出した。森で暮らすエルフにとって、同じく森で暮らす動物達は家族同然の存在ということだろう。

 ……とか思ってたんだけど、違うのか。

 

「違いますよ? 確かに同じ森に暮らす仲間ではありますけど、食べる時には美味しく頂きます。好き嫌いするエルフが多いのは……えーと、あの……あれです……」

 

「血抜きの習慣が無いから、じゃなかった?」

 

「そうです! 血抜きをしないから舌触りが良くないんですよ」

 

 血抜き……かなり初歩的なことで躓いていたんだな。或いは、血は神聖な物として抜かなかったとか。

 ふむ、血抜きか。メモをしておこうかな。これから料理をする時はジビエ料理が主になりそうだし。

 

 ナルバスとノフィリアから貰い受けた、土産物の入った袋から、メモ帳と筆記用具を取り出す。そう言えば、この袋の中身を確認しておこう。

 袋の中に手を入れ、内容物を次々と取り出していく。

 

 ・この世界の人族言語で書いてある五十音表。

 ・闇属性と聖属性以外の初級魔法の本、六冊。

 ・キューベから貰ったメモ帳と筆記用具。

 ・F級のギルドカード。

 ・個別の布袋に入った薬草と癒花(ゆか)

 ・薬の調合に使うであろう器具一式。

 ・今は装備していない黒のナイフとローブ。

 ・見覚えの無い剣と小盾。

 

 ふむふむ、これだけの物が入っていたのか……

 いや、可笑しいだろ!? どう考えても入る大きさじゃないぞ!?

 

 袋の大きさは手提げ袋ほどしかない。本来なら初級魔法の本を三冊も入れたら満杯だろうに。何故これほど物が入っているんだろうか。

 

「あ、それ、魔法の袋(マジックバック)じゃない」

 

「マジックバック? この袋のことですか?」

 

「ええ、見た目と裏腹にかなりの容量が入る希少(レア)アイテムよ。ダンジョンだと深層でドロップするから、私達も持ってるの」

 

 そう言ってカーティアさんは、横に置いてある袋を見せてくれた。

 その袋から肉や野菜を無造作に取り出すもんで、整理のできない人なんだと思っていたが、そんな理由があったのか。

 

「ほー。キューベから、坊主は厄介払いされてタルクスに行くって聞いたんだが、良い物貰えて良かったじゃねえか」

 

「そうですね。二人には、いや、皆に感謝しないと」

 

 魔法書はセラドが入れてくれた物だろう。薬草と癒花、調合器具一式はキューベ。そして、見覚えの無い剣と盾はコーラルから。

 有り難いことだ。一ヶ月間面倒を見てくれただけでなく、こんな贈り物をしてくれるなんて。

 

「あ、まだ中に入ってますね。……金貨? にの、しの、ろの……三十枚か」

 

 他には五百円玉を二つ重ねたような硬貨が入っていた。この世界の通貨なんだろうけど、どの程度の価値がある物なんだ?

 

「銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚だよ。他には白銀貨と白金貨があるけど、大商人でもないと使わないかな」

 

 こちらが聞く前にレオンさんが教えてくれた。

 銅貨一枚辺りの価値が分からないけど、金貨何だし高く見積もっていいだろう。いや、分からないけど。

 

「金貨三十枚か、良かったな坊主。ちょっとした小金持ちだ」

 

「私達はB級冒険者でそこそこ稼いでるから、そう感じるのよ。普通の人からしたら大金なんだから。大事に使いなさいよ?」

 

「そうします。なるべくなら、使わないでいたいですし」

 

 金貨はナルバスとノフィリアからの物だろうな。

 ……税金じゃないよね?

 

「調合器具がありますね。私で良ければ使い方、教えますよ?」

 

「お願いします。薬草と癒花があるみたいなので、それを使った薬を教えてくれれば嬉しいです」

 

「はい! 私、人に物を教えるのって初めてなんですよ。うふふっ、何だか嬉しくなっちゃいます」

 

 人に物を教えた経験が無いのか。うふふっ……何だか不安になっちゃいます。

 エリアさんは可愛らしく笑っているが、俺は空笑いしか出来なかった。

 

 そんな相反する笑顔を浮かべている俺とエリアさんの間に、カレーらしき何かを入れた(うつわ)が差し出される。

 器の出現先を見ると、城でも食べた白いパンを持ったカーティアさんがいた。彼女は白パンも同じように差し出すと、顔だけをこちらに向けて言う。

 

「ほら、出来たわよ。後で感想を聞くから、味わって食べなさい」

 

 カーティアさん作のカレー(もど)きは、とても美味しかった。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 腹ごなしを終え、タルクスに向かう旅路に戻った。

 まだ明るいので警戒はあまりしなくても大丈夫とのことで、様々なことをレオンさん達に聞くことにした。

 

「マジックバックは利便性の高い魔道具だけど、袋の口より大きい物は入れられないわ。それから、入る容量によって等級(レア度)が変わって……ねぇ、それ。どれくらい入るのかしら」

 

「どうでしょう。調べられないんですか?」

 

「タルクスに着いたら調べると良いよ。ギルドには魔道具や魔剣専門の【鑑定】スキル持ちの職員がいるからね」

 

「【鑑定】スキル、そんなのもあるのか。……あれ? それは加護とは違うんですか?」

 

「スキルと加護は別物だぜ。加護ってのは、神々やらの高等な存在からの贈り物。一方スキルは自ら鍛えて身に付ける物だ。まぁ、【鑑定】スキルみたいな先天的な物もあるけどな」

 

「魔法みたいな物なんですね。元々持ってる適性と新たに取得できる適性があるってことかな」

 

「そんな感じです。……ついでに、トウヤさんはどの属性に適性がありましたか?」

 

「闇ですよ。むしろ闇が飛び抜けてて、他の適性が無かったです」

 

 俺の魔法の適性を聞いた瞬間に、レオンさん達全員が「……あー」って顔をした。

 何だよ。何を察したんだよ。

 

「……黒髪に黒い瞳。加えて闇魔法の適性とくらぁ、誰しも夜半(よわ)だと思うわな」

 

「……そうね。なるべく人前で闇魔法を使わない方が良いと思うわ。異世界から来たことは言えないんだし。髪と瞳の色を含めて、偶然で済ませられることじゃないもの。闇魔法を覚えるのはそれほど難しくないけど、使えるのは極めて簡単な魔法に限られるわ」

 

「……うーん。全ての人が悪感情を持っている訳ではない。けど、一定数は好ましく思わない人がいるのが事実だからね。使い手を選ぶ魔法ってとこだよ」

 

 この国に深く根付いているのであろう『黒』差別。異世界から来た俺としては関係ないにも程があるのだが、そう見られても仕方ないと。

 これからは人前で闇魔法を使うことを控えよう。まぁ、今までも人前に(さら)したことは無いのだけれど。城では監視の目があったし、使えることを知っている者はもうこの世にいない。

 

「そう言えばですけど、『夜半』って何です?」

 

 前々から気になっていたことを、この際なので聞いてしまう。確か、殺し屋の男も言ってたはずだ。

 

「『夜半』は魔族とその他の種族との間に生まれた子をそう呼びます。魔族の特徴である黒髪か黒目のどちらか、またはその両方が体に表れるため、特定がしやすいんです」

 

 髪と瞳、一目見れば分かってしまう特徴だ。

 ヘアウィッグやカラーコンタクトが欲しい。

 

「それに『夜半』は魔力が高く、闇属性に高い適性があるの。魔族の血を色濃く引き継ぐせいだと言われてるわ」

 

 人前で闇魔法を使った日には、即刻『夜半』確定ってことか。

 俺が気難しい顔で悩んでいると、何を勘違いしたのかクランクさんがニカッと笑いかけてきた。

 

「心配すんなよっ! これから行くタルクスって街は実力があれば嘗められねぇところだ。坊主が力を見せれば、やいやい言ってくる奴はいなくなるだろうぜ」

 

「そんな簡単にはいかないでしょ。十年前まではタルクスが魔族との戦争の最前線だったんだから。未だに黒ってだけで嫌ってる貴族もいるのよ?」

 

 ……え?

 

「それ、本当ですか? タルクス行きはキューベの奴に勧めらたから決めたんですけど……」

 

 タルクスってダンジョンあるから良いところだよ! という言葉に釣られて軽く決めるんじゃなかった……。

 

「ま、まぁ、タルクスはダンジョンが発生したばかりだからね。(しばら)くは活気付いてるはずだよ。ギルドから出す依頼も多くなるだろうから、そこで実力を示せば皆に認められるさ!」

 

 レオンさんの言葉は心強いが根拠的には弱いな。人や物を嫌う感情は、理屈じゃない。実力を見せれば、むしろ余計に(うと)ましく思われるだろう。

 

「……不安だ」

 

 昨日の夜に取り戻した自信が消えていくのを感じながら、タルクスへの道を歩み続けた。

 

 





『アールカ・ランカスタ』
年齢:28歳
身長:160㎝
種族:人族
好きなモノ:弟、職場の人達
嫌いなモノ:虫
職業:ギルド職員
得意武器:なし
特技:書類整理
加護:なし

 ルクシアン王国城下町にある冒険者ギルドの女性職員。
 インテリ眼鏡大臣キューベの姉だが、彼女は眼鏡をかけていない。
 あと二年もすれば三十路になる年にも関わらず、見た目は二十代前半にしか見えない。
 王都のギルドであっても貴重な【鑑定】スキル持ち。他の職員と比べてスキルの練度が高く、鑑定の際に彼女を希望する冒険者も多い。
 同僚や冒険者から言い寄られることが良くあるが、すべからく断っている。本命は弟ではないの? という噂がある
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