ルクシアン王国王都を出てから二日目の昼。
俺はカーティアさん作の昼飯を食べてから、エリアさんから調合を教えてもらっていた。
俺とエリアさんの間には薬草と色とりどりの
「薬草と癒花がこんなに一杯! これなら沢山失敗できますね!」
「そこは沢山生産できますねって言って欲しいです……」
薬草と癒花は十分な数があるにしても、沢山失敗して良い理由にはならない。薬草はどこにでも生えているとは言え、素材は無駄には出来ないのだ。
「薬草と癒花を使った調合は大まかに分類して二つあります。薬草を多くすると回復薬に、癒花を多くすると状態異常に効く薬になるんです」
エリアさんの言う薬草と癒花の調合比率をメモ帳に書き込んでいく。調合器具の中にメスシリンダーもあったので、グラム数でも計るのかと思ったら、葉の数と花弁の数で良いらしい。
タルクスに付いたら調合書を買うが、こちらの世界の言語を覚えるまでは、このメモ帳に日本語で書いた物を使うつもりだ。
「状態異常って毒や麻痺などの種類がありますけど、使う癒花によって対応できます。火か風、雷の
「ますい? 麻酔ですか? 手術に使う……えーと、麻痺薬みたいな物のこと?」
「えっ? やだなぁ、違いますよ。麻痺薬ではなくて、魔素を含んだ水のことです」
「まそ? まそって何です?」
「私達の中に流れてる魔力がありますよね? それが、外にある状態を言います」
中にあれば魔力、外にあれば魔素。その魔素を含んだ水が魔水、っと。
調合と題売ったメモ帳のページに、書き込むべき情報を記入していく。俺は、こうして知識が増えていく証を見るのが好きだったりする。
「魔水の作り方は……見せた方が早いですよね」
「百聞は一見にしかずって言葉もありますしね。そうしてくれると嬉しいです」
「ひゃく、ぶん? いっけん?」
「百回聞くよりも一回見た方が良いって意味よ。ほら、純水。魔水作るんでしょ?」
「あっ! カティーさん、ありがとうございます! ではトウヤさん、今から魔水の作り方を見せますね」
そう言って、エリアさんは水の入った容器を包み込むように持った。そして歌うように詠唱を紡ぎだす。
「これは、風の魔法……?」
「あら、分かるの?」
振り返ると、もう一つ容器と回復薬を入れるのであろう空の小瓶を持ったカーティアさんが近くにいた。
カーティアさんは俺に容器と小瓶を渡すと、エリアさんの隣に座る。
「魔水はね、魔力を込める人によって属性が変わるの。いまエリィが込めているのは風の魔力。風の魔力で作られた魔水を使った薬は、使用時に体の活性化を促す効果があるわ」
「癒花には色によって種類が、魔水は込める魔力によって効能が……。調合の組み合わせは山のようになりますね」
「そうよ、そしてエリィはその全てを記憶してるの。だから私達は調合書を買わなくてすむってわけ」
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カーティアさんに属性によって変わる効果を聞きながら、メモをとっていく。
「それで最後に闇属性の魔水の効能なんだけど……」
「はい。俺としてはそれが重要なんです」
「……生成した薬の効果が全て一段階向上するわ」
「おおー! 凄いじゃないですか!」
同じ材料で品質の高い薬を作り出せるのなら、儲けが期待できる。タルクスに付いたら、薬師をやるのも良いかもしれないな。
ダンジョン前で露店でもすれば、冒険者に回復薬を売れるだろう。
「……その代わり、闇属性に適正が無い人が服用すると毒になるの」
「……はい? すいません、もう一度言ってもらえませんか?」
「闇属性に適正が無い人が服用すると毒になるわ」
「……本当ですか?」
「本当よ。ここで嘘を言う理由がないじゃない」
と、言うことは何か? 俺が作成した薬は、服用する人によっては、全て毒になるってことか?
ダンジョン前で薬を売ることも、どこかに卸売りすることも出来ないことが判明した。効果が一段階上がる代わりに、飲む人を選ぶ回復薬なんて売れる訳が無い。
「……闇属性ってどこまで不遇なんですか」
「闇属性に
「他の属性……その手があったか」
確かセラドも何度も訓練すれば使えるようになると言っていた。
どの道、闇魔法は人前で使えないんだ。他の属性も覚えないことには、魔法を使うことも満足に出来ない。
「カーティアさん、是非とも俺に魔法を教えてください。特に利便性の高そうな火と水の属性をお願いします」
「見た目によらず、結構厚かましいのね……」
冗談でも何でもなく、魔法の有無は命に関わってくると思っている。
キューベに聞いた限り、この世界に銃火器は存在しない。ならば、拳銃の変わりとなるのは何か。そう、魔法だ。
俺は、魔法を遠距離の攻撃手段として活用出来ないかと考えているのだ。
火と水の魔法に至っては、普通に欲しい。何もないところから火を点けたり、水が出せたりする。かなり便利だろう、欲しい!
「まぁ、良いわ。私ほどの魔法使いともなると、弟子の一人や二人は欲しいところだもの」
「ありがとうございます! じゃあ早速……」
「トウヤさん? 私のこと忘れてませんか?」
声のした方を振り向くと、容器を抱えたエリアさんがこちらを疑わしげに見ていた。
……忘れてました、すいません。
「これが魔水です。風の魔力を込めたので、薄緑色になってますよね。これで回復薬を作ることが出来ます」
エリアさんが持つ容器に入っている魔水は、確かに薄緑色になっていた。
込めた魔力の属性によって色が変わるのか。見た目にも分かりやすくて良いな。もしかして、俺がやると黒い水になるんだろうか。
「トウヤさんが魔力を込めると闇属性の魔水になっちゃいますし、今回の調合は私の物を使いましょう」
「……はい、お願いします」
至急、他の属性を覚えなければならない。
でないと自分一人で回復薬も作れない。
「基本の
薬草を三枚すり鉢に入れ、入念に磨り潰していく。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
葉の原型が無くなり、緑色の汁が出てくる。不思議と青臭さは感じない。何だか爽やかな、ミントのような香りだ。
「次は、緑の癒花を磨り潰していください」
沢山の癒花の中から緑色の物を選び、すり鉢に放り込む。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
潰れた花弁からも緑色の汁が溢れ、すり鉢の中が一層緑色になる。花の蜜でもあったのか、ほんのり甘い匂いがする。
ミントの爽やかさと花の蜜の自然な甘さが……飲んだらどんな味がするんだろうか。
「磨り潰した物を容器に入れて、そこに風の魔水を容器の八分目まで注いでください」
すり鉢を傾け、溢さないよう慎重に小瓶に入れていく。
トポトポ……トポトポ……
小瓶の底に溜まった緑の
「軽くかき混ぜた後、沸騰する寸前まで温めます」
小瓶の縁を持って軽く振る。
温めるのはカーティアさんがやってくれた。やっぱり火の魔法は便利だな。覚えたい。
「後は飲めるくらいに冷えたら完成です。急速に冷やすと効能が薄まっちゃうので、自然に冷えるのを待ちましょう」
一本目が冷めるのを待っている間に、もう四本作成した。
完成した五本のポーションは
「今回は材料が最低限ですし、魔水の魔素濃度もそれほど濃くしてないので、出来たのは初級ポーションってところですね」
「初級か、回復する程度はどのくらいですか?」
「そうですねー……傷の再生を促す力が強くなります。ポーションは飲み薬なので、直ぐに効くわけじゃ無いんですよ」
「それなら、軟膏や丸薬なら回復の効果が高くなります?」
「はい。粘性を持たせるために、薬草を多くするので、回復しやすくなりますね。中級くらいになると、目に見えて治るのが分かりますよ」
ポーション、ヒール軟膏、ヒール丸薬。液状、ジェル状、個体の順に効果が高くなるってことか。
先ほど聞いたポーション作成の手順と共に書いておく。
「では次は、解毒薬の作り方を教えます」
「うす。エリア先生、お願いします」
「せ、先生だなんて……えへへ、照れますね」
その後も様々な回復薬を教えてもらった。
今回の成果は、緑の癒花を使った
全て初級程度とのこと。
それから、緑と紫の癒花を半分ずつ使った風邪薬。風の魔水で作ったので、体の活性化も期待できる。
調合は楽しいな。
前は最新機器を駆使した毒作りしかしてなかったから、こんなに心踊る調合は初めてだ。自らの手で作ってることが実感できるからかもしれないな。
「調合にも慣れてきたみたいですね。それじゃあ……トウヤさん。一から作ってみませんか?」
「一から? それって、魔水からってことですか? でも、そうすると出来上がるのは毒薬ですよ」
「そうですけど、それはトウヤさんが飲めば良いじゃないですか」
闇属性で作った回復薬は、適性がない人が飲めば毒になる。裏を返せば、適性があれば問題無いということだ。
でもなぁ……毒認定されてる物を飲むのはなぁ……。
体は問題なくとも、心の面で問題が出てくる。
「どうですか?」
エリアさんを見ると、純粋に好意で言ってくれてるのが分かる。
他の属性を身に付けた時に魔水を作れなかったら大変だもんな。ご好意、痛み入ります。
「……やらせて頂きます」
「はい! それでは、水に魔力を込めるところからです」
カーティアさんが出してくれた水が入った容器に手を添える。
魔力を込めるってのは良く分からないけど、先ほどのエリアさんがやったようにしてみる。
「我が魔力を糧として世界に闇の力を顕現する……」
試しに詠唱をしてみた。
何だか気持ち悪いな。計算式ができていて、答えも解っているのに、答えを出してはいけない。
出るべき答えは、全て水に入っていく。
「順調にいってるみたいね」
「トウヤさんは教えることの少ない生徒で、先生としては複雑な心境です」
あれ? 何だか楽しくなってきたぞ?
計算式を構築、答えは出さずに次の計算式を構築する。そして次、次、次。
答えを放り出して問題を作りまくるのは、何故か少し楽しかった。
「うわ、かなり濃くなってるわね……」
「適性ない人が飲んだら死んじゃいますね、これ……」
やばい、目の前がチカチカしてきた。これ以上魔力が抜けてったら駄目な気がする。
勘を信じることにして、魔力を込めるのを中断した。
「何か、目の前が点滅してます……」
「あ、それは魔力が切れてきてる証拠ですね」
「まぁ……これだけ注ぎ込めば魔力切れもするでしょうね」
エリアさんが差し出してくれた薄緑の魔水を受けとる。
……どうしろと?
取り敢えず手に持ったまま、自分が魔力を込めた容器を見ると、底が見えないほど黒くなっていた。
「魔水は飲むと、魔力を回復してくれるんです」
「これだけ闇の魔力が込められてたら、飲む人を選ぶわね。生半可な適性だと耐えられなそうだもの。この黒い魔水、小瓶に入れておくから、厳重に注意して取り扱うのよ?」
「……はい。気を付けます」
回復薬を作ろうとして、厳重注意を言い渡される毒物を生み出してしまうとはな。
俺は、小瓶三本分になった黒い魔水を見やって溜め息を吐いた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
夕食の時間の事。
レオンさんとクランクさんに相談をした。相談の内容というのは……
「闇の魔水の使い道?」
「はい、俺が飲む以外にないものかと思いまして」
「そうさなぁ、毒として使ったらどうだ? もっとも、人間相手に限るがな」
「魔物にとっては回復薬だろうからね。毒として使うなら、適性を上げている者が少ない種族にしか使えないよ」
俺が昼時に作り出してしまった黒い魔水を如何にして消費するか、だ。
俺が飲んでも良いのだが、人前で飲んだら
「坊主は見た目からして夜半なんだし、気にすることないんじゃねぇか?」
「……あっ、確かに」
髪と瞳を誤魔化しようがない以上、他で取り繕っても無意味か。
取り敢えず、黒い魔水はポーションにすることに。薬草多め魔水少なめにして、五本作成した。小瓶に「注意」と書いておく。
『レオン』
年齢:19歳
身長:178㎝
種族:人族
好きなモノ:仲間、皆の笑顔
嫌いなモノ:なし
職業:B級冒険者
得意武器:両手剣
特技:魔物狩り
加護:???
若くしてB級冒険者パーティーのリーダーを勤める実力者。
ルクシアン王国の城下町にホームを持っており、カーティア、クランク、エリア以外の三人はそこにいる。
笑顔の似合う青年で、主人公よりも主人公らしい。
手にした両刃の大剣は、敵を滅ぼし味方を救うという。ダンジョン深層でドロップした、聖剣に近い両手剣。
実は良いとこの貴族の長男らしい。