黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.014 襲撃者と新魔法

 

 

 ルクシアン王国王都を出立してから三日目の真夜中にそれは起こった。

 

「おい、坊主、起きろ!」

 

 夜間の見張りは交代制で、二時間前にレオンさんと変わったはずだ。そして男勢が雑魚寝しているテントに戻って横になった。

 だというのに、クランクさんが起こしに来たということは……

 

「敵ですか」

 

 昨晩も夜の間に襲撃があったが、ゴブリン二体だけだったので、その時に見張りをしていたカーティアさんとクランクさんで片付けたと聞いている。

 護衛対象である俺が起こされたのなら、相手は四人だけでは対象できない敵。または、俺を逃がさねばならない状況であるということ。

 

「ああ、しかもな、襲ってきたのは魔物じゃねぇ。人間だ」

 

「人間……俺が標的でしょうか」

 

 ポーキンが俺の命を諦めてないとすれば、レオンさん達ごと殺しに来ても可笑しくない。

 彼らの戦闘能力を間近で見た身としては、ポーキンがそれほど愚かな判断を下すとは思えないが。

 

「いや、盗賊って線も考えられる」

 

「それもそうか。兎も角、加勢しましょう」

 

「待て待て」

 

 テントの外に出ようとした俺の肩を、クランクさんが掴んで止める。

 

「良いか、坊主。お前は守られる立場で、俺達は守る立場の人間だ。お前を戦闘に駆り出して怪我でもさせたら、冒険者としての名に泥が付く」

 

 クランクさんの思いの外力強い眼力にたじろぐ。

 守られる立場か。一ヶ月前には考えられなかったことだな。

 

「分かりました」

 

「分かってくれたか。坊主を起こしに来たのもな、もしものことがあったら、逃げてもら……」

 

「分かった上でお願いします。俺も戦闘に参加させてください」

 

「……いたくて言ったんだがなぁ。本気か? お前、勇者でも加護があるわけでもないんだろ?」

 

 城にいるであろう三人の勇者のことを思い出す。

 

 俺は、あいつらみたいに勇者としての超人的な身体能力なんて持ってない。

 俺は、中二病の女子高生みたいに魔法で炎の竜巻なんて出せやしない。

 俺は、優しくも強い男子高校みたいに聖剣を呼び寄せることも出来ない。

 俺は、気だるげな女子中学生みたいに大地を意のままに操ったり出来やしない。

 

 ──だが、俺は一般人ではない。

 

「そんな超常のものがなくとも、戦えますよ」

 

 こちとら、異世界で殺し屋やってたんですから。

 とは言えないが。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 装備を着込み、テントから出ると、レオンさんが大剣の腹で黒ずくめの男の頭を殴っているところだった。

 鉄の塊を頭に強打された男は、人一人分飛び、地面を転がる。

 

「クランク! 何故彼を連れてきたんだ!」

 

「坊主がやりたいって言ったんだよ」

 

「レオンさん。襲撃者の狙いは俺かもしれません。俺も参戦して、数を減らします」

 

 かもれない、とは言ったものの、のびている男を見ると準備が整っている。この世界の盗賊が黒ずくめの服に身を包んで襲ってくるとは思えない。

 願望が混じっているが、盗賊には荒々しい格好をしていて欲しい。

 

「だが危険じゃ……」

 

「おーい、レオン。押し問答してる暇はなさそうだぞ。(やっこ)さん、殺る気満々だ」

 

 クランクさんの言葉を裏打ちするかのように、周囲の暗闇がざわめきだす。

 どうやら囲まれているようだ。

 

「カティには、エリィを守ってもらってる。怪我をしたら君もテントに入ってくれよ」

 

「合点承知です!」

 

 レオンさんと拳を合わせるようにして、了承の意思を示す。

 

 会話が終わるのを待っていてくれた訳ではないだろうが、タイミング良く黒ずくめの男が飛び出してきた。

 突き出されたナイフを首を振って避け、男の顎に手を添える。添えた手と同じ方向の足で、相手の支えである足を引っ掛け、腕を伸ばす。

 反撃されると思っていなかったのか、男は見事に半回転して頭を打った。

 

「見事なもんだ、なっ!」

 

 盾で他の男を殴り付けつつ、こちらを褒めるクランクさんは武器らしい武器を持ってなかった。タワーシールドと呼ばれる、長方形の盾を両手で扱っている。

 レオンさんも剣の腹で攻撃しているところを見ると、二人は不殺を心掛けているようだ。

 なら俺も、今回は殺さずに済まそう。襲撃者の思惑と依頼主も気になるし。

 

 周囲を囲む男達は、カーティアさんとエリアさんのいるテントを狙っているようには見えない。レオンさんとクランクさんに対峙している数も少ない。

 それに引き換え、俺を取り囲むようにして、一定の距離を保って位置取りしている影が四つ。

 

「なぁ、俺が狙いだろ」

 

「黒に応える口などない……」

 

 応えてるだろ、とは言わないでやろう。

 まさか応えてくれるとは思ってなかったが、この問答で男達の狙いが分かった。

 

 俺だ。

 

 先日の、ポーキンが差し向けた男は、黒であることを(さげす)むような発言はしなかった。そして彼は闇魔法を使えるとも言ってた。

 

 今回の襲撃者は黒を嫌っている。

 ポーキンが依頼したのか、黒嫌いの一派が襲ってきたのか。

 まぁ、それは後で聞き出せば分かることだな。

 

「黒は忌むべき敵だ……」

「黒は消さなければならない……」

「黒は我らの敵だ……」

「黒は滅ぼさなければならない……」

 

 我ら?

 集団的な意志が働いた結果、俺を襲った?

 消す、滅ぼす、物騒な言葉を使う連中だ。誰かの依頼で今回の襲撃を企てた可能性は低いかな。強い言葉を使う者は、得てしてプライドが高い。易々と人の言うことを聞くとは思えない。

 利益が合致すれば、その限りではないが。

 

 にしても、人のことを黒だ黒だとうるさい奴らだな。

 髪と瞳の色が黒いだけで、彼らに何か迷惑をかけたのだろうか。そんなことを考えると、狭くなってきた包囲網の中で、少しだけ不機嫌になってしまう。

 

「俺のいた世界の日本っていう国だと、皆、黒髪黒目だぞ」

 

 この世界の連中も、異なる日本から来た三人の勇者も黒髪黒目はいなかった。

 この黒ずくめの男達も髪と瞳は黒くないのだろうな。

 

「悪魔の国か……」

「南東の島のことか……」

「おぞましいな……」

「いつの日か根絶やしにしなければ……」

 

「お前らの方が悪魔より、よっぽど恐ろしい」

 

 四方を囲まれている以上、下手な真似はできない。かといって、レオンさんかクランクさんの助けを待つのも忍びない。

 何とかして奴らを動かさなきゃな。

 

 奴らは黒を嫌っている。ならば、その黒から挑発されたら乗ってくるだろう。

 モデルにするのは、俺が異世界に来た元凶である、自称悪魔王。

 

「おいおい、俺様が怖いのか? これだから脆弱で矮小な人間は詰まらんのだ」

 

「き、貴様ぁっ! 黒ごときが我らを虚仮にするか!」

 

 見え透いた挑発に乗り、前方の男が突っ込んでくる。それを見た左右の男も駆け寄ってくるが、俺は意識を後ろに回している。

 音と気配から大体の距離を推し測る。

 土を踏む音、武器を振りかぶった時に発する風切り音、荒い息音。

 

 敵から視線を外すのは宜しくない。一瞬で全てを済ませなければ、こちらが死ぬことになる。

 

 背後の敵が手を伸ばせば届く距離に来たタイミングで、後ろを振り向く。振り上げていた手首を対面の手で掴み、空いた方の手で男の胸ぐらを握る。

 さらに回転し、男の胸板に背中を押し付け、腰に乗せるようにして屈む。

 手首を掴んだ手を下に、胸ぐらを掴む手を荷物を担ぐようにして前方へ放る。それと同時に屈んでおいた足を伸ばし、背に乗った男を地面に放り投げる。

 いわゆる背負い投げだ。

 

「がはっ!」

 

 強かに背中を打った男の腕を、肘を支点に、本来なら曲がらない方向に折る。

 本来なら首にナイフを突き刺すのだが、今回は不殺ということで。

 

「卑劣な!」

「許さんぞ!」

 

 殺さないだけ優しいと思って欲しいな。

 ナイフを左右に二本ずつ投擲し、前の男に向けて駆ける。

 狙われた黒ずくめの男は、持った武器を横凪ぎに振るってくる。先程、投げられた男を見たからだろうか。

 

「我が魔力を糧として世界に闇の力を顕現する。我が足場を形作れ【ステップ】!」

 

 俺は前方に跳び、空中(・・)を蹴ってさらに跳躍する。

 

「なっ!?」

 

 いつの日だったか、こうして囲まれた時に、壁を蹴って後ろに回り込んだことを思い出して編み出した魔法だ。ほんの数秒だが、空気を固めて足場程度にはなる。

 

「小癪な真似をしお……ぐぺっ!」

 

 俺を追って後ろを振り返ったところを右で殴る。一発で気絶してくれるとは思わないので、左の手で引き寄せ、今度は右肘を鼻っ面に打ち込む。

 

「対象の沈黙を確認、っと。どうするよ、まだ殺るか?」

 

「当ぜ……ぎゃっ!」

「何や……ぐはっ!」

 

 腹部と肩にナイフを生やしながらも、まだ戦意のあった男二人が崩れ落ちる。

 その後ろには、レオンさんとクランクさんが立っていた。

 

「坊主、案外やるじゃねぇの」

 

「お見事、惚れ惚れするような技だったよ」

 

 周りを見ると、白目を剥いた男達が倒れ付していた。どうやら二人で殆どを片付けたようだ。

 

「お、終わりましたか……?」

 

 女性用テントから顔を出すエリアさんの声は、何とも言えず気が抜けるものだった。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「うしっと、こいつで終わりだな」

 

 闇夜からの襲撃者を退け、尚且つ、誰一人死人を出さなかった俺達は、襲撃者達を縛り上げていた。

 逃げた者がいるかは分からないので、捕まえた者だけを数えると、襲撃してきたのは十人。

 

「テントの余りを貸して貰えますか? 一人ずつ尋問しましょう。そこで、俺を嫌ってるようだったので、俺がやると反感をかうかも……何ですか?」

 

 俺は依頼主を聞き出すための準備をしようと思ったのに、レオンさん達は新種の生き物を見るような目で見てきた。

 

「いや、手慣れてるなって思ってさ」

 

「そだな。坊主、どこでそんなこと覚えたんだよ」

 

「え? あー、そのですね……」

 

 そうか、一般人は尋問する手順を指示しないか。

 ん? そもそも、一般人は尋問しようって発想にならないのか?

 

「ぐ、うぅ……」

 

 どう言い訳しようか悩んでいると、拘束した男の一人が起きてしまった。いや、起きてくれた。

 

「あっ、ほら! レオンさん、起きちゃいましたよ!」

 

「あ、あぁ、そうだね」

 

 誤魔化せたかどうかは分からないが、一先ず先伸ばしには出来たかな。

 レオンさん、クランクさんと共に、起き出した男を囲むように立つ。

 

「お前達の主人は誰だ?」

「クランクさん、その質問して答える奴はいませんよ?」

 

 例え、この男が依頼主を話したとしても、それは虚偽の可能性が高い。

 

「はん! 黒を守るような異教徒に教えはせん! 我ら『太陽教』は黒には屈せんぞぉ!!」

 

「ほら、言ったとお……いや、こいつら馬鹿ですね」

 

 『太陽教』……どっかの宗教団体か。

 そこの敬虔な信者達が黒を嫌って襲ってきたと。

 

「……みたいだな」

 

「何だとっ! 我らを愚弄するか!」

 

「いやいや、するだろ。お前らは馬鹿だぞ。もしかして、わざとやってるのか?」

 

 演技だとしたら称賛に値する道化っぷりだが、嘘を言ってる様子もない。つまり、こいつは馬鹿だ。

 黙って成り行きを見守っていたレオンさんも擁護(ようご)できないようで、苦笑いしている。

 クランクさんは、こちらは二人で大丈夫だと判断したのか、他の男達を監視に行った。

 

「『太陽教』ってのは、最近ルクシアン王国領土で広がりつつある宗派でね。十二年前の戦争を繰り返さないためにも、夜半や悪魔を皆殺しにするって息巻いてるんだ」

 

「はぁ、おっかないですね。そんな連中が沢山いたら、俺なんかは生きていくのも苦労しそうだ」

 

 タルクスに着いた途端に、太陽教の教徒に囲まれたらと思うと、ゾッとする。

 

「今のところ、危険な思想を持った集団としか見られてないよ。皆が皆、黒憎しって訳じゃないからね」

 

 レオンさんの言葉に安堵していると、馬鹿な男が突然(わめ)きだした。

 

「奴らを生かしておくのは、戦火の火種を残しておくのと同義だ! 奴らをこの世界から根絶やしにせねば、本当の平和など、永遠に来ないんだ!!」

 

 縄で身動きの取れない男は、俺を……いや、黒を親の(かたき)のように睨んでくる。

 この男に何があって黒を憎んでいるのかは知らないが、それを俺に向けるのは筋違いだろうに。

 

「黒は滅ぼさなければ……黒は敵だ……黒は消さなければ……黒は、黒は、黒は……!!」

 

 叫んだと思ったら、今度はブツブツと呟き出した。まともな精神状態ではない。

 

「……あれ? レオンさん、こいつの胸元、光ってません?」

「これは……ペンダント?」

 

 レオンさんが男の胸元を探ると、太陽を模した金のペンダントが出てきた。純金か鍍金(メッキ)かは、この暗闇では判別できない。

 そしてペンダントを引っ張られ、多少なりとも不快な思いをするであろう男は、未だに何事かを呟いている。

 

「…………よ我が魔力を……して……の力で……を燃やせ【ホー……ファ……】ッ……!」

 

 太陽を模したペンダントは、男の呟きに反応するように一際大きな光を放ち──

 

「うおっ!?」

「な、何だ!?」

 

 ──燃えた。

 

 可笑しくなった男だけでなく、他の縛られている男達までもが燃えている。

 火の勢いは強く、恐らく男達は助からない。

 

 もしかして自殺か……?

 

 俺は、煌々と燃え盛る太陽教の男達を眺めながら、誰に言うでもなく呟いた。

 

「魔法で自らの口封じって……異世界だなぁー」

 

 普通は毒薬忍ばせるもんなんだけど、と言っても、もう燃えてしまった彼らには伝わるまい。

 

 





『カーティア・バノ』
年齢:18歳
身長:157㎝
種族:人族
好きなモノ:レオン、パーティーの皆、勉強
嫌いなモノ:酒臭い時のクランク
職業:B級冒険者
得意武器:杖
特技:料理
加護:なし

 レオンがリーダーを勤めるB級冒険者パーティーの魔法使い。
 ルクシアン王国領土内にある有名魔法学校を首席で卒業した天才。冒険者を引退した後は、ルクシアン王国の魔法研究所に勤めることが決まっている。
 ルクシアン王国東部の貧困の村出身。
 偉そうにしているのは、学生時代、舐められないためにしていたら癖になってしまったため。
 クローブ家から縁談の話が持ち上がっているが、彼女には想い人がいるらしく、断っている様子。
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