黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.015 正当な報酬

 

 

 襲撃者を撃退した次の日の朝。

 眠い目を擦りながら、テントから這い出ると、朝御飯の良い匂いとエリアさんが迎えてくれた。

 

「トウヤさん、おはようございます」

 

「はい、おはようです」

 

 朝からエリアさんの眩しい笑顔を浴びて、思わず目を細める。

 そんなエリアさんの後ろを伺うと、即席の墓らしき土山が出来ていた。

 

「昨日、襲撃してきた太陽教徒の墓ですか」

 

「そうです。火の勢いが強くて、骨とペンダントしか残ってませんでしたけど」

 

 ペンダント……太陽を模した金のやつか。あれが発火元っぽいからな、何か細工がしてあったのだろうか。

 

「彼らには悪いとは思ったんだけどね。これが襲われたことの証拠品になるから、タルクスのギルドに受け渡すよ」

 

 俺よりも早くテントを出ていたレオンさんの手元を見ると、例のペンダントを持っていた。

 そのペンダントは、昨日は暗闇の中でも金だと分かったのに、今は日の光を受けても、くすんだ色しか浮かべていない。

 

「使われていた術式を調べたわ。でも、どうやら術式を破壊する術式が組まれていたみたいで、詳しいことは分からなかったの」

 

 朝御飯を作っているカーティアさんが、申し訳なさそうに(うつむ)く。

 術式を破壊する術式。わざわざそんなものを仕掛けたということは、余程詮索させると不味い術式が組まれてたのだろう。

 

「前々から、太陽教の連中はキナ臭いとは思ってたが、これは益々注意が必要になるなぁ」

 

 護衛対象である俺よりもテントを遅く出たクランクさんが、欠伸混じりに注意換気を促す。

 

「太陽教って、ルクシアン王国領土で広まりつつあるんですよね? 俺はこれから生きていけるか心配になりましたよ……」

 

 今のところは、危険な思想を持った集団として見られているらしいが、何時この考えが主流になるか分からない。

 そうなったら、俺はどこで生活していけば良いんだろうか。

 

「未だに一部の貴族は黒憎しって感じだしなぁ」

 

「そうね。それに、特に海岸部では多いらしいわよ」

 

 クランクさんとカーティアさんの発言に、益々気が滅入ってくる。

 なるべく海の近くには寄らないようにしよう。

 

「え? タルクスって、ルクシアン王国領土で言えば海岸部ですよね? トウヤさん、大丈夫なんですか?」

 

 そして、エリアさんの何気ない一言が決め手となった。

 ……え? タルクスが海岸部? そして太陽教は海岸部に多い?

 何それ、死にに行くようなものじゃないか。

 

「……もしかして、キューベから何も聞いてないのかい?」

 

「……ええ。ダンジョンが発生したから、タルクスは良いところだよー、としか」

 

 キューベ……今後会うことがあれば、貴様を半殺しにする。

 

「十二年前まで、ルクシアン王国は『悪魔王』と戦争をしていたのは知ってるよね?」

 

「はい。そしてタルクスは戦争の最前線だったんですよね」

 

 ん? タルクスは戦争の最前線、そして沿岸部。

 ということは、

 

「悪魔王は、海の向こうから来たんですか」

 

「そう。奴等はこの大陸の南東にある大陸から来たんだ」

 

 そう言えば、昨日の連中も「南東の島のことか……」なんて言ってたな。

 悪魔達の本拠地近くであり、戦争の最前線でもあるタルクスに、外見上は夜半(よわ)の俺が居たら、忌み嫌われるのは目に見えてる。

 ダンジョンに誘われてタルクス行きを決めちゃったが、行き先を考えた方が良いかもしれない。そんなことを本格的に考え始めた俺の肩に、レオンさんの手が置かれる。

 

「……キューベは何を考えてるのか分からない奴だけど、何も考えてない奴ではないよ。どうか彼を信じてやってくれ」

 

 ……まぁ、確かに、一ヶ月程度の付き合いだが、キューベの奴が俺を嵌めようとして、タルクス行きを進めた訳ではないのは分かる。

 キューベなりに、俺のことを考えて……いや、ないな。

 恐らく、国のためになるからだろうな。大方、俺を餌に危険分子を吊り上げる魂胆だ。

 

「むざむざ生け贄に出された訳じゃないのは理解出来ます。こうして、レオンさん達を護衛に着けてくれたことからも、それは分かります」

 

「じゃあ……」

 

「ですが、後で一発殴らないと気が済みませんね」

 

 俺の言動にレオンさん達は呆気に取られた顔をした後「そりぁ良い」と笑ってくれた。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 日の沈む夕暮れ時。

 タルクスを目指す俺達の前に、魔物が立ち塞がった。正確には、俺達の歩む道の先から土煙を上げて突っ込んで来たのだ。

 人族の子供程度の背丈、(いびつ)な鉤鼻、先の尖った大きい耳、醜く醜悪な面構え、そして濁った緑色の肌。

 

 この旅路で何度も遭遇した魔物……ゴブリンだ。

 

 今までは多くて五、六匹。

 しかし、今回は軽く目を通して三十匹は越える数がいる。

 辛うじてレオンさんとクランクさんが抑えているが、何時囲まれるか分からない状況だ。

 

「レオン! 魔法発動まであと十秒! もう少しだけ耐えて!」

 

「クランクさん! 回復魔法いりますか!?」

 

 ゴブリンの攻撃が届かない後方で、カーティアさんとエリアさんが、前方の二人に声をかける。

 カーティアさんの魔法が発動すれば、ゴブリンの全滅が狙える。それまで彼女を守るのが前方の二人の役目だ。

 

「了解! ゴブリン一匹後ろに通さないよ!」

 

「まだいらねぇ! それより坊主! 大丈夫かぁ!?」

 

 ゴブリンの猛攻を危なげなく捌くレオンさんとクランクさんは、後方の二人に返事をしつつ、そんな四人の真ん中にいる俺に声をかける。

 

「大丈夫です! クランクさん! 左から二匹抜けて来てます!」

 

 俺は、前方の二人を掻い潜り、後方に向かおうとするゴブリン二匹の進路を塞ぐ。

 俺が抜かれたら、後ろには魔術師のカーティアさんと回復役(ヒーラー)のエリアさんに被害が及ぶ。

 カーティアさんはパーティー随一の火力を誇る殲滅役、エリアさんは欠かすことの出来ない生命線だ。ここは絶対に抜かせない。

 

 俺は、戦闘に置ける基本的な立ち回りとして、三段階に分けて攻撃している。

 それは、騎士道や武士道といった、正々堂々と戦う術ではない。自分が確実に生き残るため。そして、相手を確実に殺めるための殺人術のようなものだ。

 本来なら死角からの暗殺が好ましいが、やむなく戦闘になってしまった場合には、相手に何も行動を起こさせないことが大切なのだ。

 

 両手に待った投擲用のナイフを、ゴブリンの足首目掛けて投げる。

 腕の稼働域をフルに使って投げたナイフは、風を切ってゴブリン二匹の足首、それぞれに刺さった。

 

 まずは機動力を削ぐ。

 

「ギギッ!?」

「グギャア!?」

 

 片足を封じられたゴブリン二匹は、苦悶の表情を見せる。顔の作りが人族とは大きく違っているが、苦しい時の表情は変わらないようだ。

 足に刺さったナイフを抜こうとするゴブリン二匹に駆け寄り、両目を線で繋ぐようにして、刃の厚いナイフを振るう。

 

 次に視界を潰す。

 

「ギァアァ!!」

「グギィ!!」

 

 眼球から漏れ出すゼリー状の液体を押し留めようとしているのか、目を両手で抑えるゴブリン二匹。

 無防備になった喉元に、抉り込むようにナイフを突き立てる。肉を裂く感触が手に伝わってきて、命を奪ったことを実感する。

 

 そして最後に命を摘む。

 

「ギ……ギァ……」

「ゴギャ……ギャ……」

 

 首の後ろまで突き抜けたナイフから、鮮血が滴り落ちる。ゴブリンは初め、手足を辛うじて動かしていたが、間も無く沈黙した。

 ここまで十秒足らず、間も無くカーティアさんの魔法が発動する頃合いだ。

 

「我が魔力を糧として世界に氷の力を顕現する! 我が望むは敵を永久に封じる氷壁! 【アイスウォール】ッ!」

 

 後ろから詠唱が聞こえると、前のゴブリンの大群の周りに氷壁に出現した。

 成人男性二人分程の高さになった円上の氷壁の中には、未だにゴブリンの大群がご存命のようで、中からは気味の悪い鳴き声が聞こえてきている。

 

「よし、一先ず回復しようか」

 

「え? 止めは良いんですか?」

 

 額に汗一つ流さずにゴブリンの群れを捌ききったレオンさんの言葉に、思わず食いつく。

 氷壁があることを加味しても、敵前で休憩を取る発想は無かった。現に、壁の向こうではゴブリンが蠢いているのだろうし。

 

「見たところ、ホブゴブリンはいなかったからね。ただのゴブリンじゃ、カティーの【アイスウォール】は壊せないよ」

 

「それに、一旦閉じ込めちまえば、後はどうとでも出来るしな。一匹ずつ出られる穴を作ってやるなり、上から魔法の雨を降らせてやるなりな」

 

 そんな俺の疑問に、レオンさんとクランクさんが答えてくれた。

 二人はこちらに向かって来ているが、その後ろの氷壁からはガリガリと氷を削る音がしている。……不安なんですけど。

 

「にしても、随分と手慣れてたわね。これで一般人なら、駆け出し冒険者でも凄腕と言えるわ」

 

 氷壁を発生させたカーティアさんは、俺の足元に転がっていたゴブリンの死体を確認しながら唸っている。

 ここ数日で一般人と言うのは無理がある行動を連発したからな。もはや一般人という単語に失礼なんじゃないかと思うくらいだ。

 

「まぁまぁ、坊主が何者だろうと良いだろよ。んなことより、奴さん達をどうするか決めようぜ」

 

 クランクの発案により、レオンさん達はゴブリンの処遇を話し合いだした。

 ふぅー、蛇に睨まれた蛙の状態だったから助かった。

 

 ゴブリンを暫く氷壁の中に閉じ込めておくのは、温度を急激に低下させて、奴らの動きを阻害する目的もあるそうだ。

 ゴブリン達の装備はボロ布だった。あの格好で、周りを氷で囲まれるとなると、動きの精細さが失われるな。

 

「カティーさんの魔法でどうですか?」

 

 エルフであるエリアさんが、首をコテンッと倒しながら魔法使いの彼女を見る。

 カーティアさんがどんな魔法を使えるのかは知らないが、(そび)え立つ氷壁を見たら、相当な実力者であることが伺える。あの壁の内側にいるゴブリン達も、倒しきることが出来るだろうな。

 

「却下ね。それだと魔石と耳が回収出来ないもの」

 

 俺も良い案だと思ったが、カーティアさんはお気に召さないようだ。

 魔石は基本的に脳味噌の位置にあるし、何に使うのか分からないが、耳も使うなら頭部破壊は避けておきたいところだ。

 でも外部に出てる耳は脆いとしても、頭の中にある魔石も壊してしまうのか。カーティアさんの魔法は想像以上に破壊力がありそうだ。

 

「今さらゴブリンの屑魔石くらい良かねぇか? そんなに金に困ってる訳でもねぇし」

 

俺達は(・・・)、ね。トウヤは違うだろう? なるべくなら、魔石と耳をあげたいんだ」

 

 クランクさんの案を却下したレオンさんは、俺を見て目を細めた。

 ……え? 何で俺?

 

「なるほど、私は良いと思いますよ。でも……」

「俺は反対だな。報酬ってのは、自分の力で手に入れるもんだ」

 

 クランクさんは、太陽教徒による襲撃以来の真面目な顔をする。

 

「だがトウヤは……」

「俺もクランクさんの意見に賛成です」

 

 レオンさんが何か言い掛けていたが、それを遮って発言する。

 

 対して働いてないのに報酬を貰う? 冗談じゃない。俺は同情や憐れまれるが嫌いなんだ。

 幼い頃にいた施設で、大人達の憐れむような視線を常に浴びていた影響なのか、俺は同情的な態度を取られることを毛嫌いするようになった。何時からそう思うようになったかは、覚えてない。

 相手は純粋に心配してくれているのだろうが。……我ながら悪い癖だと思う。

 

「俺は働いた分だけで大丈夫です」

 

「あぁ、そうだ。今回で言えば、坊主は全体の五分の一は受け取る義務があるが、それ以上は良くねぇ」

 

「ええ!? 話聞いてました!? 俺は働いた分だけ……」

 

 働いた分。つまり、俺が屠った二匹だけ貰おうと思っていたのに、クランクさんはとんでもないことを言い出した。

 しかし、俺が文句を言うよりも早く、茶髪の彼は続きを話し始める。

 

「例え仕留めたのが二匹だけだろうと、坊主は五分の一の働きをした。それなら、それ相応の報酬を受け取るべきだ」

 

「……俺の考えが甘かったみたいだ。俺はクランクに賛成するよ」

 

「私も賛成するわ。……確かに、その方が良いわね」

 

「はい! 私も賛成です!」

 

 四人とも報酬を五分の一にする気のようで、役に立ってない俺としては、これ以上は駄々をこねるような物だと判断して、引き下がることにした。

 

「分かりました。有り難く頂きます」

 

「おう、そうしとけ」

 

 真面目な顔を崩し、カラッと笑うクランクを見ていると、自分が拗ねた子供のように思えて恥ずかしい。

 

「ダンジョンに潜る時、戦闘ができる奴だけじゃ長くは持たねぇんだ。荷物を持つ援護者(サポーター)、罠を解除する盗賊職(シーフ)なんかがいて、初めて本格的にダンジョン攻略に乗り出せる」

 

 今後の課題である対人スキルを考えていると、納得してないと思われたのか、クランクさんが急に語りだした。

 まぁ、言ってることは分かる。ただ前衛ができる奴だけいても意味がない。戦闘だけでなく、夜営も料理も罠の解除も必要なんだろう。

 

「んだってのに、ダンジョンから出て報酬を別けようって時に、戦闘が出来るだけの奴らが『全部俺らの物だー』って言い出したら可笑しいだろ? これも同じなんだよ。どんな働きをしたとかじゃなく、パーティーの一員なんだ。報酬は山分けで良いじゃねぇか」

 

 理屈は分かる。納得も出来る。

 でも、それは全員が自らの仕事をまっとうした時の話。分け前が同じなら、楽をしようとするのが人間だ。

 彼らが他の冒険者とパーティーを組んだ際に、良い鴨にされないかが心配になる。

 

「さて、そろそろ動きが鈍りだした頃合いだろう。カティー、穴を開けてくれ」

 

「分かった、危ない時は閉じるわね」

 

 そこからの作業は早かった。

 

 カーティアさんが氷壁の一部に、ゴブリン一匹通れる程度の穴を開ける。

 穴から顔を出したゴブリンの首を、レオンさんが切り落とす。

 五匹目になる頃には、穴がゴブリンの死体で埋まってしまうので、穴を塞ぎ、新しい穴を開ける。

 以下繰り返し。

 

 氷壁内のゴブリンが居なくなったことを確認したら、次は魔石と耳の回収だ。

 

 必要なのは右耳だけらしく、手渡された鉄串に、切り取った耳を刺していく。

 この右耳が、ゴブリンを討伐した証として扱われるようだ。一つの串あたり、十五個の耳を目安にブスブスとやっていく。

 

 魔石を取り出すのには少し苦労する。

 脳の位置にあるということは、頭蓋骨を割って取り出す必要がある。

 皮膚と肉はナイフの刃で切り、頭蓋骨は背の部分で叩く。

 割った骨の欠片で、手を傷付けないよう魔石を取り出すと、案の定小さかった。

 

「本当に五分の一も貰って良いんですか?」

 

「大丈夫だよ、正当な報酬さ」

 

 レオンさんに最終確認を取ったあと、集められた魔石と耳の中から、自分の取り分を魔法の袋(マジックバック)に入れる。

 タルクスに着いたら、ギルドで相場を調べよう。

 

 





『クランク・サーハル』
年齢:28歳
身長:183㎝
種族:人族
好きなモノ:酒
嫌いなモノ:なし
職業:B級冒険者
得意武器:メイス
特技:利き酒
加護:なし

 レオンがリーダーを勤めるB級冒険者パーティーの盾役(タンク)
 元帝国軍人で、帝国では名の知られる男。
 風体から粗暴に見えるが、年下の面倒見が良い。
 土魔法と身体強化の魔法を組み合わせ使うことにより、彼の守りは強固なものとなる。
 武器はメイスを装備しているが、その実、盾による殴打が多い。
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