遂に明日、タルクスに到着する。
太陽教徒の襲撃に遭ったり、ゴブリンの大群と戦闘になったりと、波乱万丈な旅路だった。
しかし、そんな旅も明日で終わる。
「明日、夜が明けたら行動を開始しよう。タルクスに入るには、少しばかり時間がかかるからね」
元前線基地だったタルクスは、今でも立派な防壁があるようで、街に入る際に検問を受けるそうだ。特に最近、ダンジョンが発生したお陰で、冒険者が多くタルクスを訪れる為、検問には長い時間を要する。
検問は朝早い時間帯から始まるので、列が出来る前に並んでしまいたい。その為、今日は比較的早く就寝することとなった。
そして、現在。
俺は二つのテントを背に、火が消えないよう薪を入れつつ、一人で夜空を眺めていた。
「(あー、星が綺麗だ)」
人間、一人で長時間いると、独り言を言ってしまうものだ。……恐らく。
そんな独り言でレオンさん達を起こさせないよう、闇魔法の【ミュート】を自分にかけている。
「(悪魔……黒……
明日にはタルクスに着くというのに、俺はまだ良い案を見つけられないでいた。
その案とは『協力者をどう手に入れるか』である。
王都のギルドで見た限りでは、簡単な採取、ゴブリン数匹の討伐はF級。危険な場所にある薬草などの採取、新人には手に終えない魔物の討伐が、それ以上。
Fランクの内は
問題はそこだ。
自分自身、自らが疑り深い性格であると認識している。
第一、タルクスに着いて直ぐにパーティーを組めるとは思えない。組めたとしても信用出来ない。
「(ポーキンや王様が異常……っ訳じゃなさそうだよな。太陽教、一部の貴族連中も敵対すると考えた方が良い)」
城下町を歩いているだけで、周りから奇異な目で見られた。これが十数年前まで戦闘の最前線であったタルクスでは、どうなるだろうか。
恐らく、いや、確実に好意的な視線は向けられない。
「(レオンさん達にお世話になるってのも手だよな……)」
先日、レオンさんから直々に言われたのだ。「俺達のパーティーに加わるのはどうかな?」と。
レオンさん達は、タルクスに拠点を持っているらしい。そこには、ここにいないパーティーメンバーも居るのだとか。
有り難い申し出なのだが、俺はこの提案を丁重にお断りした。
どうしようもない時には頼らせて貰う約束を取り付けただけ。
理由としては、タルクスに定住するか決めかねているからだ。住みづらかったら、他の街に移ることも考えている。
「(……はぁ、考えても仕方ない。今出来ることをしよう)」
何も起こってないのに考えても始まらない、とだけ結論付けて、夜営中に済ませようと考えていたことを始める。
タルクスに着く前に、持ち物の確認だ。
最初に出てきたのは二枚の用紙。
一枚目は、人族言語を元の世界での五十音順に直し、それを表にした物。
二枚目には、基本的な単語や用語が書かれている。
勉強の甲斐あってか、読むだけなら問題ない。書くのは、もう少し努力が必要だな。
次に取り出したのは初級魔法が記してある本。
初級火魔法、初級水魔法、初級風魔法、初級土魔法、初級氷魔法、初級雷魔法の六冊。闇魔法と聖魔法を除いた、全属性の魔法書だ。
魔法使いのカーティアさんいわく「初心者にも分かりやすく、熟練者も読む価値のある魔法書」とのこと。
カーティアさんに旅路の合間、初級火魔法と初級水魔法を教えてもらい、何とか発動は出来るようになった。
そしてメモ帳と筆記用具。
皮張りで厚手のメモ帳の中には、薬草の絵と大まかな分布、調合の方法など、俺が今まで培ってきた知識が集約されている。
これらはキューベからの貰い物で、駆け出し冒険者が持てるような品物ではないらしい。
次に出てきたのは名刺程度の大きさのカード。冒険者の証、ギルドカードだ。
名前、種族、ランク、職業と書かれており、それぞれの横に、トウヤ・ナンバ、人族、F級、剣士と記入されてる。
貰った当時は読むことが出来なかったが、今では読めるようになった。
個別の布袋に入った薬草と
先日の
癒花は色事に別けられ、まるでミニブーケのように見える。
色よって薬にした時の効果が違うため、不用意な取り扱いは出来ない。タルクスに着いたら、近場で癒花を採取出来る場所を探そう。
薬の調合に使う器具一式と、先日の調合で出来たビン入りの飲み薬。それから、数本の塗り薬。
初級ポーション。薬草と緑の癒花が使われている。傷の回復を促す程度の効能。
初級解毒薬。薬草と紫の癒花が使われている。場合にもよるが、E級相当の魔物の毒なら緩和できる。
初級麻痺薬。薬草と黄色の癒花が使われている。こちらも、E級相当の魔物の麻痺毒なら緩和できる。
初級火傷薬。薬草と赤の癒花が使われており、軽い火傷なら綺麗サッパリ消すことが出来る。これは塗り薬だ。
初級凍傷薬。薬草と水色の癒花が使われており、霜焼け程度に丁度良い。こちらも、塗り薬。
そして、風邪薬。薬草と緑、紫の癒花を使った物で、エリアさん作の風の魔水が入っている為、体の活性化も期待できる。
……最後に、取り扱い注意の黒ポーションが五つ。薬草と緑の癒花を使ったのだが、俺が作成した魔水が黒いせいで、ただの黒い水になっている。
あとは装備品ばかりかな。
まずは武器か。
取り出したのは城下町の武器屋で購入した十五本ナイフ。その全てが、シースナイフと呼ばれる、鞘を必要とするナイフだ。出来れば取り扱いが簡単な折り畳みが欲しかったのだが、売ってなかった。
空気抵抗を減らすための薄い刃が、殺傷能力を高める
サバイバルナイフのような、刃の厚い物が四本。だが、サバイバルナイフと違う点が複数ある。
ガラス割りとして使える金属製の頑丈な尾部も無ければ、刃の背に金属を切断する鋸刃も付いてない。切るためのワイヤー状の鋸が添付されていたりもしないし、方位磁針が組み込まれてもいない。
まぁ、当たり前か。このナイフを持つ上で想定されているのは、戦闘だけなのだから。
最後に、解体、解剖用のナイフが一本。
そして、コーラルとの訓練でも使った、両刃の直剣。
魔法の練習と合わせて、暇さえあれば素振りをして感触を確かめていたのだが……重い。
今まで軽い武器しか使ってこなかったからな。現時点で戦闘に組み込めるほどの熟練度はない。
レオンさんに見てもらったら、
お次は防具だな。武器と同じく、城下町で買った物と貰い物だ。
購入したのは、籠手、胸当て、腰具、足具。それらの上から羽織るローブ。その全てが黒色にしてある。
腰具にはナイフの鞘を取り付けることが可能で、他にも小さな布袋くらいは付けられるだろう。
籠手と足具には、投擲用の小さいナイフを忍ばせることが出来る。
あとは戦闘で使った時に、過不足ないかが問題だな。あった場合は、随時調節する。
それから小盾なのだが……こちらも使うことはなさそうだな。
あたり攻撃を受けるような戦い方はしたくない。受け損なったら怪我するし、受けきったとしても骨に響く。
この盾も、剣同じくエンチャントが可能らしい。そもそも魔法込められないし、盾を使うこともないだろうけどな。
あとは金貨三十枚が入った巾着程度の大きさの袋。結構重い。
これがルクシアン王国民の税金でないことを祈るばかりだ。
最後に袋からだした物は、前の世界から持ち込んだ衣類。そのほとんどを研究材料として、王国に売ってしまったが、二つだけ手元に残した。
一つは、口元まで覆えるタートルネックのフード付のコート。これを着込むと、視界が狭まる替わりに、表情を読みずらくしたり、顔ばれする可能性を減らせる。
もう一つは、手首まである黒い手袋。肌に吸い付くような生地で、握りの部分には滑り止め加工がしてある。ゴルフグローブのような物だ。
「(……こんな所かな)」
一つずつ取り出して確認していたので、目の前には物が散乱している。
出した時と同様に、一つずつマジックバックに仕舞っていく。この魔法の袋から出すときは、出す物を認識しながら手を入れると、掴めるようになっている。……本当に、どんな構造なんだろうか。
「(裏返したら……)」
「坊主ー、交代の時間だ」
マジックバックの謎を解き明かそうとしていた俺に、テントから這い出してきたクランクさんが声を掛けてきた。
もうそんな時間か。思いの外確認に時間が掛かったな。
「了解です。あとはお願いしますね」
【ミュート】を解除して、クランクさんに声をかけて、マジックバックを担ぐ。軽く手を上げて返事をした茶髪の彼を横目に、男性陣のテントに入った。
明日は早いし、とっとと寝てしまおう。
空いたスペースに、毛布を被って横になると、直ぐに睡魔が襲ってきた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
早起きしたかいがあったのか、検問の列が長くなる前にタルクスに着くことが出来た。
冒険者への検問はギルドカードの提示だけで済むらしい。
それに加えて、初めてタルクスに来た者は、通行料を払う決まりがある。
「今回の検問だけじゃなく、ギルドで依頼を受ける時にもギルドカードの提示が必要になるから、なくさないようにね」
「紛失したら再発行に時間がかかるんですよね」
ギルドカードには気を付ける。
ルクシアン王国城下町のギルドで、アールカさんから説明を受けたしな。
「登録者の魔力をギルドカードに読み込ませるのに、時間を使うのよ」
「ギルドカードに魔力を? どうしてそんなことをするんです?」
「一人一人、流れている魔力って違うんです。それを利用して、提示した人と、提示されたギルドカードに流れる魔力が同じかどうかを調べるんですよ。言うなれば、魔力による個人特定ですかね」
カーティアさんへの疑問を、エリアさんが簡潔に答えてくれる。
ふむ。一人一人流れている魔力が異なる、か……指紋みたいなものなんだな。
ギルドによって、冒険者の身分が確立されている。街に入るにも、依頼を受けるにも、このカードは必須アイテムってことか。
「次の者、前へ」
彼女達と話している内に、レオンさんの番になってしまった。彼が終われば、次は俺の番となる。
「レオンさんでしたか! お帰りなさい!」
「あぁ、ただいま。ギルド長に話は?」
「伝わっています。王都からの護衛でしたよね? そちらの……少年が?」
「うん、少し訳ありでね。詮索しないで貰えると助かるよ」
「分かりました。レオンさん達ですもんね、信頼しております!」
「ありがとう。信頼に答えらるよう頑張るよ」
どうやらレオンさんと、門番の男性は顔見知りのようだ。かなり親しげな様子が伺える。
レオンさん達のパーティーは、タルクスに拠点があるのだし、この街の人々と交流があるのは当たり前か。
そして二人の会話が終わり、俺の順番になった。
「了解しました。それでは……次の者、前へ」
前には真面目な顔に戻ったの門番の男性。その後ろには笑顔のレオンさん。振り返ると、後ろに並んでいたクランクさん達が俺を見ていた。
「では、この水晶にカードと手をかざして下さい。本人かどうかを確認します」
検問場所に設置してある、透き通った水晶にカードと手を添える。
この水晶が魔力が合致しているか、確認しているのだろう。
「うん、本人で間違いないみたいだね。君はタルクスに来るのは初めてだよね? 簡単に、この街の施設を説明するね」
門番の男性の提案は俺としてはありがたい。タルクスに入ってから、レオンさん達に聞けば済むことだろうけど、他の人からも話は聞きたいしな。
「壁で仕切られている訳ではないんだけど、施設やそこに住む人々で、タルクスは東西南北に別けられる」
一つ咳払いをして、門番は話始める。
失礼かと思ったが、マジックバックからメモ帳を取り出す。タルクスの地理を記入するためだ。
「東は教国側故に、この街唯一の教会がある。他にも孤児院なんかが建ってる区画だね。
西は冒険者が多い区画。ギルドもここに建ってるよ。冒険者をお客にしてる宿屋もここに多いから、寝床を探すならここだね。
南は……警備隊としては遺憾なんだけど、治安が悪い。西南の方は溜まり場のようになっている所もある。なるべくなら近付かない方が良い。
北はこの国の王都に近く、貴族が多い。質の良い武器や防具が欲しいなら、この区画にある店を訪ねると良いものが手に入るかもね」
東、宗教エリア……太陽教が潜んでいる可能性あり。近づきたくない。
西、冒険者エリア……ここを拠点として活動するか。
南、スラムエリア……絡まれても撃退できそうだが、好んで近づきたくはない。
北、貴族エリア……絡まれる。撃退したら大事だ。近付かない。
タルクスを円に見立て、地図と東西南北の特徴を書いたのだが……これを見ると、俺は西区画にしか居場所がなさそうだ。
門番の男性にお礼を言って、通行料を払う。金貨しか持っていないので、お釣りを貰った。
『エリア』
年齢:153歳
身長:146㎝
種族:エルフ
好きなモノ:カーティアの作る料理
嫌いなモノ:虫
職業:D級冒険者
得意武器:杖
特技:薬の調合
加護:???
レオンがリーダーを勤めるB級冒険者パーティーの
ルクシアン王国から西にある、エルフの森から出てきた数少ないエルフの一人。
元は
回復魔法だけでなく、風魔法もある程度使える。また、薬の調合に精通しており、ヒーラーとして評価が高い。
大の虫嫌いで、森近隣の夜営時には、びくびくしている。