黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.016 持ち物点検

 

 

 遂に明日、タルクスに到着する。

 

 太陽教徒の襲撃に遭ったり、ゴブリンの大群と戦闘になったりと、波乱万丈な旅路だった。

 しかし、そんな旅も明日で終わる。

 

「明日、夜が明けたら行動を開始しよう。タルクスに入るには、少しばかり時間がかかるからね」

 

 元前線基地だったタルクスは、今でも立派な防壁があるようで、街に入る際に検問を受けるそうだ。特に最近、ダンジョンが発生したお陰で、冒険者が多くタルクスを訪れる為、検問には長い時間を要する。

 検問は朝早い時間帯から始まるので、列が出来る前に並んでしまいたい。その為、今日は比較的早く就寝することとなった。

 

 そして、現在。

 俺は二つのテントを背に、火が消えないよう薪を入れつつ、一人で夜空を眺めていた。

 

「(あー、星が綺麗だ)」

 

 人間、一人で長時間いると、独り言を言ってしまうものだ。……恐らく。

 そんな独り言でレオンさん達を起こさせないよう、闇魔法の【ミュート】を自分にかけている。

 

「(悪魔……黒……夜半(よわ)……。……どうするかな)」

 

 明日にはタルクスに着くというのに、俺はまだ良い案を見つけられないでいた。

 その案とは『協力者をどう手に入れるか』である。

 

 王都のギルドで見た限りでは、簡単な採取、ゴブリン数匹の討伐はF級。危険な場所にある薬草などの採取、新人には手に終えない魔物の討伐が、それ以上。

 Fランクの内は独り(ソロ)でもやっていけるだろう。しかし、ランクが上がったら? 現時点では手に余る魔物と戦うことになったら?

 問題はそこだ。

 

 自分自身、自らが疑り深い性格であると認識している。

 第一、タルクスに着いて直ぐにパーティーを組めるとは思えない。組めたとしても信用出来ない。

 

「(ポーキンや王様が異常……っ訳じゃなさそうだよな。太陽教、一部の貴族連中も敵対すると考えた方が良い)」

 

 城下町を歩いているだけで、周りから奇異な目で見られた。これが十数年前まで戦闘の最前線であったタルクスでは、どうなるだろうか。

 恐らく、いや、確実に好意的な視線は向けられない。

 

「(レオンさん達にお世話になるってのも手だよな……)」

 

 先日、レオンさんから直々に言われたのだ。「俺達のパーティーに加わるのはどうかな?」と。

 レオンさん達は、タルクスに拠点を持っているらしい。そこには、ここにいないパーティーメンバーも居るのだとか。

 

 有り難い申し出なのだが、俺はこの提案を丁重にお断りした。

 どうしようもない時には頼らせて貰う約束を取り付けただけ。

 理由としては、タルクスに定住するか決めかねているからだ。住みづらかったら、他の街に移ることも考えている。

 

「(……はぁ、考えても仕方ない。今出来ることをしよう)」

 

 何も起こってないのに考えても始まらない、とだけ結論付けて、夜営中に済ませようと考えていたことを始める。

 魔法の袋(マジックバック)の口を開け、中の物を取り出していく。

 タルクスに着く前に、持ち物の確認だ。

 

 

 最初に出てきたのは二枚の用紙。

 一枚目は、人族言語を元の世界での五十音順に直し、それを表にした物。

 二枚目には、基本的な単語や用語が書かれている。

 勉強の甲斐あってか、読むだけなら問題ない。書くのは、もう少し努力が必要だな。

 

 次に取り出したのは初級魔法が記してある本。

 初級火魔法、初級水魔法、初級風魔法、初級土魔法、初級氷魔法、初級雷魔法の六冊。闇魔法と聖魔法を除いた、全属性の魔法書だ。

 魔法使いのカーティアさんいわく「初心者にも分かりやすく、熟練者も読む価値のある魔法書」とのこと。

 カーティアさんに旅路の合間、初級火魔法と初級水魔法を教えてもらい、何とか発動は出来るようになった。

 

 そしてメモ帳と筆記用具。

 皮張りで厚手のメモ帳の中には、薬草の絵と大まかな分布、調合の方法など、俺が今まで培ってきた知識が集約されている。

 これらはキューベからの貰い物で、駆け出し冒険者が持てるような品物ではないらしい。

 

 次に出てきたのは名刺程度の大きさのカード。冒険者の証、ギルドカードだ。

 名前、種族、ランク、職業と書かれており、それぞれの横に、トウヤ・ナンバ、人族、F級、剣士と記入されてる。

 貰った当時は読むことが出来なかったが、今では読めるようになった。

 

  個別の布袋に入った薬草と癒花(ゆか)

 先日の液状回復薬(ポーション)作りで数を減らしたが、まだ十分な数がある。

 癒花は色事に別けられ、まるでミニブーケのように見える。

 色よって薬にした時の効果が違うため、不用意な取り扱いは出来ない。タルクスに着いたら、近場で癒花を採取出来る場所を探そう。

 

 薬の調合に使う器具一式と、先日の調合で出来たビン入りの飲み薬。それから、数本の塗り薬。

 初級ポーション。薬草と緑の癒花が使われている。傷の回復を促す程度の効能。

 初級解毒薬。薬草と紫の癒花が使われている。場合にもよるが、E級相当の魔物の毒なら緩和できる。

 初級麻痺薬。薬草と黄色の癒花が使われている。こちらも、E級相当の魔物の麻痺毒なら緩和できる。

 初級火傷薬。薬草と赤の癒花が使われており、軽い火傷なら綺麗サッパリ消すことが出来る。これは塗り薬だ。

 初級凍傷薬。薬草と水色の癒花が使われており、霜焼け程度に丁度良い。こちらも、塗り薬。

 そして、風邪薬。薬草と緑、紫の癒花を使った物で、エリアさん作の風の魔水が入っている為、体の活性化も期待できる。

 ……最後に、取り扱い注意の黒ポーションが五つ。薬草と緑の癒花を使ったのだが、俺が作成した魔水が黒いせいで、ただの黒い水になっている。

 

 あとは装備品ばかりかな。

 まずは武器か。

 

 取り出したのは城下町の武器屋で購入した十五本ナイフ。その全てが、シースナイフと呼ばれる、鞘を必要とするナイフだ。出来れば取り扱いが簡単な折り畳みが欲しかったのだが、売ってなかった。

 空気抵抗を減らすための薄い刃が、殺傷能力を高める投擲(とうてき)用のナイフが十本。

 サバイバルナイフのような、刃の厚い物が四本。だが、サバイバルナイフと違う点が複数ある。

 ガラス割りとして使える金属製の頑丈な尾部も無ければ、刃の背に金属を切断する鋸刃も付いてない。切るためのワイヤー状の鋸が添付されていたりもしないし、方位磁針が組み込まれてもいない。

 まぁ、当たり前か。このナイフを持つ上で想定されているのは、戦闘だけなのだから。

 最後に、解体、解剖用のナイフが一本。

 

 そして、コーラルとの訓練でも使った、両刃の直剣。

 魔法の練習と合わせて、暇さえあれば素振りをして感触を確かめていたのだが……重い。

 今まで軽い武器しか使ってこなかったからな。現時点で戦闘に組み込めるほどの熟練度はない。

 レオンさんに見てもらったら、魔法による属性付与(エンチャント)が可能な武器だった。試してみたが上手くいかず、暫くは袋の肥やしとなることが確定した。

 

 お次は防具だな。武器と同じく、城下町で買った物と貰い物だ。

 

 購入したのは、籠手、胸当て、腰具、足具。それらの上から羽織るローブ。その全てが黒色にしてある。

 腰具にはナイフの鞘を取り付けることが可能で、他にも小さな布袋くらいは付けられるだろう。

 籠手と足具には、投擲用の小さいナイフを忍ばせることが出来る。

 あとは戦闘で使った時に、過不足ないかが問題だな。あった場合は、随時調節する。

 

 それから小盾なのだが……こちらも使うことはなさそうだな。

 あたり攻撃を受けるような戦い方はしたくない。受け損なったら怪我するし、受けきったとしても骨に響く。

 この盾も、剣同じくエンチャントが可能らしい。そもそも魔法込められないし、盾を使うこともないだろうけどな。

 

 あとは金貨三十枚が入った巾着程度の大きさの袋。結構重い。

 これがルクシアン王国民の税金でないことを祈るばかりだ。

 

 最後に袋からだした物は、前の世界から持ち込んだ衣類。そのほとんどを研究材料として、王国に売ってしまったが、二つだけ手元に残した。

 一つは、口元まで覆えるタートルネックのフード付のコート。これを着込むと、視界が狭まる替わりに、表情を読みずらくしたり、顔ばれする可能性を減らせる。

 もう一つは、手首まである黒い手袋。肌に吸い付くような生地で、握りの部分には滑り止め加工がしてある。ゴルフグローブのような物だ。

 

「(……こんな所かな)」

 

 一つずつ取り出して確認していたので、目の前には物が散乱している。

 出した時と同様に、一つずつマジックバックに仕舞っていく。この魔法の袋から出すときは、出す物を認識しながら手を入れると、掴めるようになっている。……本当に、どんな構造なんだろうか。

 

「(裏返したら……)」

 

「坊主ー、交代の時間だ」

 

 マジックバックの謎を解き明かそうとしていた俺に、テントから這い出してきたクランクさんが声を掛けてきた。

 もうそんな時間か。思いの外確認に時間が掛かったな。

 

「了解です。あとはお願いしますね」

 

 【ミュート】を解除して、クランクさんに声をかけて、マジックバックを担ぐ。軽く手を上げて返事をした茶髪の彼を横目に、男性陣のテントに入った。

 

 明日は早いし、とっとと寝てしまおう。

 空いたスペースに、毛布を被って横になると、直ぐに睡魔が襲ってきた。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 早起きしたかいがあったのか、検問の列が長くなる前にタルクスに着くことが出来た。

 冒険者への検問はギルドカードの提示だけで済むらしい。

 それに加えて、初めてタルクスに来た者は、通行料を払う決まりがある。

 

「今回の検問だけじゃなく、ギルドで依頼を受ける時にもギルドカードの提示が必要になるから、なくさないようにね」

 

「紛失したら再発行に時間がかかるんですよね」

 

 ギルドカードには気を付ける。

 ルクシアン王国城下町のギルドで、アールカさんから説明を受けたしな。

 

「登録者の魔力をギルドカードに読み込ませるのに、時間を使うのよ」

 

「ギルドカードに魔力を? どうしてそんなことをするんです?」

 

「一人一人、流れている魔力って違うんです。それを利用して、提示した人と、提示されたギルドカードに流れる魔力が同じかどうかを調べるんですよ。言うなれば、魔力による個人特定ですかね」

 

 カーティアさんへの疑問を、エリアさんが簡潔に答えてくれる。

 ふむ。一人一人流れている魔力が異なる、か……指紋みたいなものなんだな。

 ギルドによって、冒険者の身分が確立されている。街に入るにも、依頼を受けるにも、このカードは必須アイテムってことか。

 

「次の者、前へ」

 

 彼女達と話している内に、レオンさんの番になってしまった。彼が終われば、次は俺の番となる。

 

「レオンさんでしたか! お帰りなさい!」

 

「あぁ、ただいま。ギルド長に話は?」

 

「伝わっています。王都からの護衛でしたよね? そちらの……少年が?」

 

「うん、少し訳ありでね。詮索しないで貰えると助かるよ」

 

「分かりました。レオンさん達ですもんね、信頼しております!」

 

「ありがとう。信頼に答えらるよう頑張るよ」

 

 どうやらレオンさんと、門番の男性は顔見知りのようだ。かなり親しげな様子が伺える。

 レオンさん達のパーティーは、タルクスに拠点があるのだし、この街の人々と交流があるのは当たり前か。

 そして二人の会話が終わり、俺の順番になった。

 

「了解しました。それでは……次の者、前へ」

 

 前には真面目な顔に戻ったの門番の男性。その後ろには笑顔のレオンさん。振り返ると、後ろに並んでいたクランクさん達が俺を見ていた。

 

「では、この水晶にカードと手をかざして下さい。本人かどうかを確認します」

 

 検問場所に設置してある、透き通った水晶にカードと手を添える。

 この水晶が魔力が合致しているか、確認しているのだろう。

 

「うん、本人で間違いないみたいだね。君はタルクスに来るのは初めてだよね? 簡単に、この街の施設を説明するね」

 

 門番の男性の提案は俺としてはありがたい。タルクスに入ってから、レオンさん達に聞けば済むことだろうけど、他の人からも話は聞きたいしな。

 

「壁で仕切られている訳ではないんだけど、施設やそこに住む人々で、タルクスは東西南北に別けられる」

 

 一つ咳払いをして、門番は話始める。

 失礼かと思ったが、マジックバックからメモ帳を取り出す。タルクスの地理を記入するためだ。

 

「東は教国側故に、この街唯一の教会がある。他にも孤児院なんかが建ってる区画だね。

 西は冒険者が多い区画。ギルドもここに建ってるよ。冒険者をお客にしてる宿屋もここに多いから、寝床を探すならここだね。

 南は……警備隊としては遺憾なんだけど、治安が悪い。西南の方は溜まり場のようになっている所もある。なるべくなら近付かない方が良い。

 北はこの国の王都に近く、貴族が多い。質の良い武器や防具が欲しいなら、この区画にある店を訪ねると良いものが手に入るかもね」

 

 東、宗教エリア……太陽教が潜んでいる可能性あり。近づきたくない。

 西、冒険者エリア……ここを拠点として活動するか。

 南、スラムエリア……絡まれても撃退できそうだが、好んで近づきたくはない。

 北、貴族エリア……絡まれる。撃退したら大事だ。近付かない。

 

 タルクスを円に見立て、地図と東西南北の特徴を書いたのだが……これを見ると、俺は西区画にしか居場所がなさそうだ。

 門番の男性にお礼を言って、通行料を払う。金貨しか持っていないので、お釣りを貰った。

 

 





『エリア』
年齢:153歳
身長:146㎝
種族:エルフ
好きなモノ:カーティアの作る料理
嫌いなモノ:虫
職業:D級冒険者
得意武器:杖
特技:薬の調合
加護:???

 レオンがリーダーを勤めるB級冒険者パーティーの回復役(ヒーラー)
 ルクシアン王国から西にある、エルフの森から出てきた数少ないエルフの一人。
 元は菜食主義者(ベジタリアン)だったが、カーティアの料理と出会い、肉も食べるようになった。むしろ好んで食べる。
 回復魔法だけでなく、風魔法もある程度使える。また、薬の調合に精通しており、ヒーラーとして評価が高い。
 大の虫嫌いで、森近隣の夜営時には、びくびくしている。
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