黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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二章 ゴブリンの森
No.018 キューベの真意


 

 

「キューベから、君をギルド長に会わせるまでが依頼だって言われているんだ。俺達も迷宮(ダンジョン)の件でギルドに顔を出すから、着いてきてくれるかい?」

 

 タルクス到着という目的を達成し、次なる目的地が定まっていなかった俺に、レオンさんが声をかけてくれた。

 と言うより、最初から目的地はタルクスではなく、タルクスギルドの(おさ)だったと言う訳だ。

 

 俺達の通った門は北門との事だったので、冒険者区画と言われる西に向かう。

 道中はレオンさん達と談笑しているのだが……聞こえてくるのだ。

 

「……おい、あれ見ろよ。夜半(よわ)だ」

「ほんとだ。一体何をしに……?」

「怖いわぁ」

「連行されてるんじゃないか?」

 

 黒髪黒目の俺を見て、通りで店を営んでいる人々が声を潜めて話しているのが聞こえてくる。

 貴族区画の表通りだからなぁ。一部の貴族は今でも黒を嫌ってるって話だし。

 

 たが、俺に向けられる視線は嫌悪感だけではないようだ。面白いことでも始まるのかと、好奇心の混じった目を向けられる。

 俺がジロジロ見られてるのは、物珍しいってのもあるのかね。

 

 声のする方向を向くと、貴婦人らしき奥様方と目が合った。丁度俺のことを話していたところだったようだ。

 しかし、長々と目線を交わし合うこともなく、相手から逸らされる。

 

「気になるか?」

 

「あー……ほどほど、ですかね。絡んで来ないなら、此方からどうこうする気も無いですし」

 

「そかそか、気になってきたら言えよ」

 

 横を歩くクランクさんに軽くお礼を言って前を向く。

 体格の良い彼が横を歩くことで、少しでも周りの目を意識させないよう、という配慮なんだろう。有り難いことだ。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 その後、十数分程歩くと、ルクシアン王国城下町でも見たのと同じ建物が建っているのが見えた。

 規模で言えば、タルクスのギルドは、王都の半分程しかない。

 

 中に入ってみると、内装は殆ど同じだった。

 

 等間隔に並ぶ仕切りのついた長いカウンター。

 そのカウンターの向こうには、仕切りの内側一つ一つにギルドの職員が座っていて冒険者の相手をしている。カウンターに付いている職員は王都の職員よりも若々しい。

 右手には依頼書が張ってある看板。そこに冒険者らしき人が数人。

 

 うん、丸切り同じだな。

 違いらしい違いと言えば、カウンターの更に奥。そこに大きい扉があるくらいか。

 それから、やけに天井が高いな。

 

「俺達はダンジョン調査の依頼を受けたら、一度(ホーム)に戻る。ギルド長は奥の扉の先に居るから、話は通ってるみたいだし、案内してくれるよ。

 ……ごめんね、本当はギルド長と対面するところまで付いて行きたいんだけど、ダンジョンの方を急かされちゃってて」

 

「いえいえ、ここまで護衛してくれて有り難う御座います」

 

 苦笑いしているレオンさんに、お礼を言って頭を下げる。

 カーティアさん達にも、それぞれ挨拶をしていると、ギルドの職員らしい女性が声をかけてきた。

 

「トウヤ様、奥へどうぞ。ギルド長のバルドがお待ちです」

 

 レオンさん達と別れ、職員の女性の後を付いていく。

 掲示板を見ている冒険者や、その冒険者達と話をしているギルドの職員の横を通って、奥の扉の前に立つ。

 

「ギルド長、トウヤ様をお連れしました」

 

「うむ、入っていいぞ」

 

 礼儀正しい職員の女性の声に返答したのは、ぶっきらぼうな男性の声。恐らくこの声がギルド長だろう。

 入室のお許しが出たので、ドアノブの位置が高い扉を、肩で押すようにして開く。

 

 部屋に入ると、まるで自分が小さくなったような錯覚を覚えた。

 壁際にある本棚も、その中に仕舞われている本も、机や椅子まで、全てが大きかったからだ。

 この部屋だけ特別製みたいだな。

 

 全てが巨大な部屋の主は、成人男性よりふたまわりはあろうかという大男だった。

 白髪混じりの髪に鈍い赤い目を携えた巨人が、扉を開けっぱなしにしている状態の俺を見下ろしている。

 この巨大な男性がギルド長のバルドさんか。

 

「まぁ、座ると良い」

 

「此方へどうぞ」

 

 バルドさん仕様の椅子に座るのかと思いきや、職員の女性に着席を促されたのは、普通のサイズの椅子だった。

 目の前では、巨大な椅子に相応しい体格の巨人が、椅子に着いた。床の軋む音がする。

 

 職員の女性が出ていくのを確認した後、俺達は話を始めた。

 

「キューベの奴から話は聞いてる。お前さん、異世界から来たんだろ?」

 

「ええ、勇者として召喚されましてね。もっとも、俺は手違いで喚ばれたみたいで、勇者としての力も加護もないですけど」

 

「んで、勇者でも何でもない黒髪黒目の男を城に置いておけないから、こうしてタルクスに送った訳だ」

 

「そうですね。言ってしまえば、厄介払いされました」

 

 俺のぶっちゃけた発言に、バルドさんは悩ましいとでも言うように首を振る。

 

「タルクス行きを打診したのは、キューベなんですよ。魔王との戦いの傷痕残るこの街で、一体何をさせるつもりなのか……聞いてませんか?」

 

 キューベは、レオンさんにギルド長に会わせるよう話をして、ギルド長にも話を通している。二人には自らの真意を話してあるはずだ。

 夜半に対して良い印象はないであろうタルクスに俺を送り込んで、一体どうしようというのか。

 キューベの思惑を、この大男から少しでも聞いておきたい。

 

「あー……知ってるかと思うが、最近タルクスの街中にダンジョンが発生してな」

 

「ええ、聞きましたよ。レオンさん達は、そのダンジョンを調べる為に来たんですよね」

 

 ん? 元々タルクスに拠点があるんだから、戻ってきたが正しいのか?

 

「あぁ、調査は一ヶ月くらいで終わると考えてる。……んでだ、ダンジョンが発生したことで、十中八九タルクスは賑わうだろう。冒険者としてダンジョン攻略をして良いし、ダンジョン前で露店を開いても良い。どっちしても、ギルドとしてはお前さんを優遇するつもりだ」

 

「ほう……」

 

 新しいダンジョン。俺でも潜れる程度に危険度が低いことが条件だが、それを利用する方法は多々ある。

 

 道程、罠の位置、その他にも気を付ける場所等のマッピング情報。ダンジョン内で発生する魔物の素材、魔石、生態系の情報。

 そう簡単には見つからないだろうけど、宝箱でもあれば、それも売れるだろうな。

 

 ダンジョンに潜れる上で必要なのは、武器や防具だけではない。食物、薬、火種、水分。生命維持や生理現象に必要な物もあるだろう。

 長く潜れば潜るほど、それらは欠かせない物になるはずだ。

 

 冒険者をするにしても、露店を開くにしても、大元であるギルドの助力が得られるならば、生活には困らない程度の利益を出せるだろう。

 

 

 

 …………俺が夜半のような容姿(黒髪黒目)でなければな。

 

 

 

「冒険者として俺が支援を受けたとなれば、いちゃもんを告げる輩が出るでしょうね。商人の真似事をしたとして、俺が売ってる商品を買いたいと言う人が現れますかね?」

 

 特に成果を出した訳でもない見た目は夜半の男が、ギルドに優遇されていたら、他の冒険者達はどう思うだろうか?

 少なくとも、良い方向に話が転がるとは思えない。

 

 では、露店を開いたら?

 夜半の売る薬を買いたいか? もしかすると、闇属性の魔水が使われているかもしれない。そもそも、効果があるか疑わしい。

 他の品物にも信頼できるという確証はない。むしろ、罠があると思うだろうな。

 

「……まぁ、キューベの奴もそこら辺を危惧してた。いくらタルクスが冒険者の街だろうと、実力だけを見てくれる奴は少ないからな。夜半にしか見えないお前さんは、さぞ住み辛かろう」

 

 クランクさんも、実力を見せれば、皆が認めてくれると言っていたが、物事はそう簡単には行かないよな。

 

「依頼をこなすにしても、ダンジョンに入るにしても、何時までも独り(ソロ)だと限界がありますしね。夜半とパーティー組みたがる人がいると良いですけど……もちろん、悪い人達は組みたがるでしょうから、好い人のことを言ってますよ」

 

 太陽教の連中みたいな奴だと、背中から刺されかねん。

 他にも、基本的に悪感情を向けられる夜半を鴨にしようとする輩は多いだろうな。

 

「だからこそ、キューベはタルクスを勧めたのかもな」

 

「俺が独りでのたれ死ねば良いと?」

 

 ……まぁ、それもそうか。言うなれば俺は、王家の不祥事の証拠品だもんな。

 勇者召喚に不手際があり、黒髪黒目の男を召喚した。それだけで王家に貴族が噛みつく口実に成りうるだろうし。

 

「いやいや、そうじゃない」

 

「……え? 違うんですか?」

 

「当たり前だ。キューベはそんなことをする奴じゃない」

 

 俺を単身、タルクスに送って、路頭に迷わせる気なのだと思ったのに。

 

「……んな面倒なことをするなら、キューベ自ら一刀両断するだろうよ」

 

「あぁ、確かに」

 

 元凄腕冒険者だって話だし、俺を闇に葬るくらいわけないよな。

 

「じゃあ、何が『だからこそ』なんです?」

 

「タルクスには、奴隷商人のテントがあんだよ。そこで奴隷を買えばいい。冒険者としてパーティーを組むなり、露店の表に立たせて売り子にするなり……な?」

 

 奴隷……なるほど。この世界だと、奴隷は労働力として(おおやけ)に認められた存在なんだな。

 

「もしかして、お前さんの世界には、奴隷はいなかったか?」

 

「いえいえ、俺の世界にも奴隷制度はありましたよ」

 

 言ってしまえば、俺も社長の奴隷のようなものだったし。

 嫌な思い出だが、孤児院でも酷い扱いを受けた覚えがある。

 

「奴隷商人のテントは北と南に一つずつある。北の方は貴族御用達の高い奴隷が売ってるからな、お前さんじゃ手が届かねぇだろ」

 

「貴族御用達……」

 

 ふと、ポーキンを思いだして苦い顔になる。

 そんな俺の脳内が分かったわけではないだろうが、バルドさんが補足説明をくれた。

 

「奴隷って一口に言っても、種類があんだ。依頼を達成できなくて奴隷落ちした元冒険者。借金を返せなくなって家族丸ごと奴隷になることもある。他にも、優秀な人材だが奴隷になって奴もいるんだ。そんな連中への救済措置なんだよ」

 

「純粋な労働力目的ってことですか。まぁ、それなら」

 

 俺は少し、貴族のことを偏った見方をしていたのかもしれない。

 

「中には(ねや)のお供にって奴もいるけどな」

 

 ……あぁ、うん。そんなことだろうとは思ってたよ。

 

「しかしなぁ……南の方は言っちゃ何だが、酷いぞ? 何処からか拐ってきたガキを売ってる、なんて噂があるくらいだ」

 

「それを聞いた限りだと、ろくなとこじゃなさそうですね」

 

 人拐いとか、普通に犯罪じゃねぇか。

 この世界の警察機構的な組織は何をやっているんだ。

 

「一部の貴族連中が利用してるからな。決定的な証拠があるわけでもないのに、おいそれと潰せないんだよ。テントにいる奴隷の行き先もそうそう決まらないだろうしな」

 

 貴族御用達の北テント。一部の貴族が利用する南テント。

 何だかどっちも行きたくないな。

 

「北だと人族が殆ど何だが、南は獣人族が多いだろうな」

 

「獣人族……!? それってここから北にある獣人族国家に住んでる筈じゃないんですか!?」

 

「獣人族国家は『獣王』と戦争中だからな。力の弱い種族は逃げて来てるんだ。それに、この国は『悪魔王』と戦争する前は、獣人と戦争してたしな」

 

 逃げて来たのを、拐って売ってるのか? 後々国際問題に発展しそうだな。

 『獣王』の問題が解決したら、次はルクシアン王国との戦争に……? ありそうで怖い。

 

「獣人族には興味がありますし、南のテントに行ってみます」

 

 それでも獣人族を一度は見ておきたい。イメージとしては、けも耳とけも尻尾の生えた人族って具合なんだが、この世界の獣人族はどうなんだろうか。

 まぁ、それも……

 

「おう、そうしろ。テントの場所はだな……」

 

「限界を感じたら、ですけど」

 

 台詞を遮られ、バルドさんはポカンとした顔になる。

 

「奴隷を買うってなると、寝首を掻かれる可能性が付きまといます。戦闘の面でも、俺がそこそこ戦えないことには、チームプレイもあったもんじゃないでしょう?」

 

 なまじ強い奴隷を買えば、常に背後を気を付けなくてはいけなくなる。冒険者として、共に戦闘すると仮定しても、おんぶに抱っこは勘弁したい。

 

「そうか……そうだな。今回、街中に出現したダンジョンの危険度は低いだろうが、少なくともE級でないと入る許可は出せないしな」

 

「ええ、奴隷の件はE級に上がってから再度検討しますよ」

 

 出来れば、まともな生活をおくれるようになったらにしたい。衣食住が安定していないのに、同居人を増やすとか、正気の沙汰じゃない。

 

 目下の目標は……

 

 衣、新しい同居人の分も考えると金がかかるよな。前の世界でも、服は矢鱈高かった覚えがある。安い物はとことん安かったが、こっちの世界で安い物を買う気はない。だって、服=装備品になるわけだし。

 食、三食腹一杯食べたい。勿論、栄養バランスには気を付けなくてはな。加えて、これから夜営やダンジョンでの野宿が増えことが考えられるので、自炊する準備だ。

 住、これが一番心配だ。だって、

 

「代わりと言っちゃ何なんですが……夜半でも泊めてくれる宿屋ってありますか?」

 

 最悪、これからも野宿する可能性があるから。

 

「おう、あるぞ」

 

 良かった!

 

「西区画にある宿屋でな、亜人差別をしないところだ」

 

亜人(・・)……?」

 

 喜びを口にする前に、気になる単語が聞こえた。

 亜人……その名の通り、人族ではない種族を指した単語なのだけど、バルドさんがそれを口にするとは思わなかった。

 

「あの……バルドさんって『巨人族』ですよね?」

 

 城に居た時にキューベからこの世界に根付く、種族の話を聞いたことがある。

 

 この大陸で最も数の多い種族、人族。

 

 北西に里があり、帝国に協力的な山の民(ドワーフ)

 種族全員が優れた生産職人。そして大の酒好き。

 

 西にある世界樹の森の守護者を勤める、森の民(エルフ)

 長寿と美貌が有名で、千年の時を生きる者もいるらしい。自然を愛する種族。

 

 世界中を旅し、様々な場所で出会うことのある、小人族。

 活動領域の膨大さに裏付けされた商法の多彩さは、凄腕の商人かおまけだという。

 

 この大陸から北、竜が居ると言われる大陸に住む、竜人族。

 翼を有する者もおり、空の覇者と名高い種族。

 

 西の大陸から渡ってきたとされ、絶対数の少ない、巨人族。

 その体格から繰り出される一撃を喰らったら、どんな種族でも肉片(ミンチ)になる。冒険者として活動する者が多い。

 

 『屍王』が住み着く前、その国が本来役割をしていた時に取引を行っていた東の大陸に住む、鬼人族。

 彼らの作った武器は一騎当千の働きをする。現在、流通している物は少ない。

 

 そして、かつてルクシアン王国と戦争をしていた『悪魔王』のいた種族。南の大陸からの侵略者、魔族。

 高い魔力量と強力な魔法を駆使し、ルクシアン王国を長年苦しめた。

 

 その中でも魔族を除いた人族以外の種族が亜人と呼ばれる。その呼び方を流行らせたのは、人族至上主義の貴族なんだとか。

 そんな経緯のある呼び方故に、亜人と呼ばれることを嫌う者は多い。……らしい。キューベ談だ。

 

「ま、そうなんだがな。呼ばれかたに一々(こだわ)るたちでもないしな。好きに呼ばれてる内に、気になんなくなったわ」

 

「は、はぁ……」

 

 見た目通り豪快なお人だ。

 俺もその内、夜半呼びを気になんなくなるのかね。

 

 その後、宿屋の位置を教えてもらい、ギルド長室を後にした。

 

 





『バルド・バルトセイ』
年齢:43歳
身長:271㎝
種族:巨人族
好きなモノ:酒
嫌いなモノ:仕事
職業:タルクスギルド長
得意武器:大槌
特技:戦闘
加護:なし

 迷宮都市タルクスの冒険者ギルドの長。
 若かりし頃は、巨人族の膂力を生かし、A級冒険者として活躍した。
 現在は新人冒険者の特訓や、揉め事の鎮圧など、ギルド長らしい働きをしている。
 キューベとは昔、パーティーを組んでいた時期があり、今でも仲が良いらしい。
 冒険者として活動していた時の二つ名は『巨塊』
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