「
目の前のお姫様らしき女性が高らかに異世界召喚での、お決まりな台詞を述べた。
それに対して
「異世界召喚キター!」
赤い髪の少女が歓喜して万歳している。ブレザーを着てることだし、見た目から推測するに高校生だろう。
「……そんなことより、お腹すいたの」
水色の髪の少女が空気の読めてない発言をした。少し汚れのある子供っぽい服を着ている、恐らく少学生の少女。
「えっ!? うわっ! こ、ここどこ!?」
クリーム色の髪の少年が悲痛な声をあげる。中性的な顔をしているが多分男子高校生。
「あ、やべっ、ナイフ置いてきちまった」
そして、現場に凶器を置いてきてしまったことに落ち込む俺。
「あ、あの……勇者様方? 私の話をお聞きになってますか?」
もとの世界なら高校生くらいの年に見えるお姫様がこちらの様子を伺っている。
しかし、それに対しても──
「ここから私の異世界無双生活が始まるのだ!」
お姫様の話を聞かずに、妄想を膨らませる女子高生。
「……お腹すいたぁ……」
お姫様の話を一切聞かずに、マイペースな女子少学生。
「ゆ、誘拐!? 拉致監禁!? 身代金!?」
お姫様の話を全く聞かずに、ひたすら怖い想像をして身をすくませる男子高校生。
「まぁ、異世界に飛ばされたんなら、警察に追われることもないか」
お姫様の話を耳に入れていながら、無視をしている、自分でさえ年齢不詳の俺。
──見事に四人全員がお姫様の話を聞いていなかった。
「あ、あう……。話を聞いて下さいまし……」
そろそろお姫様が可哀想なんで話を聞くか。いい加減、現状把握も終わったし。
今いるのは、おそらくどこかの地下室。足元も四方の壁も、天井も石でできていて窓がない。さらには周りをローブを被り、杖を持っている魔法使いらしき集団に囲まれている。
これじゃ逃げることもできない。本当にここが異世界なのだとしたら、ここで逃げると路頭に迷うことになるのでしないが。
お決まりの展開で言えば、世界の脅威が表れたから勇者を召喚したってところか。少し穿った見方をすれば、勇者を良いように利用しようとしている状況ってことだ。
そもそもどうして俺が勇者召喚されたみたいになってるんだ? 俺は自称悪魔王の首だけ悪魔に飛ばされたはずだ。
それに、間違っても勇者様と呼ばれるような人間じゃない。
……考えても仕方ないか。今はお姫様の話を聞こう。ここは敬語を使っておいたほうが良いか。
「すみません、いきなりのことで驚いてしまって。まずは現状の説明をお願いできませんか?」
「は、はい! ご説明致します! ……その前に王宮でご食事はいかがでしょうか? そこで勇者様方が落ち着いてから、説明を致しますので……」
そう言ってお姫様は未だに話を聞いていない三人を見た。
……心中お察しします。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
俺達四人はお姫様に連れられて地下から出てきた。
目が覚めた場所は召喚の間と呼ばれるところで、勇者召喚を行う際にしか入ることが許されないそうだ。
地下から地上に出た時に驚いたことは、外が明るかったことだ。その驚きはもう一人の男子も同じだったらしく「さっきまで夕方だったのに!」と酷く驚いていた。
ついでに女子二人は驚いていなかった。二人とも朝に飛ばされたらしい。
勇者の間とやらは王宮の直ぐ近くの塔の地下にあり、少し歩くと無事、城に着くことができた。
そして現在、俺達四人とお姫様、それから王様や大臣などが集まって食事をしている。料理は別段奇抜な物はない。しかしパンとスープ、それから肉といった、現代風とは言えない料理がところ狭しと並んでいる。
「私の名は
異世界召喚を喜んでいた女子高生は、どうやら痛い子のようだ。自分のことを
赤い髪に目がいくが、スカートも折ってないし化粧もしていない。髪色だけで不良かと思っていたが、そんなこともないみたいだな。
「え、えっと、僕は
ひとまず現実を受け入れた様子の少年だが、まだ怖いのかキョロキョロとしている。彼の反応がスタンダードだと思う。
中性的な顔立ちをしている彼は、オドオドしている姿もなかなか絵になる。美少年といって差し支えないだろう。
「……
そして小学生だと思っていた水色髪の少女は中学生だったのか。その幼い容姿は年相応にはとても見えない。今もマナーなんぞ関係ないとでも言うように料理を食い荒らしているし。
中学生だとしても水色の髪はどうなんだと思うが、職業を
……ん? なんでみんな俺を見ているんだ?
もしかして料理に口を着けていないからだろうか。万が一罠だった場合、睡眠薬入りというのも考慮して口を着けないことにしたのだが、不味かったかな。
「あ、あの、君は自己紹介しないの?」
そんなことを考えていると、隣に座っている少年、湯神詩織が声をかけてきた。
なるほど。自己紹介する流れなのに、いつまでたってもしないから注目をされていたのか。
とは言っても、俺に名前なんぞない。なんだったら自分の年も知らない。識別名ということだったらNo.108でもいいんだが、ここで正直に名乗るのと痛い子扱いが良いとこだろう。
かと言って、私の職業は殺し屋で、名前はないです。年も分かりません。なんて言ったら最後、牢屋に入れられるか殺されるのがオチだし。
ここは適当に決めてしまおう。今後その名前を名乗ることになるから、なるべくまともなのを。
「あー、
全部嘘だ。
名前は識別番号だったNo.108から作った。No.から難波、108から十夜。前の呼び名との接点があった方が馴染みやすいだろう。
年は大体で決めた。プラスマイナス1くらいの誤差はあるかもしれないが、許容範囲だろう。
職業は学生と言ったが、これも大嘘。一般常識を学ぶ学校のようなところには行っていたが、そこでは殺しの技術も学ぶ。おおよそ普通の学生ではない。
「うむ、マリにシオリにチホ……か」
上座、
……なんで俺の名前を言わないんだろうか。
「親父、トウヤ殿を忘れているぞ」
そんな聞きにくいことを進言してくれたのは、この国の第一王子である青年。名前は……さっき自己紹介されたけど覚えてないや。ごめんよ。
「おお、そうであったな。すまない。……ちっ、卑しい
「……? いえ、気にしておりません」
口ではそう言ったが、結構気にしている。どう見たって、俺を抜かしたのはわざとだからだ。第一王子もそれを分かって追及したのだろう。
それからあの王様、最後に何か言いやがったな。小声だから聞こえなかった。
「いきなりのことで驚いていると思う。しかし時は一刻を争うのだ。……キューベ、説明を」
俺達に対して下手に出る様子のない王様は、面倒くさそうに続きの説明を隣に控える優男に投げた。
仕事を丸投げされたインテリっぽい眼鏡をかけたキューベとやらは、嫌な顔もせずに説明をしてくれた。
「現在、この国、ルクシアンを始めとした国々は七つ星の魔王と呼ばれる七体の魔王に脅かされているのです。……とは言っても全ての魔王が危険というわけではないというのが……」
「ゴホンッ!」
「……出過ぎた真似を致しました」
大臣が言いかけた言葉を王様が咳払いで止める。どうやら言われると不味いことらしい。
なんだか、きな臭くなってきたな。どうも王様は信用できなそうだ。
「そこで勇者達よ、人々に恐怖を与えんとする魔王どもを討伐するのだ! 全ての魔王を討伐した
「もちろん勇者様方には援助金を用意させて頂きます。その他にも仲間の手配や、必要な物資の配給など、勇者様方を万全の状態でサポート致します」
高圧的に王様が言い放った後で、インテリ眼鏡大臣がフォローをいれる。あの王様はいつもこうなんだろうか? そうだとしたら大臣の苦労が忍ばれる。
「心配せずとも私がこの世界を救ってやろう! この大魔導士マーリンがな!」
女子高生、マーリンこと悠久真理が部屋全体に響き渡るように宣言する。
誇るように張った胸が強調するように跳ねた。むぅ、なかなか大きいな。
「僕は、勇者なんて呼ばれるような立派な人間じゃありません。……けど、困ってる人がいるなら、手を差し伸べられる人でいたい!」
湯神詩織は気弱そうな少年だと思ったら、ずいぶんと立派なやつだった。そんなやつが立派な人間じゃないのなら、俺は一体何なのだろう。
「俺は……少し考えさせてください。明日には答えを出します」
俺は即決した二人の勇者を眩しそうに見つめることしかできなかった。何があるか解らないことに首を突っ込むべきじゃない。そんなことを考えながら。
「……むにゃむにゃ。お腹一杯……幸せなの」
そして自由人、鍋島千穂はすでに寝ていた。お腹一杯になって眠くなったのか。やはり中学生には見えない少女だった。
「で、では! 城内の案内を致します」
お姫様の焦った声で俺達は移動を開始した。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「そ、その……十夜さんは、これからどうするんですか?」
城内の案内とこの世界の内情説明もそこそこに、俺達三人は
まだ時刻は夕方だが、落ち着く時間が欲しいだろうという配慮だ。もちろん王様でなく大臣の発案によって。
「どうするって何がだ? それと、ため口で構わないぞ」
男女二人ずつ別の部屋に入れられ、夕食までの休憩時間を取っていた。そんな時、対面の天外付きベッドに腰かけている湯神詩織がそんな質問をしてきたのだった。
「えぇ……じゃあ十夜君で。十夜君は勇者になるの? ってこと……何だけど」
どうして会ったばかりで、そんな核心に迫ることを聞くんだ。ここで俺が「なりたくない!」って答えたら彼はどんな反応をするつもり何だろう。
「その決断をするには情報が足りな過ぎるな」
「情報? それってこの世界のこと?」
「そう。そして自分自身のこともだ」
「さすがに自分のことは良く分かってるんじゃあ……?」
慣れてきたのか、どもらなくなってきた湯神は俺の答えに苦笑いで返した。
「悪い、言葉が足りなかったな。考えてみたら分かると思うが、俺達は一般人だ。とてもじゃないが世界を救う力なんてない。そこで、俺達には何かしらの特典が付いているはずだろ? その特典の確認も済んでないんだし、軽率に決められないなって」
異世界召喚と言えば特典だろう。他にも恩恵とか言われたりもする。召喚された際に、俺達には異能力が付与されているはずだ。
その能力を確認しないことには、この先のことは決められない。もしかしたら戦闘向きな能力ではないかもしれないし。
俺に至っては、召喚された訳じゃないので、能力がない可能性だってある。
「特、典……? って何だい?」
その返しには俺も驚いた。多少怯えてたにしても、すんなり事態を受け入れたから解ってるんだと思ってた。
「なんだ湯神はラノベとかケータイ小説を読んだことないのか」
「うん。そういうのが好きな娘は友達にいたんだけど、僕は読んだことないんだよね。こんなことなら読んでおけば良かったな。あっ、あと、詩織で良いよ?」
説明をしてやりたいけど、俺も詳しく説明できるほど造形が深いわけじゃない。
二人して唸っていると、貴賓室の扉が乱暴に開かれた。
「……匿って」
乱入者、鍋島千穂は荒々しく扉を閉めて、ずかずかと俺に近づいて来た。そして、俺の座っているベッドの毛布にくるまると動かなくなった。
突然の事態に俺と詩織が顔を見合わせていると、再度扉が乱暴に開かれた。
「ちーちゃん! 話はまだ終わってないぞ!」
今度はマーリンを名乗る女子高生、悠久真理が俺達の部屋に踏み込んできた。
「ふっふっふ、この部屋に逃げ込んだのは解っているんだ! 私の『ブラッディー・アイズ』から逃げられると思うなよ!」
悠久真理は俺達を認識していないかの様子で部屋を捜索し始めた。そして詩織は悠久真理が散らかした物の片付けを始めた。あいつも苦労人なのかもしれない。
「おい、鍋島。悠久が探しに来たんだが」
「……匿って。私は眠いの、静かに寝たいの」
鍋島千穂が作り出した毛布の球体に話しかけると、そんな答えが返ってきた。大方、悠久真理が語りだしたので逃げてきたのだろう。
「まだ異世界召喚について語り終わってないぞ! ちーちゃん、聞いてくれ!」
お、ビンゴだ。それにしても異世界召喚について、か。
それなら……
「悠久、その話なら詩織に語って聞かせてやってくれ。詩織は異世界召喚について知らないことが多いらしい」
「何!? それは大変だ! 安心するといい、
「誰それ!? 僕の名前は湯神詩織だよ!?」
「ふっ、解っているさ。湯の神だろう? もしかして
「詩織で良いよ!? むしろそう呼んで!?」
それから、詩織と悠久真理は異世界召喚についての話をし始めた。
悠久真理の説明は過剰表現ながらも分かりやすく、俺も聞くことにした。
「……むぅ、うるさい。……でも寝れなくもない」
鍋島千穂が静かに寝息をたて、悠久真理の話が終わりに近づいた頃、メイドさんが夕食の時間を知らせてくれた。
『
年齢:16歳
身長:162㎝
種族:人族
好きなモノ:ファンタジー小説
嫌いなモノ:馬鹿にしてくる人、クラスメイト
職業:高校生
得意武器:なし
特技:妄想
加護:???
召喚された勇者の一人。自称「大魔導士マーリン」。
子供の頃から、自分が魔法使いだと信じて疑わなかった
小学校高学年頃から周りに馬鹿にされ始め、異世界に召喚される直前も虐められていた。
常に偉そうに話しているが、不測の事態に
彼女が魔法を使えるようになったら、彼女考案のオリジナル魔法が炸裂するだろう。