黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.022 二頭の蛇食い鷲

 

 

 初めての依頼をこなした次の日。

 俺は西区画にある武器屋を回っていた。

 

 目的は昨日酷使したナイフの修繕と、新しい武器を探すこと。

 昨日戦っていて分かったことだが、ナイフは連戦に向かない。刀身が短い故に、すぐに血と脂肪まみれになって使い物にならなくなるのだ。

 それに、連続して超至近距離での近接戦闘を行うのは、集中力が続かなくなる恐れがある。

 

 それらを踏まえて今回探す武器は、槍などの長物。或いは、ナイフ投げ、魔法に続く第三の遠距離武器。弓矢とかかな。

 この世界に来る前ならば、所持できる武器に限りがあったが、今は魔法の袋(マジックバック)がある。ある程度使えそうな武器を買って、実践で試すのも良いかな。

 

「……ここかな?」

 

 仔犬の尻尾亭の親父さんに聞いた西区画にある武器屋は、全部で六軒。その内四軒はもう行って、そして断られた。

 

「『夜半(よわ)に売る武器はない』か……」

 

 訪れた四軒の武器屋では酷い目に遭わされた。金槌を投げられ、門前払いされ、あるところでは客の冒険者総出で追い出された。

 

「ここは違うと良いんだけど……」

 

 この武器屋にも断られたら、残る一軒に望みをかけるか、北区画の店に行かなくてはならない。

 もっとも、北区画の武器屋の方が追い出される可能性は高いのだが。

 

 兎も角、入ってみなければ、どうなるか分からない。

 意を決して木製の扉を開くと、軽快な鈴の音色と共に、この店の店主らしき男が迎えてくれた。

 

「おう、いらっしゃい。……なんじゃ、夜半とは珍しいお客様じゃの」

 

 出会い頭に夜半呼ばわりはされたものの、その呼び方に負の感情は見られない。

 取り敢えず客扱いしてくれたことに喜ぶ前に、一つ気になることがあった。

 

「……なぁ、あんた。もしかして、『ドワーフ』か?」

 

 『ドワーフ』…… 北西に里を構える山の民。里の近くにある帝国に協力的で、種族全員が優れた生産職人だという。加えて、ドワーフの男性は全員が無類の酒好きであるらしい。

 その多くは里と呼ばれている、ドワーフの国に住むか、帝国に店を構えていると聞いている。まさか、ルクシアン王国内にドワーフの武器屋があるとは思わなかった。

 

「そうじゃが……なんじゃ、ドワーフだったらなんじゃと言うんじゃ?」

 

 店主であると予想されるドワーフの男性は、男性ドワーフの特徴である、豪快な髭を生やした顔に眉を寄せる。

 

「いや、どうという訳じゃないんだ。ドワーフを見たのが初めてでさ。……不快な思いをさせたのなら謝る。すまなかった」

 

 このやり取りはユーちゃんと出会った時にもやってしまった。我ながら成長してないな。

 新しい発見をする度に見いってしまう癖を何とか抜こうと決意する。その決意事態が、次なるフラグだとは思いつつ。

 

「おうおう、そうじゃったか。確かにこの国じゃ、ドワーフはあまり見かけなんだな。……して、今日は何のようじゃ?」

 

「武器の修理と、新しい武器を探しにね」

 

 店内をぐるりと見渡すと、壁には多種多様な武器がかけられていた。これだけ種類が豊富ならば、一つくらい自分に会ったものが見つかるはずだ。

 

「そうかそうか。なら、先に武器の研磨からやってしまおうかの。お前さんがどんな武器を使っておるのかを見れば、どの武器を勧めたら良いのかも分かるでの」

 

「へぇ、使ってる武器を見ただけで分かるのか。じいさん、凄いんだな」

 

 俺も相手の武器の構え方や立ち振舞いを見て、相手の力量を測ることが出来るが、それと同じようなことだろうか。

 投擲用、近接用、解剖用のナイフをそれぞれカウンターに置く。合計十五本のナイフを取り出すと、ドワーフの男性は、一本一本丁寧に手に取って眺めていく。

 

「どんな武器を使うか、その武器をどう使っておるのか、それを見れば、冒険者としての技量が手に取るように分かるわい」

 

 優れた冒険者は優れた武器を持ち、その武器の力を最大限引き出す。その為、武器の使い方一つとっても、優れていると言える訳だ。

 「何か一つ秀でているだけでは、冒険者として大成できない」とは誰の言葉だったか。……あ、サラさんか。昨日聞かされたな。

 

「……武器の使い方、という面で見れば、お前さんは三流も良いところじゃの」

 

「あー、やっぱり?」

 

「何じゃ、分かっておったのか?」

 

「まぁね、武器の使い方がなってないってことは、自分が一番分かってるさ」

 

 前職、殺し屋としてナイフを振るっていた時は、同じ武器を扱うということは殆どなかった。残せば証拠になりかねないからだ。

 数少ない同年代の仕事仲間は、毎回同じ武器を使っていたが、俺は仕事が終わる毎に処分を徹底した。

 

 同じ型のナイフを使っていても、重さや切れ味は微妙に異なる。だが、一度きりの使い捨てだと思えば気にもしない。

 その気持ちが、冒険者となった今でも武器の使い方に出てしまっているのだろう。

 

「せめて戦闘が終わる毎に血と油を拭き取り、砥石をかけろ。そうしないと武器は直ぐに駄目になるんじゃぞ」

 

 そう言いながら、ドワーフの男性は布と黒い石をカウンターに乗せる。

 

「この布で血と油を拭き取り、この砥石で武器を磨げ。そうして長く使い込むことで、何時しか武器をお前さんの手足と同じように使いこなせるようになるじゃろう」

 

「手足と同じように……」

 

 確かに、同じ武器を使い続けていた仕事仲間の二人は、まるで自らの手足のように武器を扱っていた。

 その感覚を手に入れることが出来たらば、近接主体の戦い方を主とする上で力となるだろう。

 

「この武器は磨いておくから、お前さんは自分にあった武器を探すと良い。どれでも自由に手に取っていいからの」

 

 それだけ言うと、ドワーフの男性はカウンターの奥に引っ込んでしまった。恐らく、武器を磨くために作業場に行ったのだろう。

 どれでも自由に、と言伝てされたので、遠慮なく端から手に取って確かめてみる。

 

 最初に手にしたのは鉄製の斧。

 分厚い刃の一撃は、肉を裂き骨を砕くであろう。その重厚さ故の攻撃力の高さは他の武器より断然上だ。

 しかし重い。両手で持てば振るうことが出来るが、一つ一つの動作が遅くなるのは確実。

 

 出来れば片手で扱える武器が良い。

 片手を空けておけば、魔法やナイフ投げなど、相手の意表を突く攻撃が出来るようになる。

 

 次に手に取ったのは銅色の鈍い光沢を放つ青銅の剣。

 腰に下げた剣と同程度の長さだが、こちらの銅剣の方が軽い。これなら片手で扱えるだろう。

 だが、そうなると強度が心配になってくる。戦闘中にポッキリ、なんてことになったら命に関わってくる。

 

「随分と難しい顔をしとるようじゃが、その剣はコボルト程度の猛攻なら折れん強度じゃよ」

 

 手の中の銅色の剣を見ていると、カウンターに戻ってきたドワーフの男性に声をかけられた。

 ドワーフの厚い皮で被われた手の上から、木製のカウンターの上へ、十五本のナイフが移動される。

 種族全員が凄腕の職人であると言われるドワーフの手によって磨かれたナイフ達は、買ったときと同様、新品の輝きを放っていた。

 

「まぁ、お前さんのような無茶な使い方をすれば、十日と持たずに折れるじゃろうがな」

 

「返す言葉もないよ。研磨代はいくら?」

 

「布と砥石を買うなら、合わせて銀貨五十枚にしといてやろうかの」

 

 マジックバックから貨幣の入った袋を出し、その袋から銀貨五十枚を取り出してドワーフの男性に手渡す。

 その動作を見ていたドワーフの男性は、眉を潜めて問いかけてきた。

 

「なんじゃ、てっきりE級冒険者かと思っておったら、B級の魔道具を持っておるとは。お前さん、冒険者の等級はいくつなんじゃ?」

 

「F級だけど……じいさん、【鑑定】スキル持ってるのか」

 

 サラさんも見ただけで、手提げ袋程度の大きさの魔法の袋(マジックバック)を魔道具だと見抜いた。

 このドワーフの男性も【鑑定】スキルを持っているのだろう。

 

「鍛冶をやる上で観察眼は必須じゃからの。……しっかし、お前さんがF級とは、悪い冗談もあったもんじゃ」

 

 ドワーフ特有のもさもさした髭を撫で付けながら、ドワーフの男性は目を細める。

 なんだか観察されてるようで落ち着かないな。

 

「……ところで、良さそうな武器はあったかの?」

 

「それなんだけどな。俺は、片手で使えて、強度もそれなりにある武器を探してるんだが……どうやら、なさそうだ」

 

 この店の武器はどれも重厚で、片手で扱えるものは少ない。その少ない武器も、連戦には向かないものばかりだ。

 

「この店は新人冒険者向けの武器しか置いてないもんでな。お前さんの望む武器はないじゃろうと思っておったわ」

 

 壁にかかってある武器の値札を見ると、金貨一枚を越える物はない。質は高く見えるが、素材を抑えて新人にも手が届く値段にしてるのだろう。

 

「じいさんの腕なら良い物も作れるだろうに」

 

「良い武器を作るのには、良い素材がいる。良い素材を使うと、必然的に武器の値札が高くなる。そうなると、新人冒険者には手が出せんじゃろう?」

 

 やっぱりそうか。このドワーフの男性は、新人冒険者のために、こうして安いながらも質の良い武器を作っているのだ。

 

「それに、良い素材を使った良い武器は、もう一つの店に置いてあるんでの」

 

 ……どうやら、このドワーフの男性は相当腕のある鍛冶屋らしい。

 店を二軒も構えているということは、それだけ儲かっているということだし。

 

「……時にお前さんよ。予算はいくらある?」

 

「金貨二十枚が限度かな。それ以上は生活費を切り詰めることになる」

 

 宿屋代は先に払ってあるし、必要な物の中に高価な物はない。金貨二十枚ならば出せる。

 

「ガッハッハ、やはり、お前さんはF級らしくない。……じゃが、それならあれ(・・)を売っても良いかの」

 

あれ(・・)?」

 

「ちょっと待っておれ」

 

 ドワーフの男性は豪快に笑うと、またもやカウンターの奥に行ってしまった。

 残された身としては、どうすることも出来ない。待っている間に、卓上のナイフを身に付け、布と砥石をマジックバックにしまう。

 

「これじゃ。ほれ、持ってみろ」

 

 戻ってきたドワーフの男性の手には、一対の剣があった。

 その手の中にあったのは、ナイフと言うには長く剣と言うには短い、同じデザインの二振りの剣。

 その刀身は銀色の光を放ち、まるで鳥類の翼のようなデザインをしている。

 

「これは……双剣か?」

 

「その通り。これならお前さんの要望に答えられるじゃろうて」

 

 長さは自分の腕と同程度。この長さならば、重くて満足に振れないということはないだろう。

 しかし、強度はどうだろうか。この双剣は、ナイフよりは厚いが、他の剣と比べるといささか薄い印象がある。

 

「イモータルサーペントの血を使って鍛えたミスリル製の剣じゃ。生半可な攻撃じゃ傷一つ着かんぞ」

 

 『イモータルサーペント』……確かB級の魔物の中でも上位に君臨する大蛇だ。

 その身を覆う白い鱗には高い回復作用があり、いくら傷を負わせても即座に回復してしまうという。

 その特性から『不滅の大蛇(イモータルサーペント)』と呼ばれる魔物だ。

 

 そして『ミスリル』……銀の輝きと鋼にも勝る強度を持つ金属。

 別名、魔法鉄とも呼ばれ、加工をせずとも属性付与可能武器(エンチャントウェポン)になる希少な金属のはず。

 

 その二つを使った剣ならば、とても高いのだろう。はたして金貨二十枚で買える代物なのか?

 

「本来なら金貨三十枚は貰わんと売りたくない逸品じゃが……お前さんになら金貨十枚で売ってやろう」

 

「え? 良いのか?」

 

 金貨三十枚のところ金貨十枚で譲り受けたら、売り上げにして三倍の差が出る。大赤字だろう。

 

「良いんじゃよ。武器屋をやっておるのは、ただの道楽じゃしの。うちの連中に双剣を扱う者がおらんので、どうするか悩んでおったところじゃ。もう一つの店に出すにしても、性能が良すぎて買い取り手がおらんと思っておったところでな」

 

「でも、金貨三十枚は貴族なら出せるんじゃないか?」

 

「ふんっ、貴族の中に、この剣を扱える者がおるとは思わん。優れた武器は優れた者が持つべきじゃ」

 

 その論理でいくと、俺も優れた者になってしまうな。

 

「お前さんが優れた冒険者になるかどうかは分からん。……だがの、確信があるんじゃ。きっとお前さんは一流の冒険者になるだろうという確信がな」

 

「買い被りすぎ……にしないように頑張るよ」

 

 金貨十枚を渡し、銀に輝く二振りの剣を受け取る。翼を模した銀の双剣は不思議と手に馴染んだ。

 軽く素振りしてみると、風を切る音が店内に響いた。

 

「軽いな。それでいて、良い切れ味だ」

 

 これなら片手で使える。その上、両手で扱っても過不足なく振るうことができるだろう。

 

「実はその双剣にはまだ名前を着けておらんのじゃ。どうじゃ? 何かの縁だと思って、お前さんが着けてみんか?」

 

「その剣に名前を……?」

 

 『イモータルサーペント』の血を使った『ミスリル』製の『双剣』。

 

 頭に浮かんだのは「 蛇食い鷲」と呼ばれる、蛇を蹴り弱らせて食べる鷲の一種。

 この剣が不滅の大蛇を殺した訳ではないが、縁起を担ぐ上で、これ以上の代名詞はないだろう。

 

「そうだな……『双鷲』なんてのはどうだ?」

 

「ふむ……この剣に相応しい名前じゃの」

 

 

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