銀の輝きを放つ、翼を模した双剣、『双鷲』の名付けが終わった。
優れた武器は固有の名前を持つものらしく、ドワーフの男性は双鷲を持って作業場に行ってしまった。名前を刻むらしい。
金貨十枚は痛い出費だが、あれほどの剣が手に入るなら安いものだろう。実際、作った本人が金貨三十枚は下らないと言ってるのだし。
双鷲と名付けた双剣は、軽く、固く、鋭い。俺が今まで見たどの刃物よりも良く斬れそうだ。
「待たせたの」
「いや、それほどでもない」
恋人同士の掛け合いのようなものをして一瞬気分が悪くなったが、実際待ってない。カウンターの奥に行ってから十分と経ってないはずだ。
「これでこの双剣、双鷲はお前さんの物じゃ。大切に扱ってもくれよ」
「勿論。何かあれば頼らせてもらうけどな。刃こぼれとか、整備にちょくちょく来ると思う」
こと武器の扱いについては、俺は三流とまで称された身だ。武器の整備に関しては、製作者を頼るとしよう。
「その心配は無用じゃよ。その剣を打つときに使った、イモータルサーペントの血の効果で、少しの刃こぼれ程度なら、直ぐに直るわい」
「そりゃ凄い。それなら、気兼ねなく使えるな」
手入れ要らずなのは嬉しいことだ。戦闘中に刃こぼれの心配をしている暇はないからな。
「刀身に剣の名前とわしの名前を彫っておいた。それを見て、その剣を譲って欲しいと言う輩が多いじゃろうが、決して売ってはならんぞ。もし売った時は、金槌で頭をかち割ってやるからの」
「心配しなくても、こんな良い代物売らないよ。てか、じいさん、そんなに有名なのか?」
抜き身の双鷲を掴み、そこに彫られている名前を確認する。
「た、タタラ・トウショウ……?」
知らない名前だ。そもそも、こちらの世界に来て一ヶ月と少しの俺が知っているはずもないか。
「にしても、
まさしく鍛冶屋の見本みたいな名前じゃないか。
一方、じいさん改めタタラさんは、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「……驚かんのか?」
「なんで?」
疑問に疑問で返した。
礼儀としてなってないが、質問の意図が解らない以上、仕方ない。
「……はぁ、『
「悪いな、この世界……じゃなくて、この街に来たのが最近なんだ」
『カーディナル』、ねぇ。緋色ってことなんだろうけど、何の名前なんだ?
この武器屋の名前ではないことは、入ってくる前に見た看板で確認済み。他に考えられるのは、何らかの所属を表す名前だな。例えば太陽教とか。
「そうじゃったか。すると、お前さんがトウヤかの?」
「ん? 何だ、タタラさんは俺のこと知ってたのか」
「レオン達から聞いたんじゃよ。勇者召喚に巻き込まれた、夜半の見た目をした少年の護衛をしたとな」
レオンさん達が、俺が異世界から来たことを話したのか。ならば、タタラさんも同じパーティーの一員ってことか。
キューベからも異世界人であることを公言しない方が良いと言われてるし、俺がそうであると知っているのは、レオンさん達四人とギルドマスターのバルドさんだけ。
他に俺の情報を得られるとすれば、この街にいるというレオンさんのパーティーメンバーだけのはずだ。
「カーディナルってのは、冒険者のパーティー名か?」
「詳しく言うと、『クラン』の名前じゃな。パーティーは数人、臨時で組んだ際も使われるが、クランはホームを作って常にパーティーを組む。言うなれば、冒険者の寄り合いじゃよ」
確かレオンさんは、この街にホームがあると言っていたな。カーティアさん、クランクさん、エリアさん、そしてタタラさんがクランメンバーか。
剣士、魔法使い、
「今はレオン含め数名がダンジョンに潜って調査しておるが、あと数日もすれば出てくるじゃろう」
「でも、レオンさん達はつい先日着いたばかりだろ? 一週間程度でダンジョンの危険度調査が終わるのか?」
「終わるわけなかろう。戻ってくるのは、調査が終了したからでなく、休息を挟むためじゃ。危険度の解らない新種のダンジョンとなれば、用心に用心を重ねても足りんからな」
「まぁ、レオン達なら心配あるまいて。リーダーが若く、実績が少ないゆえにB級に甘んじておるが、奴等はA級の冒険者にも劣らぬ力を持っておるからの」
「そうだな。エリアさんは少し心配だけど、レオンさん達なら、何とかしてしまいそうな気がするよ」
おっちょこちょいなエリアさんだけが心配で、他の三人は心配してない。
レオンさんは身の丈ほどの鉄の塊を涼しい顔して振り回すし、カーティアさんには一撃で戦況を変える圧倒的な魔法がある。なりより、クランクさんが、後ろに攻撃を届かせないだろうからな。
「ほほ、そうじゃな。……ついでに、エリアはホームでお留守番しておるよ」
「……心配の種が消えてホッとしたよ」
心配事が消えた反面、案外子供っぽいエリアさんが拗ねてないかが問題だよな。
「そうじゃ、そうじゃ。お前さんにホームの場所を教えておくわい。冒険者として一段落着いたら、顔を出すと良いぞ」
タタラさんから、レオンさんのクラン『
ホームの場所は東区画にあり、目印は近くに建っている教会だそうだ。
その後、武器の手入れの仕方などを教わった。
そんなこんなをする内に、昼を知らせる鐘が鳴ったので、仔犬の尻尾亭に帰ることにした。
「俺は
「タタラ・トウショウじゃ。これからよろしくの、トウヤ」
最後に、改めて自己紹介をして店を出る。
外はまだ明るく、これから昼飯を食べ、双鷲の切れ味を試す時間はありそうだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「あ、トーヤさんですよね? 自分、今日から専属になりました、カークっていいます。宜しくお願いします」
仔犬の尻尾亭で昼飯を堪能した後、昼下がりのギルドに訪れた。
ギルドに入るなり、同い年位の男性職員に話しかけられると、彼は俺専属の受付職員になったという。
「専属? 何のだ?」
「冒険者としての仕事全般ですよ。トーヤさんがどの依頼を受けるべきか、とか、僕がしっかり教えますので」
つまりは監視役か? 俺は見た目のせいも相まって、如何にも問題事を引き起こしそうだもんな。
常に俺の監視をすることで、問題が起こる前に対象しようという試みか。
「ああ、頼む。何か悪いな、面倒かけるみたいで」
「え? いえいえ、そんなこと無いですよ。むしろ、トーヤさんの相手してる時は、ギルドの業務休めるんで、助かりますよ」
うん、本当に悪く思うこと無かったな。
「最初、ギルドマスターとサラ先輩から、トーヤさんの専属になれって言われた時は、勘弁してくれって感じでしたけど、何とかなりそうで安心しました」
「なぜ安心したのかは置いておくとして……何で勘弁してくれって感じだったんだ?」
「…………あ」
俺が疑問を口にすると、カークは表情を固まらせて汗を流し始めた。笑顔のまま固まったカークの目を見て、再度問いかける。
「何で、勘弁してくれって感じだったんだ?」
俺はあくまでも微笑みを崩さずにカークに問いかける。
「や、そのですね、変な意味合いは無いですよ!? ほんとですから! ただ、僕に
「カーディナルからの推薦? 確かサラさんもそんなこと言ってたな」
そうそう、「『
「そうなんですよ! トーヤさんは、タルクスが誇る、B級冒険者クランから、腕前を認められてるんです」
七段階評価の上から三番目だと言うことは分かっているのだが、B級と聞くと、どうも凄い印象を持てないな。B級グルメとか、B級映画とか。いや、美味しいし面白いのもあるんだけどな。
「本来なら直ぐにE級に昇格でも良いんですけどね。王都で発行されたギルドカードな以上、飛び級させるのは色々面倒なことがあるみたいでして」
冒険者ギルドはルクシアン王国には勿論、国の垣根を越えて存在する。つまりは、それだけ権力と戦力があるってことだ。戦力とは、そのまま所属している冒険者の数だしな。
それ故、各支部ごとに、優秀な冒険者を集めている。
俺は王都で冒険者となり、タルクスに移った。王都のギルドマスターからすれば、俺は裏切り者な訳で、おいそれとランクを上げる訳にはいかないらしい。
移ったばかりで俺のランクが上がれば、王都のギルドよりも、タルクスのギルドの方が冒険者の育成に力を注いでいると周りは捉える。
「かと言って、優秀な人材を燻らせる訳にはいかないので、僕が専属になったってわけですよ」
「話は解ったけど……それとカークが俺の専属になることと、どう関係するんだよ」
ギルドが優秀な冒険者を集めているのは理解した。それだけバルドさんやレオンさんから期待されているのも分かった。
正直、サラさんといいタタラさんといい、皆して俺のことを持ち上げ過ぎだとは思うけど。
「それは……」
「なんだよ」
「怒りません?」
「内容による。聞いてもないのに、怒るかどうか分からないからな」
「ごもっともです。えぇっと……あのですね。レオンさんが言ってたらしいんですけど、トーヤさんは腕前は確かだが、常識知らずな所があるって」
常識知らずか……ほほう。
「で、ですので! ギルド職員である僕がしっかりと支えなくては、と言うことなんですよ! 実力は確かでも昇格できない冒険者は多いですから!」
カークは額から流す汗の量を増やし、手をバタバタと世話しなく動かして説明をしてくる。
「なるほど。なら、改めてよろしく頼む」
「は、はい! ……はい?」
俺が右手を差し出すと、カークは間の抜けた顔をして、差し出された俺の手を見つめた。
「どうした、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「あ、いえ、怒ってるのかと……」
「はぁ?」
さっきの会話の中で怒る要素があっただろうか。
もしかして、期待され過ぎて怒ったとか? ありそうだな。
「冒険者の方は低く見られることを嫌いますからね。常識が無いって言われて、怒ったのかと思いまして」
どうやら真逆のことだったらしい。
冒険者は持ち上げられて、ではなく、下に見られて怒るのか。
「低く見られるのは一概に悪いとは言えないだろ。相手が油断してくれるなら殺りやすいからな。それに、今回に限って言えば、俺が常識知らずななのは本当だろ」
「あ、はは……トーヤさんて変わってますね」
「ほっとけ」
引いたようなカークの笑い方を見つつ、少し疑問に思ったことを訪ねる。
「にしても、何でカークが専属になったんだ? サラさんの方が良かったんだが」
サラさんなら【鑑定】スキルを持っているし、説明が丁寧だった。加えてダンジョンの知識もかなりのものだ。
これからダンジョンに潜る可能性を考えると、彼女に専属になって欲しかった。
「うっ、僕が選ばれた理由は、年が近いからとか、同性だからとか色々あります。それで……サラ先輩じゃない理由は、暴動が起きかねないからですよ」
「ん? サラさんが俺の専属になると暴動が起きるのか?」
それは一体何故だろうか。
貴重な【鑑定】スキル持ちを、俺のような新人冒険者に当てられないから?
首を捻る俺に、カークが教えてくれた。声を潜め、周りを注意しながら。
「専属ってことは、その冒険者がいる間は、その人に付きっきりになりますよね?」
「まぁ、専属なんだから、そうだろうな」
「つまり、その冒険者が居座れば、長い間二人きりな訳です」
「そんな迷惑行為する奴いないだろ……」
当たり前だが、ギルドの受け付けの職員は冒険者よりも少ない。昼下がりの今の時間帯は冒険者も少ないが、早朝と夕方には混むらしい。だからこそ、俺は昼下がりに来てるのだが。
そんな忙しい時間帯の中、一人の冒険者の相手を延々としていたら、受け付けが捌ききれなくなる。しかも、サラさんは【鑑定】スキル持ちだ。魔法具の持ち込みとかあったら、どうするつもりだ。
「いるんです。てか、いたらしいんですよ」
「らしい?」
カークが言うには、サラさんがまだギルドの職員として新人だったころ、そんな迷惑行為をした冒険者がいたらしい。
若くして【鑑定】スキルを発現したサラさんは、優秀な冒険者が持ち込む魔法具を【鑑定】することで、熟練度を上げたかった。その要望を叶えるべく、バルドさんは、サラさんを腕利きの冒険者の専属にしたのだが……。
その腕利きの冒険者というのが、女癖の悪い奴だったらしい。
簡単な依頼を受けては昼前に帰ってきて、サラさんをランチに誘う。断られても、何時間でもサラさんを口説くし、勝手に贈り物をするし、しまいには依頼にも行かないようになったとか。
「凄い奴がいたんだな」
「結局、その冒険者は他の冒険者から袋叩きにされたらしいですけどね」
その一件があったからか、サラさんは男性冒険者からも女性冒険者からも大切に扱われているとのこと。
「だから、俺の専属にしたら暴動がねぇ」
「えぇ、本人には伝えられてないですけど、他の冒険者の信用を得られた冒険者でないと、サラさんの専属にはならないそうです」
そんな理由があるのなら、俺はカークで満足しとくか。
「なんか失礼なこと考えてません?」
「いやぁ、別にー」
「言っときますけど! F級に専属が付くこと事態凄いことなんですからね!?」
「はいはい、肝に命じときますよ」
喚くカークを落ち着かせてから、本題に入るとする。
専属だと言うなら、俺にピッタリの依頼を教えて貰おうじゃないか。生憎と、俺は常識知らずなんでね。