黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

25 / 26
No.024 お約束という名の強制イベント

 

 

 冒険者ギルドにてカークを散々からかった後、彼のお勧めである三つ依頼を受けてタルクスの南へと来ていた。

 

 基本的に受ける依頼は一つに絞るものだと思っていたが、新人のうちは難易度もたかが知れているので、掛け持ちするのが普通らしい。

 それに加えて、俺はタルクスが誇るB級クランである『緋色(カーディナル)』……つまりはレオンさん達から推薦された期待の新人。一刻も早く冒険者としての階級(ランク)を上げる必要がある。

 その為、俺の専属となったカークとしては、一日に沢山の依頼を掛け持ちし、速攻でランクを上げて欲しいみたいだ。

 

「ゴブリンの討伐……討伐数、一匹以上。薬草の採取……採取数、五株以上。癒花の採取……採取数、五株以上。癒花の色は問わず……」

 

 受け取った依頼の写しを手に、依頼の内容を確認する。その何れもが推奨ランクF級以上のものだ。つまりは、最も簡単な依頼の部類である。

 

 ゴブリンの討伐に関しては特に気にしてはいない。昨日も歩いてたら見つけたし、恐らく今日も出会すだろうからな。

 薬草と癒花のことも気にしなくて大丈夫だ。依頼を受けた後にカークから生えている場所を教わった。何なら、魔法の袋(マジックバック)に入っている物を出しても良いし。……いや、それは狡いか?

 

 兎も角、この三つの依頼が簡単だということだ。だからと言って、手を抜くような真似をする気はないが。

 今回の目的としては、依頼の達成は勿論として、双鷲の切れ味も試したい。折角手に入れた武器なんだし、どの程度扱えるか確認しときたいしな。

 

 今回俺が足を運んだタルクスの南側には、小規模な森が転々と存在しているらしい。海沿いからタルクスまでを、ヘンゼルとグレーテルよろしく道標として存在する森達は、一つ一つが大切な資源だそうだ。

 悪魔王との戦争中は市街戦ではなく、森の中での戦闘が多かったと聞く。そこで魔族人族関係なく、多くの者が倒れたため、今では魔素溢れる地となっているとか。

 生える草木は薬草や癒花などの魔草となり、湧き出る泉は純度の高い魔水となる。中には妖精が住むと言われるまでに魔素の濃くなった森もあるとか。

 

 人族にとって有能性のある土地と言うのは、往々にして魔物にとっても住み心地の良い土地であることが多い。

 森の中で行動する上では、魔物である彼らの方が動き安く、薬草を摘みに来た人を襲ったりもできる。魔物にとっても森は有能性の高い場所と言うわけだ。

 

 もっとも、そうして魔物が集まるのを見越して討伐に向かう冒険者もいるのだ。森が危険だから立ち入り禁止とならないのは、そこら辺が理由だったりする。

 利益があるのなら、そこが如何に危険な場所だろうと足を踏み入れる。それが人族という種族の特徴であると言える。

 

「フゴッ! フゴッ!」

 

 人族のリスクリターンを重んじる精神を尊んでいると、前方からリトルボアが駆けてくるのが見えた。

 時折後ろを気にする素振りを見せながら、此方へ向かって突進紛いの速度で突っ込んでくる。何かに追われているようだ。

 

 何に追われているのか気になって、リトルボアの後方を注視してみると、草原の色に溶け込むような緑色をした狼が三頭、並走する形で走っていた。

 

「……ん? 違うな。あれは、競ってるのか?」

 

 仲良くリトルボアを狩ろうとしている訳ではないらしい。緑色の狼達は、我先にとリトルボアを追いかけている。

 あれでは、リトルボアより狼の方が脚が速くとも、追い付くのに苦労するだろうに。

 

「仲良く分けりゃあ良いのに」

 

 先日の、食い意地が張ってることで有名なゴブリンでさえ、仲良く狩りに勤しんでいたと言うのにな。

 

 腰から双鷲を片方だけ抜き、未だ此方に気づいていないリトルボアに向かって駆ける。

 相対速度の関係で、俺とリトルボアは一瞬のうちに互いの攻撃範囲内に入る。

 

「プゴォ!?」

 

 リトルボアが俺に気付き、間抜けな声をあげるがもう遅い。

 肩、肘、手首を駆動させ、腕を鞭の如くしなるように振る。鞭の先端である双鷲がリトルボアの首筋に迫る。推進力と遠心力の乗った一撃は、驚くほどあっさりとリトルボアの頭を地に落とした。

 

 ……あっれぇー? 切れ味が良すぎるな。

 

 予想としては、切り裂けないでも首に裂傷を与え、リトルボアが怯んだところで【トラップ】で足を掬おうと思っていたのに。

 

 走っている途中に頭が取れたことにより、体の方は止まる。と言っても、勢いは死なずに前方、俺にとっての後方の地面に滑り落ちる。

 そこまで狙った訳ではないのだが、自然と緑色の狼達から、リトルボアの肉を守る位置に立つことになる。

 

「ガルルゥ!」

「……グルルゥ」

「ガァ……」

 

 三頭の狼は追っていた餌を横取りされたことに怒っているのか、犬歯を剥き出しにして威嚇してくる。どうやらリトルボアの肉を手に入れるのなら、狼達との敵対は免れないようだ。

 だが、どうしようか。ここでリトルボアの肉を死守する必要もないんだよな。狼が背中から襲い掛かってこないのなら、この足元の肉を奴等にあげても良いのだが……。

 

 六つの視線を受けながら思考を巡らせる。

 

「……うん。この肉、やるよ」

 

 今日はリトルボアの肉を取ってくるよう頼まれてない。ここで狼達と事を構えるよりも、早く依頼をこなした方が良いだろう。

 

「グルルゥ?」

 

 俺の発言を理解した訳では無いだろうが、三頭の狼の内、真ん中の一頭が首を傾げた。

 

 俺は、なるべく狼達を刺激しないよう、ゆっくりと後ろを下がる。勿論、六つの視線からは目を逸らさない。

 

 やがて……リトルボアへの距離が狼達より俺の方が遠くなると、狼達も安心したのかリトルボアの脚を咥えて何処かへ運んでいった。

 その際、一頭だけは此方を監視し続けていたが、恐らく見張りだろうな。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「もしかして……俺、甘くなってる?」

 

 そんなことを呟いたのは、発見したゴブリンの小隊との戦闘中のこと。

 

 先程の狼達を見逃したことに対して、言葉に言い表せない、もやもやとした気持ちを感じていた。その原因に何となく辺りを付けたというわけだ。

 

「んー、そんなことないよなぁ?」

 

 ゴブリンに返答を求めている訳ではないが、ついつい口から疑問が溢れる。

 自分で言うことではないが、俺は自らを非情な人間だと思っている。そうでなければ、あんな仕事をしていない。

 

 武器を振り上げたゴブリンの首を左の剣で跳ね、武器を突き立てようと迫ってくるゴブリンの手首を右の剣で切り落とす。

 今は双鷲を両手に持ち、本来の双剣としての使い心地を試している。

 

「いや、でもな……」

 

 首をなくしたゴブリンの体を蹴り飛ばし、後方のゴブリン達の足を止める。その隙に手首を落とされたゴブリンに止めをさした。

 

「……ふぅ、駄目だな。甘い奴から死んでいくんだ。気を引き締めねぇと」

 

 甘い奴から死んでいく。

 

 これは殺し屋をしていた時の常套句だったが、それは冒険者にも言えることだろう。

 自らの命を糧に、その日生きるための金銭を稼ぐ。それが冒険者、のはずだ。

 

 ようやく首なし死体を退けたゴブリン達が、此方に武器を構え始めたのを確認して、俺は深く息を吐いた。

 

「目標……三十匹以上。頑張りますかー」

 

 現在、ゴブリン二十三匹を狩り終えている。

 薬草と癒花も採取は滞りなく終了し、群生地を見つけることにも成功した。今後は楽になるな。

 

 現時刻は夕方になりかけの頃。四時と五時の間といった所だろうか。

 今日は日が沈む前にギルドに帰り、サラさんとユーちゃんを安心させてあげたい。

 

 …………あぁ、後、カークと親父さんも。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「あっ! トーヤさん、お帰りなさい」

 

「………………おう」

 

 空が赤く色づく時刻、今日の依頼を終えてギルドに戻ってくると、カークから挨拶をされた。それだけなら良いのだが、これがサラさんだったらと思うと悲しくなるのは何故だろうか。

 

「どうしたんです? ……もしかして! 依頼上手くいかなかったんですか!?」

 

「いや、依頼は全部こなしたよ」

 

 一大事と言わんばかりに焦るカークを宥めつつカウンターに座る。

 流石にサラさんのが良かったと口にするのは、カークに失礼なので控えることにする。いくらカークが可愛げなかろうと、俺の専属なわけだし。これから長い付き合いになるのなら、そのくらいの不満は許容しよう。

 

「それは良かったです。これで失敗してたら僕が怒られますからね」

 

「そこで素直に喜んでくれないから、サラさんの方が良いとか俺に思われるんだぞ?」

 

 控える必要性皆無だった。むしろこいつの方が失礼なんですが。

 

「ぐっ、トーヤさん、そんなこと思ってたんですか」

 

「あぁ、今ひしひしと思ってる所だよ」

 

 何故か悔しそうな顔をするカークに、ゴブリンの右耳や薬草を渡していく。

 何で悔しそうな顔をしてんだ。当たり前のことを言っただけだろうに。

 

「……あ、魔水晶がありませんね。取ってきますから少し待っていてください」

 

「あいよ」

 

 何か足りないと思ったら、手をかざして本人確認する便利な水晶が無かったのか。あれがないと依頼達成の報告が完了しないからな。

 てか、それくらい用意してから来いや。

 もはや俺の中で、カークへの非難が止むことはない……!

 

「おい! お前がトウヤだな!」

 

「んあ?」

 

 自分の専属であるカークに対して不平不満を脳内で述べていると、後ろから声をかけられた。声変わりしたてのような、渋味のない若い声だ。

 しかも決して友好的な感じではない。明らかに喧嘩を売りに来ている。

 

 これは来てしまったか。お約束と言うやつが。古来より異世界に召喚された者にはテンプレとも呼べる仕来たりがある。

 そう、それは……『冒険者ギルドで絡まれる』というイベントだ!

 

 ……あぁ、うん。テンション高く語ってみたけど、実際に自分が絡まれると面倒なんだな。ただでさえ悪目立ちする見た目なんだし、穏便にことを済ませられないだろうか。

 

 取り敢えず、相手を見ないことには始まらないので、声のした方向に向き直る。

 ……と、俺の顔面に向かって何かが飛来してきた。

 

「っと、危ないな。……何だこれ、籠手か?」

 

 口とは裏腹に危なげなくキャッチした物を見ると、肘まで覆えるような籠手だった。

 血とは違う鮮やかに赤に装飾された籠手の手首には、三本のリボンのような紐が結ばれている。……ほんと何これ?

 

「おい! 受けるのか受けないのか答えろ!」

 

 随分と派手な籠手を投げつけてきたであろう人物を見ると、こちらを睨み付ける少年と目があった。年の頃は中学生くらいか。赤みがかった茶髪を立てた活発そうな少年だ。

 受けるのか? 受けないのか? 何のことですか? というか、君は誰なんだい? そんな言葉を返したいが、何やら聞ける雰囲気ではなさそうだ。

 

 疑問符で頭が一杯になりながらも、あの少年が籠手投擲の犯人に間違いなさそうなので、籠手を投げ返してやる。

 それを少年が受け取ると、何だが周囲がざわめき始めた。

 そして受け取った籠手を自らの腕に嵌めた少年は、俺に向かって笑いかける。うわぁ、活発そうな見た目とは違って笑顔は悪人のそれだな。

 

「ふんっ! いい度胸だな。明日、火の刻、ギルド前でだ。遅れるなよ!」

 

 

 

 

 

 何のことですか!?

 

 

 

 

 

「いやー、なかなか見つからなくて参りましたよ。ささ、トーヤさん。さっさと受け付け済ましちゃいましょ。僕、今日は早めに上がれる日なんですから」

 

「あー、なぁ」

 

「何ですか? 相談なら聞きますけど……短めでお願いしますね?」

 

「見知らぬ少年に籠手を投げられ、それを投げ返したら、『明日、火の刻、ギルド前』と言われたんだが。何のことだ?」

 

「ふぁっ!?」

 

 水晶玉片手に戻ってきたカークに、先程の珍事件を説明すると奇抜な声を上げられた。ついでに言うと、周りの冒険者達も同じような声を大なり小なりあげている。

 

「装備品を投げて、それを相手が投げ返したら、それは決闘の合図ですよ!? 何で眼を離した隙に決闘申し込まれてるんですか!?」

 

「いや、相手から売ってきたんだし」

 

「そもそも何で受けちゃうんですかぁ!!」

 

「そりゃあ……」

 

「何ですか!」

 

「知らなかったし」

 

 たははー、と軽く笑いかけてみれば、カークは無表情になり天井を仰いだ。口から「そう言えばこの人常識知らずだった……!」と漏れているのは見逃してやろう。

 

「そ、そうですよ! トーヤさんは常識に疎い人! 決闘の合図を知らなかったと言って、相手に取り止めてもらえば……」

 

「そんなんで相手が納得するかぁ?」

 

「……しませんかね?」

 

「しないだろ」

 

「ですよねぇ……」

 

 それにしても装備品を投げて決闘を申し込むのか……。昔のヨーロッパは決闘を申し込む際に手袋を投げたと言うが、それと似たようなものだろうか。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。