決闘を申し込んできたのは誰なのか、
相手は何人なのか、
一体何が目的なのか……等々、知りたいことは沢山ある。
まぁ、そんなことを巻き込まれただけの俺が知るはずもなく、周囲にいた冒険者が教えてくれた。
まず、決闘を申し込んできたのは、先日E級冒険者になったコラッドという少年らしい。
何でも戦闘能力が高く、期待の新人とのこと。
そして重要なのが、
次に、相手は何人か……ということを今話している。
「え? 決闘って言うんだし、一対一じゃないのか?」
「違います。投げられた装備品の数によって変わってくるんですよ」
場所は仔犬の尻尾亭。何時までもギルドで作戦会議をしているわけにもいかず、場所を移したのだ。
メンバーは俺、カーク、そして──
「へぇー、決闘をするのにも決まり事があるんですね」
「はい。何事も決まりがあるのです」
仔犬の尻尾亭の看板娘ユーちゃんと、ギルドで声をかけてきた謎の少女である。
「それなら一対一だな。俺が投げられた装備品は籠手だけだ」
「いえ、違いますよ」
この少女、俺とカークがギルドで決闘を申し込んできたのは誰なのかと話している時に、後ろから話に割り込んできたのだ。
そして場所を移すことを提案してきたのも、この少女。
胡散臭いものを感じつつも、善意だと思って受け取ることにした。その心は、彼女の服装によるものが大きい。
いきなり声をかけてきた謎の少女は、神官の格好をしていたのだ。神に支える聖職者が不埒な考えは働くまい。……多分。
「あの籠手には、何かが巻き付けてはありませんでしたか?」
「そう言えば……手首にリボンのような紐が結ばれてたな。それがどうかしたのか?」
「……やはり。でしたら、相手は四人ということになりますね」
その言葉に俺とユーちゃんは首を傾げ、カークは再度天井を仰いだ。
カークに遅れて俺も結論に達した。
「まさか、紐でも装備品に含まれるってのか!?」
「ええ、残念ですが」
「多数対多数だと、投げる装備品が多くなりますからね。一つにまとめることもあります」
驚きを隠せないでいると、カークが補足の説明を入れてくれる。いや、それにしてもなぁ……紐だぞ? 紐って装備品かぁ?
「えっ……そしたらソウヤさん、四対一ってことですか!? あ、危ないですよ! 棄権しましょ!」
「ユーちゃん……」
「ぼ、僕も賛成です! E級対F級ってだけで勝ち目ないのに、加えて四対一だなんて、いくら決闘とは言っても危険です!」
「カーク……」
んー、心配してくれるのは嬉しいけどなぁ。
「……私としても、棄権するのが最良の判断だと思います。ここで無理をしても今後のためにはなりません」
あ、うん。ごめんな、名前知らないから呼べないわ。
「心配してくれるのは嬉しい。けどまぁ、大丈夫だろ」
「だ、大丈夫だろって……。トーヤさん、本気ですか?」
「本気も本気よ。相手の実力が分からないから確信はできないが、何とかなりそうだぞ?」
F級とE級にどれほどの実力差があるのか知らないが、こと対人戦闘なら負けはしないだろう。
ギルドで決闘をふっかけてきた少年を含め四人との戦闘になるが、多対一なら慣れたものだ。
「そう……ですか。分かりました。明日、火の刻に、ギルドの前で。私の方で何とかできそうならしておきます」
「ん? おお、またな?」
なおも不満そうなユーちゃんとカークに笑いかけていると、神官姿の少女が席を立った。
何とかできそうならって、何ができるんだか。関係ない奴を巻き込むつもりはないぞ?
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「……関係ない奴だと思ってたんだがなぁ」
「別に無関係を装ってはいませんでしたよね?」
次の日、火の刻にギルド前に来るとコラッド少年と昨夜の神官少女がいた。
そうそう。火の刻ってのは、昼過ぎに太陽が一番高く昇る時間を指すらしい。つまり二時頃だ。
「おい、セレス。あの夜半野郎と顔見知りだったのか?」
「ええ、昨夜少し。……私は、貴方がその名で呼ぶことを許容してませんよ」
どうやら神官少女はセレスと言うみたいだ。もっとも、コラッド少年はその名で呼ぶことを許されていないようだが。
昨日投げられた籠手はコラッド少年が腕に嵌めてる。巻き付けてあった紐の内一つは神官少女が付けてるから分かるとして、あとの二つの紐は誰の物だ?
「どうやら、二人も来たようですね」
何てことを考えていると、ギルドの中から二人の少女が出てきた。コラッド少年が着けているような肘まで覆える籠手を両腕に着けた少女と、如何にも魔法使いといった格好をした小柄な少女。二人の髪は昨日見た紐によって縛られていた。
その二人が神官少女の横に並ぶと、奥からサラさんも出てくる。
何やら人が増えたんだが……これから始まるのは決闘ですよね?
ギルド前は昨日の騒ぎを聞き付けた冒険者で埋まり、更に道を通る人々まで何事かと足を止めている。
こんな天下の往来で決闘を行うのか。手の内を曝す上に、悪目立ちも甚だしい。
「E級冒険者コラッドは夜半であるF級冒険者、トウヤに決闘を申し込む! 俺が勝ったら、トウヤにはこの街を出ていってもらう!」
コラッド少年がそういきり立つと、周囲はざわめきと歓声に包まれた。
うーん、驚き二割呆れ三割盛り上がり五割ってとこだな。
「なっ!? そんなこと……!!」
「ギルドは冒険者同士のいさかいには口を挟まないんだろ!」
サラさんが突きつけられた条件に異論を唱えようとするが、コラッド少年の正論によって黙らせられてしまった。
まぁ、コラッド少年は正しいことを言ったさ。周りの冒険者の方々が殺気だったことを除けば賢い発言だったな。
「……では、貴方が勝った際には、どのような条件を付けますか」
コラッド少年のご冥福をお祈りしていると、彼の後ろに立つ神官少女から声をかけられた。
昨日の時点で勝ったら言うとこを聞かせられるとカークから聞いてはいたが、まさか追放を言い渡されるとは思ってなかった。精々、今後
勝者が敗者に言い渡す条件は、互いに同価値でなくてはならない。
これは正々堂々とした勝負事で勝敗を決める以上、公平でなくてはならないからだそうだ。
この決め事に乗っ取って条件を決めるならば、コラッド少年の追放を提案するのが一番だ。しかし、F級で夜半である俺と、E級で期待を寄せられている彼では、追放した際の周囲へのダメージが違う。
では他の案を、と思っても、俺を追放した際の被害がショボすぎて、同じ価値になるものは少ないだろう。何より俺の気が収まらないってものあるしな。
そうやって頭を悩ませていると、人垣の後ろを一台の馬車が通り過ぎて行った。
一見すると普通の馬車だが、幌の隙間から此方を覗く者と目があった。……あれは奴隷商の馬車か?
キャラバンと呼ばれる大型の幌馬車が遠くに消えていく。奴隷商の馬車かどうかを、行き先が南側というだけで決めつけるのは、いささか早計か。
突然の視線に少しドキリとしたが、お陰で良いアイデアが浮かんだ。
「俺が勝ったら、お前には奴隷になってもらおうか」
俺が条件を言うと、コラッド少年の時とは打って変わって、周囲は静かになった。
サラさんも、件の少年も驚いて目を見開いている。
この条件は飲んでもらうためのものではない。コラッド少年がごねれば、それはそれで良いからだ。
勝利した時の条件を両者が飲めないなら、勝負事態が白紙に戻る。俺がコラッド少年の条件を蹴るのは、色々と文句がありそうだが、逆なら文句も挙がらないだろう。
「い、良いぜ。俺は負けないからな!」
マジですか。
コラッド少年は頬の肉をピクピクと痙攣させながらも俺の条件を飲んだ。かなり怒ってるな。
「で、では、両者の同意を得られたので、これより決闘を……」
「待ってください!」
サラさんが少し焦った様子で進行を開始すると、そこに制止をかける声があがる。コラッド少年の後ろに立っている神官少女だ。
「はい、ベルさん。何でしょうか?」
サラさんにしては少しわざとらしく落ち着きはらって、ベルと呼んだ神官少女に向き直る。
神官少女と、その彼女に並ぶようにして立つ二人の少女は、胸に手を当てて周囲に宣言するように声を張り上げた。
「私、セレスティーナ・ベルは」
「アンナ・フルーレは」
「レイ・ナキアは」
「「「『隻腕の赤竜』を脱退します!!」」」
今度こそ、周囲の音が止んだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「は、は…………はぁああ!? ふ、ふざけんなよ! 決闘前にい、いきなり何言って!? む、無効だろ!! そんなの……」
「分かりました。我がタルクスギルドは、セレスティーナ・ベルさん、アンナ・フルーレさん、レイ・ナキアさんの脱退を許可します」
神官少女他二名が脱退を宣言してから直ぐ、サラさんがその脱退を受け入れた。
「ふざっけんな!!」
コラッド少年は当然怒りを顕にするが、俺としては三人娘のやり方に感心していた。
先ほどサラさんは『我がタルクスギルドは』って言った。それはつまり、サラさんが許可しただけでなく、ギルドマスターであるバルドさんも許可を出したということだ。
しかし、この場にバルドさんはいない。それはつまり、事前に許可を取っていたことに他ならない。
つまるところ、コラッド少年に打てる手はもうないということだ。
「これから決闘なんだぞ!? ……そ、そうだ! 決闘を申し込む時にお前らの所持品も一緒に投げたんだよ! だから……」
「勝手に私達の装備品を持ち出し、勝手に決闘の申し込みに使ったんですよね?」
「い、いや、それは……」
あー、やっぱりか。神官少女の態度と、昨日の口振りから察するに、今回の決闘騒ぎはコラッド少年の独断らしい。
「そもそも、私達は昇格試験の時に一時的にパーティーを組んだだけであって、翌日貴方が勝手にパーティー申請をしたんですよね?」
「ぐ、ぐぅ……」
「解散を申し出ても『あと一回依頼をこなしたら』と言ってはぐらかして。今回の件で見切りをつけました。私達三人は貴方のパーティーを脱退します。これからはお独りでパーティーを組めば良いのでは?」
神官少女とコラッド少年の会話が進む内に、周囲の冒険者は何とも言えない顔をしていく。
特に女性冒険者は「うわぁ……」と言った顔をしている。つまりはドン引いている。そりゃあね、俺でも引くわ。
「では、F級冒険者トウヤとE級冒険者コラッドの決闘を開始します」
「ま、待てよっ!」
「始めてください」
コラッド少年の制止の声を無視して、サラさんは周囲に声をかける。
声が向けられた方向を向くと、サラさんやカークと同じ制服に身を包んだ方々が四角い箱のような物を持って立っていた。
……てかあれ、
ギルド職員は俺とコラッド少年を、遠巻きに囲むようにして八人立っている。線で結べば
ギルド職員の方々がルービックキューブを捻り、地面に置くと、それらを結ぶようにして薄い膜が広がっていく。
薄緑色の膜は、俺達二人と周囲を別れさせた。上を見上げても、ドームのように半球状になっており、脱出は不可能みたいだ。
「く、くそっ! 『結界』まで使うのかよ!」
『結界』? これが?
物は試しと思い、薄緑色の膜に触れてみると、暑くもなく冷たくもなく、それでいて硬い壁のような物だった。
うーん、この中で決闘しろってことか。
周囲に目を向ける。
此方を心配そうに見つめるサラさん。
観察するような目で見ている三人娘。
それから、冒険者に混じってカークとユーちゃんの姿も見えた。二人とも両手を合わせて祈るような姿勢だ。
前に目を向ける。
コラッド少年がグレートソードと呼ばれる、大振りの剣を背中から抜くところだった。俺の腰に指してある剣よりは大きいが、レオンさんの物と比べると些か小さい。
そして浮かべる表情は……怒りだ。
何に対して怒っているのかは知らない。サラさん達ギルド職員に対してか、神官少女含む三人娘に対してか、決闘相手である俺に対してか。
一番濃厚な線は全てに対して……だろうな。
「まぁ、どうでもいいか」
コラッド少年が何に対して怒っているのかなんて、俺にとっては関係ない。
「面倒なことはさっさと片付けるに限る」
火の刻、タルクスギルド前。赤と黒、二人の決闘が始まった。