「申し遅れました。私の名前はノフィリア=ルクシアン。王位継承権第五位、ルクシアン王国の第二王女です」
「俺の名はナルバス=ルクシアン。ルクシアン王国王位継承権第一位。この国の第一王子だ」
夕食の席でのこと。俺達を出迎えてくれたお姫様と、王様に俺の名前を言い忘れていることを進言してくれた王子様に自己紹介をされた。
先ほどの会食と違い、現在は俺達勇者候補四人とお姫様、王子様、そして食事を運んでくるメイドさん達しかこの場にいない。
どうやら、年の近い者同士で話し合いをさせたいらしい。お姫様は俺達で言うところの高校生くらいだし、王子様は二十代前半といった所だろう。
「お兄様は騎士団団長も勤めてらっしゃるんですよ。いつも国民のことを想っていらして、素晴らしい方なのです」
第二王女、ノフィリアがとびきりの笑顔で兄を褒める。その笑顔に邪気は感じられない。それは俺達を騙すためのものではなく、本心からそう思っているからだろう。
「この国の騎士団団長は第一王子が勤めるっていう決まりがあるだけだ。実力で言えば、俺よりも上はいくらでもいる」
しかし妹から褒められた第一王子、ナルバスは謙遜する。そして、それも本心からだというのが、ありありと見える。仏頂面なだけかもしれないが。
「ふむ、二人は仲が良いのだな。王族と言えば、王位継承権をめぐって命を獲り合うものだと思ってたんだが」
隣に座ったマーリンこと
お前、それ二人に聞かれたら切腹もんだぞ。
「お二人とも仲が良いんですね。僕も妹がいるんですが、最近は冷たくて」
悠久とは逆方向に座っている
だが──
「……すみません。勇者様方には、いくらお詫び申し上げても……」
──ノフィリアは暗い表情を浮かべた。
「え? ……あっ! ……い、いえ、こちらこそごめんなさい」
詩織も自分の失言に気付いたらしい。
そう、詩織はもう二度と妹に会えないかもしれないのだ。
そして、その原因を作ったのはこの国。目の前の二人も深く関わっていることだ。
「………………」
先ほどまで楽しげに食事を取っていたのに、何だかお通夜のような空気になってしまった。
ノフィリアは泣き出しそうだし、なぜか詩織も今にも泣き出しそうだ。
「……私は、帰れなくても構わないの」
どうにか空気を払拭しようと考えていると、食事を食い散らかしていた
今の彼女の発言は本気のものだ。王族の二人が自己紹介してる時でも止めなかった食事を止めるほどのことなんだろう。
「私もだ! 元より、大魔導士たる私には帰るべき場所など存在しないがな!」
隣の悠久が勢い良く立ち上がった。
その際に卓上のスープが跳ね、俺にかかりそうになるが、彼女に気にする素振りはない。おいこら。
「ぼ、僕も大丈夫です! 最終的には帰りたいけど……それは、この世界を救ってからじゃないと嫌だ!」
反対側の詩織も立ち上がる。
気弱な彼も、時には強い意思を見せることが、この数時間で分かっている。
「俺も、別に一生帰れなくても困らないぞ」
三人に続くように俺も手を上げる。
むしろ帰さないでほしいくらいだ。今帰されると警察に追われることになるだろうし、姿を消したことで裏切り者認定されている可能性もある。そうなると、帰ったところで殺されてしまう。
「皆様っ……! 本当にありがとうございます」
礼を言われてもな。俺は自分の理由で帰りたくないだけだし、まだこの世界を救う覚悟を決めたわけでもない。
気不味い思いでノフィリアから目を逸らすと、ナルバスと目があった。
「一先ず今日は休むと良い。明日は城下町の案内をしよう。それから、勇者殿達の実力も見たいところだな」
「お兄様! 勇者様方には今
「いや、良いんじゃないか? 俺達も色々知りたいんだ。 この世界のことも、自分自身のこともな」
俺がナルバスに賛成すると、他の三人も乗ってくれた。特に悠久が食いぎみで、初の魔法イベントだな! とか意味不明なことをぬかしていた。
「私が勇者様方をご案内致します!」
「いや、使いの者を派遣しよう。俺達王族が城下町に降りれば、無闇に人を集めてしまう」
ナルバスはノフィリアの意見を却下した上で新しい案を上げてくれた。
ノフィリアは納得していないようだが、俺はその提案に賛成だ。この国のあるがままの姿を見ておきたい。
「では、明日。昼頃に使いの者を、城門の前に立たせておく。それまでに部屋に用意した服装を着て、城門に来てくれ。……その格好では目立つのでな」
俺達は自らの服装を見合う。制服が二人、私服が一人、黒ずくめの服が一人。そのどれもが、この世界の物でないと一目瞭然だ。
明日はお言葉に甘えて着替えた方が良さそうだな。その方が自然に溶け込めるだろうし。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
夕食の席の後。風呂に入らせてもらい、割り振られた貴賓室に戻ると、当たり前のように悠久と鍋島が部屋にいた。
「何しに来たんだ?」
「いやなに、質問があってな……」
「質問? それって僕達にかい?」
俺のベッドを占領している二人に向かい合うようにして、俺達二人は備え付けの椅子に腰かける。
「あぁ、そうだ。……二人は本能寺の変って知っているか?」
「え? うん。
「何言ってんだ? 織田信長は討ち取られたはずだぞ」
話では死体が見つかってないから、実は死んではいないのではないか? とか言われているが、間違っても謀反を防いだ話ではない。
「やはりな。どうやら私たちは別の日本から来たみたいだ」
俺と詩織が首を捻らせていると、悠久が重々しい表情で唸った。
別の日本から……? それと俺らの認識違いがどう関係するんだ?
「私が習った通りだと、織田信長は
「……こっちだと、謀反を起こされたのは明智光秀。起こしたのが織田信長なの」
「なるほどな、歴史が違うのか。だから来た世界そのものが違うのだと」
俺と詩織の二人だけなら、どちらかの覚え間違いもあり得る。だが、四人となると歴史そのものが違うと考えた方が良いだろう。
「そうだ。それに、私のいた日本だと黒髪なんていなかったしな。男は青髪、女は赤髪だ」
「……私はみんな青髪だった。若いほど淡い色で、年をとると髪色が濃くなっていくの」
「僕のところだと、この髪色が普通かな。……怖い人とかは黒髪にしていたけど」
三人とも髪を染めてるんだと思っていたが、彼らのいた世界ではスタンダードだったわけだ。
なんか黒髪が異常ってのは、理解できても変な感じだな。生きてく上で身に付けた常識が、非常識であると言われたからだろうか。
「俺のいた日本では黒髪が普通だったぞ。染めるやつは赤も青も金もいた」
一回同業者で虹色にしている奴もいたくらいだ。その髪色のせいで目立ってしまって仕事がしづらくなったから良く覚えている。
ついでに、そいつの髪はバリカンで剃ってやった。あの時の爽快感は今でも覚えている。
「そこで、だ。……情報交換をしないか?」
「「情報交換?」」
俺と詩織の声がハモる。詩織が「ハモっちゃったね」と笑いかけてくるが、どうでも良い。頬を染めるな。
「世界が違うんだ、異世界に対する知識も違って当然だと思わないか? この機会に私達が異世界に対してどんな知識を持っているか語り合いたいんだ!」
とても良いことを言ってはいるが、悠久は異世界に関して語りたいだけだろうな。異世界に対する知識があまり相違ないのは、昼に詩織に語ってくれた内容で分かっているはずだし。
しかし、ここで断ると面倒そうだ。明日は昼からとは言っても時間を無駄にしたくはない。ここは早めに話を終えて寝ておくべきだろう。
「分かった、語り合おうぜ」
「ふふん! そう来なくてはな! 貴様ら、今日は寝かさんぞ!」
嫌です、寝かしてください。
それから、いい年した女の子が思春期真っ盛りの男に向かってそんなこと言うんじゃありません。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「今日の城下町の案内を勤めます、キューベ・ランカスタと申します。……勇者様? ずいぶんと眠そうですが、大丈夫ですか?」
「悪い、昨日あまり寝てないんだ」
結局あの後、異世界話は朝まで続いた。朝飯を知らせに来てくれたメイドさんが来るまでずっと話し込んでしまったのだ。
鍋島と詩織は途中で寝入ったが、俺と真理は熱が入ってしまって、夢中になって話をしていた。
仕事の傍ら、異世界ものの小説を読んでいたからな。話す内容が多かったのだ。
「そうですか……。では、要所だけ押さえることにしましょう。本日はよろしくお願いします」
そう言ってインテリ眼鏡をかけた大臣は頭を下げた。服装は昨日と違って質素なものだ。
「こちらこそよろしく頼む。……案内役があんたで良かったよ」
現在、俺達勇者候補四人は別行動をしている。その案内役を決める際に少し一悶着あったのだが、俺には良い人がついたと思っている。
「その言葉の意味は図りかねますが、お褒めの言葉をありがとうございます」
分かっている癖に、とは言わないでおこう。この人にも立場があるんだし。
「それではご案内致します。まずは武器屋を見て回りましょうか。そこで勇者様に合う武器を見繕ってもらいましょう」
スタスタと歩き始めるインテリ眼鏡大臣改め、キューベの後を追う。
「資金の心配はご無用です。第一王子であらせられるナルバス様から、勇者様方には最高の武器を、と仰せ使かっておりますので」
「真理と詩織は兎も角、俺と鍋島はまだ戦うと決めたわけじゃないぞ?」
「それでも、最低限身を守れる力を身に付けた方が良いかと。この国には勇者の力を利用しようとする
「ほうほう、良いことを聞いたな」
「おや? 何かお聞きになりましたか? 私は何も申してませんよ?」
あくまでオフレコってことか。昨日の会食の件もあるし、キューベは少し信用してもいいかもしれないな。
「ほんと、案内役があんたで良かった」
「はて、何のことでしょう?」
惚けるキューベと肩を並べて歩くこと数分、目的地である武器屋についた。そこで気が付いたのだが──
「何て書いてあるんだ?」
──文字が読めないのだ。
「勇者様は文字が読めないので?」
「あぁ、俺のいた世界とは言語が違うらしいな。大方、会話はできるが、文字の読み書きはできないんだろう」
「では、簡単な速見表を作成した方が良いですね。何をするにしても読み書きできないとなると大変です」
買い物するだけでも値段を見れないのは死活問題だ。騙されて都合の悪い契約書にサインさせられる危険性も減らせる。
「帰ったら手伝うよ。多分、三人も協力してくれるだろう」
「それはありがたい申し出ですね。城の者に伝えておきます」
キューベがそう言うと、後ろの人垣の中から一人の男が城の方向に向かって行った。
どうやら、キューベ以外にも護衛役がいるらしい。
「さて、武器を見繕ってもらいましょうか」
キューベに促されるようにして店内に入る。
店内の壁には様々な武器が立て掛けられていた。そして、その中にはありがたいことに俺の得意武器のナイフもある。
「これ、手に取ってみても良いか?」
「どうぞ。この店の主には許可を取ってあります。試し切りをする際は、店裏の木をお使いください。そこの扉から行けますので、外には出ないようお気をつけて」
いつの間に許可を取ったのだろうか。しかも試し切りも良いとは、ありがたいな。
「じゃ、試し切りしてくるよ。着いてくるか?」
「遠慮しておきます。……あまり、手の内を晒すものではありませんよ」
「嘘を見せ付けておくのも一つの手だろ?」
「付け焼き刃に騙されるとでも?」
「騙す手なら磨いておくに決まってるとは思わないか?」
店内の温度が数度下がったような錯覚に
今、俺はこの国を信用できませんよ。と言ってるのと同じだ。それはキューベも分かっているのだろう。
「……どの道、遠慮しておきましょう。私も武器を新調した方が良い気がしましてね」
「それはそれは、申し訳ないことをした」
また数秒視線を会わせると、今度はあっさりと逸らして試し切りに向かう。
どうやら彼とは良い関係になれそうだ。
「……黒、か。貴方にはこれから先、沢山の苦悩があることでしょうね」
──その呟きは誰にも聞かれることはなかった。
『
年齢:17歳
身長:168㎝
種族:人族
好きなモノ:スポーツ全般、読書
嫌いなモノ:なし
職業:高校生
得意武器:なし
特技:友達作り
加護:???
召喚された勇者の一人。基本的に良い人。
家が近所の幼馴染み、血の繋がってない妹がおり、他にも彼の側には美少女が多くいる。
どの娘からも好意を向けられているのだが、本人は気付いていない。難聴系。
実は女子からだけでなく、一部の男子からも好意を向けられている。そのことには気付いており、日々頭を悩ませていた。
学校の男子から影で『ギャルゲーの主人公』と呼ばれている。無自覚にハーレムを作る天才。