「次は防具を見に行きましょうか。希望の装備品はございますか?」
「なるべくなら軽装が良いかな。動きやすければ動きやすいほど良いし」
「かしこまりました。軽装となりますと、こちらですね」
武器屋でナイフを三種類、計十五本買った後は、防具を見繕ってもらうことになった。
買ったナイフは、後日、城の人が受け取りに来てくれるらしい。そのくらいなら持っていくと進言したのだが「どうやって?」と聞かれてしまったので言葉に甘えることにした。
今着ている服は隙間に余裕のある物なので、ナイフ十五本くらいなら隠せるが、手の内を晒すことになるので黙っておく。
「ここは主に斥候職などの軽装備を好む方が通うお店です。勇者様が気に入る装備品もあるでしょう」
店内に入ってみると、小手や足具といった各所各所の部位を守る物ばかりだった。
これなら付けておいても、動きの邪魔にはならないかな。あとは色を統一して、上から同色のローブとか被れば十分だろ。
「この小手と足具、それと、あっちの胸当てと腰具をくれ。それから、フード付きのローブもあるなら買おう。全部、色は黒で頼む」
「勇者様の買い物はお早いですね。もう少し熟考なさっては?」
「必要な物が分かってるんだ。悩む時間は少ない方が良いさ」
武器屋でナイフを買った時も、最初に手に取った物をそのまま買うことにした。合う合わないは大体分かるので、いちいち持って確かめるまでもない。
本格的に戦闘するなら、もう少しまともな物を揃えるつもりだし。
防具屋では簡単な試着だけして決める。決め手は軽さと武器の収容可能数。ナイフを付けられるかが決め手となった。
買った品物はナイフ同様、後程城の人が受け取りに来てくれるらしい。なんか悪いな。
「他に必要な物はございますか?」
キューベの言葉に数秒悩むふりをしてから、答える。
彼なら俺の望むものをくれるはずだ。
「情報」
「……では、あちらの喫茶店に入りましょうか」
やはり、彼とは良い関係を築いていけそうだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「さて、何をお聞きになりたいのですか?」
喫茶店の窓際の席を確保した俺達は、コーヒーらしき飲み物を頼んでから本題に入った。
俺はメニューが読めなかったのでキューベに頼んだのだが……まともな飲み物がくるか、少し不安になっている。
そして──
来たのは普通のコーヒーだったので安心した。味も前の世界のコーヒーと変わらない。城で出る料理も変なものはなかったし、前の世界とこちらの世界の物はあまり変わらないのかもしれない。
「まず始めに聞きたいのは、七つ星の魔王についてだ。どの魔王が人に仇なす存在なのか、とか、聞きたいことは沢山ある。知っていることを全て話してくれ」
「かしこまりました。私の知っていることを全てお話しします。……くれぐれも、王には言わないようお願いしますよ」
「あぁ、分かってる。……っと! 悪い、気にするな」
前のめりになったときにコーヒーカップを落としてしまった。店員を呼んで替えのコーヒーを注文した。
こちらを見ているキューベに「良いから話せ」と促すとつらつらと語りだした。
「七つ星の魔王とは、ランクが七つ目、つまりはSランクの存在であると……」
「ストップ。ランクって何だ? 聞いた感じ、強さの基準か?」
「えぇ、その通りです。ランクは魔物、冒険者に共通して付けられる強さの基準で、一番下がFランク。順にE、D、C、B、A、一番上がSランクとなっております。Sランクはほんの一部、勇者様方や魔王、伝説と称される魔物しか位置付けされておりません」
強さによってランク付けか、それによって冒険者の受けられる依頼が決まるとかかな。ランクによって区別されることにより、強さの壁がはっきりする。
「話を続けますね。魔王はSランクの魔物、または魔族がなると言われています。魔王となった存在が表れると、教国から各国に通達がきます。……教国は後程ご説明しますね。魔王の出現理由は解りかねますが、すべからく人を脅かす存在であるとされます。ですが……」
「実際はそうではない、と?」
途端にキューベは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……はい。現状、人に仇なす魔王は三体。西の腐森に巣くう『蟲王』、東の廃国を拠点としている『屍王』、北の山岳地帯に居を構える『獣王』です」
「それで、どの魔王がこの国と敵対関係にあるんだ? 勇者くらいしか対立できないような存在に、三方向から攻め込まれている訳ではないだろう。それくらいは城下町を数分歩けば察するぞ」
「蟲王はこの国の西にある、帝国と敵対関係にあります。現状、蟲王は、帝国の強固な城壁を崩すことができずに攻めあぐねています。恐らく、今後も帝国の守りを崩すことはできないでしょう」
「ふむ、西は帝国が壁となってくれているのか。不測の事態が起こらない限りは、蟲王とやらは大丈夫だな」
「屍王はここから東に位置する教国と敵対関係にあります。屍王の配下はアンデット系統の魔物が多いので、聖なる結界が張ってある教国に侵入することは叶っていません。むしろ教国の抱える聖職者たちの格好の的となっています」
「アンデット系統って言うとゾンビや幽霊だろ? それなら相手取る教国としては相性が良いな。東も大丈夫、と。それなら北の獣王が……?」
「獣王は現在、北の獣人族国家と敵対関係にあります。獣王は元は獣人族ですから。なにやら
「待て。だとすると……魔王とこの国関係なくないか? いや、まぁ、直接的にないだけで、戦争の余波があるのかもしれないが……」
「いえ。現在、ルクシアン国は至って平和です。どの魔王からも攻め込まれておりません。多少他所から魔物が流れている程度で、それも冒険者ギルドの方で処理できる
驚いた。この国、魔王と敵対関係にない。
「……あー。……勇者を召喚した理由は、他の国に勇者を派遣して恩を売りたいとか、そんな理由か?」
「……お恥ずかしながら、その通りです。王女様は純粋に他の国々を救うためと信じておいでですが、王の頭にあるのは、魔王を倒した後にある恩情の請求でしょう」
あの王様は信用できないと思っていたが、本当に信用できないやつだった。勇者を利用する気満々じゃないか。
「ですが、勇者様方に世界を救って頂きたいのは、本当のことです。人々を恐怖させる魔王の存在が疎ましいのは、私も同じですから」
王様の思惑がどうであろうと、人々の願いと一致しているから良いじゃない! ってことか? 利用される身としては複雑な気持ちなんだが。
「七つ星の魔王については、これくらいで良いか。じゃあ次は……」
「おい! ふざけんなよてめぇ!」
「あぁ!? なんだ、やんのかてめぇ!」
目の前をコーヒーカップが飛んでいった。宙をまうコーヒーカップは窓ガラスに叩き付けられると、割れることなく下に落ちていく。
しかし中身は無事というわけにもいかず、窓ガラスを黒く濡らした。
このコーヒー、俺が頼んだやつじゃないだろうな。
「次は他の国について頼む。教国とか帝国とか言ってたよな。特に獣人族国家を詳しく」
「……あちらのお客様はよろしいので?」
「あんな茶番に付き合ってられるか。それよりも他の国の話をしろ」
殴りあいを始めた男二人には殺る気が感じられない。酔ってるようにも見えない。もし本気だとしても、あのくらいなら軽い喧嘩で済むだろ。
「お、お客様、店内で喧嘩は困ります……」
「うるせぇぞ!」
「きゃっ!」
男の振りかぶられた拳に合わせるようにして、店員のお姉さんが床に倒れる。
端から見ると殴られたように見える。
「……店員が殴られたようですが」
「殴られたふりだろ? 拳が当たる瞬間に衝撃を逃がしてる。……あの店員やるなぁ、あれなら暴漢二人を倒せるんじゃないか?」
男達はついに取っ組み合いを始めた。互いに引くことなく暴れている。
机を蹴飛ばしても、足にダメージを受けてる様子がない。二人とも足腰はしっかりしているようだ。
「他のお客様にも迷惑がかかっているようですね。ここは止めに入られては如何ですか?」
「え? 嫌だよ? 他のお客さんも怪我してないみたいだし。まるで打ち合わせでもしてあるかのようだよな?」
「……はぁ。皆さん、撤収です。この勇者様にはお見通しのようだ」
キューベが手を叩くと、暴漢二人と店員のお姉さんだけでなく、店内の人全員が立ち上がって片付けを始めた。
「いつから解っていたので?」
「この店に入ってからだよ。明らかに不自然だったからな。カマをかけてみたんだが、全員見事に引っ掛かった」
店内に人が入れば、少しは反応する人がいる。だが、この店内には反応を示す人が一人もいなかったのだ。それくらいなら不自然に思わなかったのだが、隣を通っても反応なしは変だろう。
……町中では不自然なほど、ジロジロ見られていたのに。
その後も、俺がコーヒーカップを落としてても反応する人はいなかった。そこから暴れだす暴漢が出ても、真に受けるはずがない。
暴漢は本気で相手を倒す気概が感じられないし、店員のお姉さんも店内の客も身のこなしが良すぎる。これを茶番と言わずして何と言おうか。
「大方、勇者が勇者らしい心を持っているかを試したんだろ? こんな見え見えの茶番に引っ掛かるやつが……」
「いるわけないだろ」と言おうとした瞬間、店の外から轟音が響いた。
コーヒー滴るガラスの窓から外を伺うと……
炎の竜巻が上がり、光の柱が天に向かって伸び、町の一角が地面ごと持ち上がっていた。
「引っ掛かる勇者様がいらっしゃって、良かったです」
横を向くと、良い笑顔を浮かべたキューベが立っている。多分、後ろを向いたらみんなが同じ表情をしていることだろう。
……散々、茶番と言ったのを根に持ってるのか?
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
城下町案内が終わった後、夕食の席で今日の
「今日は初の魔法発動イベントだったんだ! 見たか!? 私の『サラマンダー・ブレス』を!」
「……あぁ、凄かったな」
町中で炎の竜巻を上げた大魔導士様はご満悦だった。
何やら町で暴漢に襲われそうになっている少女を助けたらしい。頭の中に魔法が浮かび、それを唱えたら炎の竜巻を起こせたのだとか。
「なんか、この剣引っ付いて離れないんだけど……どうしよう?」
「寝る時までに離れると良いな」
光の柱を立ち上げた詩織は、右手に神々しい剣を引っ付けたまま、困った表情を浮かべている。
町で少女が暴漢に絡まれているのを助けた際に、剣が飛んできて光の柱が立ったらしい。どんな原理なのかは本人も解っていないみたいだ。
「……元に戻せって怒られた」
「当たり前だと思う」
町の一角を地面ごと持ち上げるという、とんでもないことをやらかした鍋島はぶーたれている。
貧民街の子が貴族に殴られているのを見て怒った結果らしい。地面を踏み抜いたら前方の地面が持ち上がったとか。……どんな力してんだ?
三人に今日のネタ張らしをしてやりたいが、その時にこいつらがどんな反応をするか怖いので黙っておくとこにする。
特に鍋島が怖い。時点で真理。詩織は笑って許しそうだ。
「勇者様は皆様お優しいのですね! 私、感服致しました!」
何も知らないお姫様が感激している横で、今日のことを知っていたであろう王子様が仏頂面で立っている。
もしかすると、今日のことを仕込んだのは王子であるナルバスかもしれない。
「して、トウヤ殿には、どのようなことがあったのだ? 俺としてはトウヤ殿の活躍が気になるところだ」
「そうですね、武器と防具を見て、それから
「ほう……お芝居か。どうやら私の部下達は見事に演じてくれたようだな」
「えぇ、とても有意義な時間を過ごさせて致しましたよ。久しぶりに面白いお芝居を見ました」
仏頂面にはニコニコ笑顔で応酬する。
どうやら今回のことはナルバスが仕込んだことだったらしい。
見破ってしまって悪かったな。これに懲りたら試すような真似は止めることだ。
「……お兄様が怖い顔をしてらっしゃる。どうしたのですか?」
「と、十夜君、どうしたの? 顔が怖いことになってるよ」
失礼な。これでも最大限の笑顔のつもりだぞ。
「……ふん。明日は『加護』を調べるために『勇者の洞窟』へ行ってもらう。今日は早く休むことだ」
「勇者の洞窟? 何だその使い古された名前の洞窟は。……ワクワクするではないか!」
真理の「使い古された」という部分に思うところがあったのか、ナルバスとノフィリアは顔をしかめたが、直ぐに気を取り直して説明してくれた。
「『勇者召喚の間』がある塔の近くにある洞窟でして。そこで勇者様方がどのような加護を持っているかが解るのです」
「質問いいか?」
「はい。いかがいたしましたか? トウヤ様」
「話の腰を折って悪いな。加護って何だ? それは勇者にしか備わっていない特別な力と考えていいか?」
俺のした質問に真理が「当然だろう!」と言ってきたが、確認は大切だ。
「はい。認識としては特別な力と考えて頂いて大丈夫です。ただ、加護はどのような者にもあると言われています。ですが、勇者様が持つ加護は他とは一線を画すと伝えられています」
「竜などの高等な存在から認められれば、加護を授かることもあるらしいが……今のお前達には関係あるまい」
加護、加護かぁ……。他の三人には超常の力が見受けられたけど、俺にもそんな力が備わっているのかね?
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
風呂から出て、自室とかした貴賓室に入ると、当然の如く二人がいた。
「今日も情報の交換をしようではないか!」
「あぁ、うん、良いんだけどさ……そこ俺のベッドなんだよな」
「「それがどうした」」
「……いえ、別に何でも」
ベッド奪還は諦めることにした。
今日の朝も、昼まで寝ようとしたのに鍋島が俺のベッドで寝ていたから寝ることができなかったし。今さら言っても仕方ない。
「今日はこっちの世界のことを話そう。城下町を案内されている間に色々見聞きして、気付いたことあるだろう?」
真理の提案に乗って今日の情報交換会は、今日の発見を話していくことにした。
収穫はそこそこ。
真理からは冒険者ギルドや魔法ギルドの話を聞けた。案内役の人いわく、俺達にもギルドを通して依頼がくるようになるらしい。
詩織からは城下町の人々から見た王族の評価。現在国にいない第二、第三王子と第一王女は
鍋島からは城下町で美味しいお店を聞くことができた。……お前はぶれないな。
『
年齢:14歳
身長:143㎝
種族:人族
好きなモノ:食事、睡眠
嫌いなモノ:空腹、うるさい人
職業:中学生 (不登校気味)
得意武器:なし
特技:大食い、早食い
加護:???
召喚された勇者の一人。小学生にしか見えない中学生の少女。童顔。
幼少期から育児放棄をされており、身長が低いのは栄養が足りなかったため。
異世界に召喚される前は、一日に二食取れれば良かった。好きな食べ物は食べられる物。
育児放棄をされていたが、虐待は受けていなかった。そのため、彼女は別に両親のことを恨んではいない。
異世界に召喚されてからは毎日お腹一杯食べられ、快適なベッドで寝れるため、幸せそうだ。だが、お風呂が苦手。