黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.005 黒いということ

 

 

 次の日、『勇者の洞窟』に向かった俺達を出迎えたのは小太りな男だった。どことなく俺が異世界に来る前に殺した男に似ている。

 今日はノフィリアはお勉強があるとかで、俺達勇者候補四人とナルバスで来ている。

 

「お待ちしておりました。マリ殿、シオリ殿、チホ殿。それから……はて? そちらの勇者殿の名前は何とおっしゃいましたかな?」

 

「……トウヤ殿だ」

 

「そうそう、そうでしたな。いやはや、『黒』の名前なんぞ覚えて……」

 

「オベロッ! ……口を(つつし)め」

 

 第一王子のナルバスに怒鳴られると、オベロと呼ばれた小太りの男は忌々しげに押し黙った。

 王様の時も俺の名前を呼ばなかったよな。それから()って何だ?髪や瞳の色のことを言っているのだろうか。

 確かに黒髪、黒目は城下町では一度も見なかった。珍しいから敬遠されてる……? 情報が足りないな。後でキューベに聞こう。

 

「……では、勇者様方はこちらに。洞窟の奥で加護を調べることができますので」

 

 ナルバスを睨んでいるのを隠しもせずに、オベロは洞窟の中に進んでいく。次期国王にあんだけデカイ態度取れるってことは、あいつも偉い立場にいるのだろうか。

 

「うちのものが無礼を働いてすまない」

 

「……気にすることない」

 

「いや、何で千穂が応えるんだよ。それは俺の台詞だろ」

 

「……言いたかっただけなの。言えたから満足」

 

「さいで……。……えーと、まぁ、俺も同意見だ。俺が気にしてないんだから、気にすんなよ」

 

「……すまない」

 

 ナルバスは頭を下げてくれているが、何のことで謝られているのか、今一実感が湧かないから気にもできない。

 

「それなら今からする質問に応えてくれ。黒って何だ? どうやらその(せい)で、俺は良くは思われてないみたいだな」

 

「……分かった。取り敢えず歩きながら話そう。他の勇者殿も聞いてくれ。これはこの国に住む者、いや、今では気にしているのは一部の貴族連中だけだが、大事なことなのだ」

 

 ナルバスの、いつもの仏頂面がさらに険しくしかめられる。それだけ大事な話なのか。ならば、用心して聞かなきゃな。

 設置された光源によって洞窟内は足元が見えるくらいには明るい。一応足元の確認をしつつ、足を奥へ進める。

 

「十二年前、この国は七つ星の魔王の一体、『悪魔王』に攻め込まれていた。この国を焼く戦争は、やつが当時の勇者達に封印されるまで続いた」

 

 思わぬところで思わぬやつの名前を聞いたので、少し表情に出てしまった。幸いにも洞窟内の光量は乏しく、細かい表情が解るほどではないので大丈夫だろう。

 

「当時、現在の領地の三分の一ほどは敵の手に落ちてしまってな。その時に殺された者も多い。それゆえに、昔のことを覚えている一部の貴族や国民は黒い髪や瞳をした者を嫌っているんだ」

 

「むう? 悪魔王とやらと、黒嫌いがどう関係するんだ?」

 

 珍しく黙って話を聞いていた真理が、横合いから話に入ってきた。彼女の赤い髪は僅かな光の中でも十分に目立つ。

 

「簡単な理由だ。……当時の悪魔王、ナハト=ガイツュヒの髪と瞳がな、黒かったのだ」

 

「……え? それだけでですか? 色が同じってだけで?」

 

「あぁ……それだけだ。それだけのことなのに、未だに黒を忌避(きひ)している者がいるのが現状だ。確かに魔族とのハーフは髪か目が黒い者が生まれてくる。……だが、子供に罪はない。ましてや、異世界から来たトウヤ殿が悪魔王と関係あるなど……!」

 

 詩織もナルバスも、真理や千穂まで神妙な顔をして黙りこくってしまった。

 

 ……思いっ切り関係あるんだよなぁ。

 

 さすがに「俺、悪魔王に送られて来ました!」はないな。戦争の傷痕も癒えてないのに、塩塗り込むような真似だ。

 でも髪と瞳は自前だし、黙ってても罪悪感は湧かないから言わないでおこう。

 

「着きましたぞ! これが勇者の洞窟の最奥にある、我がポーキン家の家宝! 『君の加護を調べちゃうぞー君』です!」

 

 話をしている間に洞窟の奥まで来てしまっていたようだ。もともと深い洞窟じゃないんだろう。

 てか、何だその名前は。誰命名だ?

 

「何だその頭悪そうな名前は」

 

「なっ!? 何ですと!? 我が家に伝わる古の魔器具を頭の悪そうな名前だと!?」

 

「……実際バカそう。~君、のころが特に」

 

「こ、このガ……! ぐぐっ……! ……いや、いい許そうではないか。私は器が広いからな」

 

 明らかに千穂をガキ呼ばわりしそうになってただろ。今もイライラしているのか、歯軋りがうるさい。

 

「『君の加護を調べちゃうぞー君』はその名の通り加護を調べてくれる物です。その効果は、なんと! 手をかざすだけでその者の持っている加護が解るのです!」

 

「「「「…………」」」」

 

 オベロ・ポーキン自慢の家宝は、コピー機(・・・・)の形をしていた。

 

 自分の目が信じられなくなった俺は、勇者三人を連れて端の方で作戦会議を開始する。

 

「なぁ、あれってさ、コピー機だよな? 俺の世界だけで使われてた物だったりする?」

 

「い、いや。僕の世界でもコピー機はあの形だったよ。機能も同じだと思う」

 

「私の世界でも、あれはコピー機だな。コピーしたい時に使う機械だ」

 

「……うん。あれはコピー機。コンビニに置いてあるのを見たことがある」

 

 第一回緊急勇者会議を終え、ポーキンの方へ向き直る。なぜかポーキンは嫌らしい笑みを浮かべていた。

 なぜにやつは笑っているんだろうか。お前解る? と詩織に視線で尋ねても首を横に振られるのみだ。

 

「どうやら勇者様方も『君の加護を調べちゃうぞー君』の凄さが解ったようですな」

 

「あ、はい。そうですねー」

 

 確かに凄い。何が凄いって、異世界風の服を着ているポーキンがコピー機の横に立つと違和感が半端じゃないのだ。

 

「使い方をお教えしましょう。この『パネル』と呼ばれる凹凸(おうとつ)のないボタンを操作すると、パネルに写される絵が変化するのです。その後に、ここ蓋を開けて手を入れるのです」

 

 手順がコピーする時のものなだけに、紙ではなく手を突っ込んでるのがシュールだ。あれだと手相をコピーされるだけじゃないのか?

 俺達四人が疑わしげな視線を向けていると、何を勘違いしたのかポーキンの笑みが一層深くなる。たぷたぷな頬が口角に押されて醜くゆがむ。

 

「勇者様と言えど初めて見る魔器具は恐いと見えますな。……どれ、このオベロが手取り足取り教えてあげましょう」

 

 そう言ってポーキンは詩織と千穂に下品な視線を向けた。下心が見え見えだな。あそこまで行くといっそのこと清々しく感じる。

 

「うわっ、キモい」

 

「……通報ものなの」

 

 詩織は素が出てるみたいだし、千穂は少しズレた回答をしながらも、拒否するように身をよじる。

 二人の言動にポーキンは少したじろいだが、未だ手取り足取りの(くだり)を実践する気のようだ。

 

「なら、僕から加護を調べてもらおうかな。ポーキンさん、いいですよね?」

 

 詩織は二人を庇うように前に進み出ると、慣れた手つきでコピー機を弄り始めた。

 ポーキンは慌てているが、あれがコピー機なら、俺達の方が上手く扱えるだろう。

 そして詩織の手がコピーされると、下から用紙が一枚出てくる。

 

「どれどれ……おお! 《聖剣の加護》ですか。過去の勇者も持っていたとされる加護ですな。さすがはシオリ様です! 勇者に相応しい加護をお持ちのようで」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 うわぁ、加護を見てから様呼びになりやがった。王共々信用できないやつだな。

 詩織の加護を記した用紙はポーキンに回収された。王に渡すらしい。

 

「フハハハハッ!! 次は私が試してやろう! あ、いや、自分でできますので……」

 

 おーい、素が出てるぞ。

 コピー機を使おうとして、ポーキンにすり寄られた真理は大きく迂回してコピーを始めた。

 用紙が出てくると、手に取ることもなくこっちに戻ってくる。手渡しをすることすら嫌みたいだ。

 

「こ、これはっ!? 《魔導の加護》!」

 

「あ、凄いんですか?」

 

「ええ! 魔の極致に至った者しか獲得しえない加護ですよ。この加護さえあれば、いくらでも魔器具が……グフフ」

 

 隣に来た真理が真顔になっているので、詩織にフォローを頼んだ。次は俺か千穂の番だしな。別に真理の真顔が怖いわけではない。

 

「……次は私? ならとっとと終わらせるの。こういうのは、手早く済ませるに限る」

 

 千穂はスタスタとコピー機に近寄って行く。しかし操作の仕方が解らないのか、コピー機を無造作に叩き始めた。

 

「な、ななな、何を……!?」

 

「あーあー、叩いても動かないぞ。やってやるから、そこに手を入れとけ」

 

「……こう?」

 

「そうそう、そのままな。……よし。んじゃ、俺もやっちゃうか。ここ押してくれ」

 

「……ラジャったの」

 

 千穂の分を手早く済ませた後、俺の分もコピーしてしまう。

 俺達二人の後ろではポーキンとナルバスが言い争いをしていた。

 

「貴様! 黒ごときが我が家の家宝に……」

 

「オベロッ! 二度言わせるな」

 

「ぐうぅ、黒めぇ……!」

 

 だから俺は異世界人だって。俺のいたところの日本じゃ、ほとんどの人が黒髪黒目だぞ? 悪魔沢山いることになっちゃうだろ。

 ……あ、案外間違ってないや。俺の周りは特に悪魔みたいなやつが多かった気がする。

 

「ほれ、千穂と俺の加護は何なんだ?」

 

「……ちっ! ……黒風情(ふぜい)が偉そうに」

 

 後半、小声で言った部分は聞こえているのだが、一々告げ口する必要もない。無視だ、無視。

 

「千穂殿、いや、千穂様の加護は《大地の加護》ですな。地形を変えるほどの力を持つ、強大な加護ですぞ」

 

 先日の城下町の一件は、この加護あってのことか。確かに地形を変えるほどの力があるみたいだな。

 

「そして黒、あぁいや、トウマ殿? そなたの加護は……クッ、ハハッ! アハッハッハ!! これは面白い!」

 

 俺の用紙を見た途端、ポーキンは狂ったように笑いだした。時折裏返る笑い声が洞窟の壁に反射して、ひどく耳障りだ。

 

 黒って一回呼んだ挙げ句に、名前間違えやがって。その上、人の加護見て笑いだすとか。

 俺の中でのポーキンへ好感度が最低値まで下がった。もともと最低値近くをウロウロしていたのだが。

 

「ナルバス様! これをご覧ください! あやつは! あの忌々しい黒は! 勇者などではありません!!」

 

「何だと? ……加護なし。間違いないのか?」

 

「我が家の家宝に嘘偽りはありません! つまり……この黒は、勇者ではない!」

 

「……一度持ち帰る。すまないがトウヤ殿、城までご足労願えるか?」

 

「あ、ああ。構わないけど……」

 

 出口に向かって歩いていってしまったナルバスの後を急いで追いかける。

 後ろでは、まだ、ポーキンが高笑いを上げている。三人は呆然としていて動けなさそうだ。

 

 後ろ髪を引かれる思いだが、前を行くナルバスは焦っているのか歩を緩める気配がない。ここは大人しく付いていった方が良いだろうな。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 王の御前。高級感溢れる椅子にどっかりと座った王様に向かい合う。

 王座は何段か高いところにあり、俺はかしずいている。目線を少し上げないと王様が見えないので、自然と顔を上げることになる。

 

「ナンバ・トウヤ。貴様は加護が無かったのだな?」

 

「はい、その通りですな。こちらが証拠となります」

 

 俺に対しての質問だというのに、王座の左側に立っているポーキンが応えた。いや、良いんだけどさ。

 王座の右側にはインテリ眼鏡大臣こと、キューベ・ランカスタが立っている。現在彼の瞳は閉じられており、何かを悩んでいる様子が伺える。

 

「……うむ、確かに確認した。では、トウヤよ、即刻城から出ていってもらえるか」

 

「お父様!」

「親父!」

 

「なんじゃ、ナルバス、ノフィリア。 こやつは勇者ではないのだ。城に置いておくのも無駄であろう? それならば旅にでも出た方がこやつの為にもなると思うのだが?」

 

「しかしお父様。トウヤ様に加護が無かったということは、私達に不手際があったということです」

 

「そうだぞ親父。トウヤ殿は俺達が召喚したんだ。それ相応の面倒を見るべきだ」

 

 退場を望む王と、面倒を見たいと言う王子と王女。何だか、拾ってきたペットを飼うか飼わないかみたいだ。その場合のペットは俺になるから、複雑な心境だがな。

 

「トウヤ様は、勇者召喚に巻き込まれたと考えるのが自然でしょう。でしたら、巻き込んでしまった責任を負うのが妥当かと」

 

「キューベ! 貴様は黙っていろ!」

 

 俺を擁護(ようご)する発言をしたキューベに、ポーキンが反発する。しかし、二人の立場は同じに見えるし、片方が黙る必要はないよな。

 

「お言葉ですが、オベロ殿。トウヤ様の髪と目の色だけを見て差別するのは如何かと。彼は異世界人です、私達の世界とは違う常識を持っているのですよ? 髪と目の色が黒い、というだけで排するのは……」

 

「だから何だと言うのだ! やつの髪と瞳が黒い! それだけで排する理由は十分だ!!」

 

 えー!?

 

 キューベの言葉は納得できる内容だったと思う。だが、ポーキンは違うみたいだな、黒嫌いは理屈ではないと。

 

「オベロ、キューベ、そこまでにしておけ」

 

 二人の口論を黙って聞いていた王様が口を開くと、キューベとポーキンは押し黙った。

 いや、ポーキンは歯ぎしりしてるな。勇者の洞窟でもしてたし、彼の癖なのかもしれない。

 

「トウヤを召喚してしまったのが、こちらの不手際だというのは解っている。だがな、戦争の古傷が癒えぬ現状で、黒を城に置いておくわけにはいかんのだ。……それが勇者ならば兎も角、ただの食客(しょっきゃく)として置いておくなど、他の貴族連中にどう説明しろと?」

 

 ナルバスとノフィリアはまだ納得していないようだが、図星なのか反論をできないでいる。

 でも俺としては追い出されても文句は言えないんだよな。俺がこの世界に来たのは自称悪魔王の首だけ悪魔のせいだし。

 

 考えてみれば、俺に加護がないのも当たり前か。俺は選ばれたのでなく、無理やり飛ばされてきたのだから。

 

「……では、一ヶ月だけ滞在頂くというのは如何でしょう。これから、勇者様方には魔法や剣術の講義をする予定でしたので、それにトウヤ様も参加していただけば良いのです。それから、しばらくは一人で生活できるだけの金銭を用立てする。……如何ですか?」

 

「一ヶ月……ふむ、それならば貴族連中にも隠し通せるだろう。トウヤよ、それで異論ないな?」

 

 一ヶ月間の内に魔法と戦い方を覚えて、これからの生活の準備をしろと。

 冒険者って職業があるのなら、戦闘さえできれば食いっぱぐれはしないだろう。後は、用立ててくれる金額によるよな。そこら辺はキューベがしっかりやってくれそうだ。

 

「異論はありません。王には寛大な処置をしていただき、有り難く存じます」

 

「うむ。では、今日は部屋に戻って休むといい。明日からの一ヶ月間、貴様にとっての最後の贅沢になるだろうからな」

 

 もう一度深く頭を下げて王室を出る。

 最後に、後ろからポーキンの憎まれ口が聞こえたが無視した。

 

 





『ノフィリア=ルクシアン』
年齢:16歳
身長:154㎝
種族:人族
好きなモノ:国民、兄弟達
嫌いなモノ:なし
職業:ルクシアン王国王女
得意武器:なし
特技:ボードゲーム全般
加護:《天馬の加護》

 ルクシアン王国の第二王女。王位継承権は第五位と低いが国民からはとても慕われている。
 趣味は月に一度、城下町にある教会へお菓子を配りに行くこと。もちろん護衛が付いていく。
 ボードゲーム全般に強く、今では敵がいなくなってしまって退屈している。実は勇者達から新しいボードゲームの知識を得られないか、日々画策中。
 《天馬の加護》はルクシアン国の王族に代々受け継がれている加護であり、その加護を使いこなせるかも王位継承順位に深く関わってくる。
 本人いわく王位継承順位はわりとどうでもよい。平和を愛するお姫様。
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