黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.006 魔法禁止令

 

 

「えー、君達に魔法を教えることになったセラド・クローブです。勇者に魔法を教えられるなんて光栄だなー。妹にも自慢できるし、ほんと鼻が高いよ」

 

 俺が城からの退出を言い渡された次の日。俺達四人は魔法の授業を受けていた。

 講師のセラドと名乗った男は、俺達に魔法を教えられるのが余程嬉しいのか、部屋に入ってきてから喋り通しだ。頭の良さげな見た目とは裏腹に、親しみ易さが(にじ)み出ている。

 

「魔法を教えるなら、本を使って詠唱を繰り返し覚えさせるのが普通なんだけど……君達は文字が読めないんだよね? だから実戦形式多めでいこうと思います。それで大丈夫かい?」

 

「異論ないぞ! 私の『ファイアー・ストーム』を見せてやろう!」

 

「それって、先日の城下町で上がった炎の竜巻のことかい!? あれは凄かった! あれほどの規模の魔法はなかなか見られないからね。家族総出で研究しちゃったよ」

 

 確か先日のは『サラマンダー・ブレス』だったよな。隣の真理を見ると、嬉しそうに頷いていた。

 あれ? 俺の記憶違い?

 

「ではでは。実際に魔法を使ってもらう前に、魔法の基礎を覚えてもらおうかな。まず始めに、魔法を発動させる為に必要なものが三つある。何だか解るかい?」

 

「魔力! 圧倒的なまでの魔力!」

 

 セラドの発問に真理が手を上げて答える。三つだって言ってるだろ。

 

「そうだね。一つは魔力で正解。でも、圧倒的にはいらないかな。魔法の発動には、ほんの少しの魔力でもいいんだ。その分、魔法の威力も弱まるけどね。さぁ、あと二つは何だと思う?」

 

「真理、前に魔法使ってたろ。発動した時はどんな感覚だった?」

 

「む? うーん、何か電気が流れるような……体の奥から溢れ出るような……?」

 

「何で疑問系なんだよ……」

 

 だが、何となくイメージは伝わった。電気、か。

 電気が流れるのに必要なものは……電圧、V(ボルト)。電流、A(アンペア)。抵抗、Ω(オーム)

 これを魔法に置き換えると、電圧は魔力。電流は魔力の流れ。抵抗は式、魔法風に言えば術式かな。

 

「言い方があってるか分からないが……魔力の流れと術式、か?」

 

「おおー、正解! 言い方だけどね、術式の方はあってるよ。魔力の流れの正しい言い方は詠唱。魔力を正しく流すためには道を教えてあげることが必要なんだ。それが詠唱」

 

 『魔力』を『詠唱』で『術式』に流し込む。そうすることで魔法が発動するってことか。

 

「……一人で納得しないでほしいの」

 

「十夜君、僕達にも説明してほしいな」

 

「あー、悪い。魔法を電気と考えれば良いんだよ。電圧を魔力、電流を詠唱、抵抗を術式ってな。……千穂はオームの法則って分かるか?」

 

「……余裕。勉強は高校レベルまで分かる」

 

「天才かよ。もしかして神童とか呼ばれてた?」

 

「……学校に行ってなかった分、本屋で勉強したの。することもなかったから、毎日読んでたら覚えただけ」

 

「お、おお。何か悪いな」

 

「……気にしなくて良い。もう関係ない世界のことなんて」

 

 少しだけ気まずい空気が流れる。やっちまった、やぶ蛇だったかな。

 ここは、千穂自身が気にしなくて良いと言ってるんだ。気にしないでおこう。

 

「い、イメージは完璧だ! さぁさぁ、実践に行こうじゃないか!」

 

「そ、そうだね! 早く魔法を使ってみたいなー!」

 

「……うん。魔法、楽しみだね」

 

 どう見たって真理と詩織は空元気だ。気を使わせちゃったみたいだな。二人にまで気を回させるとは、悪いことをした。

 昨日、城を出ていくことを了承してもらった矢先にこれだ。心配するなと言う方が無茶かもしれない。人付き合いは課題だな。

 

「仲良きことは良いことだね。ここじゃ何だから、中庭に移ろうか」

 

 セラドのズレた発言に促され、俺達は中庭に向かって歩き出した。その間に、三人にそれとなく謝ることとする。

 俺は一人になっても大丈夫だぞー。もともと単独行動してばっかりの人生なんだし。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「我が召喚するは敵を滅ぼす地獄の炎! 愚かなる罪人よ、火竜の息吹に抱かれて眠れ!! 【サラマンダー・ブレス】ッッ!!!」

 

 城の中庭に着くなり、真理がぶっ放ちやがった。

 目の前から上がる炎の竜巻はごうごうと燃え盛っている。このままだと城に燃え移るんじゃないのか?

 

「おおー! 凄い威力だ!」

 

「そうだろう、そうだろう! これが私の究極魔法『サラマンダー・ブレス』だ!」

 

「うんうん、凄いよ。詠唱は無茶苦茶! 術式も壊滅的! ただただ圧倒的な魔力を注ぎ込んだだけ! なのに、こんな威力が出るなんて……凄いよ!」

 

 それは誉めているのか?

 どうやら真理は誉められていないと受け取ったみたいだ。その証拠に炎の竜巻がしょぼんでいく。

 

「これで魔法の基礎を身に付ければ、もしかすると魔法を極められるんじゃないかな」

 

「そ、そうか。さすが私だな。ふ、ふはははー」

 

 珍しく真理が元気ないな。そんなにさっきの言葉に傷付いたのか。炎の竜巻も消えてしまった。

 

「お次は誰にやってもらおうかな? 我こそは! って人ー」

 

「はい! 僕、やってみたいです!」

 

「よーし、シオリ君。魔法を唱えるのだー」

 

 こうして見ていると、詩織とセラドって似ているな。体躯もタイプも違うけど、何となく雰囲気がふわふわしているところが。

 

「はあぁーー!! 魔法、出ろー!」

「その意気だ! 魔力を高めるんだー!」

 

 

「……一向に出る気配がないの」

 

「……そだな。魔法って気合いで出る物じゃないらしい。なぁ、真理、どうやって魔法使ったんだ?」

 

「『サラマンダー・ブレス』を出したいな~って考えたら、するべき詠唱が頭の中に浮かんだんだ。あとはそれに添って、術式? を構築した」

 

「発動したい魔法をイメージすることが大事ってことか? とすると、今の詩織には出せそうにないな」

 

 

「うおぉーー!! 何でも良いから、出てー!」

「いいよ、いいよ! 何かしら出そうだよ!」

 

 なるほど、二人が似ている理由が解ったような気がする。……二人とも基本的に天然なんだ。

 

 一先ず、二人に中断を促して、セラドにはもっと詳しく教えるよう詰め寄る。

 中二病全開の真理は兎も角、ラノベを読んだこともない詩織には魔法のイメージが薄いだろう。

 与えられた数字も記号も式も解ってなくて、出すべき答えすらも解っていないなら、発動できなくて当たり前だ。

 

「セラド。俺達は魔法について、もう少し詳しく教えてもらう必要がありそうだ」

 

「うーん……どうやら、そうみたいだね」

 

 場所を移すのも面倒なので、中庭に座り込んで教えてもらうことにする。ほれ、話せよ。

 

「えー、こほん。そもそも魔法には八つの属性があってだね。攻撃魔法や支援魔法など様々あるんだけど、基本的には火水風土雷氷闇聖に分けられるんだよ。そこからさらに初級、中級、上級の三つに区分されて、属性や等級によって、発動できるできないかが分かれる」

 

「属性と等級か。人によって得意不得意があるんだな。……それを測らないと仕方なくないか?」

 

「まぁ、そんなんだけどね。勇者なら何とかなるかな~って」

 

 セラドはてへっ、と拳を頂頭部らへんにコツンとさせる。二十代くらいが本気でやると、なかなか、おぞ気の走る光景だな。

 俺が白々しく見ていると、セラドは焦った様子で(ふところ)からある物(・・・・)を取り出した。

 

「これは『君の属性を調べちゃうぞー君』と言ってね。(うち)の家宝なんだよ。効果は文字通り、君達の魔法の属性を調べてくれる」

 

「いや、うん。先日のコピー機でも驚いたんだが……それ、マトリョーシカ(・・・・・・・)だよな?」

 

「まと…りょ? それは知らないけど、これは『君の属性を調べちゃうぞー君』だよ? これを握ってから、蓋を開けて中身を出すと、属性によって色が変わるんだ」

 

 セラドはマトリョーシカを握り、胴体を割って中身を出した。何だかシュールだよな。

 中から出てきたマトリョーシカは、顔が緑、腹が赤色。体の上部が深い青で、下部が淡い青色になっていた。

 

「顔、腹、上部、下部の順で適性が高い。それから、模様が複雑なほど適性が高いってことだよ。えーと、属性と色の関係は、火水風土雷氷闇聖の順に、赤青緑茶黄水色黒白だったかな」

 

 すると、セラドは少なくとも四つの属性の魔法を使えるということか。模様も複雑だし、セラドの実力は高いと見える。

 マトリョーシカの外見をしていることは一先ず考えないとして、真理から順に、適性を測ることにした。

 

「ふっふっふ、私のマトリョーシカは虹色に光輝くものであろう!」

 

 そんな期待を裏切って、真理のマトリョーシカは顔が赤く、阿修羅のような表情をしていた。腹は緑で、上部が黄色、下部は濃い青色だった。顔以外の模様はそれなり。

 

「黒がぁ……闇がないだとぉ……!?」

 

「闇属性は基本的に魔族にしか適性がないね。……あっ! でも、適性がないからと言って発動できないというわけじゃないんだよ? 何度も何度も訓練すれば、使えるようになるんだから! 僕だって最初は簡単な風の魔法しか使えなかったんだよ?」

 

「……んむ、そうだな! 私は諦めない! 究極の闇魔法を唱える、その日まで!!」

 

 真理とセラドが「うをー!」ってなっている間に詩織と千穂の適性を調べてしまう。

 

 詩織は顔が白く、模様は聖女のように穏やかなものだった。そして何故か顔以外が全て黄色い。色が二つしかないぞ、壊れたのか?

 

「あ、二色だね。普通はそうだから、大丈夫だよ。最初はみんな、一色か二色なんだから」

 

「……本当? 私の一色しかないの」

 

 千穂の手元を見ると、茶色一色のマトリョーシカが握られていた。その模様は要り組んでいて断層のようになってる。

 

「さすが《大地の加護》保持者だね。地属性との親和性がとんでもなく高いみたいだ。これなら、魔素量にもよるけど、上級魔法もいけるんじゃないかな」

 

「……鼻高々なの」

 

「ぐぬぬ、私だって上級魔法使ってみたいのに……!」

 

「んー。僕も憧れるな、上級魔法」

 

「いやいやいや! 君達も火属性と聖属性の魔法の適性がとてつもなく高かったからね!? まったく、勇者ってのは規格外だね」

 

 真理も詩織も顔の模様が複雑だったからな。適性が高いということなんだろうな。

 ……何だよ、何で俺を見るんだよ。

 

「あのな、俺は勇者でもなければ加護もなかったんだぞ? まともに適性があるとは思えないんだが」

 

「……怖いの?」

 

「ふっ、恐れることなどないさ。魔法において、私の上を行く存在などいないのだから!」

 

「十夜君なら、大丈夫だよ!」

 

 千穂はストレートな挑発。真理は挑発なのか解らないし、詩織に至っては励ましだ。てか、励ますなら具体的にお願いします。

 

「はぁ……分かったよ。一回だけだからな?」

 

「……一回で済むことなの」

 

「うるせー。ほら、後は開けるだけだぞ」

 

 マトリョーシカを握り締めてから、セラドに向かって放る。まともに適性が出るとは思えないけど、実は少しだけ期待してるのだ。

 

「どれどれー…………あれ? 真っ黒だ……」

 

 セラドの手の中にあるマトリョーシカは、顔も腹も体も、黒一色だった。模様も見えないほどに黒い。

 黒ってことは、闇属性だよな。闇属性って基本的に魔族にしか適性がないはずじゃ……?

 

「魔族に限らず、闇属性の魔法を使う人はいるよ。……でも、ここまで適性があるってのは、人族では聞いたことがないな」

 

 ずっとニコニコしていたセラドの笑顔が消えた。手元の黒を見つめて、視線を動かさない。

 

「これは提案なんだけど、これは僕達だけの秘密にした方が良いと思う。このことが誰かにバレると、トウヤ君の立場がさらに悪くなる可能性がある」

 

 髪と瞳が黒くて、加えて闇属性に高い適性がある。俺、疑わし過ぎるだろ……。

 このことが王様やポーキンに知られたら、今すぐ城を追い出されるだろうな。

 

 幸い、三人は秘密にしてくれるようだ。

 放っておいても一ヶ月後に出ていくやつだもんな。今すぐに追い出す必要もないよな。

 

 適性を調べた後は、実際に魔法を発動させることとなった。

 セラドに適性に合わせた魔法を教えてもらい、詠唱を繰り返し唱える。俺は城の人に見られるといけないので、木陰で見学だ。

 

 魔法をバンバン打ち出す三人を見ていると、俺も何かしてなくてはいけない気がする。むしろ俺が一番成果を出さなくちゃいけないんだよな。

 あと一ヶ月で城から出ていくのだ。それまでに一人で生活できるようにならなくてはいけない。そうしないと……また殺し屋でもやるはめに成やも知れん。

 

「むー、イメージ。イメージかー」

 

 魔法を使っている自分を想像してみる。……うん、浮かばない。若い内なら妄想もできたんだろうけど、二十歳(ハタチ)近くがそんな想像をパッとできるはずがない。

 それなら、普段の延長線上で考えるとしよう。真理だって普段から妄想していた魔法を発動できたわけだし。

 

 どんな魔法か、よりも、どんな魔法が使えたら便利かを考える。俺が使えれば、と思っていた魔法。

 ……これだ。

 始めと終わりが確定した。俺の魔力を、どんな流れで、どんな型に流し込めばいいのか解る。詠唱が頭に浮かび、術式が固定される。

 

「……我が魔力を糧として世界に闇の力を顕現する。我が身の発する音を消せ【ミュート】」

 

 途端、体から何かが抜ける感覚がした。これが魔力なのか?

 身体中を黒い膜が被う。試しに寄っ掛かっていた木を小突いてみると、音がしなかった。

 

「(おおー、発動できた。感動だ)」

 

 これは良いな、音がしない。姿さえ隠せば、密偵し放題だ。しかも、声までしない。使い勝手良さげだな。

 【ミュート】を解除して、次のイメージに取りかかる。

 

 その日は木陰で見学するフリをしつつ、魔法を新たに二つ覚えた。これから、バレないように練習をこなしていこう。

 

 





『ナルバス=ルクシアン』
年齢:23歳
身長:186㎝
種族:人族
好きなモノ:国民、日々の鍛練、騎士団の部下達
嫌いなモノ:ルクシアン王国の敵となる者
職業:ルクシアン王国王子、ルクシアン王国騎士団団長
得意武器:槍
特技:編み物
加護:《天馬の加護》

 ルクシアン国の第一王子。王位継承権第一位であり、次期国王を最も希望されている。
 ルクシアン国騎士団団長を務める武闘派。騎士団の部下からの信頼は厚く、本人は認めていないが、慕われている模様。
 国民からはとても好かれており、一部の国民は早い世代交代を望んでいるとか。
 《天馬の加護》の浮遊と滑空を活用した騎馬槍術は、ドラゴンすらも討ち取るほど。
 自国で慕われる一方、他国からは恐れられている。
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