黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.007 戦闘狂系お嬢様

 

 

 俺達がセラドに魔法を教わるようになってから一週間ほどたったある日。

 ルクシアン王国騎士団副団長を名乗る女性に呼び出された。明確に言うと、新しい訓練に入った。場所はお決まりの中庭だ。本日も快晴、良い訓練日和である。

 

「ルクシアン王国騎士団副団長、コーラル・ハクトだ。貴様達に剣術を教えるよう仰せつかっている。団長からは、騎士団の部下に対するのと同じように接して良いと言われている。構わないな?」

 

「……問題ないの。もともと敬われるような人間じゃないし」

 

「だね。コーラルさん、僕達には気安く接してください。その方が僕達も嬉しいです」

 

「うむ。では、鍛練を始めようか」

 

 言うが早いがコーラルは、俺達に剣を渡してきた。長さ90㎝程度の両刃の直剣、よくある西洋剣か。材質は鉄でできていて、女子が持つには重いだろう。

 そう思って真理と千穂を見たが、二人は軽々と持っている。あれも勇者としての力か? 詩織も細身ながら軽く扱ってるし。

 

「さぁ! 打ってこい!」

 

 コーラルも俺達と同じ剣を構え、剣先をこちらに向ける。まさに、どこからでも掛かってこい! の構えだ。

 

「私から行こう! 我が名はマーリン! 《魔導の加護》の保持者にして、召喚されし勇者の一人! ……行くぞ!!」

 

 勢い良く駆け出した真理の速度は、女子高生のそれとは思えない。やはり身体能力が上昇しているみたいだな。

 どうやら、本人も驚いてる様子だ。勇ましかった掛け声が、悲鳴に変わっていった。

 

「ひ、ひゃー! 止めてーー!!」

 

「どこからでも打ってこいとは言ったが、そんな勢いでくるか!? く、()るなら()い!」

 

「ごふすっ!!」

 

 回転しながらコーラルに突撃していった真理は、無事にキャッチされながらも、無様な声を上げて地に落ちた。

 

「……色気のない叫び声なの」

 

「あ、あはは。……ノーコメントで」

 

「ハッキリ言ってやった方が良いぞ。色気のない、この残念JKめ! ってな」

 

「そんなこと思ってないよ!?」

 

 

 

「す、少しはこやつを心配してやったらどうだ?」

 

 目を回して気絶した真理を受け止め、抱き抱えたまま、コーラルがこちらに歩いてきた。木陰に真理を寝かせて、再び向き直る。

 

「……貴様達は、まず、自分の体を操れるようになることが必要だな。それからでないと、訓練にならん」

 

「みたいだな。詩織、千穂。まずは素振りから始めよう。次はランニングでもやって、体を慣らして行こうか。……それで構わないよな? 教官殿」

 

「構わん。……ただ、トウヤ。貴様は勇者ではないのだろう? ならば、動きに支障はないはずだ。手合わせ願おう」

 

「いやいや、俺は一般人だぞ? 手合わせしても、数秒と持たないって」

 

 何でもありの勝負ならば負けることはないと思うが、ここは異世界だ。目の前の女性が、とんでもない力を持っている可能性だってある。

 それに、ここは誰が見ているか分からない中庭だ。あまり手の内を晒したくない。

 

「安心しろ、峰打ちにしてやるさ」

 

「両刃に峰なんて無いだろ……」

 

「……ふぅ。実はな、キューベ殿から思い切りやって良いと言われているんだ。彼がそう言っているということは……貴様、強いんだろう?」

 

 キューベ、てめぇ……!!

 あいつ絶対に許さん。次に会った時、眼鏡に指紋をつけてやる!

 

「騎士団の副団長をやっているとな、なかなか前線に立てる機会がないんだ。……さぁ、戦おう! 貴様の全力を見せてみろ!」

 

 冷静なお人だと思ってたら、ただの戦闘狂かよ。

 しかも、何やら体から赤色の(もや)が漏れだしている。髪の濃い赤色と相まって、それは綺麗な光景に思えた。

 あの赤色のオーラのようなものは、加護によって出ているのだろうか。一般人に加護使うなよ……。

 

「行くぞぉ!!」

 

「……来ないでくれー」

 

 コーラルの初手は、見事なまでの幹竹割(からたけわ)り。この一撃を受ければ、剣ごと真っ二つにされるだろうな。

 横に避けても、あの速度だ。剣の軌道を直角に変えるくらいはしてくるだろう。つまり、横に避けても胴体泣き別れの真っ二つ。

 

 ならば、受け流す!

 相手の剣の軌道上に自分の剣を置くことで、上から下への剣線を、上から斜め下に変えた。

 金属が擦れる嫌な音が響く。

 そして、力の流れを変えられたことで体勢を崩したコーラルの喉元に、剣を突き付ける。本来なら首を落とすまでが流れだ。

 

「……見事だ。さすがキューベ殿に認められただけはあるな」

 

「いつ認められたんだか。あいつとは手合わせしたこと無いんだけど」

 

「キューベ殿は昔、A級冒険者だったそうだ。おそらく、トウヤ殿の内なる実力を見抜かれたのだろう」

 

 ……貴様から殿呼びに変わってるし。 どうやら、コーラルにも認められたようだな。嬉しくない。

 

「しかし、今のが全力だと思ってもらっては困るな。《赤の加護》を全解放すれば、私は先ほどまでよりも十倍強くなる! やるか?」

 

「それは是非とも遠慮したいね。今でも、さっきの受け流しで手が痺れてるんだ」

 

 コーラルの馬鹿力を、慣れない武器で受け流したんだ。腕が痺れてしまって、しばらく休ませないといけない。

 

「そうか、それは悪いことをしたな。では、しばし休むといい。私は二人を見てくる。トウヤ殿は、よければマリを診てやってくれ」

 

「あいよ。二人をよろしく頼む」

 

 痺れた腕を擦りながら、木陰に横たわる真理の元に行く。真理は軽やかな寝息をたてているようだし、特にすることもないな。

 

「剣はこう振るんだ!」

 

「こ、こうですか?」

 

「違う! こうだ!」

 

「……えーい」

 

 千穂が剣を振る度に、前方に風が巻き起こる。

 そろそろ、剣が千穂の力に耐えられなくなって折れるんじゃないかな。千穂の振っている装飾のついた宝剣は、打ち合っただけで折れる耐久度だと思う。

 

「こうだと言ってるだろう! ふんっ!」

 

「こうですか!? ふんー!」

 

「違う、違ーう! こうだぁ!!」

 

「……やあー、とおー」

 

 どんどん中庭の花達が散っていく。誰かが千穂を止めなければ……。

 詩織とコーラルは夢中で剣を振ってるし、真理は未だ睡眠中。止められるのは俺だけのようだ。

 

「ああ、もう。来い、聖剣!」

 

 腰を起こそうと俺が手を着くと同時に、詩織が聖剣を呼び出した。

 光の柱が立ち上がり、どこからか神々しい剣が詩織の手に飛んでくる。

 

「それが勇者にしか扱えないという聖剣か。……手合わせ願えるか?」

 

「勿論です!」

 

 先ほど俺とやった時よりも多量に赤いオーラを出したコーラルと、神々しさをまとった詩織が向かい合う。

 気付けば、千穂が隣に来ていた。どうやら避難してきたようだ。

 

 そこからの闘いは凄いの一言に尽きる。

 

 二人の移動速度は目で追えるが、俺の全速よりも速い。剣を打ち合った衝撃は見ている俺達にまで伝わってくる。

 あれと正面から勝負するなど考えたくないな。俺がやるなら準備に数日、そして結構時も影から仕留める。

 

 赤と白が踊るように中庭を駆ける。

 眠くなってきたのか、隣の千穂が寄りかかってきた。拒絶する理由もないので、大人しく枕になる。

 

 長く続いたように感じる勝負は、コーラルの勝ちで決着が付いた。

 足を掬われ宙に浮いた詩織が、コーラルの回し蹴りをまともに食らう。地面に二回バウンドし、そのまま壁にぶつかって動かなくなったのだ。

 

「良い勝負だったな。しかし、動きが加護に頼りきりだ。自分の体を自分で操れるようになれば、もう少し良い勝負ができるだろう」

 

 汗をぬぐって互いの健闘を称えているが、その相手は既に気絶している。真理も意識を失ったままだし、今日の訓練は終了したい。

 

「さぁ、次はチホだな。さぁさぁ、やろう!」

 

「……一発、吹っ飛ばしてくるの」

 

「あぁ、頼むよ」

 

 千穂は、剣を使わずに拳でコーラルを殴り飛ばすと、満足した表情で戻ってきた。

 お疲れ様。でも、やり過ぎだと思うな。石造りの壁にめり込んでるんだが、死んでないよな?

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「私の部下がすまなかった」

 

 コーラルの初訓練が終わった日の夜。

 四人で貴賓室にいると、ナルバスが頭を下げに来た。内容は今日の訓練のこと。

 コーラルは騎士団副団長と言っていたし、確かナルバスは団長だったはず。部下の不手際を上司自ら謝りにきたというわけだ。

 

「彼女は、普段は冷静なんだがな。こと戦闘となると我を忘れることがあって……本当にすまない」

 

「気にすんなよ。二人はこうして無事なんだしさ」

 

「うむ。特に私はコーラルにやられたわけではないからな。気にすることはない」

 

「僕も自分の力を試すことができて、良い機会でしたよ。コーラルさんに、お礼を言いたいくらいです」

 

 真理と詩織が寝転んだまま、応える。

 決してナルバスを嘗めているわけではない。初めて勇者の力を使った彼ら三人は、部屋に着くなりベッドに倒れ込んだのだ。

 幸いなことに、真理と千穂の女子二人は俺のベッドに寝ている。このまま寝るなら、そのままベッドを使わせてやろう。

 

「……コーラルは無事?」

 

 勇者の力だけでなく加護も使った千穂は、俺達の中で一番疲労の色が見える。

 疲労困憊で今すぐにでも眠りたいだろうに、コーラルの心配とはな。自分が吹っ飛ばしたことを悪く感じていたのだろうか。

 

「あぁ、あのくらいで怪我をするような者は我が騎士団にいないからな」

 

 あのくらいって、壁に埋まってたけど?

 ルクシアン国の騎士団は化け物しかいないのかもしれない。

 

「そもそも彼女はハクト家の武人だ。ハクト家に伝わる、《赤の加護》を使いこなす彼女なら、そうそう下手なことにはならんさ」

 

「《赤の加護》? それって体から出てた赤いもやみたいなやつか?」

 

「あぁ。《赤の加護》を発動すると、体から赤いオーラが出る。発動時は身体能力が大幅に上昇するらしい」

 

 コーラル自身も十倍強くなるとか言ってたし、加護ってのは怖い代物だな。

 勇者の三人も今はダウンしているが、訓練の時の動きは凄まじかった。もし彼らが加護を使いこなすようになったら、一般人では太刀打ちできないだろう。

 

「ハクト家というのは選ばれし家系なのだな!」

 

「あぁ、この国の民から『ルクシアンの四名家』と呼ばれる高名貴族だ」

 

「へぇ……えっ!? て、ことはコーラルさんってお嬢様なんですか!?」

 

 あの戦闘狂がお嬢様……。

 少しだけハクト家の行く先が心配になった。

 

「ハクト家は代々、ルクシアン国内の騎士団や警備団に務めるのが習わしでな。コーラルの祖父である現当主殿もご高齢だが、王都から南に行った街で現在も警備に務めている」

 

「なるほど。代々、戦闘狂ってことか」

 

「……この国に必要な貴族の一つだ。まぁ、あえて否定はせんがな」

 

「否定しないんだ……」

 

 ナルバスの辛辣な返答に詩織が苦笑いする。

 否定しないってことは、親も祖父母も戦闘狂の可能性があるな。是非ともお近づきになりたくない。

 

「四名家ってことは、あと三つあるんだろ? どんな貴族なんだ?」

 

「他には、この国の魔法研究に深く関わっているクローブ家だな。現在、魔法の講師をしてもらっているセラド=クローブ殿が長男だ。クローブ家は代々、優秀な魔法使いを排出する家系でな。今や、この国の魔法研究において欠かすことのできない貴族だ」

 

 ハクト家が騎士の家系。クローブ家が魔法使いの家系。それなら、他の二つの家も、何かしらこの国に深く関わっていると考えられるな。

 

「……聞きたくて堪らない。という顔をしているな」

 

「俺はあと少ししたら、この城を出なくちゃいけない身の上なんだ。情報収集に必死なのさ」

 

「なるほどな。ならば聞かせよう。本来なら教えることのない、深いところも。……だが、条件があるんだ」

 

「だからさ、コーラルの件なら気にするなって言ったろ?」

 

「……お前と話していると、事前に策を練った自分が恥ずかしく思えるな」

 

 今回のコーラルの仕出かしたことは、本来なら処罰もの。国を救うべく召喚された勇者達に無茶をさせ、あまつさえ倒れさせたのだから。

 これで、勇者が国に対して友好的でなくなれば国にとっては一大事。最悪、彼女の立場が危うくなりかねない。

 

 だからナルバスは、こうやって謝りに来たのだ。騎士団の部下を救うために。

 もしかすると、国の為かもしれない。四名家と呼ばれるような大貴族の娘が処罰されたとあっては、一部から非難の声も上がる。

 それら全て引っ括めて、彼は俺達に頼みに来た。コーラルを不問にしてくれないか? と。

 俺達の性格が悪ければ彼自身も危うかったろうに。お優しいことだ。だが、それは無意味だったな。

 

「俺は違うけど、この三人は呆れるほどに良いやつらだよ」

 

 それはこの数日で良く解ったことだ。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「先日はすまなかった!」

 

 三人が回復してから二日後。

 俺達は再度、剣の訓練のために中庭を訪れていた。講師はもちろん、騎士団副団長のコーラル・ハクト。

 

「……気にすんな」

 

「千穂殿っ……!」

 

 コーラルは感動した様子で、右手の親指を立てている千穂に抱き付く。高身長のコーラルは、低身長の千穂に合わせるように膝立ちだ。

 

「最近、ちーちゃんの言葉使いが十夜に似てきた気がするな」

 

「千穂ちゃんは、よく十夜君と一緒にいるからね。言葉使いが似てきても不思議じゃないよ」

 

 一緒にいるのは、他の二人も同じだと思う。確かに、最近は千穂が横にいることが多いな、とは思うけど。

 

「ほお、一緒にいれば言葉使いが似てくるのか……」

 

「え? まぁ、千穂ちゃん、まだ若いし。言葉使いもまだまだ学習中なんじゃないかな」

 

 若い頃は本とか映画の影響を受けやすい。感化されて口調が変化することもある。

 俺にも経験があるな。若かげのいたりってやつだ。何か違う気もするが、まぁ良いだろう。

 

「決めたぞ。これから私は、ちーちゃんと話すときは、語尾に『のじゃ』をつける」

 

「あー……うん。良いんじゃないかな」

 

「……詩織、ツッコミしてやれ」

 

 面倒なことに巻き込まれないよう、無視を続けていたのだ。しかし、詩織のスルーには反応してしまった。

 最初は振り回されるばかりだった詩織だが、最近では、流すことを覚えたようだ。

 

「えー。……どうして語尾に『のじゃ』をつけるの?」

 

「そうすればちーちゃんが『のじゃロリ』になるだろ!」

 

「…………」

 

「……ごめん。これは無視して良いやつだわ」

 

 悲しげな目を向けてきた詩織に謝る。予想以上にどうでも良いことだった。

 

「……どうしたの?」

 

「ちーちゃん! 私とも熱い抱擁をかわそう、なのじゃ!」

 

「…………どうしたの?」

 

 早速、千穂を『のじゃロリ』にしようと語尾を変化させた詩織に怪訝な目が向けられる。どうやら千穂の『のじゃロリ』化は先が長そうだな。

 

「訓練を始めるぞ! 今日は素振りと軽いランニングだ!」

 

 それから一週間、俺達は体を慣らすための基礎トレーニングを続けた。

 

 





『キューベ・ランカスタ』
年齢:26歳
身長:178㎝
種族:人族
好きなモノ:落ち着ける時間
嫌いなモノ:仕事の邪魔をする人
職業:ルクシアン王国文官
得意武器:レイピア
特技:戦の指揮を執ること、楽器全般
加護:《風詠みの加護》

  王の側に支える、有能な方の大臣。
 インテリ風の眼鏡をかけており、本人もインテリっぽい雰囲気を醸し出している。
 現在は文官をしているが、昔はA級冒険者として名を馳せた武闘派。彼がなぜ国に支える身となったかは謎。
 物の流れを読むことのできる《風詠みの加護》を使った戦況の予測は外したことがない。
 冒険者をしていた時の二つ名は『風穿』。
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