黒は夜より出でて夜より黒し   作:紺色メガネ

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No.008 勘違いの終わり

 

 

 ──ルクシアン王国、冒険者ギルド前。

 

「ちーちゃんの鉄槌、格好いいよな!」

 

「……これは、ただの鈍器だと思うの」

 

「十夜君、装備真っ黒だよね。……あれ? 真理ちゃんと同じ中二びょ……」

 

「違うぞ。防具を同系色で揃えることで、武器を見え難くさせてるんだ。さらに夜行動する時には、風景に溶け込めるからな。真理と違って機能性を重視してるんだ。詩織、いいか? 絶対に中二病的なあれじゃないからな? 分かったか?」

 

「う、うん。あの……ごめんね?」

 

 

 

「勇者様方……そろそろ参りますよ?」

 

「うむ!」

「はい、行きましょう」

「……はーい」

「ういうい、分かってるよ」

 

 インテリ眼鏡大臣、キューベに注意されて、俺達四人は騒がしかった声を落とす。

 

 俺達、というか俺以外の三人は、ここ一週間で自分の体をある程度操れるようになった。そのため、今日から実戦訓練に入ることになったのだ。

 今日はギルドで冒険者登録をして、薬草や魔物の生態を学ぶことが目的。特に俺は多くのことを学ばなくてはいけない。これからは、一人でも生きていけるように。

 

 朝からテンションの高い俺達は、冒険者となるべく、ギルドの中に入った。

 

 ……俺以外の三人は勇者なんだけどね。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 ギルドに入ると、奥に等間隔に並ぶ、仕切りのついた長いカウンターがあった。そのカウンターの向こう、仕切りの内側一つ一つに人が座っていて冒険者の人たちを次々と捌いている。カウンターに付いているのは十二人ほど。

 右手には依頼書が張ってある看板。そこに冒険者らしき人が数人いる。こういった光景を見ると、異世界なんだな、と実感できる。

 

「今日は皆様に冒険者登録をして頂きます。説明は、あちらの受付嬢さんにしてもらいますので、失礼のないように」

 

 俺達四人は、キューベに思い思いの返事をすると、指定された受付嬢さんのところに行く。

 それにしても、勇者に対して失礼のないようにってキューベも胆が据わってるな。

 

「勇者様方、本日は冒険者ギルドへようこそ。ギルドの説明をさせて頂きます、アールカ・ランカスタと申します」

 

 ランカスタ……?

 後ろのキューベに振り向くと、知らん顔をされた。

 仕方ないので受付嬢、アールカさんに向き直る。

 

「では始めに、冒険者の階級とギルドポイント、通称GPと依頼の種類についてご説明します。長くなると思うので椅子について聞いてくださいね」

 

 色々と聞きたいことがあるが、言われた通りに椅子に着く。それからキューベに言ってメモ帳と筆記用具を貸してもらった。大事なことを聞き漏らさないよう、メモを取る準備だ。

 今日の俺は気合いが入っている。

 こちらが準備を終えたのを確認してから、アールカさんは話し始めた。

 

「冒険者はS級が最高でA級からE級と続きF級が一番下のランクになります。また、D級からはD0、D1、D2、D3というように4段階になります。ですが、S級は段階に分けられません。彼らは規格外ですからね。なので、合計19段階のランクに分けられます。

 そしてランクをあげる方法ですが、F級からE級になるまではギルドポイントを上げることでランクアップできます。D級からはギルドポイントと依頼達成度合い、ランクアップにたる人物であるかなどをギルド職員が確認し、各階級に上がるさいには昇格試験を受けてもらいます」

 

 S~Fでランク分けされているのは、前にキューベに聞いた。だが、Dからは四段階になってるのは初耳だな。

 現在の俺達のランクはF級、E級まではギルドポイントとやらを獲得してランクアップ。D級からはそれぞれ4段階になり各階級に上がる際には昇格試験が必要。

 それらの内容をざっと図にして書き起こす。後ろからキューベが覗いてくるが、気にしないようにする。

 

「それでギルドポイント、GPについてなんですけど。GPは依頼を達成することによって得ることができます。

 また、魔物の素材を還元という形でGPにできますよ。ですがその分、報酬が貰えなくなるので、そうする冒険者の方はあまりいませんね。

 依頼書には得られるGPは書いてありませんけど、こちらで確認していますので安心してください。仰ってもらえればどれくらいGPが得られる依頼なのか教えるので気軽に声をかけて下さいね」

 

 GPは依頼達成か素材と交換とだけ書いておく。一応その下に図も書く。さっきからキューベが覗いてきて、話に集中できない。

 

「最後に依頼の種類についてですね。大まかに分けて通常、指名、緊急の3つがあります。

 通常依頼はギルドが依頼者から依頼を受け、内容を鑑みて難易度を定めます。それを冒険者の方たちが見て、自分ができると判断したら受けてもらう形になります。

 次に指名依頼なんですが、これはD級以上の冒険者を直接指名して依頼を受けてもらっています。この場合はギルドが仲介役になりますが、殆どは依頼者と冒険者の間で報酬などを決めてもらいます。

 緊急依頼はギルドからD級以上の冒険者の方全員に対しての指名依頼のようなものです。大概が国や街の危機などに発令されます。これを拒否すると依頼失敗と見なされ違約金が発生してしまいます」

 

 依頼という文字から3本線を伸ばし、それぞれに通常、指名、緊急と書いていく。

 そしてその下に軽い説明ととりあえずD級になったら考える、と書く。

 

 そして最後にギルドに所属する冒険者として守らなければならないルールを教わった。

 

 ・冒険者が受けることのできる依頼は自分の1つ上のランクまでとする。

 

 ・殺人、略奪等の犯罪行為をした場合は冒険者ギルドから除籍処分となる。また指名手配されランクに応じて指名依頼として討伐隊が組まれる。

 

 ・依頼が失敗した場合は違約金が発生する。払えない際は借金分の依頼を無償で受けるか借金奴隷となる。逃走した場合はこれも除籍処分とし討伐隊を組み、借金奴隷とする。

 

 ・明確な理由がある場合を除き冒険者同士の私闘は禁止。ただしギルド職員を審判としての決闘は認める。

 

 ・冒険者が行った行為については冒険者ギルドは一切責任を負わない。

 

 ・冒険者の怪我、死亡については冒険者ギルドは一切責任を負わない。

 

 ・冒険者は各ギルドのギルドマスターの指示に従うこと。

 

 キューベいわく、この時に出される討伐依頼は高額なので強い冒険者たちが好んで受けるそうだ。そしてこの報酬分の料金を借金として加算されるんだとか。

 恐ろしい。そんなことにならないよう、注意しなくてはな。前の世界でも、裏切り者の末路は酷いものだったし。

 

「以上で説明を終わりにします。勇者様方、困ったことがあった際には、何時でもお声かけください」

 

「はい! ドラゴン討伐の依頼は無いですか!?」

 

「ド、ドラゴンですか? 有るには有りますけど、ランクが足りないかと……」

 

「くっ! ドラゴン討伐してみたかったのに! まだ力が足りないか……!」

 

 冒険者登録したばかりの新人がドラゴン退治は荷が重いだろ。

 そもそも今日は、基礎的なことだけだったはずだ。

 

「本日は薬草やFランクの魔物の討伐をしてもらいます。実力が付いてきて、ランクが上がったら、国の方からドラゴン狩りを依頼するかもしれませんね」

 

「では、こちらが冒険者としての身分を表す物です。無くすと再発行に時間がかかるので、無くさないようにしてくださいね?」

 

 アールカさんから、掌よりも少し小さめのカードを受けとる。

 カードには、名前、種族、冒険者ランク、冒険者としての職業が書かれている……らしい。

 らしい、と言ったのは、文字が読めないからだ。二週間前くらいに五十音表を作って、勉強をしているが、まだ読めない。

 冒険者としての職業だが、俺は剣士、他の三人は勇者となっている。剣士とは言いつつも、ナイフしか使わないんだけどな。

 

 俺達四人とキューベは南門から外に出て、初めての実戦訓練に取りかかった。

 

 

 

     ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「これが薬草と癒花(ゆか)です」

 

 薬草、40㎝ほどの茎に大葉のような葉っぱが付いている。傷を癒す効果のある植物らしい。繁殖力が高く、沢山採取しても大丈夫とのこと。

 癒花、(すみれ)のようなピンクの花。様々な色があり、各種で効能が違うようだ。単体では効果が薄く、薬草と混ぜ合わせるのが一般的らしい。

 

 先ほどのメモ帳に、イラストと効能を書いておく。後で、どう調合するかも聞いておこう。ついでに調合機材なんかも貰えないかな。

 

「……美味しくない」

 

「うえぇ、これは苦いな」

 

「ふ、二人とも。生で食べるとお腹壊しちゃうかもよ?」

 

 三人は薬草をつまみ食いしていた。

 俺と違って、自ら採取しなくてはいけない状況には……ならないだろうしな。王国お抱えの勇者になるのだし、必要な物は周りが用意してくれるはずだ。

 

「では、次は魔物の……おや、あちらから来てくれたようですね」

 

 キューベの視線の先に目を向けると、そこには背の低い緑色の小鬼がいた。数は六匹。

 120㎝ほどの背丈。下腹部だけが不自然に脹らみ、手が背丈に比べて細長い。その手には木で作られたこん棒が握られている。

 

「あれは……ゴブリンか?」

 

「はい。知っておられたのですか?」

 

「まぁ、良く知ってるわな。弱くて、どこにでも生息する、鬼畜な魔物だろ?」

 

「そうですね、ルクシアン王国周辺だけでなく、世界中で目撃されています。そして、力は弱いですが、群れを作る知恵があります。注意しなければならない魔物ですね」

 

 ふむふむ、俺達の知ってる生態と相違ないみたいだな。

 

「今回は、各自一匹討伐と致しましょう。危ないと感じたら助けに入るので、心置き無く戦ってください」

 

 いきなり戦えって、無茶振りだな。

 俺は抗議の目をキューベに向けたが、他の三人は案外やる気みたいだ。それぞれの武器を抜き、ゴブリンに対峙している。

 真理の武器は、魔法使いが使うような杖。先端に竜の装飾がしており、竜の口には赤く透明な石が嵌め込まれている。あの石は火の魔石というらしい。

 詩織の武器は、加護によってどこからか飛んでくる聖剣。厚めの両刃剣で、白と金色が眩しく輝いている。材質は不明だ。

 千穂の武器は、巨大な鉄のハンマー。千穂の持つ加護に最も適した武器らしい。本人いわく、ただの鈍器。持たせてもらったが、俺には振るうだけで精一杯だった。俺よりも非力そうな千穂が軽々と持っているので、加護の恐ろしさを見に染みた。

 

「僕が引き付けるから、真理ちゃんと千穂ちゃんは魔法をお願い」

 

「……それなら魔法は真理に任せるべき。私も前に出るし、三匹ずつ引き付けでどう?」

 

「えー。……うーん、分かった。危なくなったら、下がるんだよ?」

 

 何故こいつらは俺を外してるんだろうか。勇者でもなく加護も無いからか?舐めんな、それでも一般人よりは強いつもりだぞ。

 二人に並び立つように、前に出る。

 

「いーや、一人二匹だ。何だったら俺が六匹引き受けてやるよ」

 

「と、十夜君!? 危ないよ!?」

 

「……やる気なの?」

 

「当たり前だろ。これからは一人でも、魔物と戦わなくちゃいけないんだ。ここで(つまず)いてたまるか」

 

 俺が引かないことが分かったのか、二人は渋々とゴブリン二匹を譲ってくれた。

 ナイフを片手に目の前の敵を注視する。

 どうやって殺そうか。急所は人間と同じだろうか、五感を奪う手は有効か。色々と試したいことがある。

 

「よし! 行くぞ!」

 

 そう意気込んで、ゴブリンに向か合う。

 最悪、二人が手こずったら助けてやろう、くらいの心持ちで。

 しかし、俺のそんな勘違いは──

 

「【スラッシュ】!」

「……【大地の爪】」

 

 ──あっさりと壊されることとなる。

 

 詩織の聖剣の一閃でゴブリンは真っ二つになる。二匹もろとも、こん棒ごとだ。

 千穂が鉄槌で地面を叩くと、地面が盛り上がり、爪を形作くる。土で出来た爪は、二匹のゴブリンを襲い、刺し貫いた。

 

 え、えー……。二人とも強すぎないか?

 しかも、魔法ではない技を使ってたみたいだし。コーラルとの特訓で身につけた『スキル』というやつだろうか。

 

 と、兎も角。俺は俺の分のゴブリンを倒そうーー

 

「我が召喚するは敵を滅ぼす地獄の炎! 愚かなる罪人よ、火竜の息吹に抱かれて眠れ!! 【サラマンダー・ブレス】ッッ!!!」

 

 ーーと、ゴブリンに向き直った時には、二匹とも炎の竜巻に飲まれていた。

 炎に包まれたゴブリンは、文字通り(ちり)も残さず消えた。炎は詩織と千穂が倒したゴブリンも飲み込み、全てを燃やし尽くした。

 

 ゴブリンがいなくなってしまった。一人一匹というノルマがあるのにも関わらず、俺は一匹も触れていない。

 どうしようかとキューベを見ると、彼はニッコリと微笑んだ。俺のために、ゴブリンを探してくれるのか?

 

「では、本日はこれで終了としましょうか」

 

 うん。まぁ、そうですよね。勇者の様子を見るためですもんね。

 三人は元気な声を上げたが、俺は落ち込んだまま城に帰った。

 

 その日から俺は、自分に自信が持てなくなった。

 

 





『オベロ・ポーキン』
年齢:46歳
身長:168㎝
種族:人族
好きなモノ:肉料理、言うことを聞く者
嫌いなモノ:自分に意見をしてくる者、キューベ
職業:ルクシアン王国武官
得意武器:なし
特技:なし
加護:なし

 王に支える、有能じゃない方の大臣。
 武官という立場に立っているが、実際の戦場には立たない。戦況を聞いて、わめき散らすだけのお仕事をしている。
 貴族の中ではそこそこの地位を持ってるが、土地の管理は息子任せにしている。
 国民や王宮の召し使いからの渾名(あだな)は『豚』。
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