セラドから魔法の講義を受け、コーラルと実戦形式で打ち合う。その後、キューベと共に外に出て、薬草や魔物の生態を学ぶ。
そんな生活を続けること一週間ほど。俺が城から出ていくまで、あと五日になった。
現在はコーラルとの訓練を済ませ、昼の会食を終えたところ。外に出るまでの数時間を勇者同士の交流に当てていた。
交流と言っても、勇者同士で訓練の成果を見せ合ったりしているだけだ。
場所は中庭。毎度毎度ここでやっているのは、城の人々からも勇者が見やすいようにだとか。そのことを、いい迷惑だと思うのは俺だけみたいだ。
「……刺し貫け【大地の牙】」
千穂の鉄槌が地面を打ち、地面が
首から上だけの土の竜は、詩織を飲み込もうと牙を剥いて襲い掛かる。
「なんのっ! 【ダブルスラッシュ】!」
詩織は聖剣を一瞬のうちに二振りし、土の竜を粉砕する。
前回、ゴブリンに放った技を二連続で振るう。コーラルも使っていた、詩織の新しい技だ。
「……押し潰せ【大地の翼】」
「【パワースラッシュ】!」
足元から包み込むように出現した土の翼を、詩織は豪快な一撃で吹き飛ばす。
土の翼に風穴を開けた詩織は、その勢いのままに千穂に突っ込む。その速度は最初にコーラルと打ち合った時と同程度。だが、前回と違うのは、自分の体をコントロールできていることだ。
「……我が魔力を糧として世界に土の力を顕現する。……我が身を守れ【土壁】」
千穂の前方の土が盛り上がり始める。
千穂が使ったら魔法は、本来なら【アースウォール】と言うらしい。意味合いが同じなら発動するようで、千穂は【土壁】と言っている。
「遅いよ! 【スラッシュ】!」
詩織の一撃によって、未完成な土壁は壊されてしまった。
そして詩織は剣先を下げる。 詩織としては、そこで勝負が付いたと思ったのだろう。
だが、それは間違いだ。
千穂の遠慮ない鉄槌の一振りをまともに受けて、詩織は地面を転がる。
「……勝った」
「また負けたちゃったよ」
千穂の力で打たれると、ダンプカーと衝突したくらいの衝撃があるらしい。既に五回ほど受けた詩織が言うのだから間違いだろう。
……俺としては、詩織がダンプカーに衝突した体験があることに驚きを隠せないのだが。
現に今も、千穂の一撃を受けてピンピンしているのだから、大丈夫なんだろうけど。勇者の力と加護による防御力上昇のおかげらしい。
「詩織、勝負の見切りが早いぞ。抵抗が無くなるのを確認してから、追撃を止めろ。でないと、さっきみたいに不意を打たれることになる」
「うぅ、ごめんなさい」
「千穂、【土壁】を目隠しに使ったな? 相手の五感を奪っていく戦法は良いぞ。良くやったな」
「……まぁね」
勇者とまともに打ち合ったら死んでしまうであろう俺は、勇者達に指導をしていた。
本来ならコーラルがやるべき仕事なんだけどな。休憩時間に三人に口を出していたら、いつの間にか定着してしまった。
こうして三人に指導していると、不安になってくる。俺は果たして一人でこの世界を生き抜けるのだろうか? と。
勇者の持つ力は、この世界で最高のSランクなのは分かる。だが、この三人でさえ、まだ完全に勇者の力を引き出せているとは言えないらしい。
勇者の力も無く、加護も無い。そんな俺が冒険者としてやっていけるのか?
「不安だ……」
最近では、こうして呟くのが癖になってしまった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「トウヤ様が、冒険者としてやっていけるか? ですか?」
「あぁ、あいつら三人を見ていると、不安になってきてな」
今は、キューベと共に外に出ている。勇者である真理と詩織と千穂の三人は、数匹のゴブリンと戦っている。
今回は、ゴブリンを解剖して魔石を取り出す作業をする。最初にゴブリンを倒した時は、消し炭にしてしまったが、今日は燃やさないように言ってある。
実は先日もやったのだが、真理と詩織がダウンしてしまったのだ。俺は仕事で慣れているから良いとしても、千穂が動じなかったのには驚いた。
ゴブリン、というかほとんどの魔物は、頭の中に魔石があるらしい。
ゴブリンの頭をキューベが切り開いた辺りで詩織が青い顔をして顔を反らし、脳みその位置に手を突っ込んだところで真理も顔を背けた。
魔石の大きさが強さに比例するらしく、ゴブリンの魔石は小さかった。
さらに、魔物の属性によって魔石は色が違い、様々な用途に使われる。城で入った風呂も、水の魔石で水を
冒険者をやる上で、魔物の解体は必須スキルであると言える。元凄腕冒険者のキューベが言うのだから間違いないだろう。
では何故、解体が一番必要になるであろう俺が戦闘に参加してないのかと言うと……。
勇者の戦闘において、俺は足手まといになるからだ。
今も、目の前では炎の竜巻が上がり、聖剣が
とてもじゃないが、一般人には参加できない。
なので、キューベにこれからのことを相談していたのだ。
「そうですね……。私の見た限りでは、十分冒険者として生活できると思いますよ。トウヤ様は自己の評価が低いのでは? まぁ、勇者様方を間近で見ていると、そう思ってしまうのも、無理はないと思いますけど」
「勇者の力が、この世界の標準だとは思わないけど……流石に自信を無くすよなぁ」
俺ができることと言えば、闇魔法が三種類と殺し屋としての戦闘技術。これだけで冒険者として生計を立てられるか……?
「では、城を出た後の行き先は『タルクス』でどうでしょう? 最近『
「ダンジョン? それって、魔物が無限に湧いて、宝箱とかが取れる、あの?」
「他にどのようなダンジョンがあるから分かりかねますが、そのダンジョンで間違いないかと」
ダンジョンがあるなら、冒険者が多く来る。
冒険者が多く在中するなら、市場が賑わう。
市場が賑わうなら、景気が良くなる。
……ふむ、一考の価値はあるな。
「そうしようかな。ルクシアン王国内なんだろ?」
「はい。歩いて七日といったところですね」
「七日間か……。こっちじゃ、護衛を雇うとしたらいくら掛かる?」
「道中の護衛でしたら、こちらでご用意しますよ。……ギルドで募集をかけると、ポーキン殿の手の者が紛れ込む可能性があるので」
「あー……そうな。そうしてくれると助かるよ」
「ちょうどダンジョン調査に向かうパーティーがいるので、その方達に依頼します。信頼のできる方々なので、安心してください」
ポーキンによる暗殺の可能性。俺はそこまで嫌われてるのか。城を出た後は、夜道に気を付けたほうが良さそうだ。
「タルクスに出現したダンジョンの危険度は、未だ判明していませんが、恐らくそう高くはないでしょう」
「何でそう言い切れる?」
「そのダンジョンは、タルクスの街の真ん中に出現したようなので」
「街中!? 大丈夫なのか、それ?」
街の真ん中にダンジョンとか、危険過ぎるだろ。ダンジョンから魔物が溢れ出したりしないのか?
「ダンジョンとは出現した場所により危険度が変わりますから。一般的に人里から遠いほど、ダンジョンの危険度は高くなります。とは言っても、ほとんどのダンジョンは森や山の中で発生するようです。街中に出現したという報告は初めてですよ」
「んで、今回のダンジョンは人里近くにあるから、危険度は高くないだろう、と?」
「はい。それに、タルクスには強い冒険者の方が多いですからね。万が一危険なら、破壊されるでしょう」
「え? ダンジョンって壊せるのか?」
「最奥のダンジョンコアを破壊すれば、ダンジョンは機能を停止します。ほとんどのダンジョンは財政を潤すので、破壊されません。ですが、危険だと判断されれば、国からコアの破壊依頼が出ます」
ダンジョンが安全なら多くの冒険者が生計を立てる目処がたつ。危険なら破壊させるから大丈夫、か。この国も案外きちんとしてるんだな。国のトップと補佐役が、あんなんだから心配してたんだが、
「高くとも、Dランクあれば入れる程度になるかと。トウヤ様なら、直ぐにでも上がれますよ」
「うーん、不安だなぁ……」
行き先は決まった。
ダンジョンのあるタルクスに行って、一先ずは生活基盤を整えよう。安定した生活ができるようになったら……どうしようか。
まぁ、そこら辺は目標を達成したら考えよう。捕らぬ狸の皮算用になったらいけないからな。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「最後の夜なのに別々の部屋なんて……十夜君、本当に良かったの?」
「良いんだよ。しんみりするのは苦手なんだ」
「そうだが……何だか悲しいな」
「……真理は寂しいんぼ?」
「ち、ちーちゃん! そんなんじゃないぞ!」
ついに俺が城を出ていくまで一日となった。明日の朝には城を出て、タルクスに向かうことになる。
最初の内は、最後の夜は四人で語り明かすつもりだったのだが、ポーキンが別の部屋を用意したというのだ。
何やら罠の臭いがするが、乗ることにした。ここで拒否して三人が巻き込まれるのは避けたい。
「また明日な、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
「……また明日ね」
「むぅ……。……十夜、良い夢を」
三人と別れて、割り振られた部屋に入る。
用意された部屋は、前の部屋よりも狭く、殺風景だった。
「……窓の鍵が壊されてるな」
ほぼ確実に、何者かが襲来するであろうの窓を見やる。ここで、城の人に「窓の鍵が壊れているので直して下さい」と言うこともできる。
しかし、俺は相手を見極めなくてはいけない。城を出た後も、襲われるかもしれないと怯えるのは嫌だからな。ここで相手をはっきりさせておきたい。
「ベッドの横の水は睡眠薬入りか? 他には……」
クローゼットの中や、ベッドの下を確認する。もしかすると、既に部屋の中に潜んでいる可能性もあるからな。鍵が壊れているのは、俺を暗殺した後に窓から逃げるためかもしれない。
幸いなことに、潜んでいる者はいなかった。
「となると、襲撃者は窓から来ると見て良いよな。俺が襲撃者なら……どうする?」
ベッドに腰掛け考える。
自分がこの部屋にいる何者かを殺すつもりで襲うとしたら一体どうやるか。
寝込みを襲う? いや、そうなるとターゲットが眠るまで待たなくてはいない。さらに万全を期すなら、寝るまでを監視する必要がある。
今現在、何者かに見られている気配はない。
ターゲットがいつ寝るか分からないなら、眠らせてしまえばいい。
その策として、ベッド横の水がある……? ……ん? それだけなはずがないよな。俺なら、飲むか分からない水の中に、睡眠薬を入れておくなんて確率の低いことはしない。
そこが密室であるならば、睡眠ガスでも流し込んでしまえば……あ!?
そこまで考えて、俺は弾かれたように窓を見る。
鍵のかかっていない窓は少しだけ開けられており、隙間から管のような物が覗いていた。
「くそっ……意識、が……」
そう言って倒れ込む。
受け身も取れずに倒れたせいで、肩を打った。しかし、痛みで呻く声も出せない。
何とか窓に視線を寄越すと、黒装束に身を包んだ何者かが侵入してくるところだった。
「はは、他愛ないな。これで仕事完了か」
黒ずくめの侵入者は倒れている俺に向かって歩み寄り、腰のナイフを抜いた。
「じゃあな、異世界から来た
侵入者はニタニタと
……あれ? こんなことを前にも思ったな。
そんなことを考えながら、眼前の光景を目に焼き付けた。
『セラド・クローブ』
年齢:23歳
身長:178㎝
種族:人族
好きなモノ:研究、妹の淹れてくれた紅茶
嫌いなモノ:脳筋、弟と比べてくる貴族連中
職業:ルクシアン国魔法研究所所長
得意武器:杖
特技:妹を甘やかすこと
加護:《緑の加護》
ルクシアン四名家の一つ、クローブ家の長男。
ルクシアン国の城に魔法研究所があり、そこで所長をしている。他にもクローブ家は魔法研究に没頭する者が多い。
長男だが、次期当主は最も優秀である弟が務めることになっている。本人はあまり気にしていないが、周りからとやかく言われることは嫌っている。
重度のシスコン。隠すつもりもない模様。
《緑の加護》による、様々な魔法補助効果を使用した広範囲魔法は、戦場でも猛威を奮う。