オブジェクトとの距離5メートル。
主砲、副砲を使うまでも無いこの距離で、オブジェクトの取った行動は単純。
その重量で敵を轢き殺す
ゴゥン、と脚部の車輪が回転し始める。
その回転数は急激に増し、3m程の間に時速100kmを叩き出す。
そして、クウェンサーとヘイヴィアのいた場所を
その車輪に轢かれたモノは、原型もわからない程細切れにされているだろう。
轢かれていれば、の話だが。
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「クウェンサー、生きてるか?」
「ああ、何とかな……。だけど背中が死ぬ程痛い」
「俺もだよ。コノヤロウ」
「オブジェクトは行ったみたいだな……」
「そりゃあ良かった。このままコンビニに行って時間潰してから帰ろうぜ」
「そうしたいけど、多分キャスターに俺達が潰されるよ」
「だよなー。あの女敵前逃亡とか許してくれなさそうだもんなー」
「多分フローレイティアさんも許してくれなかったけど……」
地面に寝転びながら話すクウェンサーとヘイヴィア。彼らは落下した地点から50mほど離れた場所に吹き飛ばされていた。
「にしてもヘイヴィア、一歩間違えば死んでたよアレ。」
「仕方ねぇだろ。アレしか思い付かなかったんだよ。」
彼らがオブジェクトを躱した方法、それは敵が0.5世代をモデルにしていなければ絶対に行えなかった方法。
その場に伏せる。ただそれだけである。
仮にベイビーマグナムと同じ静電気式推進機構やウィングバランサーの用いるエアクッション式推進機構では、下に潜り込んだだけで莫大な電圧によって弾け飛ぶか、エアクッションの巻き起こす風によってズタズタに引き裂かれるだろう。
だが0.5世代をモデルとして造られたこのオブジェクトには、元と同じ設地重量分散式の車輪が使われている。
そして、このオブジェクトはその車輪の集まったブロックを四つ並べた上に球体が乗ったような形をしている。
つまり、そのブロックとブロックの間にスペースが空いており、そこに自分の身体が収まるように身を伏れば轢かれることは無い。
だが、巨大な物体が高速で動く際に起こされる風圧により、オブジェクトをやり過ごしたクウェンサーとヘイヴィアは吹き飛ばされた。
そのまま40m程飛んでから地面を転がり、地面の窪みに偶然嵌った事で、オブジェクトの眼を免れたのだ。
「見え無くなっただけで誤魔化せたという事は熱源や魔力を感知してるって事じゃ無い……」
「そうなると0.5世代と同じか?」
「ああ、恐らく光学センサー、カメラを使っているんだろう」
「そんな所まで0.5世代と同じなのかよ……」
「つまりあの時と同じだ。服に泥付けて行こうぜ」
そう言いながら服に泥を塗りつけていく。
「さて、これからどうするんだ?キャスターの話だと後十回ぐらいしか耐えられないんだろ?」
「でも俺達にはヤツに関する情報が足りない」
「0.5世代と同じじゃ無いのか?」
「主砲の形が違った。それに装甲の材質も既存の物と違う」
「じゃあどうするんだよ」
「調べよう。ヤツに関する情報を集めるんだよ」
「どうやってだ?まさか潜入する訳じゃ無いよな……」
「ああ、そんなことはしない」
上を指差すクウェンサー。その指差す先は、彼らが先程までいた空中庭園。
「あそこで暇してる女帝様に手伝ってもらおうぜ」
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「この赤い所を押せばよいのか?」
「違うそこ押すと電源が切れる!そこの隣だ!」
「ええい紛らわしい!これでよいか?」
「それでいい。聞こえているか?」
クウェンサーは現在無線で通信をしていた。通信相手は空中庭園にいるキャスターである。
「ああ、先程よりもハッキリと聞こえておる。それで何をすればよいのだ?」
「ああ、今敵のオブジェクトがミレニア城塞に引っ込んでいる。上から撮った映像をヘイヴィアの携帯端末に送ってくれ」
「わかった。こうするのだったな……」
カチャカチャと何かを操作する音が無線から聞こえてくるが……。
「なあ、アサシンよ」
「どうした?何か異常でも起きたか?」
「いや、何もしていないのに壊れたのだが……」
「コトミネに代わってくれ」
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「はい、送信していますが、届きましたか?」
「ヘイヴィア、届いているか?」
「ああ、大丈夫だ。これで見れる。」
「助かった、ありがとうコトミネ。」
「いえ、頑張って来て下さい。」
そう言って通信が切られる。
キャスターが後ろで「機械じゃなければ…。」と呟いていたのは聞かなかった事にした方が良いのだろう。
「さて、どうなってやがる?」
クウェンサーとヘイヴィアが携帯端末を覗き込む。そこにはハッキリとオブジェクトやその周辺が俯瞰で映されていた。
「さて、何か見つかるといいんだが……。」
最後の方は決めているけど、そこまでが長い……。