「見つけたか⁉」
「いえ!居ません!」
「何処へ行った⁉探し出せ‼」
数人分の足音が遠くなっていく。
「(…行ったか?)」
「(…ああ、もう大丈夫だ…多分)」
机の陰からクウェンサーとヘイヴィアが這い出してくる。
クウェンサーとヘイヴィアは、逃げる途中にあった部屋に侵入する事で追跡を振り切っていた。
「美女のネーチャンに追っかけられるならともかく、あんな武器抱えた男に追いかけられても何も嬉しくねぇよ…」
ヘイヴィアは足元に転がった
「テメェが赤のキャスターと和気藹々としてるからこんな事になったんだぜ、下手したらとっ捕まってたぞ」
「しょうがないだろ、あのオブジェクトの情報を得るためには必要な事だったんだ。それに有意義な話もできたし…」
「最後が本音だろ、それで、無線は通じたのか?」
「駄目だ、合コンで連絡先を交換した女の子みたいに音沙汰が無い」
「テメェじゃ合コンに行った所でドン引きされるのがオチだろ」
「そういうお前はどうなんだよヘイヴィア」
「"貴族"は見合いはしても集団で合コンする事なんて無いからな」
「あれ、でもお前婚約者が…」
「ああ、だから全部形式的なモンだった。それより、
「できればコトミネか女帝様に指示を仰ぎたかったけど…」
ちらりと床に伸びているモノを横目で見て、クウェンサーは言う。
「本当にどうしよう、コレ…」
恰幅の良い体に金髪、左手には掠れて既に痕跡となった令呪。
ユグドミレニア黒のセイバー、その元マスター
ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが
血溜まりに倒れこんでいた。
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話は数分前に遡る。
「(おい、行ったか…?)」
「(まだうろついてる…)」
ユグドミレニアのホムンクルス達に追いかけられていたクウェンサーとヘイヴィアは現在、偶然落ちていたスパイの必需品、ダンボールによって廊下の隅に身を隠していた。
流石は島国のゲームに登場する蛇も愛用したと言うアイテム、その効果は絶大であり、隠れながら移動しても気付かれる事は無かった。
流石に気付くだろうとは言ってはいけない、古来よりダンボールとはそのような物なのだ。
「(にしてもこのダンボール箱、中身はパソコンだったみたいだな…)」
「(パソコン?魔術師ってのは科学的なモンを嫌うんじゃねーのか?)」
「(そう聞いたけどな、例外もいるって事だろ)」
そんな事を話している間に、周囲のホムンクルス達は別の場所を探しに行ったのか、見当たらなくなっていた。
のそり、とダンボール箱の下から這い出す二人。
「さて、こっからどうするよ相棒」
「そうだな、ひとまずは…」
先程見た光景を思い出す。
「あのオブジェクトに使われていた装甲板、あれが何なのかを探ろうか」
「アテはあんのかよアテは、まさか今からまた仮面野郎の所に戻るって言うんじゃねぇだろうな」
「それだけは勘弁願いたいな、さっきヤツと話していて分かった事がある」
「なんだよ、ヤツの好物でも教えてもらったのか?」
「あの妙な装甲は錬金術を応用して作られたらしい」
「錬金術か…、確かコトミネから渡された資料に書いてあったな」
「ああ、敵のマスターの一人が錬金術師だ」
「名前は確か…」
「ゴルドだ、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。」
「そうそうそんな名前だ、ひとまずソイツを探すってことか」
「そこからあのデカブツを切り崩すヒントを探していこう。しかしどうやって探すか…」
「仮にもマスターだ、軍隊で言えば指揮官みたいなもんだろ。なら他のやつに比べていい部屋を与えられているんじゃないか?」
「そのセンで探してみるか…」
やることが決まれば行動が早いのがバカの特徴である。
隠れながら人の気配のする部屋を探り、それらしい部屋を一つずつ潰していく。
そして…
「おい…!なんだ貴様ら…」
「クウェンサー、こいつが?」
「ああ、こいつのはずだけど…」
椅子にもたれたままなにやら喚いている男に目を向ける。明らかに顔が上気しており、呂律も回っていない。これは…
「酔っぱらってる?」
「おいクウェンサー、ホントにこいつが目的のゴルドなのかよ。本国の居酒屋にこんなの腐る程いたぞ。」
「私を誰だと思っている!ムジーク家当主、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアだぞ!」
「ほら、本人もそう言ってるし」
「まじかよ…、こんなのが黒のセイバーのマスターかよ…」
ふと、興奮で赤くなっていた顔がふっと暗くなる。
「もう私はマスターではない…」
「なんだって?」
「もうマスターではないと言ったのだ!」
興奮して思わず立ち上がるゴルドだが、その拍子に転がっていたワイン瓶を踏みつける。
そのまま足を滑らせ、
ゴッ‼
「うっわ…。机の角にモロに行きやがった」
「血が噴水みたいになってる、これほっといたら死ぬんじゃないか?」
「そうだな、手間が省けた」
「……」
「……」
「って殺しちゃ駄目だ!情報吐かせないと!」
「今の音で位置がばれたかもしれねぇ!おいクウェンサー!一旦机の陰に隠れるぞ!ソイツも引きずり込め!」
「止血は⁉」
「机の陰でやればいい!」
「了解!ってこいつ重っ!」
「何やってんだ貸せ!」
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「それにしても割とあっさり吐いてくれたな、もう少し粘ると思ったんだが」
「拷問紛いの事をされそうになったんだ、素人なら喋るよ」
「本題に入ろうクウェンサー、さっきの情報からヤツを倒す方法は思いついたのか?もう時間も無いんだ、まさかこれまでの時間が無駄になっただけとかは辞めてくれよ」
「大丈夫だヘイヴィア、可能性は出来た。後は命を張るだけだ」
「さあ、あのクソ忌々しいオブジェクトを壊しに行こう」
前回から一年半ぶりの投稿です。その間全く書いていなかったので以前以上に読みにくいかも知れませんが、これからも書いて行こうと思うのでよろしければ読んでいただければと思います。