時は過ぎて深苑が中2の夏
彼女は一つだけ、決めていた。
ひとり暮らしを始めようと決めたのだ。
これはいつもの何故か、ではなく理由のわかるもので、知識として深雪と達也がこれから実質二人暮らしになることはわかっていて、二人の幸せを願うなら、そこに他人のような私自分が入るのは邪魔でしかないと考えたからだ。
まだ今の段階だと、達也と深雪の関係は良くなくて、まだ兄妹のようには接していない。けれど知識上、そうなっているのだからそうなのだろう。そう考えた深苑はもう、その身支度を進めて、四葉家当主に許可を頂いていた。それに母親が反対、父親が反対、なんてことは全くなく、むしろ良かったとでも思っているかのようであった。
ここで、では達也や深雪と仲良くなれば良いのではないか、と思うのかもしれない。しかし深雪は、沖縄へ旅行に来て家族3人分の荷物を持っている達也をちらちらと見ていて、達也が深雪を見ると何故と聞き、何でもないというと
「でしたらジロジロ見ないで下さい!不愉快です!」
と理不尽にも怒っていた。
達也の後ろで自分の荷物くらい自分で持つと言って100リットルありそうなキャリーバッグを転がして、もう一つの手で大きなバッグをもっている深苑のことは、何も思わないようで…というか視界には入っているものの気づいていないような感じだ。
頭の中は年の近い達也のことで、いっぱいいっぱいなのだろう。この様子だとなおさら、深雪と深苑が仲良くなることなんてないだろう。ただでさえ、深苑と深雪はあまり会わない。部屋に引き籠もりっぱなしで色々している深苑のせいである。
だから、この機会は結構貴重であるが、深雪はもともと関わりのない無表情な深苑を好印象に思ったことなんて一度だってなくて、それよりは自分のガーディアンのことを気にしてしまう。当たり前といったら当たり前だろう。
深苑はきっと彼らは唯一無二の存在を築くだろうと少し安心しながら、彼女の表情は無表情にも関わらず、穏やかで暖かくて見守るものであった。
しかし、それとは裏腹に手は彼女の胸元のワンピースの生地をくしゃくしゃにしていた。
幸い、深苑は1番後ろを歩いていたためその姿は誰も見ていなかった。
「お待ちしておりました。」
母のガーディアンの穂波さんが笑顔で出迎える。
穂波さんは、深夜も深雪も達也も深苑も家族として接している。それを見て深雪の顔は少し曇った。きっと、達也や深苑を…いや達也を家族として接することが不満であったのだろう。
全員が、荷物の整理をしている頃
穂波は深苑の部屋の前へ日焼け止めを手にしてやって来ていた。
少しだけ、穂波は緊張している。
何故なら、穂波は深苑とはあまり仲良くないからだ。深夜のガーディアンである穂波は、深雪や達也と会うことが多く、達也とも普通に話せる。達也が優しい声を出すくらいには仲が良い。
しかし、引き籠もりっぱなしで食事にもたまにくるだけの深苑とはあまり話す機会はなく、あの無表情も声も、その波を揺らすことはできていない。だからこの機会に仲良くなろうという意味も込めて、ここにいるのだ。
もちろん、荷物の整理を手伝うというのも来た意味ではあるけど…。コンコンとノックをする。
「失礼します。」
扉を開くと、驚くべき光景が広がっていた。
丸いテーブルには白のテーブルクロスが敷かれ、シンプルなショートケーキが置いてあり、その横には淹れたばかりの紅茶が湯気を立てていた。そんな洋風の雰囲気のテーブルからずれてベッドの横には簡易的な仕事机が設置されており、見たことのないCADが置かれ、机の上の大きなスクリーンには、仕事の依頼なのか沢山の住所が書かれているリストが映っていた。洋風の空間と機械が大半をしめる仕事の空間。
なんともいえない、アンマッチな空間の中、目的である深苑はその仕事机の上に伏せて寝ていた。
しかし、穂波が来たことに気づいたようで起き上がり、
「何か御用ですか?」
と聞いた。まだ現状を把握できていない穂波は少し動揺の色を声音にのせながら
「荷物の整理をお手伝いしようと思っていたのですが、終わっているようですね。せっかく来たのに部屋に引き籠もってはもったいないので、散歩でもいかがでしょう?あっ、でも、お仕事があるのでしたら、よいのですが…。」
と、提案した。仲良くなろうと思っていたのは、動揺し過ぎていて頭から抜けていた。お仕事とはいったが、スクリーンを見て知ったので穂波は深苑がいったい何の仕事をしているかは知らない。机にCADがあったから、きっとそれに関係しているのだろうとはあたりをつけたが。
「いいですね。別に急ぎではないので、散歩をしてきますね。」
深苑は相変わらず無表情だが、日焼け止めを塗るチャンスが来た穂波は嬉嬉として、
「では、お覚悟を」
と無遠慮に深苑をベッドに押し倒した。いきなりのことに驚きを隠せない深苑は穂波を無言で見つめていたが、日焼け止めを塗ってくれることを察して
「あの…あまり見て気分の良いものではないのですが、それでも良ければお願いします。」
と自分の肌にある無数の傷跡を気にして話す。
嫌がらないことに意外だと思った穂波は深苑の傷跡を見て絶句したが、
「頑張った証拠ですよ。」
と笑顔で塗った。内面では、その傷跡について色々と考えていたのだろうけれど、さすがは穂波さんだ。表情には全く出ていない。
そうして、日焼け対策を万全にした深苑は、深夜の許可をもらい散歩に出かけた。因みに、用意していた紅茶やショートケーキはお礼にと深苑が穂波にあげた。それがあまりにも美味しくて後日深苑に何処の店か聞くのは全くもって余談である。
深雪は深苑に興味がない。
そんな感じだから高校生にもなって
自分の姉のことを理解出来ないのですよ。
兄弟姉妹はやはり仲良くないと。
と、個人的に愚痴を溢してみます。
そろそろ用事が近づいてきたので、もしかしたら
2日おきの更新になるかもしれません。
申し訳ありません。