魔法科高校の劣等生の出来損ないの姉(仮)   作:赤影月

19 / 19
深雪視点です。


追憶編6

「はぁっ…」

私はパーティー会場へ向かうタクシーの中で意識的に溜息をつきました。今のうちに憂鬱な気持ちを吐き出しておかないと、もちそうになかったからです。

幸いこのタクシーは無人運転。他人に聞かれることもありません。タクシーの中にはあの人と深苑さんがいます。深苑さんとお呼びしているのはお母様に言われたからです。お姉様と呼ばせないあたりは、お母様も、深苑さんのことを私の姉だとは思っていないのかもしれません。出来損ないと呼ばれるくらいであれば、それも仕方がないのかも知れません。

 

私は幼い頃から魔法の才がありメイドさん方と魔法の練習を行っていました。メイドたちからは

「流石です。深雪お嬢様!」

「まだこんなに幼いのにこんなにお上手だなんて。」

「お嬢様なら、きっと偉大な魔法師になれますわ。」

と褒められました。

一方兄は魔法をあまり上手に使えませんでした。だから、私たちは契約を交わし『四葉』の中に兄の居場所を作り出しました。

しかし、兄と同じく魔法をあまり上手に使えない深苑さんはガーディアンになるでもなく次期当主候補です。四葉では散々出来損ないと言われていますが、彼女はその座を辞退しません。

きっと、これが彼女にとって今ここに居るための居場所を作る大切な立場なのでしょう。まあ、叔母様は、深苑さんを次期当主にするなんて言いそうもありませんが、後数年くらいはもつと思います。彼女はガーディアンも与えられていないので、何かあったとき自分の身を守ることも大変でしょうけれど。

 

ここで疑問なのですが、黒羽の叔父様には深苑さんがお相手するのでしょうか?

もちろん分家にも、深苑さんが出来損ないと呼ばれていることは知れ渡っています。幼い頃、家へいらした方が彼女を見下す視線を送っているのを感じたことがありましたから。

もしかしたら、私がお相手しなければならなくなるかもしれません。そう思うと、少しこの先が思いやられます。

黒羽の叔父様は悪い人ではありませんが…早くに奥様を亡くしたせいかどうなのか、少し…子供自慢が…というか、正直かなり鬱陶しい。そんなことを考えていると、パーティー会場へ着きました。

 

パーティー会場の扉をの前へ着くと

黒羽の叔父様はバーンという効果音が付きそうなほど大袈裟に両手で扉を開けました。

「メンソーレ!よく来てくれたね、深苑ちゃん、深雪ちゃん!!」

にこやかに笑う叔父様の言葉には、深苑さんは入っていても、あの人は入っていません。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」

深苑さんが、挨拶をしたので私もそれに倣ってお辞儀をします。どうやら、出来損ないと呼ばれていても次期当主候補であるためなのかどうなのか、叔父様は深苑さんとは会話をなさるようです。

ということは、自慢話は深苑さんが請け負ってくださるということになるのでしょう。

私は少し安堵した様子を顔には出さずに、深苑さんの顔を伺います。すると、私の目に映ったのは、普段の無表情なんて想像も出来ないほどの笑みを浮かべている深苑さんです。驚いて少し固まってしまいましたが、叔父様が文弥君と亜夜子さんのもとへ案内してくださるので直ぐに表情を戻してついて行きます。やっぱり2人も来ていたのね、とは思いましたが、まぁ、当然のことであると諦めます。

あの人は、護衛なので壁際に控えておくようにと言われてしまいました。私だってわかっています。私もあの人に酷い仕打ちをしていることぐらい…。でも、どうしてなのかしら。他人が兄を使用人扱いするのは、酷く気に触ります。結局いつもそう。私たちの扱いは平等ではありません。

 

「亜夜子さん、文弥君、2人とも御元気?」

2人のところへ着くなり深苑さんが話しかけます。今回はやはり深苑さんがいるおかげで少し身体的にも精神的にもやりやすそうです。私は深苑さんに倣って行動したり、横に並んでいるだけで今のところは済んでいるからです。

いつもの様子とは豹変した彼女は、穂波さんの言っていたように上手であるのでしょう。私も四葉の直系であるのだから少しは見習わなければいけないですよね。けれど、私は今までこのような深苑さんを見たことがありません。

今思えば彼女はお母様が体調を崩されたときに名代としてパーティーにでることが多いと、メイドさん方が不思議そうに愚痴をこぼしていたのを聞いたことがあります。メイドさんたちは完璧に立場をまきわえている人が多い四葉家の中で愚痴を溢しやすい人なのでしょう。よくメイドさん方が愚痴を溢しているのが聞こえます。内容は殆ど覚えておりませんが…。

 

「深苑姉様、深雪姉様!お久しぶりです。」

「お姉様方もお変わりないようで。」

相変わらずね。2人は私より一つ下の小学6年生。私たち兄妹と違って本物の双子です。一つ年下といっても、私が3月生まれで、彼らは6月生まれなので、年は一緒です。だからなのか、どうなのか、昔から亜夜子さんはあからさまにライバル心を向けてきます。

私は少し、服について話しました。

文弥君も亜夜子さんも、この季節にしては厚めの服で少し派手だったからです。

深苑さんは叔父様から文弥君が先生に褒められたこととか亜夜子さんがピアノのコンクールで優勝したこととかを聞いています。私であったら何の罰ゲームかと思うところですが深苑さんは嬉しそうに広角を上げて聞いています。そして、

「では、お祝いをする日時が決まりましたら、お伝えください。今回は何がよろしいですか?」

と聞いていました。今回?日時?いったい何のことかしら。

そんなことを考えているうちに、今回も文弥君がそわそわし始めました。

「ところで、達也お兄様はどちらに?」

と目を輝かせながら文弥君か聞いてきました。

「壁際に控えさせているわ。」

と言うと探し出したのであちらよ、と教えてあげると文弥君は駆けだしてしまいました。それを仕方なくというように振る舞いながら亜夜子さんもついて行きます。

魔法の才には恵まれなかった兄ですが、それにあり余る頭脳や身体能力、特殊技能かあります。それは、男女関係なく憧れるものなのでしょう。見かけの優しさとか、爽やかさとか、甘いマスクとか、そんなものとは無縁だけれど…私の兄は、すごく格好いい。

…って私はいったい何を考えているのかしら!?これじゃあまるで私がブラコンみたいじゃない!

文弥君たちの後ろ姿を見ながら考えたその想いを目をそらすことでかき消してて、再び前を向くと、あの人が文弥君と亜夜子さんに対して笑っていました。嘲笑でも失笑でもない笑みを。私には、あんな笑顔を向けてくれたことはないのに…

「こらこら、達也君の仕事を邪魔してはいけないよ。」

私が愛想笑いを保つために、手を握りしめなければならなかったところに、叔父様が後ろから深苑さんとともにやってきて言いました。叔父様は建前上の挨拶を兄と交わし、仕事へと戻そうとしましたが黒場のガードは無能ではないと熱弁する文弥君と亜夜子さんによって阻まれてしまいました。

言葉が少し詰まっている叔父様ですが、きっと文弥君にあの人に好意を向けるんじゃないと言いたいのでしょう。四葉の次期当主候補である文弥君が、同じく候補である私の単なる護衛役に憧れているだなんて、それは恥ずべきこと、と…。

あの人は所詮ただの使い捨て道具。叔父様のようにそう割り切るのが四葉の人間の正しい在り方で、私はそれを見習わなければならない…あの人は私にとって道具で、愛情を持たないのは当たり前で、私もそうでだから…だから兄は私のお兄様ではなくて…

「はぁ…はぁ…」

少し息がし辛くなってしまいました。ピリッと頭の何処かが痛くなって、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなりました。私は、いったい何を考えていたのかしら…。

もちろんそれは錯覚で、ここは、パーティー会場だということも、わかっています。目の前には叔父様が難しそうな顔をして黙っています。

「では、達也さん。ここは叔父様に任せてあちらを見回ってきてはいかがでしょう?その際、次期当主候補の文弥君にどのような点に気をつけて見回るかを教えて差し上げて?自分で危険を察知する能力が上がるかもしれませんから。」

相も変わらずニコニコと笑いながら深苑さんが言います。それは、文弥君の今後にとっても有益なことであったためか、深苑さんの言葉だからか叔父様は

「それは良い考えだ。どうだい?達也君。」

と上機嫌です。いったい何をどうすれば叔父様をここまで喜ばせることが出来るのでしょう?ここでは、あの人がそれを了承して文弥君を連れて行った。

私は叔父様の兄の扱いは好きではありませんが、それを顔に出してはならないことはわかっています。わかってはいるのですが…

ふと肩に触れられて其方を向くと、深苑さんが無表情からニコッと顔を変えてウィンクしてきました。そうでした。穂波さんにも言われましたね。建前…私も役割として笑っていなければ。

そう思い顔をあげると

「亜夜子ちゃんは、お祝いのケーキは何が良いか考えておいてくれますか?」

と深苑さんは亜夜子さんに笑いかけていた。さっきの日時とかはつまりケーキのことだったの?…待ってください。深苑さんはケーキを作れるのですか?

私が混乱している中、深苑さんは叔父様に

「叔父様今日はパーティーにお招きくださった上に、我が儘まできいてくださり、ありがとうございます。母が参らす、叔父様には退屈な思いをさせてしまったと存じます。僭越ながら、わたくしがお母様の名代を務めたいと思うのですが、一曲、踊っていただけませんか?」

と申し出ていました。その様子は実に優雅で、綺麗でした。

「喜んで」

と彼女の手を取った叔父様は実に嬉しそうでした。

踊っている2人は注目を浴び、深苑さんは特に、若いのにずいぶんな腕前だと賞賛されていた。これには双子も

「流石です、深苑姉様!美しい…」

「ええ、同じ女性としては見習わなければね。」

と褒めていた。(実は亜夜子は深苑をライバル視していない)

踊りが終わると拍手が湧き上がりました。その中には、あの人もいました。チクリと胸が痛み、思わずあの人の視線の先の彼女を睨んでしまいました。幸い、彼女に注目してる人が殆どで私のその姿は見つかることはなありませんでしたが、胸のもやもやが収まりません。

 

 

 

 

 

 

 




最近はあまり、携帯端末に触れることができなかったので、とても更新が遅れてしまい申し訳ありません。なかなか、更新できないので不定期更新とさせていただきます。心苦しいです。
今回は更新できる日にできるだけ書くと決めていたので長くなってしまいました。追憶編はやっと中盤あたりですかね。出来損ないの部分があまり出ていないと教えていただきましたので、気をつけてみましたが少し深雪視点でくどく出来損ないを出してしまったかもしれません。
因みに、深苑が作るお菓子はたいへん好評で分家の方々の心を鷲掴みしています。これも彼女なりの人徳なのでしょうか…。それによってお菓子のことを知っている人から軽蔑の眼差しを受けることは少ないです。
少し顔のマッサージに気合を入れなければならないのですが、笑って愛想を良くすることも可能なので、出来損ないという呼び名は忘れられることもあります。
更新速度が遅くたいへん申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。