照和19年、7月。弦月作戦始動まで四ヶ月を切ったが未だに説得はうまく言っておらず、無駄に時間だけが過ぎっていった。
そして、官邸に来るように言われたので、そこで最後の説得を行うつもりだ。
もし、自分の話がわかってもらえないのなら、ギアスを使い手駒にする。なるべく使いたくないが話にならないので仕方がないと割り切って話し合いに臨んだ。
「大高総理。どうしても、許可は出せませんか?」
「出せません。核兵器を使いロスアラモス研究所を吹き飛ばす作戦など」
敵国とはいえ、核を落とすのに抵抗があるらしい。相手の事より自国のことを考えろと大声で説教したかったが我慢した。あいかわらず潔癖な人だ。
「しかし、研究者事始末すれば相手の研究を遅らせることができます。我が国の安全上悪くない策です。それにこちらに核兵器があれば向こうも使用をためらいます」
「核兵器を互いに使ってしまい、世界が滅びる可能性のが高い。絶対に反対です」
「……わかりました。そこは閣下の意志を尊重させていただきます」
怒ってくれればやり易いのだが、向こうもひどく冷静に対処してくるからやりづらい。
それに核兵器の件は断固反対してくることは予想していたので、こちらが妥協する予定だったので問題ない。
「それでは講和を結ぶ為に上陸作戦を実施したいのですがよろしいでしょうか?」
「それは無理です。陸軍にそのような余裕はありません。無謀です」
「だれも本土を制圧するとは言っていません。占領するのは西海岸付近とパナマです」
「何ですと!? 東海岸は兎も角、パナマは例え占領しても維持するのは無理です」
キョウが作戦案を見せて説明すると大高が驚愕する。
パナマはハワイからでもかなりの距離がある。例え占領できても補給が続かないからだ。
「パナマは占領してもすぐに撤退できるようにしておきます。しかし、講和に持ち込むには何らかの手立てが必要です。そこで、東海岸一帯を占領してそこから爆撃機を使い工業地帯を破壊します」
「米国の強みである大量生産力を弱らせる作戦ですか……。確かにうまくいけば講和に持ち込める可能性もあるが、逆に彼らの戦意を煽る恐れがあります」
「問題ありません。その為にも徹底的にやらなければいけません」
農耕民族である日本人と狩猟民族である白人ではDNAが根本的に違うのだ。力を示めさないと彼らは認めてくれない。
「戦争は勝たなければ意味がないのです。負けたら全てを失うのです」
史実の日本は戦争に負けて何かも失った。日本人としての誇り、自主独立の国家。そして、ありもしない罪をでっち上げられ、そのことで戦後外交的にも苦しむはめになったを見てきた。
「それはわかります。しかし、米国本土上陸はリスクが高すぎます。その案は呑めません。パナマ運河に関しては作戦通りに行います。他も予定通りに行います」
「どうしても、ロスアラモス研究所の案を了承してくれませんか」
「だめです。前原君が数日で本土に戻ってきますので、あなたも同席してください」
大高は話し合いは終わりだと言わんばかりに資料に目を通し始めた。やはり、認識の差が開きすぎていて話にならなかった。
最早、話し合いは不用だ。有能の能力をこれからは国と自分の為に使ってもらおう。
「大高総理。ちょっとよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
大高がこちらに顔を向けた瞬間ギアスを発動させる。
「俺に従え」
「はい」
無機質な声で大高が同意する。
こうして、俺は大高を手駒にすることに成功した。そして、普段はその能力を存分に発揮できるように命令しておいた。政治の矢面に立たせるためだ。実質的な支配者は俺だがな。
次に大高に高野を呼ぶように命じて、高野がやって来たところにギアスをかけて同じ様に手駒にする。そのあとも政治家や軍人にも次々とギアスをかけていき、大本営の軍事力も掌握した。
こうして、俺は日本全体を影で支配することに成功した。
「これで全て終わった。あとは米国との戦争をいかに終わらせるかだが、反戦ムードを盛り上げて、工業地帯を爆撃して講和に持っていくお決まりのパターンしかできない……。いや、待てよもっといい方法があった」
ふと妙案が思い浮かんだ。この方法ならあまり金をかけずに相手を弱らせることができる。おまけにこちらの仕業と相手も思わないから、講和を結びやすい。最も被害は空襲をしたときよりも格段上がるが敵国の人間まで思い遣ってる余裕はないからな。むしろ弱体化してくれるから好都合だ。
幸いこちらが戦況は優勢だ。ここで決定打を与えれば向こうも多少不利でも講和してくるだろう。アメリカはイギリスを見捨てるわけにはいかないし、ナチスの思想は受け入れがたいからな。欧州ではドイツが史実とは真逆に破竹の勢いで勢力を広げているこの世界はそっち方に集中したいだろうし。
「俺がこの戦争終結の切っ掛けを作ってやるよ。これで少しはあの国もおとなしくなってくれるだろう」
キョウは意地の悪い表情を浮かべながら、さっそく作戦に必要な物を準備すべく本社に戻って行った。
絶好調な日本と違い米国では敗戦の連続が国に影を落とし、厭戦気分が蔓延していた。
政府首脳陣は最初余裕で勝てると思っていたが、予想に反して連戦連敗。開戦から3年経ったいまでも日本に対して徹底的な勝ちを得られずにいた。
さらにナチス第三帝国の進撃もあり、欧州方面にも軍を送っているがそちらも空襲等に失敗しつづけている。英国を見捨てるわけにはいかないのでそちらの戦力を容易に割くことができない。
だから、閣僚の中には日本と講和して、欧州方面に集中すべきではないか? という意見が多数を占め始めていた。
「大統領。このままでは議会を抑えるのが難しくなってきます」
「……わかっている。負け続けで勝ちをあまり拾えていない以上厭戦気分がでることはな……」
ヘンリー・ルーズベルトは溜息をつきながら秘書に愚痴をこぼした。
「作戦本部には二正面作戦は戦略的に無理があると言ってくる者もいます。このままでは、野党がうるさく言ってくる可能性もあり、対日戦への理解が得られなくなる可能性も」
「今の戦況で日本との講和などありえん! あくまで我らが勝ったという事実がなければな。それを得るにはやはり原子爆弾しかない。ロスアラモス研究所に繋いでくれ」
切り札である原子爆弾さえ完成すれば、こちらの勝利は揺るがない。それまで、敵の攻勢を阻止できればいいのだ。また、大統領として就任中に対外戦争に負けたという汚名を受けたくない思いも重なって、講和に応じることができないのであった。
この時日本では政治を指揮する者が密かに変わっていることを知らずにいたことは、ある意味幸せであったと云えるだろう。もう少し早く講和をしていればあのような被害にはならなかったのだが、この時は知る由もなかった。