特に時系列とか気にせずお読み下さい。
「ほれ、これやるよ」
「何よこれ?変な臭いするんだけど?」
「チョコだよチョコ、チョコレート」
「ちよこれいと?何よそれ」
やっぱり霊夢には馴染みのない文化か。西洋のお菓子を配る、なんて催しものは。この様子だとハロウィンとかクリスマスとかも馴染みないかもな。でも、あんまりそういう文化にがっつかれると困るんだよなぁ。いちいち渡す物の内容考えないといけないし。
「西洋……、あーレミリアとかが生まれた地方のお菓子だよ」
「へー……。で?なんで急にくれるのよ?」
「現世ではこの時期には好きな人とかお世話になってる人にそのチョコレートとかお菓子を渡す風習があるんだとよ。だからわざわざ紅魔館で咲夜に習いながら作ったってわけだ」
真実はお菓子業界の策略らしいが、こういったものは楽しんだもの勝ちだ。それに幻想郷にも西洋圏の文化を知っている奴も増えてきている。そうなってくるといつ霊夢の耳に入り、無理難題を吹っ掛けられるかもわからない。そうなる前に無難なものを提供すれば、無理難題は吹っ掛けられない、という算段だ。
「ま、本当は女性の方から男性に渡したりその逆だったり、渡す物によって意味が変わったりするらしいけど、細かいことは気にしなくていい。今日の所は苦労することなくおやつが手に入ったと無邪気に喜んどけ。俺はこれから普段世話になってる人にチョコレート配ってくるから」
「ん、行ってらっしゃい」
「おう、行ってきます」
互いに手を振り家から出ると、そこには魔理沙と萃香がいたので、チョコを渡しておく。普段世話になっているわけではないしむしろ逆だが、時たま役に立つことがあるから渡しておいてやろう。渡さなければどうせ後でたかられるのは目に見えてるのだ。なら問題が起きる前に対処するのは賢い選択といえるだろう。
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「慧音先生、こちらどうぞ」
「?ありがとう、これはなんだ?」
「チョコレートというお菓子です。普段からお世話になっているので」
「普段世話になっているのはこちらだと思うんだがな……。ん?二つないか?」
「ああ、それ妹紅さんの分です。迷いの竹林まで行って出会えるとは思えないんで、定期的に来るここに預かっていただければ、確実に渡せるでしょう」
「そういうことか。なら預かっておくとしよう」
「頼んます。んじゃ俺はこれで」
「うむ、感謝するぞ」
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「どうも、ご無沙汰しております、稗田様」
「そのように畏まらないでください。ここにいるのは私と貴方だけ。であれば立場を気にする必要はないでしょう。ここにいるのはただの阿求とただの白鹿だけ」
「と、すいm……悪い。どうも立場を重要視するこの場所だと気持ちを切り替えられないし、お前の前だと、俺が年上だと思えなくなるから、どうしても敬語で話しちゃうんだよな」
「数年来の長い付き合いなんですから、そろそろ慣れていただきたいんですけどね」
「はいはい、考えておきますよ」
「で?本日のご用件は?何か急を要する事件でも起きましたか?」
「いえ、ただの贈り物ですよ。外来の風習でお世話になってる人に渡すらしい、って聞いてな」
「なるほど、ではありがたくいただきましょう」
「では、用件はこれだけなんで、帰るわ。他にも渡す人が沢山いるから」
「はい、ご機嫌よう」
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「お、アリス」
「白鹿じゃない。どうしたのよ?」
「ほらこれ。お前ならある程度どういう行事か知ってるだろ」
「えっ………、もしかしてこれ、バレンタインのチョコレートなのかしら?」
「普段世話になってるから、そのお礼にと思ってな」
「お礼?」
「そうお礼」
「告白とかじゃなく?」
「あーそっか。そっちの風習だと男性から渡すのが通例だし、普通なら告白と捉えられるか。申し訳ないが、これは告白を意味する物ではなく、普段のお礼とした謂わば御歳暮に近い物だと考えてくれ」
「あらそうなの、残念だわ」
「残念がるもんか?お前が?俺に?」
「長年生きているとそう言った刺激に飢えるものよ。たとえ相手に恋愛感情がなくてもね」
「そういうもんか」
「そういうものよ」
「これはそういった恋愛とは無関係に甘いもんだ。できれば後で良いところと悪いところを教えてくれるとありがたい」
「こてんぱんにこきおろしてあげるから覚悟しておくことね」
「お菓子は専門外だからお手柔らかにお願いしたいわ」
「じゃあ、また今度あなたの家にでもお邪魔して一日みっちり教えてあげるわ。貴方を三流程度のパティシエにしてあげる」
「三流程度って………」
「パティシエ舐めるんじゃないわよ」
「料理の腕が上がるのは大歓迎だから構わないけど、程々にしてね」
「わかってるわよ。じゃあね」
「おう、また」
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「蛮奇じゃん。ご無沙汰ー」
「白鹿か、ご無沙汰。どしたの?」
「外の風習でこの時期に菓子を配るから、それに倣ってお前らにあげようとな」
「こんな下々の奴にまでマメだねぇ。博麗の関係者はマメじゃないと生きていけないのかい?」
「別にそんなことはねえよ。ただ世話になってるから恩返し、それか恩の押し売りだと思っとけばいい。何か困ったことがあれば助けてくれよな」
「そういうことならありがたく頂いとくよ」
「これ、姫と影狼の分。犬にはチョコレートあげれないって聞いたから、人間と同じ物食べれないようだったらこっちの別の包みのやつやってくれ」
「はいよ」
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その後も知り合いに配り歩き、人里でおおよそ配り終えたころでまだ渡せていない者がいることに気づいた。
「紫、見ているんだろ」
「あら、よく私が見てると気づいたわね。もしかして霊夢の直感がうつったのかしら」
「別に。ただ紫だったら見てるだろうな、って思っただけ」
「成程ね、信用してくれてるのかしら」
「長い付き合いだからな。ほらこれ」
「ありがとう。大切に食べるわ」
「藍と橙の分もあるから一人で全部食べんなよ」
「ふふ、息子の愛情を独り占めしたかったんだけど、忠告されてしまったら我慢するしかないわね」
「意地汚いことすんじゃねーよ」
「はいはい」
「そろそろ家に着くから」
「ええ、またね」
「ん、また」
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家に帰ると何やら甘い匂いがする。昨日から今日にかけて嗅ぎ慣れた匂い、すなわちチョコレートの匂いが漂っている。ふと自分の匂いを嗅ぐとやはり同じような匂いがするため、家から漂っているわけではないのかもしれない。しかし家の、しかも台所の方から香る匂いはどう嗅いでもチョコレート。疑問に思った俺は台所に直行する。そこにいたのは普段は俺が着ている割烹着を着た霊夢が魔理沙と咲夜と一緒にチョコレートを作っていた。
「お前ら何してんの?」
「あらおかえり。見ての通り貴方が作ってたやつと同じ物よ」
「白鹿にはいっつも飯食わせてくれるからな。そのお礼にな」
「私はそこの二人が作りたいからと教師役をする羽目になっただけです」
「いやぁ、急に霊夢がチョコレート作るから手伝いなさい、なんていうから吃驚しちゃったぜ」
「ちょっと!言わないでよ!」
「私の所にも急に来て、チョコレート作るから手伝いなさい、って同じ事言って強引に連れてこられました」
「もう!言わないでったら!」
「そうかそうか。ありがとうな霊夢」
「頭撫でないで!」
「そういうことですので、ここは大人しく茶の間で出来上がるのを待っていてください」
「うんと美味しいの作ってやるぜ!」
「食べなかったら許さないんだから!」
「はいはい」
赤面する霊夢にホッコリしながら茶の間に移動する。時間はもう日が沈む間近、夜の帳が下りる頃だ。晩飯の支度をしたかったが、これから食べる物で十分だろう。
ちなみに、霊夢達が作ったチョコレートは俺が作った物より美味しくて、悔しくて少し泣きました。