嘘をつくときは、嘘と事実を織り交ぜつつ印象を誘導することが重要らしいが、これも似たようなものだろう。幽々子様と妖忌の様子を見る限り、妖夢に関する世話はほぼ全て妖忌が受け持っているみたいだ。あやし方も慣れている。
俺も育児はしているからある程度のことは分かる。この人は家事と育児をこなしつつ、さらには自分の時間もキチンと確保できているスーパー主夫だということを!本当にすごいわ。整然と並べられている瓦、雑草1つ生えてない物悲しくもどこか厳格な雰囲気を醸し出す庭。これだけ広そうな豪邸を、広大な庭も含めてしっかりと管理されているのだから、すごいとしか言いようがない。幽霊が住んでいる屋敷なのに幽霊屋敷とは言えないほど綺麗だ。
泣くことを我慢していた妖夢が、赤子の仕事はこういうことかと主張するみたいに大声で泣き始めた。先程から泣き始める予兆みたいに、声が出ていたから、泣きそうだということは理解していたが、ついに防波堤が決壊したらしい。
「妖忌、早く妖夢を渡してちょうだい」
「頼みましたぞ。どうもこういうことは不得手でして……」
「あー、はいはい。いい子でちゅね~。よちよち~」
幽々子様は俺から手を放すと、妖忌が背負っていた妖夢を優しく受け取ると、妖夢の泣き声の音量はどんどん低くなっていき、最終的には泣き声が笑い声に変わるまでにそれほど時間はかからなかった。
紫母さんが「手を繋いであげましょうか?」って言い出したけど、いいです。大丈夫です。遠慮します。先程までの状態は、その場の流れで手を繋いでいただけであって、別にしてほしいわけではないので、気にしなくていいです。だから落ち込まないで。自分の手を見つめながら「私ってそんなに母親してないかしら?」とか自信なくさないで、少なくとも俺の中ではまだ立派な母親だから。まだ呼び捨てにするレベルではないから。まあ、もう少し家事とか育児とか頑張った方がいいと思うけど、藍お母さんに少しだけ頼り気味なところあるし。
「じゃあ、今日はここでお話ししましょう?妖忌、お団子よろしくね~」
「あの量を本気で今日だけで食い尽くす御積もりで?」
「当たり前じゃない。せっかく紫が遊びに来てくれたんだもの。それなりの物を出さなくちゃ」
「はぁ……畏まりました。1人では全てを一度に運べないので何度か分けて持ってきます。ご了承ください」
「なら、なるべく早く持ってきてね?食べてる途中で待つなんて私嫌よ?」
「承りました」
大変だなぁ、と思いながら屋敷の奥に消えていく妖忌を見送り、幽々子様に促された縁側に紫母さんの隣に座る。今日はあくまで俺はおまけ、メインは紫母さんと幽々子様の会合にある。会合といっても堅苦しいものではなく、ただ単に談笑しに来ているだけだけど。
「お待たせいたしました」
俺の隣にコトリ、幽々子様の隣にもコトリと置かれたお皿は同じ音をたてたにも関わらず、団子の量は幽々子様の方が見るだけで満腹になるほどに何十倍も多い。
「はやいですね」
「これくらいの事、大したことはない」
量もさることながら、持ってくるまでにかかった時間も驚異的で思わず声が出てしまった。
「みんな揃ったことだし、そこの子に自己紹介してもらおうかしら?」
「え?」
まじで?こういうの嫌いなんだけど?本当にしなくちゃいけない?ああ、紫母さんからもゴーサイン出ちゃってるし…………。
「びゃくろく、3
「ちゃんとできたじゃない。偉いわ」
「
そういえば俺の名字って何なんだろうか?さっきは名前だけしか言わなかったけど、普通は名字はあるものだよね?それとも現代よりも昔だから、普通の人にはないとか?確か易者とか名字なかったよな?いやそもそも易者自体が姓を捨てたとか?それとも何かの役職名とかで本名は別にあるのか?あんまり詳しいことは知らないから、何とも言えないなこれ……。
「この子は博麗白鹿。将来は次代の博麗の巫女、博麗霊夢の補佐を担当してもらう予定よ。補佐といってもやることは事務処理が主だろうけど」
「ほう、博麗の補佐、ですか……」
「へ~、面白いことを考えたわね。補佐なんて今まで貴女達がやってたじゃない。どうしてそんなことをしようと思ったの?」
え?俺そんなことするの?事務処理って、もしかして書類仕事ですか?博麗神社の財政の管理しなくちゃいけないの?帳簿付けるの?やだ……俺ますます主夫になっちゃう。
「ただの成り行きよ、初めはね。ただ育てていくうちに絆されちゃったのよ。赤ちゃんだった頃は色々と苦労したけれど、私に向けて笑ってくれるだけで、疲れなんて吹き飛ぶわ。親馬鹿な発言だけど、自分の子供は一番可愛いと思うわ。だって自分の子供だもの」
ちょっと止めてくれませんかね?俺の心にダイレクトアタックするの。俺のライフはもうゼロよ!
こんな風に思ってくれるのは嬉しいよ?でも嬉しすぎて恥ずかしいんだよこっちは。こういうのは苦手なんだよ。
「あらあら、お母さんはこんなに可愛がってるのに白鹿君はお母さんに何も言ってあげないのかしら?」
YA☆ME☆RO!もうこれ絶対に死体蹴りじゃあありません?ライフマイナスに突入するんですけど!紫母さんは期待してるし、幽々子様は面白がってるし、妖忌は…………何というか憐憫かな?同情するなら変わってくれ。
ああ、これも逃げれないパターンですね。分かりたくありませんが分かりますとも。はぁ。
「だいすきだよ、かあさん」
紫母さんにも、誰にも顔が見られないように抱きつく。ついでに腹いせに腹回りのお肉のつき具合を調べてやろう。せめて顔が赤面から回復するまでは。
「どうしたの?紫?顔を隠しちゃって」
「……今初めて神に感謝してる所よ。うちの子可愛すぎ、鼻血でるわ…………。治まるまで待ってもらえないかしら」
「しょうがないわねえ。ちょっとだけよ?」
「ありがと」
俺と紫母さんは割とすぐに回復した。少しの火の粉で大爆発するが、触れられなければ問題ない。
「私達の事、まだ言ってなかったわね。私は西行寺幽々子。冥界を管理する幽霊で、この白玉楼の主。趣味は食べることよ。今さらだけどよろしくね?」
「儂は魂魄妖忌。この白玉楼で庭師と幽々子様の剣術指導仰せつかっておる。といってもやっていることは家政婦と変わらぬがな。ときに八雲様、よろしければこの子に剣を仕込んでは如何でしょう?将来博麗の巫女の補佐をするのでしょう?それは無力であれば決して役目を果たせないでしょう。なればこそこの子を鍛えるべきだと愚考いたします」
「あらそれはいいわね。お願いしていいかしら?」
まさかのノータイム返答である。やめてください死んでしまいます。この歳からそんな過酷に鍛錬したら、体が壊れるのは目に見えるんですけど。
「頑張りなさいね。今ここで頑張らなくちゃ今後死ぬかもしれないんだから」
過酷な人生設計をうちの母親は御所望らしい。だが死にたくないのも事実。ここは不満をグッと堪えて、心機五転くらいして頑張りましょうかね。母の愛情に応えるのも息子の大事な仕事だしな。
「
「妖忌、できるだけ厳しくして頂戴。一日一回死神と対面するレベルで」
「畏まりました」
仕返ししたら、今後の生活が地獄になりました。
誤字脱字がありましたら報告をお願いします。
それではおやすみなさい。
追記、修正箇所があったので報告を
前:母親してないかしたら?
後:母親してないかしら?