霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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お待たせです!


第22話

「なあ一つ頼みがあるんだが聞いてくれないか?」

 

姿を現したわかさぎ姫に俺は用件を切り出した。

 

「何よ?それよりも先に服をきちんと着てくれないかしら?」

「おっと悪い。忘れてた」

 

目元を隠しながら懇願するわかさぎ姫に嗜虐心を刺激されながらも、腰元の結び目を解き服を着なおす。多少皺ができてしまったが、洗濯すれば元に戻るか。

 

「着なおしたぞ。これでいいか?」

 

両手を広げ、ちゃんと服を着たことをアピールし、わかさぎ姫は赤面したまま恐る恐る目をこちらに向けた。

 

「よかった、きちんと着てるわね。それで頼みごとというのは何かしら?先に言っておくけれど、私の血肉はあげないわよ」

「お前の肉は欲しいけど、今は違う。この湖に島があるだろ?そこまで運んでほしんだ」

 

人魚伝説には、人魚の肉を食べると不老不死になるとか、人魚の血は万病を治す妙薬になるとか、とにかくエリクサーとか以上に価値のある、とても貴重な薬そのものなのだ。欲しいことに変わりはない。しかし本題はそこではない。今俺は霊夢を追いかけなければならないのだ。不老不死の薬は、後日採取できるものなら採取しよう。

 

「でも私飛べないわよ?泳いだら早いけど、貴方を抱えて泳げば貴方が溺れちゃうわ。水死体を運ぶ趣味は私にはないのだけれど?」

「泳げば速いのか…………」

 

抱えて泳げば俺は死ぬ。しかし泳げば早く島に着く。結果としてわかさぎ姫が泳ぎながら俺は抱えられずに島まで行くことができればいいわけだ。

 

「ならば、俺は水中にいなければいい。なあ、そこで真っ直ぐ水面で伸びをしてくれないか?」

「?いいけど、何をするの?」

 

俺の言った通りに、水面と体が平行になった水泳とかの授業でよく見る基本的な姿勢になった。人魚で泳ぐことが得意なためなのか、その流線型の姿勢はとても整っていて綺麗だ。俺はその状態のわかさぎ姫に飛び乗った。

 

「さあ行け!人魚という名のサーフボードよ!今こそその推進力を生かし幻想郷のために働くのだ!」

「イラッ」

 

何に憤慨しているのか知らないが、急にわかさぎ姫が暴れだし、俺は湖に落ちてしまった。冷たい水に心臓発作を起こすと思ったが、幸い心臓が止まることはなかった。冷たい水を浴びるときは足先から心臓に近い部位にかけていくのがセオリーだというのにこの魚類はわかっていないらしい。

 

「何するんだよ!?危うくどざえもんになるところだったぞ」

「こっちこそ何すんのよ!背骨が砕け散るところだったわ!しかもサーフボードって何よ!?既に生物じゃないじゃない!せめて降格するくらいなら、人間から家畜やら、できれば魚類にしてほしいものだわ。ほら、私人魚だし?」

 

足、というより尾びれをバタつかせ主張する仕草は可愛らしいが、ならばどうすればよいか代案を寄越してほしいものだ。ずぶ濡れになってしまった体を乾かすために陸に上がろうとし、背後からわかさぎ姫が声をかけてきて少し動作が止まってしまった。

 

 

「ねえ、知ってる?」

 

豆しばか?

 

「人魚姫伝説には様々な物があるけれど、不老不死とかそういうの以外にもあるのよ?例えば──」

 

声が傍まで聞こえた。ゆっくり近づいて来たらしい。よくわからない緊張感によって動きを止めていた俺は襟元をわかさぎ姫に掴まれた。

 

「人を水底へ誘う伝承もあるのよ?」

「ちょ!ごぼばばっばばばばば!」

 

襟を掴んだわかさぎ姫はそのまま、世界記録保持者も真っ青なレベルの超高速で泳ぎだした。正直息できないから何も考えれない。圧倒的に脳に酸素が足りないせいで思考が鈍っていく。ヤバい水飲んだっ。せめてもう少し速ければ、水面が俺の体を弾いて息を吸うことができるんだけどな。

 

「やられたからには相応の罰を与えないとね!」

 

陸について這う這うの体で這う。無様だなんだと言われようとも今は酸素と熱量が欲しいのだ。ああ陸が心地いい、日光はないがそれでも少量の熱を含む土から体温に変換していく。

 

「あはは……、ゴメンね?やりすぎちゃった?」

「やりすぎちゃったんだよ。湖を渡るより先に三途の川渡るところだったわ」

 

なんで俺は事あるごとに死の淵に立たされるのだろうか?いつかは三途の川にいる、サボり癖の死神に会いそうだ。

 

「まあ、こっちもいきなりお前に飛び乗って悪かったよ。申し訳なかった」

「ならこれでお相子で、仲直りね!」

「おう。こっちまで運んでくれてありがとな。助かったよ」

 

握手して仲直りなんて、前世での幼稚園にいたとき以来だわ。少し照れくさいが差し出された手には応えねばなるまい。

 

「ふふっ、ありがと!それにしても貴方なんて言うか……力強さ?雄々しさ?生命力?とかそういうのが感じられないわね」

「もしかして俺貶されてる?さらっとディスられてる?まだ怒ってる?ごめんなさい許してください何でもしますから……」

 

とりあえず謝るが、なんでこんな風に怒られてるのだろうか?

 

「いや、別にそういうのじゃなくてね?なんていうかね?妖怪である私達からすればあんまり美味しそうに感じないの。他の人ならもう少し美味しそうに感じるのに…………なんでだろ?」

「知らないよ、そんなもの。いい加減その他人よりも劣ってる発言やめてね?俺のガラスのハートを砕こうとしないで。もう既にひび割れて危うい状態なのに……」

「ごめんなさい、違うのよ。貶す気はないの」

「つまり無意識で貶してたわけね……」

「だから違うわよ!」

 

必死に否定する姿はさらに確信的にさせられるが、こういう時は触れずにおくべきだろう。否定すればするほど頑なに否定するものだ。

 

「まあ、いいや。今度この異変が解決された後にさ、宴会やるんだ。よかったら来ないか?助けてもらった恩もある。俺が異変を解決することは万が一にもないけど、俺は異変を解決する側の人間だからな。宴会に数人増えたところで誰も気にしないだろ」

「でも、私飛べないわよ?」

「なら、友達に連れてきてもらえ。それとも送迎を希望か?」

 

送迎の場合、宴会前日に迎えに来て、一晩風呂にいてもらうか、桶を水槽代わりにしてもらう等の屋台で貰った金魚さながらの扱いになってしまう他ないのだが、それでいいだろうか?

 

「ちなみに送迎の場合誰がどうやって運ぶの?」

「俺が、俵抱きで、徒歩で運ぶ。多々危険だが、耐えて生き抜け」

「なら友達に運んでもらうわ。友達も宴会に来ちゃうけどいい?」

「かまわんよ。誰も気にしないし、主催は俺と霊夢、博麗神社だ。それの片割れが了承してるんだ。しかも俺あれだぞ?あの巫女の兄貴だ。多少の融通は効かせることができるさ」

 

せこい言葉ではあるが事実、霊夢はなんだかんだで俺に甘いからな。俺も霊夢に甘いし。

 

「じゃあまた宴会のときに会いましょう?」

「そうだな」

 

俺はそのまま紅い洋館の方へ行こうとしたが呼び止められ、つんのめってこけてしまった。

 

「大丈夫!?」

「問題ないよ、気にすんな。で何?」

 

そうだよなんだよ、急に声かけられたからこけたじゃん。怒ってるわけじゃないけど、何となく損した気分だ。

 

「名前教えて!」

「えーそれだけかよ?」

「名前は大事よ。私はわかさぎ姫よ。人魚で力なんて弱い妖怪だけどよろしくね。貴方の名前は?」

白鹿(びゃくろく)、博麗白鹿だ。博麗の補佐だが、力が弱いどころか皆無だ。よろしく」

 

去り際に自己紹介なんて変なものだけど、笑顔でサヨナラできたんだから、いいことだよな。




誤字脱字ありましたら、お願いします。

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実はわかさぎ姫は出す予定はありませんでした。ただ主人公に猛スピードで水面を走ってほしかったから出しちゃったwww
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