霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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久々に一日で仕上げたぞ!
今回は多少残酷な描写?があるかもしれません。

これを残酷な描写といっていいのかは不明ですが…………。


第36話

「じゃあ、買い物行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」

「何か欲しいものあるか?」

「んーん」

「了解。じゃあ行ってくる」

 

買い物かごを持って玄関から出る。雲一つない青空に、首筋を撫でる冷たい風は気持ちをしゃんとしてくれるが、比例して背筋が丸くなる。秋も終わりに近づいてそろそろ冬になるというこの季節、前回の紅霧異変から何も変わることのない日常へと戻り、今日も今日とて俺は人里へと赴く。

 

「気を付けてね」

「ん?おう」

 

珍しい。普段は行ってらっしゃいと手を振ってくれるだけなのに、気を付けてと心配されるとは。霊夢が何かしら直感でよからぬ何かを感じ取ったのかもしれんし、今日は何か嫌なことが起きそうだ。

といっても、お天道様は元気に照り付けてるし、雨の匂いも…………うん、しないな、けど一応傘を持って行こう。秋の空と女心は変わりやすいって言うし。

 

「あらお早いお帰りで。どうしたの?忘れ物?」

「霊夢が気を付けてっていうから傘持って行こうかなと」

「そういうことね」

 

出戻りに気づいて霊夢が怪訝にしたけれど、理由を言えばあまり納得していない様子だった。もしかしたら雨は降らないのかもしれないが、持っていて損はないだろう。もしかしたら降るのかもしれないし。こういうとき、折りたたみ傘って便利だと心底思う。いるかいらないかわからないとき荷物にならないから。

 

さて、今日の昼と夜のご飯は何にしようかな。

 

 

 

なんて思ってたのが今朝の出来事。朝と比べて不機嫌な空模様。ぽつりぽつりと降る雨と朝より冷たく湿気を感じる風はこれからさらに雨が強くなることを教えてくれるが傘を差す余裕なんて今の俺にはこれっぽっちも持ち合わせていない。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「クソッたれぇぇぇ!!!」

 

買い物が終わり戦果も上々といったところで陽気に帰宅している途中で、妖怪に遭遇してしまった。それはまあよくあることと言えばそうなのだが、今日に限って足の速いそこそこの強さを持った妖怪に見つかってしまった。さらに傘なんて余計な荷物も持っているから走りにくいことこの上ない。

 

買った物も傘も捨てるわけにはいかない。食材より俺の命の方が大事なのは確かだけど、それでも食材が大事なのは変わりない。傘なんて今日買った食材よりも高価なのだ。傘だって現代の百円傘なら捨てたかもしれないが、幻想郷にそんなものはない。この傘だって結構高価な代物だ。だからたとえ走り難くったって捨てる気にはなれない。現代人が忘れたもったいない精神は俺の中にちゃんとあるのだ。物は簡単に捨ててはいけないってばあちゃんも言ってたし。

 

「おうっぷ!!」

 

最悪だ!雨のせいでぬかるんだ土で走り辛いのも相まって、木の根に躓いて転んでしまった。

 

転んだ拍子に投げ出してしまった買い物かごから買った物が溢れ出す。それがやけにスローモーションに見える。

 

先ほどまで追っていた妖怪の足音が俺のすぐ後ろまで迫っているのが聞こえて、まさかこんなところで死んでしまうなんてと思ってしまう。

 

やり残したことなんて沢山ある。霊夢の花嫁姿、白無垢姿見たかったし、相手に向かって俺の娘はやらんとか言ってみたかった。あ、そういえばへそくり隠してたんだった。どうせなら盛大に無駄遣い……いや家具の新調とか便利な掃除道具とか買えばよかった。霊夢、普段着とか無頓着だから新しい服とか振袖とか買っとけばよかった。あ、そういえば倉庫にある漬物そろそろ食べ頃だわ。そういえばそろそろ藍の尻尾冬毛に代わるから櫛を仕入れないといけないし、年末の準備そろそろ始めないといけない時期だわ。ていうか早く河童と遭遇して、電化製品神社に導入したい。

 

バキリと後ろで音がして振り返るとそこには妖怪と足元には妖怪に潰されて見るも無残な姿になった俺の傘…………。

 

 

「俺の傘ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!おまっ、お前何してくれてんだよ。その傘高かったんだぞ!!ああクソ、こんなことだったら傘じゃなくて笠かぶってくればよかった!いや、それじゃ買ったもんが濡れるか……。ていうか弁償しろよ!その傘珍しく新品なんだぞ!中古だとすぐ壊れるかもしれないからと思って新品買ったんだぞ!日々節約してようやく買えた我が家に一本しかない貴重な傘なんだぞ!それをお前折りやがって!最近やっと毎日の食材をちょっとずつ良いやつにしてるのに!また節約しなきゃいけないじゃん!責任取れ!責任!」

「■■■■!」

 

こいつに笑われた気がする。いや表情なんて全然わからないけど何となく鳴き声がそんな風に聞こえる。俺の意訳で「知らねえよ馬ァ鹿」とか言ってる気がする。コロシタイ。

 

なんかもう自分が今絶体絶命の危機なのはわかってるんだけど、今だけは怒りの方が強い。どうにかして一矢報いたいというか、できればこいつを苦悶の表情を浮かばせながら絶命させたい。

 

…………うん、なんか頑張れば一矢報いることはできそうだな。

 

「と!危ねえ!」

 

突撃されたので咄嗟にかわす。意外といけるもんだな!俺の攻撃力ゼロに等しいけど!とりあえず手に持った土を投げつける。さっき転んだときに掴んどいた。隙はできたからとりあえず逃げてさっき転んだときに投げ捨ててしまった物から目的の物を手に入れる。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

こいつも怒髪天と言ったところだが、さっきまで有頂天だったのにこの落差よ。カルシウム足りてないじゃないの?煮干しか牛乳飲んだら?

 

「うげぇ!!」

 

で、見事につかまってしまいました。背中をどつかれたのに、俺の悔しがる顔が見たいのかわざわざ転がしてうつ伏せから仰向けにされた。どうやらこいつは俺と同じくどれだけ相手を悔しがらせるか考えているらしい。似た者同士だね。だけど死ね!

 

涎を垂らしながらにちゃりと笑うこいつに俺もニタリと笑う。

 

右手に持ったものをこいつの目の近くで握る。音はしない。それ程柔らかいものではないし、少し果汁が目にかかる程度。だがそれでいい。

 

「■■■■■■■■!!??」

「あーはっはっはっは!どうやら妖怪にもレモンの汁は痛いらしいな!」

 

俺が今日買った物の一つ、それはレモンだ。幻想郷には珍しい西洋の果物で、今度レモンのはちみつ漬けとか色々試してみようと思って購入してみたのだ。まあそれがこんなところで役に立つとは思わなかったけど。というかそろそろやばいな。どうにかしないと死ぬ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「やっべ流石に大激怒してやがる……。助けて霊夢ー!お兄ちゃん死んじゃう!」

 

目の前でのたうち回っていた妖怪が衝撃を受けて吹っ飛ぶ。うん予想通り。

 

「ちょっと、なんでこんなところで道草食ってんのよ。早くしないと本格的に雨が降るわ」

「しゃあないじゃん、あいつに傘壊されてさ、ちょっと頭にきて………」

「馬鹿じゃないの?傘なんていくらでも買えばいいじゃない。それよりも自分の命の方がうん倍も大切でしょうに。あんたがいなくなると私が困るんだから」

「はいはい、わかったよ」

 

視界の端で妖怪がゆっくりと起き上がる。どうやらまだ死んでいないらしい。霊夢も気が付いているのか気だるげに札とお祓い棒を構えてる。

 

「なあ霊夢、あいつの動き止めることってできるよな?」

「できるけど、何する気?」

「ちょっと傘の恨みをもう少し晴らしとこうかと」

「わかった。でもこれ終わったらさっさと帰るから」

 

霊夢が持っている札を妖怪に向かって一枚投げつける。普通の和紙でできた札ではあるが霊力を込めているため、妖怪へと一直線に飛んでいき張り付き、上から押さえつけられたかのように妖怪は地面に縛り付けられてしまった。

 

「よう、さっきはよくもやってくれたな。傘の恨みとか追いかけてきやがった恨みとか色々あるが、まあ、もう一回食らっとけ」

「■■!■■■■■■■■!!■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

というわけで今度はレモンの果汁を絞りながら目に直接かける。

 

「ふう、スッキリした」

「あっそう。じゃあ帰るわよ」

「待って、買ったもん集めなきゃ」

「早くしなさいよ。その間にこいつ祓っとくから」

 

うん、買った物は基本的に無事だな。野菜とかが多少土付いたくらいだし何個かは潰されて駄目になったけど仕方ない、諦めよう。駄目になった物は基本的に放置、動物とかが食ってくれるだろ。でも包み紙とかは持って帰らないと、鳥とかが食って喉詰まらせるかもしれないからな。あくまで放置するのは食い物のみ。自然と生きていく幻想郷ではこれくらいは当然。本当なら命があっただけで儲けものなのだ。

 

「終わったぞ」

「こっちも終わったわ。さっさと帰るわよ」

「ん?もしかして一緒に帰ってくれるのか?」

「お腹すいたのよ。早くご飯食べたい」

 

ということは俺を持って帰るわけか。いや、早く帰る分には問題ないんだけど、あの浮遊感とか圧迫感があんまり好きじゃないというか、ぶっちゃけ気持ち悪くなるんだよな。

 

「文句は言わせないわよ。いっつもあんたの言うこと聞いてんだから今日くらい聞いてよ」

「はいはい、わかりました」

 

霊夢が後ろから抱き着くが、気分は乗りたくないジェットコースターのレバーが降ろされて、いざスタートする直前の気分だ。浮遊感から感じ次いで地面から足が離れ、文字通り飛んで帰る。腹やら胸やらが圧迫されて呼吸しずらい。気持ち悪い。

 

「(そういえば妖怪の肉って食ったら不味いのか?)」

「もし節約したくて、妖怪のお肉食べるんなら夢想封印するから」

「……うす」

 

霊夢にはお見通しか。直感によるものかそれとも長年一緒に生活してきた賜物か。

ま、どっちでもいっか。早く帰ってご飯作ろ。

 

 

 

 

 

 




そういえば前回は初めて日刊ランキングに載ることになりました。
これも読んでくれたり訂正箇所を指摘してくれたり、感想をくれたりする読者の皆様方のおかげです。

間隔は開くことが多々ありますが今後ともよろしくお願いします。
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